補助金と助成金の正確な会計処理は、企業や非営利組織にとって財務報告の信頼性を保つ上で欠かせません。
これらの資金援助を適切に勘定科目に記録し、会計帳簿に反映させることは、法的要件の遵守はもちろん、組織の財務状態を正しく理解するためにも重要です。
本ガイドでは、補助金・助成金の勘定科目の選定から会計処理方法、実務のポイントまでを網羅的に解説し、正確な財務報告を支援するための実用的な情報を提供します。
この記事を通じて、勘定科目の選び方や会計処理の技術を習得し、自身の業務に活かすことを目指します。
補助金・助成金とは?

補助金と助成金は、企業や非営利組織が特定のプロジェクトや活動を支援するために政府や他の機関から受け取る資金援助です。
これらは似ているようで異なる特性を持っており、それぞれの目的や条件が異なります。
また、協賛金もしばしば混同されがちですが、これもまた異なる目的で提供される資金です。
・助成金 – 主に公的機関から非営利目的で提供される資金で、社会的な課題解決や福祉の向上を目的としています。
・補助金 – 特定の経済活動やプロジェクトを促進するために、政府や地方自治体から提供される資金です。
・協賛金 – 通常、民間企業がイベントやプロジェクトを支援する目的で提供する資金で、マーケティングの一環として行われることが多いです。
これらの資金援助の具体的な違いや詳細な使用条件については、下記リンクから詳細な記事をご確認ください。
補助金・助成金の勘定科目の設定方法

補助金や助成金を正しく会計処理することは、財務の透明性を確保し、税務上のリスクを避けるために重要です。
適切な勘定科目の設定や計上タイミングを誤ると、帳簿の整合性が取れなくなり、税務調査時に指摘を受ける可能性もあります。
ここでは、補助金・助成金の勘定科目の選定方法と、適切な計上のタイミングについて詳しく解説します。
『雑収入』としての補助金・助成金
・補助金や助成金を「雑収入」として計上する方法は、一般的に小規模な助成金や一時的な支援を受けた場合に適用されます。
・この方法は、収入がその他のカテゴリにはっきりと分類されない場合に使用されることが多いです。
『未収入金』としての記録
・助成金や補助金が確定しているが、実際の現金受領がまだの場合、「未収入金」として計上します。
・この勘定科目は、将来受け取ることが確定している収入を会計期間に合わせて認識するために使用されます。
『事業主借』の活用
・個人事業主が自らの事業に補助金や助成金を投じた場合、これを「事業主借」として記録することがあります。
・この勘定科目は、事業主が事業に貸し付けた金額を追跡するために用いられます。
仕分けのタイミング
補助金や助成金の会計処理は、その受け取りと確定のタイミングに基づいて行う必要があります。
このプロセスは正確な財務報告を保証し、資金の適切な管理を助けます。
以下、補助金や助成金の会計処理のステップとタイミングについて詳しく解説します。
仕訳の初期段階 – 支給決定通知書の受領
補助金や助成金の仕訳を行う最初のタイミングは、支給決定通知書が到着した時点です。
この通知書は、資金の支給が公式に決定されたことを示し、経理処理の開始信号となります。
仕訳処理 – 支給が決定された時点で、「未収入金」として計上します。
未収入金は営業活動外の取引に発生する債権で、通常は決算期後1年以内に回収が見込まれるものです。
伝票日付(支給決定通知書受領日)
借方 – 未収入金 100万円
貸方 – 雑収入 100万円
実際の入金タイミング
実際に補助金や助成金が入金されると、仕訳の二次処理が必要となります。
このステップでは、以前に計上した未収入金を実際の入金として処理し、帳簿上の残高を正確に反映させます。
仕訳処理 – 入金が確認され次第、「預金」勘定に反映し、未収入金を消し込みます。
伝票日付(実際に入金された日)
借方 – 預金 100万円
貸方 – 未収入金 100万円
実務上の注意点
四半期ごとの確認 – 未収入金の勘定は四半期ごとに確認し、長期間放置されている未収または消込み忘れがないかをチェックすることが重要です。
決算処理の一部 – 未収入金の管理は決算処理の重要な項目であり、補助金・助成金に限らず、すべての未収入金に対する適切な監視が必要です。
補助金や助成金の会計処理を正しく行うことで、組織の財務状態を正確に把握し、信頼性の高い財務報告を実現することができます。
適切な記録とタイミングの管理は、会計の透明性を保ち、将来的な財政計画においても大きな助けとなります。
補助金の資産・負債としての計上方法
・補助金が特定の条件に基づくもので、その条件が完全に満たされていない場合、補助金は負債として計上されることがあります。
・条件が満たされた後、これを収益に転記し、資産として計上する方法も一般的です。
これらの勘定科目と計上方法を適切に理解し、適用することで、補助金や助成金の会計処理を正確に行うことができます。
これにより、財務報告の信頼性が保たれ、外部の監査やレビューに対しても適切に対応できるようになります。
補助金・助成金の会計処理の事例

