日本の労働市場では少子高齢化が加速し、人手不足が深刻さを増しています。
そんななか、高齢者を積極的に雇用することは、企業にとって持続可能な成長戦略のひとつとして注目されています。しかし実際には、「高齢者を雇用したいがコストが不安」「制度が複雑でよく分からない」と感じている企業も少なくありません。
そこで活用したいのが、国や自治体が提供する高齢者雇用向けの補助金制度です。
これらの制度は単なる費用支援にとどまらず、雇用環境の整備や人材定着の後押しにもつながる、企業の“投資”をサポートする仕組みです。
本記事では、高齢者雇用に関する主要な補助金・助成金制度の種類から、申請条件、活用ポイント、成功事例までを網羅的に解説します。
読み終えたころには、「高齢者の雇用はコストではなく、補助金で支援される“未来への投資”だ」と前向きに捉えられるようになることを目指しています。
主な制度(国・厚労省・JEEDなど)

高齢者雇用を促進するための補助金制度は、国や厚生労働省、JEED(高齢・障害・求職者雇用支援機構)などによって整備されています。
ただし、制度は一つではなく、目的別・導入形態別に複数の助成金・支援が併存しています。
本セクションでは、代表的な制度を俯瞰的に捉え、制度間の関係性も踏まえて理解できるよう解説します。
65歳超雇用推進助成金の概要・目的と3コース区分
65歳超雇用推進助成金は、企業が高齢者の雇用確保措置を講じた際に支給される制度です。主に以下のような目的があります。
・65歳以上の雇用継続を促進する
・就業規則や制度の見直しにかかるコストを軽減する
・高年齢者が安心して働ける職場環境を整備する
この助成金は次の3つのコースに分かれており、企業の対応状況に応じて選択できます。
・65歳超継続雇用促進コース – 定年の延長や廃止、継続雇用年齢の引き上げに取り組む企業に対して支給
・高年齢者評価制度導入コース – 賃金・人事評価制度の整備で高齢者のやる気を支える取り組みを支援
・高年齢者無期転換コース – 高年齢有期契約労働者の無期雇用転換を行った事業主への助成
いずれのコースも、制度の導入・整備と実施を行うことが条件となっており、単なる表面的な見直しでは助成対象となりません。就業規則の改訂や労働者への説明、届け出などの手続きが求められます。
関連記事:65歳超雇用推進助成金の対象条件・支給額・期間を詳しく解説
特定求職者雇用開発助成金(高齢者対象)制度との関係
高齢者の採用支援として活用できる制度としては、特定求職者雇用開発助成金(特開金)もあります。
この制度は60歳以上の高齢者をハローワーク等の紹介により新たに雇い入れた事業主に対して、一定の要件を満たすことで支給されます。
65歳超雇用推進助成金が制度整備や定年延長といった「社内制度」にフォーカスしているのに対し、特開金は「採用行動」自体へのインセンティブを与える制度です。
したがって、両者を組み合わせることで、採用から継続雇用まで一貫した支援が可能となります。
たとえば、60歳以上の人材を雇い入れた際に特開金を受け、その後65歳超の継続雇用制度を整備することで、両方の助成金の対象となり得るという活用法も考えられます。
関連記事:「人が足りない」を助成金で解決!特定求職者雇用開発助成金という選択肢
その他支援制度(高年齢雇用継続給付金等)との組み合わせ
助成金だけでなく、雇用保険制度の一部である「高年齢雇用継続給付金」も重要な支援策のひとつです。
この制度は、60歳以降に賃金が大きく下がった場合でも、一定条件を満たせばその差額の一部を補填する形で支給されます。
また、以下のような支援制度との併用も検討する価値があります。
・キャリア形成促進助成金(人材開発支援助成金)
・高齢者活用に関するアドバイザー派遣(JEEDによる無料支援)
・高齢者等職場適応訓練
このように、複数の制度を目的別・段階別に適切に組み合わせることで、高齢者雇用の実現性が格段に高まります。
関連記事:最大●円支給?人材開発支援助成金の補助額をわかりやすく解説!
制度を組み合わせて活用することが成功の鍵
高齢者雇用に使える制度には、定年延長や無期転換を支援する65歳超雇用推進助成金、採用支援型の特定求職者雇用開発助成金(高齢者対象)、さらに高年齢雇用継続給付金などがあります。
単独での利用にとどまらず、複数制度を組み合わせることで採用から継続雇用まで総合的なサポートを受けることができ、企業にとって実効性の高い雇用戦略につながります。
受給要件・対象者条件

