事業承継・引継ぎ補助金は、現在「事業承継・M&A補助金」の名称で実施されています。2026年の第15次公募では、事業承継後の設備投資、M&Aの専門家費用、M&A後のPMI、廃業に伴う費用などを支援しています。
一方で、会社や株式の買収代金そのものや、通常の運転資金を自由に補填する制度ではありません。
まずは「何に使いたいのか」を整理し、事業承継促進、専門家活用、PMI推進、廃業・再チャレンジの4つから該当する枠を確認するのが基本です。
事業承継・引継ぎ補助金で何ができる?

事業承継・M&A補助金では、承継前後の段階に応じて設備投資、M&A専門家費用、PMI、廃業費などを支援できます。
使いたい経費によって申請する枠が変わります。
| やりたいこと | 主に確認する枠 |
| 事業承継後に設備を導入したい | 事業承継促進枠 |
| M&A仲介会社やFAを利用したい | 専門家活用枠 |
| デューデリジェンスを実施したい | 専門家活用枠 |
| M&A後の経営統合を進めたい | PMI推進枠 |
| 統合後に設備投資したい | PMI推進枠 |
| 在庫廃棄や解体、原状回復をしたい | 廃業・再チャレンジ枠 |
事業承継後の設備投資を支援できる
事業承継をきっかけに設備投資を行う場合は、事業承継促進枠が候補になります。
第15次公募では、事業承継を契機とした取組に必要な設備費などが補助対象経費として設定されています。設備費には金額や種類に関する条件があるため、購入予定の設備が対象となるか事前確認が必要です。
たとえば、承継後の生産体制を改善するための機械設備や、事業成長につながる設備の導入などが考えられます。
ただし、事業承継をした企業なら何を購入しても対象になるわけではありません。補助事業との関係が明確で、公募要領上の対象経費に該当する必要があります。
M&Aの仲介・FA・デューデリジェンス費用を支援できる
M&Aを進める際の専門家費用は、専門家活用枠で支援対象になります。
代表的な費用としては、次のようなものがあります。
- M&A仲介会社への手数料
- FAへの報酬
- 財務デューデリジェンス
- 法務デューデリジェンス
- M&Aに関連する一定の専門家費用
M&Aの取引そのものではなく、取引を適切に進めるための専門家活用を支援する枠と考えると分かりやすいです。
専門家の種類や契約内容によって対象可否が変わるため、依頼前に条件を確認してください。
M&A後のPMI・経営統合を支援できる
M&A成立後の経営統合にも、事業承継・M&A補助金を活用できます。
PMI推進枠には「PMI専門家活用類型」と「事業統合投資類型」があり、専門家費用や統合後の設備投資などを支援します。
M&A成立後には、
- 経営管理体制の統合
- 組織や人事制度の整理
- 業務プロセスの統一
- 生産体制や設備の統合
などが必要になることがあります。
M&A契約を成立させるまでだけでなく、その後の統合作業まで支援対象になり得る点が特徴です。
事業承継やM&Aに伴う廃業費を支援できる
事業承継やM&Aの過程で一部事業を廃止したり、M&Aが成立せず廃業して再チャレンジしたりする場合は、廃業・再チャレンジ枠を確認します。
対象となる代表的な費用には、
- 廃業手続きに関する費用
- 在庫廃棄費
- 解体費
- 原状回復費
- リース解約に伴う費用
- 土壌汚染調査費
- 移転・移設費
などがあります。
単に事業を閉じるための費用を広く補助する制度ではありません。事業承継・M&Aや再チャレンジとの関係を含め、対象条件を確認する必要があります。
事業承継促進枠では何ができる?

事業承継促進枠では、事業承継を契機として取り組む設備投資などを支援できます。
一方、会社や事業を引き継ぐ行為そのものに必要な費用と、承継後の事業成長に必要な投資は分けて考える必要があります。
事業承継を契機とした設備投資に活用できる
事業承継促進枠では、承継後の事業に必要な設備費などを申請できます。
たとえば、
- 製造設備の導入
- 生産能力向上のための機械設備
- 承継後の事業運営に必要な設備
などです。
ただし、設備であればすべて補助対象になるわけではありません。設備の金額や種類、補助事業との関連性などの条件があります。
購入を決める前に、公募要領の対象経費と照らし合わせて確認してください。
承継後の事業成長につながる取組が対象になる
事業承継促進枠は、単なる設備更新だけを目的とした制度ではありません。
事業承継を契機として事業を発展させ、生産性向上や事業成長につなげる取組が前提になります。
そのため、「古くなった設備を交換したい」という理由だけではなく、承継後の事業計画と投資の関係を整理する必要があります。
設備費が対象経費に含まれていても、補助事業との関連性が認められなければ対象にならないことがあります。
事業承継そのものにかかる費用とは区別して考える
事業承継促進枠は、会社や資産を引き継ぐための対価を幅広く補助する制度ではありません。
たとえば、
事業を取得するために支払う対価
と
承継後に導入する機械設備の費用
では性質が異なります。
「事業承継に関係しているから対象」と考えるのではなく、その費用が何のために発生するのかを確認してください。
補助対象経費として認められている支出であることが必要です。
専門家活用枠では何ができる?

