事業承継では、補助金だけでなく、税制や融資、公的な相談支援など複数の制度を利用できます。
現在の「事業承継・M&A補助金」は、事業承継に伴う設備投資やM&Aの専門家費用、PMIなどの経費を支援する制度です。一方、事業承継税制は相続税・贈与税の負担軽減、融資制度は買収資金や設備資金などの資金調達を目的としています。
どの制度が優れているかではなく、「何に困っているのか」「何の費用を支援してほしいのか」で選ぶことが基本です。
事業承継・引継ぎ補助金と他の支援制度を比較

事業承継に利用できる支援制度は、補助金・税制・融資・相談支援に大きく分けられます。
それぞれ支援する内容が異なるため、まず自社の課題と制度の役割を対応させると選びやすくなります。
| 制度・支援 | 主な支援内容 | 向いている課題 |
| 事業承継・M&A補助金 | 対象経費の一部を補助 | 設備投資、M&A専門家費用、PMIなど |
| 事業承継税制 | 相続税・贈与税の納税猶予・免除 | 非上場株式の承継に伴う税負担 |
| 事業承継向け融資 | 必要資金を融資 | 買収資金、設備資金、運転資金など |
| 事業承継・引継ぎ支援センター | 相談・マッチング支援 | 後継者不在、第三者承継、M&A相談 |
事業承継・M&A補助金は承継・M&Aにかかる経費を支援する
現在の事業承継・M&A補助金は、事業承継やM&Aに伴って発生する一定の経費を支援する制度です。
第15次公募では、事業承継促進、専門家活用、PMI推進、廃業・再チャレンジといった申請枠が設けられています。
たとえば、
- 承継後に設備を導入する
- M&Aの仲介・専門家を利用する
- M&A後の経営統合を進める
- 承継に伴って一部事業を廃止する
といった場面が対象になります。
事業承継そのものに関係する費用を支援してほしい場合は、最初に確認したい制度です。
事業承継税制は相続税・贈与税の負担軽減に使う
非上場株式を親族などへ承継する際の相続税・贈与税が課題なら、事業承継税制を確認します。
事業承継税制は、一定の要件を満たすことで、後継者が取得した非上場株式等にかかる相続税・贈与税について納税猶予・免除を受ける仕組みです。
補助金のように設備費や専門家費用が支給される制度ではありません。
そのため、
承継時の設備投資を支援してほしい
→事業承継・M&A補助金
株式承継時の税負担を抑えたい
→事業承継税制
と目的を分けて考えます。
事業承継向け融資は買収資金・設備資金などの調達に使う
まとまった資金そのものが必要なら、事業承継向け融資も候補になります。
事業承継やM&Aでは、専門家への費用だけでなく、株式や事業の取得、設備投資、運転資金など大きな資金が必要になることがあります。
補助金は対象経費の一部を支援する制度であり、必要な資金をすべて賄う仕組みではありません。
一方、事業承継向け融資では、一定の条件のもとで事業承継・集約に必要な設備資金や運転資金などを調達できます。
ただし、融資なので返済が必要です。
事業承継・引継ぎ支援センターは後継者探しやM&A相談に使う
「後継者がいない」「誰に会社を引き継げばいいのか分からない」という段階なら、事業承継・引継ぎ支援センターが候補です。
全国の都道府県に設置された公的な相談窓口で、親族内承継から第三者承継、M&Aまで幅広く相談できます。
補助金や融資のように直接資金を受け取る制度ではありません。
後継者候補が決まっていない企業や、M&Aによる事業承継を検討し始めた企業などが、承継方法を整理するために利用できます。
事業承継・M&A補助金と事業承継税制の違い