代表制度を把握したら、次に重要なのが「誰が制度を使えるか」「どんな条件を満たす必要があるか」を正確に把握することです。
助成金は要件を一つでも満たさないと支給対象外になるため、事業主側の条件・高齢者側の条件・導入措置の条件の三方向から要件を整理しておくことが不可欠です。
事業主要件(雇用保険適用、就業規則、届け出義務など)
補助金の活用には、まず事業主としての基本的な条件を満たす必要があります。
共通して求められる代表的な要件は次の通りです。
・雇用保険適用事業所であること
・就業規則に必要な制度や条項が明記されていること
・制度導入に関して労働基準監督署への届け出が済んでいること
・労働者との労働契約・同意が適切に交わされていること
これらの準備が不十分なまま申請すると、審査で不支給になるリスクがあるため、書類の整備や制度改訂の実効性が求められます。
高齢者労働者要件(年齢、契約形態、継続雇用など)
対象となる労働者にも明確な条件があります。制度によって多少の違いはありますが、以下のような要素がチェックされます。
・支給対象となる年齢基準(例:60歳以上/65歳以上など)
・雇用契約の種類(正社員・有期・パートタイムなど)
・継続雇用制度の有無とその内容(希望者全員対象か、選別制か)
・雇用実態(週所定労働時間、勤務日数、賃金額など)
とくに高年齢者無期転換コースなどでは、無期雇用への切り替えが実施されているかどうかが重要な評価ポイントとなります。
見かけだけの契約変更では審査に通らないケースもあるため注意が必要です。
措置実施要件(制度整備、制度導入、改定措置など)
助成金は、「制度整備そのもの」や「制度を実際に導入・運用した実績」があることが前提です。たとえば65歳超雇用推進助成金の場合、以下のような措置のいずれかを実施する必要があります。
・定年の引き上げ、もしくは定年の廃止
・継続雇用年齢の引き上げ(希望者全員対象)
・賃金制度や人事評価制度の見直し
・無期雇用への転換実施と周知
制度導入後には、所定の申請書類、就業規則改訂、導入結果報告などの提出が必要になります。
専門家のサポートを得ながら手続きを進めると、申請がスムーズになる場合もあります。
3方向の要件を整理し事前準備を徹底する
高齢者雇用に関する助成金は、事業主要件(雇用保険適用や就業規則の整備など)、高齢者労働者要件(年齢・契約形態・継続雇用など)、措置実施要件(定年引上げや無期転換、評価制度導入など)の3つをクリアする必要があります。
これらを事前に整理し、チェックリスト化して準備を進めることで、スムーズな申請・受給が可能になります。
支給額・助成率・対象コースの特徴

高齢者の雇用を積極的に進める企業にとって、補助金制度の活用はコスト削減と制度整備の両面で大きなメリットがあります。
ただし、補助金は取り組む施策や企業規模によって、支給額や助成率、対象となる経費が大きく異なります。
本セクションでは、代表的なコースの金額目安や加算要件、補助対象となる費用の具体例を紹介し、企業がどの制度を選択すべきかの判断材料を提供します。
各コースの支給額目安と上限(例:無期転換、継続雇用、雇用管理改善)
高齢者雇用関連の補助金には複数のコースがあり、それぞれ支給額が異なります。
たとえば「65歳超雇用推進助成金」では、以下のようなコースと支給内容が設定されています。
・65歳超継続雇用促進コース – 1事業所あたり最大160万円(就業規則等の改定や制度導入に応じて金額変動)
・無期転換コース – 1名あたり50万~60万円(中小企業は60万円、大企業は50万円)
・高年齢者評価制度等導入コース – 1回の制度導入で50万円(上限)
これらは導入・改定の内容や雇用人数によって支給額が増減するため、自社の取り組みに合ったコース選定が重要です。
中小企業・大企業での違い・加算要件
助成制度の多くは中小企業に優遇措置があり、支給額や助成率の上限が大企業よりも高く設定されています。
たとえば、無期転換コースでは中小企業が60万円、大企業は50万円と差があります。
加算要件も制度によって設定されており、以下のようなケースで支給額が増額されます。
・雇用した高齢者が障害者手帳を所持している場合
・労働者を一定数以上まとめて転換・雇用した場合
・地方公共団体の制度と併用した場合
これらを事前に確認しておくことで、受給額の最大化が可能となります。
補助対象経費(制度整備費、給与制度改定、外部専門家費用など)
補助金で支援されるのは「賃金」だけではありません。
制度によっては以下のような準備・導入段階の費用も補助対象になります。
・就業規則の整備・変更
・定年延長や継続雇用制度の構築コンサルティング費用
・キャリアコンサルタントや社労士など専門家の活用費
・評価制度の新設にかかる研修費用
このように、人的資源管理・人事制度構築に伴う経費も幅広くカバーされるのが特徴です。
自社の取り組みに合ったコースを選び、助成額最大化を図る
補助金制度はコースの選択と制度整備の方向性次第で、支給額に大きな差が出る仕組みです。
無期転換・継続雇用・評価制度導入など、自社が本当に進めたい取り組みにマッチしたコースを選ぶことが成功の鍵。
中小企業は支援が手厚く、対象経費も広いため、初期コストを抑えつつ持続的な高齢者雇用の体制を築くチャンスと言えるでしょう。
申請・支給の流れとスケジュール管理