補助金・助成金の会計処理には、主に以下の事例があります。
- 基本的な仕訳
補助金や助成金は「雑収入」として計上します。
例えば、50万円の補助金が振り込まれた場合の仕訳は次のようになります。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
預金(普通・当座) | 50万円 | 雑収入 | 50万円 |
- 決算期をまたぐ場合
補助金の入金が決算期をまたぐ場合、「未収入金」として計上します。
借方勘定科目 | 金額 | 貸方勘定科目 | 金額 |
未収入金(補助金) | 100万円 | 雑収入 | 100万円 |
その後、実際に入金された際には以下のように仕訳けます。
借方勘定科目 | 金額 | 貸方勘定科目 | 金額 |
預金(普通・当座) | 100万円 | 未収入金 | 100万円 |
- 圧縮記帳の場合
高額な施設補助金を受け取った場合、圧縮記帳を利用して税負担を軽減できます。
例えば、50万円の補助金を受け取り、100万円の機械装置を購入した場合。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
預金(普通・当座) | 50万円 | 雑収入 | 50万円 |
機械装置 | 100万円 | 預金(普通・当座) | 50万円 |
圧縮損 | 50万円 | 機械装置 | 50万円 |
これらの会計処理を適切に行うことで、補助金・助成金の正確な財務状況を把握し、税務上の問題を回避することができます。
助成金と補助金の会計処理における重要な注意点

助成金や補助金を受け取る際は、適切な会計処理を行うことが不可欠です。
これらの資金は企業の収益に影響を与えるだけでなく、税務申告や財務諸表にも関わるため、誤った処理をすると後々の税務調査で問題になる可能性があります。
ここでは、助成金・補助金の仕訳や税務上の注意点を解説し、適切な会計処理を行うためのポイントを紹介します。
収入確定から入金までの時間差を管理する
・タイムラグの影響 – 助成金や補助金は承認された後、実際の入金までに時間がかかることがあります。このタイムラグは、財務計画やキャッシュフロー管理に影響を与える可能性があります。
・会計処理 – 助成金や補助金が承認された時点で「未収入金」として計上し、実際に入金された際にはこの勘定を解消し、「収入」として認識します。これにより、会計期間における収益の正確性を保つことができます。
法人税は適用されるが、消費税は非課税
・税務処理の違い – 助成金や補助金は、法人税の課税所得として扱われることが一般的ですが、消費税法上は非課税扱いとされることが多いです。
・仕訳のポイント – これらの資金を収入として計上する際には、消費税の計算からは除外し、法人税申告の際には所得として加算する必要があります。これにより、税務上の遵守を確保しつつ、誤った税金の計算を避けることができます。
助成金・補助金の用途制限に注意: 人件費補填の制限
・使用制限の理解 – 助成金や補助金には、使用することができる範囲や目的が限定されている場合があります。特に、人件費に使用できないという制限が設けられていることがあります。
・会計上の対応 – 受け取った助成金や補助金が特定のコストに充てられない場合、その金額を適切なコストカテゴリに配分せず、指定された用途にのみ使用するようにします。これにより、補助金の使用条件に違反することなく、適切な会計処理を行うことができます。
圧縮記帳が許可されるケースとその条件
圧縮記帳は、一定の条件下で複数の取引を一つの勘定にまとめて記録する会計処理方法です。
特に補助金や助成金のような公的資金に関しては、管理と報告の簡素化のために圧縮記帳が用いられることがあります。
・適用条件: 圧縮記帳は、多数の小額取引が同一の勘定科目に関連する場合や、記録の簡略化が財務報告の透明性を損なわない場合に限定されることが一般的です。
・会計基準の遵守: 圧縮記帳を行う場合でも、適用する会計基準(例えば国際財務報告基準や米国会計基準)の要件を満たしている必要があります。また、関連する監査基準にも対応していることが求められます。
協賛金との明確な区分けの重要性
協賛金は、補助金や助成金とは異なり、主に民間企業からの資金提供を指します。
これらは、一般にマーケティング活動やイベントのスポンサーシップとして提供されるため、会計処理でも明確に区別する必要があります。
・目的の明確化 – 協賛金は、補助金や助成金と異なり、受け取った資金が具体的な広告活動やプロモーションに関連付けられる場合が多いです。
・会計処理の違い – 協賛金は通常、収入として直接計上されることが多く、特定のプロジェクトや活動に直接関連する費用と相殺されることがあります。
これらの会計および税務上の注意点を遵守することにより、助成金と補助金の正確な会計処理が可能となり、財務報告の正確性が保たれます。
また、補助金、助成金、協賛金の適切な区別は、企業が税務上の誤解を避け、関連する規制や基準に対応する上で極めて重要です。
これにより、監査対応がスムーズに進むとともに、財務の透明性が向上し、組織の信頼性を確保することができます。
補助金・助成金会計処理のよくある誤りとその対策