事業承継・M&A補助金と事業承継税制は、どちらも事業承継を支援しますが、対象となる負担が異なります。
補助金は事業に必要な経費、事業承継税制は株式などの承継に伴う税負担を支援する制度です。
補助金は対象経費への支援・事業承継税制は税負担への支援
両制度の違いを整理すると次のようになります。
| 比較項目 | 事業承継・M&A補助金 | 事業承継税制 |
| 主な支援 | 対象経費の補助 | 相続税・贈与税の納税猶予・免除 |
| 主な対象 | 設備、専門家、PMIなど | 非上場株式等 |
| 資金支給 | あり | 原則なし |
| 主な利用場面 | 承継・M&Aに伴う支出 | 株式を後継者へ移すとき |
たとえば、親から子へ会社を引き継ぐときに、株式の承継と同時に新しい設備も導入するなら、税制と補助金で確認する対象は別です。
一方だけを選ぶのではなく、発生する負担ごとに制度を確認します。
設備投資やM&A費用なら事業承継・M&A補助金を確認する
事業承継をきっかけに設備投資をする場合や、M&Aに伴う専門家費用が発生する場合は、事業承継・M&A補助金を確認します。
現在の制度には、事業承継促進枠や専門家活用枠などが設けられているためです。
たとえば、
- 後継者への承継後に生産設備を更新する
- M&A仲介会社を利用する
- デュー・ディリジェンスを実施する
- M&A成立後に経営統合作業を行う
といった支出は、該当する申請枠がないか確認する価値があります。
補助対象になるかどうかは公募回や枠ごとの条件で判断してください。
非上場株式の贈与・相続なら事業承継税制を確認する
親族内承継などで非上場株式を後継者へ移す場合は、事業承継税制の確認が必要です。
株式評価額が大きい企業では、贈与税や相続税の負担が事業承継の障壁になることがあります。
事業承継税制では、所定の要件や手続きを満たすことで納税猶予・免除を受けられる仕組みがあります。
ただし、適用には認定や期限など複数の条件があります。
補助金の申請条件とは別制度なので、株式承継を予定している場合は税制側の日程も早めに確認してください。
事業承継・M&A補助金と事業承継向け融資の違い

事業承継・M&A補助金は原則として返済不要ですが、融資は借入なので返済が必要です。
一方、融資は補助金より幅広い資金需要に対応できるため、買収資金や運転資金が必要な事業承継では有力な選択肢になります。
補助金は返済不要・融資は返済が必要
補助金と融資の最も分かりやすい違いは返済義務です。
補助金は、対象となる経費について交付された金額を通常の借入金のように毎月返済する制度ではありません。
一方、融資は金融機関等から資金を借りるため、元本と利息を返済します。
ただし、返済不要だから補助金の方が常に有利とは限りません。
補助金には対象経費・補助率・補助上限・事業期間などが決められています。採択・交付決定を受けなければ利用できません。
資金用途と必要なタイミングまで含めて比較する必要があります。
M&A専門家費用やPMI費用なら補助金を確認する
M&Aの成立に向けた専門家費用や、成立後のPMIに必要な費用なら、事業承継・M&A補助金を優先的に確認します。
現在は専門家活用枠やPMI推進枠が設けられているためです。
たとえば、
- 仲介・FAへの報酬
- デュー・ディリジェンス
- M&A後の統合支援
- 統合に伴う一定の投資
など、制度の対象となる費用があります。
ただし、M&Aに関係する支出なら何でも補助されるわけではありません。
利用する専門家や契約内容、経費の種類について、公募要領の条件を確認します。
買収資金・運転資金が必要なら融資を確認する
会社や事業を取得するための資金そのものが不足しているなら、融資制度も確認します。
事業承継・M&A補助金は、M&Aに必要なすべての資金を補助する制度ではありません。
たとえば、
会社を買収するために数千万円の資金が必要
という場合は、補助金だけで解決するのではなく、事業承継向け融資などを含めた資金調達を考えます。
さらに、承継後の設備購入や運転資金が必要なら、その分も含めて資金計画を作る必要があります。
補助金を利用する場合でも、補助されない自己負担分をどのように準備するかまで考えておきましょう。
事業承継・M&A補助金と事業承継・引継ぎ支援センターの違い