高齢者雇用に関連する補助金は、「申請すればすぐにお金がもらえる」わけではありません。
計画書の作成から申請、取り組みの実施、報告、支給申請と段階が複数に分かれており、適切な手順を踏まなければ支給対象外となる可能性もあります。
このセクションでは、補助金の申請・受給までの流れと注意すべきスケジュール管理について解説します。
計画策定 → 認定申請 → 実施 → 支給申請までの流れ
基本的な申請フローは以下の通りです:
1.制度導入や就業規則改定などの計画策定
2.管轄の労働局またはJEEDへの事前申請・計画認定
3.計画に基づく取り組みの実施(制度導入・雇用開始など)
4.証拠書類の収集・整備
5.実施完了後に支給申請を提出
重要なのは、取り組み前に計画の認定を受ける必要があること。
事後申請は一部の例外を除き不可のため、制度の導入が決まった時点で速やかに準備を始めましょう。
各コース別申請時期と期限
補助金は年度単位で予算が組まれているため、以下のような特徴があります。
・「65歳超雇用推進助成金」は毎年4月頃に要項が更新され、3月末で締切
・「特定求職者雇用開発助成金」は通年で申請可能だが、雇用開始後の提出期限が限定的
・制度変更や中止が急に行われることもある
このため、年度後半の申請では予算消化による締切前終了リスクも考慮しなければなりません。
早期終了・予算打ち切りリスクと対処法
補助金は予算上限に達すると受付が早期終了する場合があります。
特に人気のコースや年度初期に申し込みが集中する制度では、計画認定前に終了してしまうケースも報告されています。
対策としては
・制度発表(例:4月)のタイミングを把握して早めに準備開始
・スケジュールを逆算し、計画→実施→申請を事前にシミュレーション
・複数制度の併用を視野に入れる
これにより、突然の制度変更にも柔軟に対応できます。
申請スケジュールは早めの準備と情報収集がカギ
高齢者雇用に関する補助金制度は、綿密なスケジュール管理と書類対応が求められます。
提出期限の把握だけでなく、制度の更新時期や予算の動向もチェックすることが重要です。
導入を決めた段階から「いつ、誰が、どの業務を行うか」を具体化することで、支給までの流れをスムーズに進めることができます。
注意点・成功のポイント

高齢者雇用に関する補助金制度を利用する際には、せっかく準備を進めても要件不備・制度理解不足・環境変化が原因で不支給になるリスクが伴います。
本セクションでは、補助金申請で特に落とし穴になりやすいポイントと、それを回避し成功に結びつけるためのヒントを整理します。
書類不備・条件未達での不支給リスク
助成金制度では、提出書類に記載漏れや添付ミスがあると、差し戻し処理や不支給が起こります。
特定求職者雇用開発助成金では、書類不備・添付書類の不足は受理不可と明記されています。
また、「助成金をもらえない原因」をまとめた記事では、提出書類の不備、雇用保険滞納、労働法令違反等が典型例として挙げられています。
さらに、2025年には申請書様式や添付規定が改定され、労働局側の形式・内容チェックが厳格化されたとの報告もあります。
これらを防ぐには、一字一句の記入チェック、添付書類の過不足確認、最新版様式の使用が不可欠です。
他助成金との併用制限・調整ルール
補助金・助成金を複数併用する際には、「同じ経費を重複して申請することはできない」というルールが多くの制度で設けられています。
また、複数制度を併用する場合は、制度ごとに経費の区分管理を明確にした上で、申請時にどの経費をどの制度で申請するかを整理しておく必要があります。
さらに、公募要領などにおいて、併用の可否・制限・条件が明示されている場合が多いため、併用希望制度の要件を公募要領で照合しておくことが肝要です。
制度改正による要件変化への対応
助成金制度は毎年見直されることがあり、要件や制度内容が変わることがあります。
たとえば、補助金の改正や見直しの情報をまとめたサイトでも、「毎年内容が更新されるため、独力での調査や書類準備には限界がある」と指摘されています。
制度改正により、以前は有効だった措置が新制度では対象外となるケースもありえます。
そのため、公募要領の変更履歴チェック、公的機関の最新通知確認を怠らないようにしましょう。
不備・併用ミス・改正対応を徹底して成功を引き寄せる
補助金申請では、記入ミス・添付漏れ・古い様式の使用などの小さな不備が致命傷になり得ます。
また、併用制度を使いたい場合には制度間のルールを把握し、経費区分を明確に管理する必要があります。
さらに、制度改正に追随する準備を日頃から行っておくことが、申請成功のための必須条件です。
モデル活用例・ケーススタディ

