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雇用調整助成金の不正受給とは?返還・公表・刑事罰と申請ミスの違いを解説

雇用調整助成金を申請した後、「申請内容に間違いがあった」「勤怠記録と申請内容が一致していない」と気づき、不正受給に該当するのではないかと不安になることもあるでしょう。

雇用調整助成金の不正受給とは、偽りその他の不正な行為によって、本来受けられない助成金を受けたり、受けようとしたりすることです。単純な入力ミスや計算間違いと、故意に行う虚偽申請は分けて考える必要があります。

不正受給と認定されると、助成金の返還だけでは済みません。不正受給額の20%相当額や延滞金が加わるほか、5年間にわたって雇用関係助成金を受給できなくなるなど、厳しい措置が取られます。

目次

雇用調整助成金の不正受給とは?

雇用調整助成金の不正受給とは、虚偽の申請や証明などによって、本来受けることのできない助成金の支給を受ける、または受けようとする行為です。

特に「故意に事実と違う申請をしたか」が、不正受給を考えるうえで大きな判断材料になります。

故意に虚偽申請をして助成金を受ける・受けようとすると不正受給になる

実際とは異なる休業実績や賃金支払いの状況を故意に申請すると、不正受給に該当します。

厚生労働省では、不正受給を「偽りその他不正の行為により、本来受けることのできない助成金の支給を受け、または受けようとすること」としています。実際に助成金を受け取った場合だけでなく、不正な方法で申請した段階でも対象となります。

たとえば、

  • 実際には勤務していた日を休業日として申請する
  • 休業時間を実際より多く記載する
  • 支払っていない休業手当を支払ったことにする
  • 架空の従業員を申請対象に含める