事業承継・M&A補助金は費用面を支援する制度ですが、事業承継・引継ぎ支援センターは承継方法や後継者探しなどを支援する相談窓口です。
「資金が必要なのか」「承継相手や方法が決まっていないのか」で使い分けます。
補助金は費用支援・支援センターは相談やマッチング支援
補助金と支援センターでは、提供される支援の性質が違います。
事業承継・M&A補助金は、要件を満たす事業者が対象経費の補助を受ける制度です。
一方、事業承継・引継ぎ支援センターでは、
- 事業承継に関する相談
- 親族内・従業員承継の支援
- 第三者承継・M&Aの相談
- 後継者探し
- 専門家との連携
などを行います。
まだ具体的な承継計画が固まっていない段階なら、資金制度だけを探すより相談支援から始める方が適しています。
後継者が決まっているなら利用できる資金支援を確認する
後継者やM&Aの相手がすでに決まり、承継内容も具体化しているなら、費用面の支援を確認する段階です。
たとえば親族内承継なら、設備投資に事業承継・M&A補助金を使えるか、株式承継には事業承継税制を使えるかを確認します。
第三者承継なら、M&A専門家費用やPMIについて補助対象になるかを調べます。
買収資金などが不足する場合は融資も候補です。
承継相手が決まった後は、「承継するかどうか」から「どの負担をどの制度でカバーするか」へ検討内容が変わります。
後継者不在なら事業承継・引継ぎ支援センターを確認する
後継者が決まっていない企業は、まず事業承継・引継ぎ支援センターを確認する方法があります。
特に、
- 親族に後継者候補がいない
- 従業員への承継が難しい
- 第三者への売却も検討したい
- M&Aをどこから始めればよいか分からない
といった段階に向いています。
補助金は、具体的な承継やM&A、補助事業の内容があって初めて申請を検討できます。
承継方法そのものが決まっていないなら、先に相談窓口を利用して選択肢を整理すると、その後に必要な資金支援も判断しやすくなります。
事業承継の方法別に利用する支援制度を選ぶ

補助金は制度ごとに目的や支援対象が異なり、「どれが自社に向いているのか分からない」と悩む企業担当者も多いはずです。
利用する制度は、親族内承継・従業員承継・第三者承継など、承継方法によって変わります。
さらに、承継前なのか、M&A実行時なのか、承継後なのかによっても必要な支援は異なります。
親族内・従業員承継では補助金と事業承継税制を確認する
親族内承継や従業員承継では、承継に伴う投資と株式移転を分けて確認します。
たとえば親から子へ会社を引き継ぐ場合、
株式の承継
→事業承継税制
承継後の設備投資
→事業承継・M&A補助金
というように、課題が異なります。
さらに設備投資の自己負担分を確保する必要があれば、融資も検討対象です。
一つの制度ですべての承継費用を解決しようとせず、税・投資・資金調達を分けて考えると整理しやすくなります。
第三者承継・M&Aでは専門家活用・融資・公的相談を確認する
第三者への事業承継では、M&Aの進行段階に応じて必要な支援が変わります。
まだ相手が決まっていないなら、事業承継・引継ぎ支援センターなどの公的相談を確認します。
相手が決まり具体的なM&Aへ進む段階では、専門家活用枠による費用支援が候補です。
さらに買収資金や承継後の運転資金が必要なら、事業承継向け融資も検討します。
「M&Aだから補助金」と一括りにせず、相手探し・専門家費用・買収資金のどこに支援が必要なのかを分けてください。
M&A後の経営統合ではPMI推進枠を確認する
M&A成立後の経営統合に課題がある場合は、事業承継・M&A補助金のPMI推進枠を確認します。
M&Aは契約成立で完了するわけではありません。
その後に、
- 経営方針を統合する
- 人事制度を整理する
- 業務プロセスを統一する
- システムや設備を統合する
といったPMIが必要になります。
現在の制度では、専門家の活用や事業統合に必要な投資を支援する類型があります。
M&A契約までの費用と、成立後のPMI費用を分けて考えると、利用する申請枠を判断しやすくなります。
承継後のIT化・販路開拓では目的別の補助金も確認する
事業承継が完了した後のIT化や販路開拓が主目的なら、事業承継専用制度以外も候補になります。
たとえば、
- 会計・受発注などのデジタル化
- ECや販路の拡大
- 新製品・サービス開発
- 省力化設備の導入
などです。
これらは「事業承継をしたから」という理由だけでなく、実施する投資内容に合わせて制度を探します。
事業承継・M&A補助金だけに絞ると、承継後の経営課題に合った別制度を見落とすことがあります。
事業承継の支援制度を組み合わせるときの注意点