補助金や助成金の会計処理には注意が必要です。
適切に処理しないと、税務リスクの増加や財務状況の誤認につながる可能性があります。
特に、計上タイミングの誤りや適切な勘定科目の選定ミスが発生しやすいため、正確な処理方法を理解しておくことが重要です。
よくある会計処理の誤りと、それを防ぐための具体的な対策について解説します。
勘定科目の選定ミス
・誤りの内容 – 補助金や助成金を適切な勘定科目に割り当てないことによって、会計情報が誤って記録されるリスクがあります。
・対策 – 補助金や助成金の性質を正確に理解し、会計基準に従った適切な勘定科目を選定することが重要です。必要に応じて会計アドバイザーの意見を求めることも有効です。
収益計上の時期不一致
・誤りの内容 – 補助金が条件を満たした後に収益として計上されるべきですが、条件を満たす前に計上してしまうと、収益認識のタイミングに不一致が生じます。
・対策 – 収益認識の基準を厳密に適用し、補助金の条件達成を確実に追跡することで、収益計上のタイミングを正確に保つことが重要です。
補助金の二重計上のリスク
・誤りの内容 – 一つの補助金を誤って二回計上してしまうことで、収益が過大に報告される可能性があります。
・対策 – 会計ソフトウェアの使用や内部統制の強化を通じて、取引の記録を正確に行い、重複記録を防ぎます。
補助金申請上の手続きミス
・誤りの内容 – 補助金申請の過程で必要な書類が不足していたり、間違った情報が提供されたりすることがあります。
・対策 – 申請手続きを慎重に行い、必要書類を確認し、申請情報が正確であることを保証するためのチェックリストを用いることが効果的です。
税務処理と会計処理の混同
・誤りの内容 – 税務処理と会計処理の違いを理解せずに、補助金を処理することがあり、これにより税務報告に誤りが生じる可能性があります。
・対策 – 税務アドバイザーと連携し、補助金の会計処理と税務処理の違いを明確にし、両方の要件に適切に対応することが必要です。
これらの誤りを避けるための対策を適切に実施することで、補助金と助成金の会計処理の正確性を保ち、企業の財務報告の信頼性を向上させることができます。
補助金・助成金の会計手続きのまとめ

補助金と助成金は、企業や非営利組織にとって重要な財源であり、これらの資金の会計処理は組織の財務報告の透明性と正確性を保証するために非常に重要です。
本ガイドでは、補助金と助成金の適切な勘定科目の選定から会計処理、監査対応まで、正確な会計実務を実行するための具体的な手順と注意点を提供しました。
主要なポイントの要約
1.補助金・助成金の基本
助成金、補助金、協賛金の各々には固有の特徴があり、それぞれ適切な会計処理が必要です。
2.勘定科目の設定
適切な勘定科目の選定は、補助金・助成金の収益計上や資産・負債としての正しい計上を確実にするために不可欠です。
3.会計処理の事例
具体的な事例を通じて、補助金・助成金の収入計上や未収入金としての記録方法を理解し、個人事業主の場合の特殊な処理にも対応します。
4.仕訳の注意点
補助金・助成金を仕訳する際は、法人税と消費税の取扱い、タイムラグの管理など、複数の重要な要素を考慮する必要があります。
5.よくある誤りとその対策
勘定科目の選定ミスや収益計上のタイミングの誤りなど、一般的な会計誤りとその対策を探ります。
このガイドを参考に、補助金と助成金の会計処理を適切に行い、組織の財務報告の正確性と信頼性を高めることができればと考えます。
正確な会計処理は、組織の透明性を保ち、監査や法規制の遵守を確実にするために不可欠です。