といった行為です。

「助成金が支給されるよう数字を調整した」という行為は、単なる記載ミスとは扱いが異なります。

故意ではない記載ミスは原則として不正行為とは区別される

入力間違いや計算ミスがあっただけで、直ちに不正受給になるわけではありません。

不正受給では、偽りその他の不正行為があったかどうかが判断されます。そのため、故意ではない記載誤りと認められるものは、意図的な虚偽申請とは区別して扱われます。

たとえば、

  • 休業日数を1日入力し間違えた
  • 計算式を誤って支給申請額を間違えた
  • 転記時に数字を誤った

といったケースです。

ただし、間違いによって本来より多く助成金を受け取っているなら、そのまま放置してよいわけではありません。

申請内容の誤りに気づいた時点で、申請先の都道府県労働局へ連絡し、訂正や返還が必要か確認しましょう。

役員・従業員・社労士などが不正に関与しても事業主の不正とみなされる

代表者本人が虚偽書類を作成していなくても、申請に関係した役員や従業員、代理人などが不正行為を行えば、事業主による不正とみなされます。

対象となるのは、代表者だけではありません。

  • 役員
  • 従業員
  • 社会保険労務士
  • 申請代理人
  • 申請書類の作成に関与した者

なども含まれます。

そのため、「社労士に全部任せていたので会社には責任がない」とは考えない方がよいでしょう。

外部へ申請手続きを依頼する場合でも、最終的に提出される休業実績や賃金、従業員情報が事実と一致しているか、事業主自身が確認する必要があります。

雇用調整助成金で不正受給になる主なケース

雇用調整助成金では、休業実態や賃金支払いを偽って申請する行為が代表的な不正受給です。

特に勤怠記録や賃金台帳を書き換えて申請内容を事実と合わせない行為は、不正受給につながります。

実際には働いている従業員を休業扱いにして申請する

従業員が実際には勤務していたにもかかわらず、休業したことにして助成金を申請すると不正受給になります。

たとえば、通常どおり店舗で接客をしていた日を休業日として申請するような行為です。

在宅勤務についても同じです。

会社に出勤していなくても、自宅で業務を行っているなら「休業」とは扱えません。

申請時には、タイムカードだけを見るのではなく、

  • シフト表
  • 出勤簿
  • 業務日報
  • 給与計算資料

なども含めて、実際の勤務状況と申請内容を一致させる必要があります。

休業日数・時間を実際より多く申請する

休業そのものは実施していても、実際より多い日数や時間を申請すると不正受給になります。

たとえば、従業員が2時間だけ休業した日に、1日休業したものとして申請するといった行為です。

雇用調整助成金では、休業の実績に基づいて申請します。

そのため、申請額を増やす目的で休業日数や休業時間を水増ししてはいけません。

一方、集計時の単純な計算ミスで数字がずれた場合は、故意の水増しとは分けて確認されます。

誤りを見つけたら修正せず放置するのではなく、速やかに労働局へ相談してください。

休業手当を支払っていないのに支払ったと申請する

従業員へ休業手当を支払っていないにもかかわらず、支払ったことにして申請する行為も不正受給です。

雇用調整助成金は、事業主が従業員の雇用を維持し、一定の休業手当を支払ったことなどを前提に支給されます。

そのため、

  • 給与明細
  • 賃金台帳
  • 振込記録
  • 休業手当の計算資料

などが実際の申請内容と一致している必要があります。

申請書上では休業手当を支給したことになっていても、実際の給与へ反映されていなければ問題になります。

給与計算担当者と助成金申請担当者が別の場合は、提出前に数字を照合しておくとミスを防ぎやすくなります。

架空の労働者や虚偽の勤怠資料を使って申請する

実際には雇用していない人を従業員として申請したり、虚偽の勤怠記録を作成したりする行為も不正受給です。

たとえば、

  • 退職済みの従業員を在籍していることにする
  • 実在しない従業員を申請対象にする
  • タイムカードを書き換える
  • 事実と異なる給与台帳を作る
  • 虚偽の休業確認書類を作成する

といった方法です。

単に申請書の数字を変えるだけでなく、その申請を正当化するために証拠資料まで偽造すると、不正の態様がより重大になります。

雇用調整助成金を不正受給するとどうなる?

雇用調整助成金の不正受給が認定されると、返還、違約金、延滞金、助成金の不支給、公表などの措置を受けます。

悪質な不正では、刑事告発されることもあります。

主な措置内容
助成金の返還不正発生日を含む判定基礎期間以降の金額
違約金不正受給額の20%相当額
延滞金年3%
助成金の不支給5年間、雇用関係助成金を受給できない
事業主名等の公表公表基準に該当する場合
刑事告発悪質な不正の場合

不正発生日を含む判定基礎期間以降の助成金を返還する

不正受給が認定されると、不正に受け取った部分だけを返せば終わりとは限りません。

雇用調整助成金では、不正発生日を含む判定基礎期間以降の金額が返還請求の対象となります。

たとえば複数回にわたり支給を受けている場合、不正が確認された申請1件だけではなく、その後に受給した金額にも影響することがあります。

受給額が大きい企業では、返還総額も大きくなります。

「不正に水増しした10万円だけ返せばよい」といった単純な計算にはならないため注意してください。

不正受給額の20%相当額と年3%の延滞金が加算される

返還対象となる助成金に加えて、不正受給額の20%相当額と年3%の延滞金も請求されます。

基本的な考え方は、

返還対象額
+不正受給額の20%相当額
+年3%の延滞金

です。

雇用調整助成金について「不正受給すると3倍返しになる」と説明されることがありますが、現在の雇用調整助成金の公式な返還ルールとは異なります。

制度ごとのペナルティを混同せず、雇用調整助成金の支給要領に沿って確認してください。

5年間は他の雇用関係助成金も受給できない

不正受給を行うと、不正受給決定日から5年間、雇用関係助成金を受給できません。

対象は雇用調整助成金だけではなく、不正受給を行った助成金以外の雇用関係助成金も含まれます。

さらに、返還を命じられた金額を全額返納していない場合、不支給期間が延長されます。

今後、

  • 雇用維持
  • 人材採用
  • 人材育成
  • 正社員化
  • 育児・介護と仕事の両立

などで雇用関係助成金を使う予定がある企業にとっても、大きな影響です。

なお、経済産業省など他省庁が所管するすべての補助金が自動的に5年間利用できなくなる、という意味ではありません。

不正受給した事業主名・代表者名などが公表される

公表基準に該当する不正受給では、事業主名や代表者名などが都道府県労働局のホームページで公表されます。

現在の雇用調整助成金では、不正受給による支給取消額などの合計が100万円以上なら原則として公表対象です。

100万円未満でも、不正の態様や手段、組織性などから特に重大・悪質と判断されれば公表されます。

社会保険労務士や代理人が不正に関与した場合は、金額にかかわらず公表対象です。

公表されると取引先や金融機関、従業員などにも情報を知られることがあります。

金銭的な返還だけでなく、企業の信用にも影響する措置です。

悪質な不正受給は詐欺罪などで刑事告発されることがある

不正の内容が悪質な場合は、行政上の返還措置だけでなく、刑事告発されることがあります。

厚生労働省も、不正受給について悪質な場合には詐欺罪などによる告発を行う旨を案内しています。

特に、

  • 架空の従業員を大量に作る
  • 勤怠記録や賃金資料を組織的に偽造する
  • 長期間にわたり繰り返し虚偽申請する
  • 高額な助成金をだまし取る

といった行為では、刑事事件へ発展するリスクが高まります。

刑事責任の判断は個々の事案によって異なるため、「自主返還すれば刑事事件にはならない」と一律に考えるのも避けるべきです。

雇用調整助成金の不正受給はどうやって発覚する?