専門家活用枠では、M&Aの買い手・売り手が専門家を利用する際の費用を支援できます。
M&A仲介やFA、デューデリジェンスなどが代表的ですが、利用する専門家や契約内容にも条件があります。
M&A仲介・FA専門家への委託費を支援できる
M&A仲介会社やFAへ支払う一定の委託費は、専門家活用枠の対象候補です。
M&Aでは、相手企業の探索から条件交渉、契約まで専門的な支援が必要になることがあります。
その際に発生する仲介手数料やFA報酬などについて、制度の条件を満たせば補助を受けられます。
ただし、M&A仲介会社と契約していれば自動的に対象になるわけではありません。契約時期や専門家の条件なども確認する必要があります。
デューデリジェンスにかかる費用を支援できる
財務・法務などのデューデリジェンス費用も補助対象候補です。
デューデリジェンスは、買収対象となる企業の財務状況や契約関係、リスクなどを事前に確認する手続きです。
たとえば、
- 財務DD
- 法務DD
- 事業面の調査
などがあります。
M&A後に想定外の債務やリスクが判明することを防ぐために行う調査であり、専門家活用枠の代表的な使い道の一つです。
一定の仲介・FA費用では登録されたM&A支援機関を利用する
M&A仲介・FA費用を補助対象とする場合は、利用する専門家側の条件にも注意が必要です。
第15次では、一定のFA・M&A仲介費用について、M&A支援機関登録制度に登録された事業者を利用することが求められます。
そのため、補助金を利用する予定なら契約前に登録状況を確認してください。
先に専門家と契約してから対象外と分かると、補助金を利用できないことがあります。
株式や事業の買収代金そのものを補助する制度ではない
専門家活用枠は、会社や事業の買収代金そのものを支払うための制度ではありません。
たとえば、
| 費用 | 考え方 |
| M&A仲介手数料 | 対象候補 |
| FA費用 | 対象候補 |
| デューデリジェンス費用 | 対象候補 |
| 株式の取得代金 | 専門家費用とは別 |
| 事業の譲受代金 | 専門家費用とは別 |
「M&Aに使える補助金」という言葉だけを見ると、会社を買うための代金も補助されるように感じます。
しかし、専門家活用枠の主な役割はM&Aを進めるための専門家費用などを支援することです。
PMI推進枠では何ができる?

PMI推進枠では、M&A成立後の経営統合に必要な専門家費用や設備投資を支援できます。
「M&Aを成立させるまで」と「成立後に会社を統合する段階」を分けて考えることが必要です。
M&A後の経営統合に専門家を活用できる
PMI専門家活用類型では、M&A後の経営統合について専門家の支援を受ける費用を申請できます。
たとえば、
- PMI計画の策定
- 経営管理体制の整理
- 組織体制の統合
- 業務プロセスの統一
- 統合後の経営改善支援
などです。
M&A後は、異なる会社の制度や業務を統合する必要があります。
その作業を専門家と進めたい場合に、PMI専門家活用類型を確認します。
M&A後の事業統合に必要な投資を支援できる
事業統合投資類型では、M&A後の統合効果や生産性向上につながる設備投資などを支援します。
たとえば、統合した事業の生産体制を見直したり、設備構成を整理したりする取組です。
単なる設備購入ではなく、M&A後の経営統合や生産性向上と関係していることが前提になります。
M&Aを行った企業なら、その後の設備がすべて対象になるわけではありません。
M&A成立までの専門家費用とは申請目的が異なる
専門家活用枠とPMI推進枠は、利用するタイミングが異なります。
大まかに分けると、
M&A成立へ向けた仲介・FA・DD
→専門家活用枠
M&A成立後の経営統合
→PMI推進枠
です。
同じM&A関連費用でも、M&Aのどの段階で発生するかによって確認する枠が変わります。
専門家費用を一括して考えず、成立前と成立後に分けて整理してください。
廃業・再チャレンジ枠では何ができる?

