人材不足が深刻化する中小企業や地方の事業者にとって、「必要な人材がなかなか採用できない」「採用してもすぐ辞めてしまう」といった課題は深刻です。
そんな悩みを抱える企業にとって、採用時のコスト負担を軽減しながら安定的な雇用につなげる強力な制度が「特定求職者雇用開発助成金」です。
この助成金制度は、ハローワークなどの紹介を通じて、就職が困難な状況にある求職者を雇い入れた企業に対して、一定額の助成金を支給する制度です。
対象となる人材には、離職を繰り返している若年層や母子家庭の母親、高齢者、障害者など、就職支援が求められる方々が含まれており、社会的意義も大きな取り組みとなっています。
この記事では、特定求職者雇用開発助成金の基本的な仕組みから、コース別の支給額や支給対象者の違い、申請スケジュール、実際の活用方法までを徹底解説します。
読後には、「人材確保と経費削減を両立できる現実的な手段として活用できそうだ」と前向きに感じてもらえる内容を目指しています。
特定求職者雇用開発助成金とは?制度の全体像

企業にとって「人材確保」は大きな課題です。
しかしながら、すべての求職者が同じように採用の機会を得られるわけではありません。
年齢や障害、家庭環境などの理由で、就職のチャンスに恵まれにくい方々が一定数存在します。
そのような求職者を積極的に受け入れ、雇用を支援する企業に対して国が支給するのが、「特定求職者雇用開発助成金」です。
この制度は、人材不足を抱える企業にとっての支援策であると同時に、社会全体の雇用の安定と多様性の確保に貢献する制度です。
ここでは、制度の基本的な目的や導入背景、そして助成の対象となる「特定求職者」の具体像について、わかりやすく解説します。
制度の目的と導入背景
特定求職者雇用開発助成金は、「就職困難者」とされる方々に対する雇用機会の拡大を目的として設けられた制度です。
具体的には、年齢・障害・家庭状況などの理由により就職が難しい人々を新たに雇い入れた企業に対し、一定の要件を満たすことで助成金が支給される仕組みとなっています。
この背景には、深刻化する少子高齢化や、業種を問わず拡大する人手不足の問題があります。
人材を求めている企業は多い一方で、労働市場ではいまだに年齢や経歴によって排除されがちな層が存在しています。
国は、これらの社会的ハンディキャップを抱えた求職者の就職支援を進め、企業側の受け入れ促進に補助を設けることで、雇用の安定と包摂型社会の実現を図ることを目的としています。
さらに、こうした助成金は単なるコスト補填にとどまらず、企業が多様な人材を活かし、戦力化していくための第一歩としても大きな意味を持っています。
採用活動を行う際の「費用面のハードルを下げる」だけでなく、従業員構成の多様化や職場の柔軟性向上にもつながる制度と言えるでしょう。
採用対象となる「特定求職者」とは?
この助成制度では、「特定求職者」として明確な区分が設定されています。
助成の対象となるのは、以下のような就職が困難とされる属性のある方々です。
・高年齢者(60歳以上等) – 年齢を理由に応募先が限られるケースが多く、就職に苦戦する層。
・障がい者 – 身体・知的・精神障害を持つ方で、法定雇用率を満たす企業にとっても重要な採用対象。
・母子家庭の母親 – 子育てとの両立や時間的制約がネックになりやすい方。
・発達障害者・難治性疾患患者 – 理解や職場での配慮が求められるため、就職に難しさがある層。
・生活保護受給者・生活困窮者 – 経済的理由で継続的な就労経験が乏しい場合がある。
・就職氷河期世代で正規雇用に就けなかった人 – 40代前後を中心に、キャリア形成の機会を逃した世代。
これらの求職者は、ハローワークや職業紹介事業者(民間)の紹介を通じて採用されることが条件で、企業が独自に募集した人材は原則対象外です。
また、助成対象となるには「雇用保険被保険者としての採用」であることも必須です。
つまり、週の労働時間が20時間以上であり、継続的な雇用を前提とした契約が求められます(無期雇用・有期雇用・正規雇用すべて可)。
特定求職者の範囲は、年々変動する可能性もあるため、最新の要件は厚生労働省やハローワークでの確認が不可欠です。
2025年度の段階では、制度内で複数の「支援コース」が用意され、それぞれに細かい対象者や支給額が設定されています。
制度を理解し、戦略的に活用しよう
特定求職者雇用開発助成金は、企業の人材確保と社会的な就労支援を両立できる制度です。
年齢や障害、家庭事情などで不利な立場にある求職者を支援することは、企業のCSR(企業の社会的責任)にも直結します。
加えて、一定の支給額を受けながら人材を確保できるため、採用コストの軽減にもつながります。
まずは、自社の採用ニーズと対象者の属性を照らし合わせながら、制度の適用可否をチェックしてみましょう。
採用戦略の一環として制度を取り入れることで、社会貢献と企業の成長の両方を見据えた採用が可能になるはずです。