雇用調整助成金の不正受給は、申請時の審査だけでなく、支給後の実地調査や資料確認、第三者からの情報提供などをきっかけに発覚します。

助成金を受け取った後も調査対象になる点に注意が必要です。

労働局は申請後も実地調査を行っている

都道府県労働局では、雇用関係助成金の適正な支給を確認するため、事業所への実地調査を行っています。

申請時に支給決定を受けたからといって、その後の確認がなくなるわけではありません。

実地調査では、申請内容と実際の雇用・休業状況が一致しているか確認されます。

そのため、申請に使った資料だけを整えるのではなく、日常的な勤怠管理や給与計算そのものを正確に行う必要があります。

勤怠記録・賃金台帳・休業実績などの不一致から発覚する

不正受給の調査では、申請書だけではなく、申請の根拠となった資料との整合性が確認されます。

確認対象となる代表的な資料は、

  • タイムカード
  • 出勤簿
  • シフト表
  • 賃金台帳
  • 給与明細
  • 休業協定書
  • 休業手当の支払記録

などです。

たとえば、申請書では休業となっている日にタイムカード上では勤務しているなど、複数の資料に食い違いがあれば確認を求められます。

「助成金申請用の資料」と「通常の労務管理資料」を別々に作るのではなく、実態に基づく同じ情報を使うことが基本です。

従業員などからの通報をきっかけに調査されることもある

従業員や関係者などからの情報提供をきっかけに、不正受給の調査が行われることもあります。

労働局では雇用関係助成金の不適切な事務処理や不正行為に関する情報提供も受け付けています。

たとえば、

普通に働いていたのに会社から休業したことにしてほしいと言われた

といった情報が寄せられれば、事実確認が行われることがあります。

申請書だけを整えても、実際の従業員の勤務状況と食い違っていれば不正を隠し続けることは困難です。

雇用調整助成金の不正受給はどのくらい発生している?

雇用調整助成金の不正受給は多数確認されており、国も継続的に調査と回収を進めています。

2026年3月末時点の支給決定取消件数は4,640件に上ります。

2026年3月末までの支給決定取消は4,640件

厚生労働省が公表している2026年3月末時点の不正受給実績では、支給決定取消件数は4,640件です。

新型コロナウイルス感染症の影響を受けた事業者向けに雇用調整助成金の特例措置が拡大された時期には、申請・支給件数も大幅に増えました。

その後、不正受給に対する調査が継続して行われています。

現在も各地の労働局で不正受給事案が公表されているため、「特例措置が終わったから過去の申請はもう調査されない」と考えるのは適切ではありません。

支給決定取消金額は累計約1,153億円

2026年3月末までの支給決定取消金額は、累計約1,153億円です。

このうち回収済額は約896億円となっています。

2026年3月末時点実績
支給決定取消件数4,640件
支給決定取消金額約1,153億円
回収済額約896億円

不正受給が認定された後も返還金の回収は続きます。

助成金の返還に違約金や延滞金が加わることも考えると、企業の資金繰りへ与える影響は小さくありません。

雇用調整助成金の申請ミスに気づいたらどうする?

申請内容の間違いや不適正な受給に気づいたら、そのまま放置せず、申請先の都道府県労働局へ速やかに確認することが基本です。

故意ではないミスと不正受給は区別されますが、誤った金額を受給したままにしてよいわけではありません。

故意でないミスでも放置せず労働局へ確認する

申請後に計算間違いや記載ミスを見つけた場合は、まず事実関係を確認しましょう。

確認する資料には、

  • 申請書
  • 支給決定通知
  • タイムカード
  • シフト表
  • 賃金台帳
  • 休業手当計算資料

などがあります。

誤りの範囲を確認したら、申請した都道府県労働局へ連絡します。

自己判断で申請書類を書き換えたり、辻褄を合わせるために勤怠記録を修正したりしてはいけません。

正しい記録を残したうえで、必要な訂正方法を確認してください。

不正・不適正な受給が判明したら自主申告を検討する

受給済みの助成金について不正・不適正な部分が見つかった場合は、自主申告という対応があります。

厚生労働省では、自主申告を「労働局が調査を行う前に、不正・不適正な受給であったことのすべての事実を申告すること」としています。

自主申告する際は、対象となる申請だけでなく、他にも同様の問題がないか確認します。

一部分だけ申告して残りを隠すのではなく、事実関係を整理して申告することが前提です。

自主申告しても返還や違約金が自動的に免除されるわけではない

自主申告をすれば、不正受給に関するすべての措置がなくなるわけではありません。

返還が必要な金額は、原則として返還する必要があります。

不正受給と認定された場合には、違約金や延滞金、不支給措置などの対象にもなります。

一方、労働局の調査前に自主申告し、返還命令後1か月以内に全額納付するなどの条件を満たし、特に重大・悪質ではないと判断された場合は、事業主名等を公表しないことができるとされています。