制度の仕組みを理解するだけでなく、実際にどのように企業が制度を使ってきたかを見ることは、制度活用のイメージを具体化するうえで非常に有効です。
本セクションでは、65歳超雇用推進助成金等を用いた実例を取り上げ、各企業がどのような戦略で制度を活用したかを紹介します。
定年延長による継続雇用導入企業の事例
静岡県内の中小企業が、従業員数30名規模で65歳超雇用推進助成金(継続雇用促進コース)を活用し、定年を66歳に引き上げて50万円を受給した事例が報告されています。
この企業では、もともと就業規則で定年が60歳とされていたところを見直し、継続雇用制度を導入、制度改定と申請を進めたことで成功しました。
また、別の事例として、定年を60歳から70歳に延長して30万円を助成された企業も存在します。
この企業では、就業規則の改定、制度導入、申請業務を支援事務所に依頼してスムーズに進行したという点がポイントです。
有期契約社員の無期転換を行った中小企業の事例
有期契約社員を無期雇用に転換するコースを活用した企業では、1名あたり50〜60万円程度の助成金を得て労働契約を改善したケースがあります(助成制度による基準)
このようなケースでは、無期転換を提案しやすい有期契約社員数が一定数以上存在すること、無期転換の周知・説明・同意取得を適切に行っていた点が成功要因です。
雇用管理改善・評価制度導入事例
ある企業では、高年齢者評価制度導入コースを使い、評価制度導入・賃金制度見直し・研修制度導入を行い、助成金を受領した例があります。
この事例では、制度導入だけでなく従業員への説明・研修実施記録・効果のモニタリングまでを整備しており、助成金の審査を通過しました。
実践事例から学ぶ、制度活用のヒント
実際に助成制度を活用して成功した企業を分析すると、次の点が共通しています:
・制度改定と申請準備を外部支援・専門家活用で効率化
・制度導入だけでなく、運用フェーズの説明・記録・モニタリング体制をしっかり整える
・有期→無期転換、定年延長、評価制度導入など、複数施策を組み合わせて申請可能性を高める
これらの事例を参考に、自社の高齢者雇用制度設計を補助金視点でブラッシュアップすれば、より現実的な活用が可能になるでしょう。
高齢者雇用と補助金制度の活用で、企業も社会も“持続可能”に

高齢者の雇用促進は、少子高齢化が進む日本において避けて通れないテーマです。
とはいえ、「コストがかかるのでは?」「制度が複雑そう」と不安を抱く企業も少なくありません。そうした懸念に応えるのが、国や厚労省、JEEDなどが提供する高齢者雇用向けの補助金制度です。
この記事では、65歳超雇用推進助成金や特定求職者雇用開発助成金など、企業が活用しやすい制度の概要から、受給要件・対象者条件、支給額の目安、申請スケジュール、さらには成功のためのポイントや事例紹介まで、幅広く解説してきました。
補助金制度を上手に活用すれば、高齢者の雇用は「費用」ではなく「未来への投資」に変わります。
経験豊富で意欲あるシニア人材を活かすことで、組織全体の活力アップにもつながります。
今後、制度改正や申請枠の変化も予想される中で、最新情報のチェックと早めの準備がカギを握ります。
まずは貴社の現状に合った制度を確認し、積極的な活用を検討してみてください。