次のステップでは、各コースの支給額や申請の流れを確認していきましょう。
コース別支給額と対象者を比較する
特定求職者雇用開発助成金は、企業が就職が困難な方を雇用した際に受け取れる助成制度ですが、コースによって支給額や対象者が大きく異なります。
2025年時点では、以下のような主要コースが用意されており、企業規模(中小企業・大企業)や雇用形態、対象者の特性によって、助成内容が変動します。
ここでは、それぞれのコース内容を支給額・対象者・期間などの観点から一覧表で比較し、企業が活用しやすいように整理しました。
コース別支給額と対象者 比較表
コース名 | 対象者 | 最大支給額(中小企業) | 最大支給額大企業) | 支給期間・備考 |
特定就職困難者コース | 高年齢者(60歳以上)、障害者、母子・父子家庭の親など | 60万~240万円 | 50万~100万円 | 雇用形態や障害の程度により異なる。例:高齢者60万円、障害者120万円、重度障害者240万円。最長3年支給。 |
発達障害・難治性疾患患者コース | 発達障害や難病のある方(手帳未取得も可) | 最大120万円 | 最大100万円 | 障害者手帳の有無を問わず対象。詳細な支給条件は別途規定あり。 |
生活保護受給者等コース | 生活保護受給者、生活困窮者など | 60万円 | 50万円 | 原則1年間支給(30万円×2期)。短時間労働者などは減額の可能性あり。 |
中高年層安定雇用支援コース | 就職困難な中高年齢層(詳細条件あり) | 60万円 | 50万円 | 基本1年間支給(30万円×2期など)。対象年齢・条件は年により変動。 |
成長分野等人材確保・育成コース | IT、福祉など成長分野の業務従事者、育成対象者 | 最大360万円 | 最大150万円 | 雇用形態・障害の有無により変動。最大3年間支給(90万〜360万円)。 |
▼解説|支給額は雇用形態や対象者で大きく変わる
このように、コースによって対象者と支給額には明確な違いがあります。
同じ「就職困難者」でも、障害の程度や年齢、業種などによって最大で6倍以上の差が生まれる場合もあります。
たとえば、
・特定就職困難者コース – 最も広く利用されており、高齢者雇用で60万円、障害者なら最大240万円
・発達障害・難治性疾患患者コース – 障害者手帳がなくても対象となる柔軟なコース
・成長分野等人材確保・育成コース – 育成を前提とした人材確保には、最大360万円まで支給される可能性あり
また、中小企業の方が助成額が高めに設定されている点も重要です。
さらに、支給額は雇用形態(フルタイム/短時間)や契約期間(有期/無期)によっても調整されるため、活用の際には制度要項の詳細確認が必須となります。
コースの見極めが助成金活用の鍵
特定求職者雇用開発助成金は、対象となる人材と雇用形態によって支援額が大きく変動します。
採用対象者がどのコースに該当するかを見極めることが、制度活用の第一歩です。
中小企業にとっては、助成金をうまく使うことで、採用コストの大幅な軽減と戦力化を同時に図ることが可能になります。
制度の最新情報を常に確認しながら、自社の採用戦略と照らし合わせて、最適なコース選択を進めましょう。
この比較表をもとに、各コースの活用検討や社内説明資料としても、ぜひご活用ください。
特定求職者雇用開発助成金の支給方法と手続きの実務ポイント

特定求職者雇用開発助成金は、就職困難者を雇用する事業主に対して国が支援を行う制度ですが、その支給方法や申請手続きには厳密なルールがあります。
とくに注意すべきなのが、「半年ごとの分割支給」と「期ごとの申請期限」です。
ここでは、2025年の最新情報をもとに、助成金を適切に受け取るための支給スケジュールと申請フローを具体的に解説します。
支給は「半年ごとの分割」で行われる仕組み
特定求職者雇用開発助成金は、一括で支払われるのではなく、原則として6ヶ月ごとの分割払いで支給されます。
支給総額やコース内容によって分割回数は異なりますが、以下のようなパターンが代表的です。
・支給総額60万円のケース(中小企業・フルタイム)
→ 30万円ずつ、年2回の支給(合計1年)
・支給総額240万円のケース(重度障害者など)
→ 40万円ずつ、年2回×3年間の支給(計6期)
このように、助成金額が大きい場合でも一括支給されることはなく、雇用継続を条件に期ごとに分割される点が重要です。
また、注意すべきポイントとして、対象者が途中で退職した場合は、その時点までに該当する期の分しか支給されません。
たとえば2期目の途中で退職した場合は、第1期分(30万円など)しか支給されず、それ以降は支給対象外となります。
受給を前提とした人件費設計をしていた場合、予定通り支給されないリスクもあるため、雇用継続を意識した体制づくりが求められます。
申請期限と手続きの流れ(例:雇入れから6ヶ月後〜2ヶ月以内)