つまり、自主申告には意味がありますが、「自主申告すればペナルティがすべてなくなる制度」ではありません。

調査開始後では自主申告として扱われないことがある

労働局による調査が始まってから申告しても、調査前の自主申告と同じ扱いにはならないことがあります。

自主申告は、原則として労働局が調査を始める前に、自ら問題を確認して申し出ることが前提です。

そのため、

調査の連絡が来るまで黙っておこう

という対応は避けるべきです。

申請内容に重大な問題が見つかった段階で、

  1. 対象申請を特定する
  2. 勤怠・給与資料を確認する
  3. 誤りや不正の範囲を整理する
  4. 労働局へ連絡する

という順番で対応しましょう。

故意性や刑事責任を含む深刻な問題がある場合は、必要に応じて弁護士など法律の専門家への相談も検討します。

不正受給を防ぐために企業が確認したいこと

雇用調整助成金の不正受給を防ぐには、申請時だけ注意するのではなく、勤怠管理や給与計算から正確な記録を残すことが基本です。

担当者任せにせず、事業主側でも申請内容を確認する仕組みを整えましょう。

休業実績とタイムカード・シフト表を一致させる

休業として申請する日や時間は、実際の勤怠記録と一致させます。

申請前に、

  • タイムカード
  • シフト表
  • 出勤簿
  • 有給休暇記録
  • 在宅勤務記録

などを照合してください。

特に注意したいのが、一部勤務と一部休業が混在している日です。

「出勤していない=休業」と判断するのではなく、実際に労働していない時間を正確に把握する必要があります。

休業手当の支払いと賃金台帳を確認する

申請した休業手当の金額と、実際に従業員へ支払った金額を一致させます。

申請担当者と給与担当者が別の場合は、申請直前に双方の数字を確認しましょう。

確認したい資料は、

  • 賃金台帳
  • 給与明細
  • 振込データ
  • 休業手当計算書
  • 就業規則や休業協定

などです。

計算方法に誤りがあれば、申請額にも影響します。

申請後に数字を合わせるのではなく、給与支払いの段階から正確な計算を行うことが必要です。

申請内容を社労士へ丸投げせず事業主自身も確認する

社会保険労務士へ申請を依頼していても、事業主側で内容を確認してください。

社労士や代理人が不正行為に関与した場合、事業主の不正とみなされることがあります。さらに、不正に関与した社労士や代理人自身にも返還義務や5年間の申請受付停止、公表などの措置があります。

外部へ依頼するときは、

  • 申請人数
  • 休業日数
  • 休業時間
  • 賃金額
  • 休業手当額

などの基礎データを自社でも確認しましょう。

「専門家が作ったから問題ない」ではなく、事実に基づいた資料が渡されているかを確認することが不正防止につながります。

申請・勤怠・賃金に関する資料を適切に保存する

支給を受けた後も、申請の根拠となった資料を適切に管理しておきましょう。

労働局による調査は支給後に行われることもあります。

その際、

  • どの資料をもとに申請したのか
  • なぜその休業日数になったのか
  • 休業手当をどのように計算したのか

を説明できる状態にしておく必要があります。

電子データで勤怠を管理している場合も、申請時点の記録が後から確認できるように保存してください。

都合の悪い資料を廃棄したり、調査前に記録を書き換えたりすると、問題をさらに深刻化させます。

雇用調整助成金の不正受給が疑われる場合は早めに事実確認しよう

雇用調整助成金の不正受給では、実際には勤務していた従業員を休業扱いにする、休業日数を水増しする、支払っていない休業手当を支払ったことにするなど、故意の虚偽申請が問題になります。

一方、単純な入力・計算間違いまで自動的に不正受給になるわけではありません。

申請内容に誤りを見つけたら、

  • 何が間違っているのか
  • どの支給申請に影響するのか
  • 受給額に差額があるか
  • 同様の間違いがほかにもないか

を確認し、速やかに都道府県労働局へ相談してください。

不正受給と認定された場合には、返還対象額に加えて不正受給額の20%相当額と年3%の延滞金が請求されます。さらに、5年間の雇用関係助成金の不支給や事業主名等の公表、悪質な場合には刑事告発まで行われます。

過去の申請だから問題にならないと考えず、勤怠や賃金の記録と申請内容に食い違いがないか確認しておくことが、不正受給の防止と早期対応につながります。

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