事業承継では複数の支援制度を検討できますが、それぞれ対象や手続きが異なります。
特に、同じ経費を複数の補助金へ重複計上することと、税制・融資など性質の違う支援を組み合わせることは分けて考える必要があります。
補助金・税制・融資は支援する費用や目的が異なる
補助金・税制・融資は、どれか一つだけを選ばなければならない制度ではありません。
事業承継では、
相続・贈与に伴う税負担
承継後の設備投資
M&A専門家費用
買収・運転資金
など、複数の課題が同時に発生します。
そのため、株式承継では事業承継税制を検討し、設備投資には補助金、資金不足には融資という形で、それぞれの目的に対応する制度を確認できます。
ただし、実際の利用可否は各制度の条件によって判断されます。
同一経費に複数の補助金を重複利用できるとは限らない
複数の補助金が利用候補になっても、同じ経費をそれぞれの制度で二重に補助してもらえるとは限りません。
たとえば同じ設備代を、事業承継・M&A補助金と別の国の補助金の両方へ全額計上するといった利用方法は、各制度の併用条件を確認する必要があります。
複数制度を検討する場合は、
- どの事業に使うのか
- どの経費を申請するのか
- 対象期間が重なっていないか
- 国・自治体など他制度との併用制限がないか
を整理します。
「別の制度だから併用できる」と自己判断しないようにしてください。
各制度の申請・認定・契約のタイミングを確認する
制度選びでは、対象内容だけでなく手続きのタイミングも確認してください。
補助金では交付決定前の契約・発注が対象外となる取扱いがあります。
事業承継税制にも認定や計画提出などの手続きがあります。
融資は資金が必要になる前に審査や契約を進める必要があります。
M&Aは取引自体のスケジュールもあるため、制度側の期限と実際の承継日程が合わないと利用できません。
「使いたい制度を決めてから事業承継の日程を見る」のではなく、双方のスケジュールを並べて確認してください。
2026年の最新要件を確認してから利用制度を決める
事業承継に関する支援制度は、年度や公募回によって内容が変わります。
旧「事業承継・引継ぎ補助金」も現在は「事業承継・M&A補助金」となり、申請枠や補助内容が変更されています。
税制にも適用期限や手続期限があります。
過去の記事や前回公募の資料だけで判断せず、実際に利用する時点の条件を確認してください。
特に補助額・対象経費・申請期限・承継時期などは、最新情報を基準にする必要があります。
まとめ|事業承継の目的に合った支援制度を選ぶ

事業承継・引継ぎ補助金は、現在「事業承継・M&A補助金」として実施されています。ただし、事業承継を支援する制度は補助金だけではありません。
設備投資やM&A専門家費用、PMIなどなら事業承継・M&A補助金、株式承継に伴う相続税・贈与税なら事業承継税制が候補です。
買収資金や運転資金そのものが必要なら融資、後継者が決まっていないなら事業承継・引継ぎ支援センターなどの相談支援を確認します。
事業承継では「どの制度が一番得か」ではなく、
- 何に費用がかかるのか
- どの段階で支援が必要なのか
- 親族内承継か第三者承継か
- 資金支援・税負担軽減・相談支援のどれが必要か
を整理して制度を選ぶことが基本です。
複数制度を利用する際は、同一経費への重複補助や手続きのタイミングにも注意し、2026年の最新要件を確認してから事業承継の計画へ組み込みましょう。