廃業・再チャレンジ枠では、事業承継やM&Aに伴う廃業、または一定の再チャレンジに必要な廃業費を支援します。
在庫処分や解体、原状回復など、事業を整理するときに発生する経費が代表例です。
廃業手続きに必要な費用を支援できる
廃業・再チャレンジ枠では、条件を満たす廃業について必要な費用を補助対象として申請できます。
事業を終了するときは、単に営業を停止するだけではありません。
設備や在庫の処分、施設の整理、専門家への依頼など複数の費用が発生します。
ただし、経営をやめるだけで自動的に対象になる制度ではないため、対象となる廃業や再チャレンジの条件を確認してください。
在庫廃棄・解体・原状回復などに活用できる
廃業費として対象候補になる代表的な経費には、次のようなものがあります。
- 在庫廃棄費
- 解体費
- 原状回復費
- リース解約費
- 土壌汚染調査費
- 移転・移設費
- 一定の廃業手続き費用
たとえば店舗を閉鎖して賃貸物件を返却する際の原状回復や、不要になった在庫・設備を処分する費用などです。
経費ごとに対象条件があるため、実際に支出する前に確認してください。
M&Aが成立せず廃業して再チャレンジする場合も対象になる
M&Aによる第三者承継を目指したものの成立せず、廃業して新しい事業へ再チャレンジする場合も支援対象となる仕組みがあります。
ただし、「M&Aで売れなかった」という事実だけで自動的に補助されるわけではありません。
対象事業者や再チャレンジに関する条件を満たす必要があります。
申請を考える場合は、廃業する理由とその後の計画が制度の条件に合っているか確認してください。
他の申請枠と廃業費を併用できる場合がある
廃業費は、廃業・再チャレンジ枠への単独申請だけでなく、他の申請枠と組み合わせられることがあります。
たとえば、事業の一部を承継しながら不要となる店舗や設備を整理するケースです。
その場合、
承継後の投資
→事業承継促進枠
不要事業の整理
→廃業費
というように複数の取組が発生します。
ただし、併用する枠によって条件や廃業費の上限などが異なります。単独申請と同じ条件だと判断せず、申請形態ごとに確認してください。
事業承継・M&A補助金でできないこと・注意したい経費

事業承継・M&A補助金は、承継やM&Aに関係する支出をすべて補助する制度ではありません。
特に、買収代金、通常の運転資金、申請枠と関係のない経費などは、補助対象経費と分けて考える必要があります。
会社や株式の取得代金そのものは補助対象経費とは分けて考える
会社や事業を取得するために支払う買収価格そのものは、専門家活用枠の専門家費用とは別です。
たとえば、
会社を5,000万円で買収する
→買収代金
M&A仲介会社へ300万円を支払う
→専門家費用
では性質が異なります。
専門家活用枠は、M&A仲介・FA・DDなどの費用を支援する制度です。
会社そのものを取得するための資金が必要なら、補助金以外の資金調達も含めて考える必要があります。
通常の運転資金を自由に補填する制度ではない
日常的な事業運営に使う運転資金を自由に補填する目的では利用できません。
補助対象となるのは、公募要領で定められた補助事業に必要な経費です。
たとえば、
- 通常の仕入代金
- 日常的な人件費
- 補助事業と関係のない経費
などを「承継後に必要だから」という理由だけで申請できるわけではありません。
資金不足そのものではなく、制度上の対象となる具体的な取組があるかを確認します。
申請枠ごとに補助対象経費が異なる
同じ事業承継・M&A補助金でも、申請枠によって対象経費は異なります。
大まかに整理すると、
- 事業承継促進:承継後の設備投資など
- 専門家活用:M&A仲介・FA・DDなど
- PMI専門家活用:M&A後の専門家支援
- PMI事業統合投資:統合後の設備投資など
- 廃業・再チャレンジ:廃業関連費
です。
「事業承継に関係する経費か」だけでは判断できません。
自社が利用する申請枠を決め、その枠の対象経費を確認してください。
交付決定前の契約・発注は対象外になることがある
設備や専門家費用そのものが対象経費でも、契約・発注・支払いの時期によって補助対象外になることがあります。
補助金を利用する予定の支出を、自己判断で先に契約・発注するのは避けた方が安全です。
特に、
- 設備購入
- 工事
- M&A専門家との契約
- 外注
などは、対象期間や契約条件を確認してください。
「何に使えるか」だけでなく、「いつ契約・支払いできるか」まで確認したうえで進める必要があります。
まとめ|事業承継・M&Aの段階に応じて4つの枠を使い分ける

事業承継・引継ぎ補助金は、現在「事業承継・M&A補助金」として実施されています。
2026年第15次では、事業承継促進、専門家活用、PMI推進、廃業・再チャレンジの4つの枠があり、事業承継やM&Aの段階によって使い道が異なります。
事業承継後の設備投資なら事業承継促進枠、M&A仲介・FA・DDなどは専門家活用枠、M&A後の経営統合はPMI推進枠、在庫処分や解体・原状回復などは廃業・再チャレンジ枠が主な候補です。
一方で、会社や株式の買収代金そのものや、通常の運転資金を自由に補填する制度ではありません。
補助金を利用するときは、
- 何のために支払う経費なのか
- M&Aのどの段階で発生するのか
- どの申請枠に該当するのか
- 公募要領上の対象経費か
- 契約・発注のタイミングが条件に合っているか
を確認してください。
使いたい経費から申請枠を絞り、その枠の最新条件を確認すると、事業承継・M&A補助金を活用できる範囲を判断しやすくなります。