支給申請には明確なタイミングのルールが設定されており、これを外すと申請が受理されない場合や、支給が遅れるリスクがあります。
基本的な流れは次の通りです。
【申請のスケジュール】
1.対象労働者を雇用する
2.雇用から6ヶ月経過するのを待つ
3.その翌日から2ヶ月以内に第1期分の支給申請を行う
4.引き続き雇用を継続し、6ヶ月ごとに同様の申請を繰り返す
たとえば、4月1日に雇用した場合、最初の6ヶ月が終了するのは9月30日。申請期間は10月1日〜11月30日までの2ヶ月間となります。
【必要書類】
申請には、以下のような証拠書類の提出が求められます。
・賃金台帳(6ヶ月分)
・出勤簿または勤怠記録
・雇用契約書または労働条件通知書
・雇用保険被保険者資格取得確認通知書
・支給申請書(様式あり)
これらは、労働局またはハローワークへ提出する必要があります。
いずれも不備や誤記があると審査が遅れたり、不支給となるケースもあるため、慎重な書類整備が求められます。
特に複数期にわたる申請をする場合は、各期ごとに都度の提出が必要であり、自動更新される仕組みではない点にも注意しましょう。
支給スケジュールと申請タイミングの把握がカギ
特定求職者雇用開発助成金の受給を成功させるためには、「半年ごとの分割支給」と「期末から2ヶ月以内の申請」という2大ルールを確実に守ることが重要です。
期を逃すと支給されない恐れがあるため、雇用日と申請日を必ず管理表などで記録し、期限内に準備を進める体制を整えておきましょう。
また、雇用継続や労務管理の体制づくりも支給可否に直結します。
制度そのものの活用だけでなく、「いかにトラブルなく申請を完了させられるか」にも配慮して、確実に受給へとつなげてください。
支給要件と注意点—制度を活用する前のチェックポイント
特定求職者雇用開発助成金は、対象者の条件に合致していても、企業側の採用ルートや契約内容が不適切であれば支給されません。
申請前には、制度の基本要件と支給対象外となる例外ケースを把握しておくことが不可欠です。
ここでは、助成金を活用するうえで知っておきたい主要な支給要件と注意点を整理します。
ハローワーク等の紹介による採用が前提
助成金の支給を受けるには、ハローワークまたは許可を受けた民間職業紹介事業者からの紹介によって、対象者を雇用していることが前提条件です。
これを満たさない場合、どんなに条件に合致する人材であっても助成対象外となります。
具体的には、以下のようなケースでは不支給となるため注意が必要です。
・自社で求人広告を出して直接採用した場合
・求人媒体(Webサイト、求人誌等)経由の採用
・知人や既存社員からの紹介による採用
制度目的が「公的紹介による雇用促進」にあるため、民間採用活動との明確な区別が求められます。
正規・無期・自動更新有期雇用であること
助成対象となる雇用形態にも制限があります。基本的には以下のいずれかが条件です。
・無期雇用(正社員など)
・自動更新条項付きの有期雇用(契約書に「本人の希望があれば更新可能」等の明記が必要)
一方で、期限付きの有期雇用契約で、更新規定がないものは対象外です。
また、採用時点で雇用契約書にその内容が明示されていなければ、後から変更しても助成金の申請はできません。
よって、雇用契約書の記載内容は非常に重要であり、申請時に提出を求められるため、事前の整備が欠かせません。
労働保険・雇用保険の適用要件など共通要件
雇用主側にも共通の要件が存在します。助成金申請企業は以下の条件を満たしていなければなりません。
・雇用保険に適用される事業所であること
・対象者が雇用保険の被保険者であること
・労働保険料・雇用保険料に滞納がないこと
特に、労働保険料の未納は即時に不支給理由とされるため、期日管理が重要です。
申請前に、直近の保険料支払い状況をチェックし、未納・滞納がないことを確認しましょう。
不支給リスクとなる代表的なケース(例:直接募集、在職中紹介)
下記のようなケースに該当すると、助成金は支給されません。企業側の採用プロセスや過去の雇用実態に注意が必要です。
・紹介ルートを経ていない雇用(求人サイト等)
・採用時点で既に在職中だった人材の紹介採用
・直近6ヵ月以内に会社都合で解雇を行っている場合
・雇用前に雇用予約(内定)を出していたケース
・親族の雇用(実子・兄弟など)
・3ヵ月を超える実習(インターン等)を経て採用されたケース
また、支給期間中に対象者を解雇・退職させた場合も、その時点までの分しか支給されません。
特に、勤怠不良や業務不適応を理由とする早期離職が多いと、次回申請時にマイナス評価となることもあります。
申請前の“体制整備”が成功の鍵
特定求職者雇用開発助成金を活用するうえで、「事前の準備」と「支給要件の正確な理解」がすべての出発点です。
制度を知らずに自社採用を進めてしまったり、契約書の内容が不備だった場合、あとから申請を出しても通りません。
申請前には次のポイントを必ず確認しましょう。
・採用ルートがハローワーク経由であるか
・雇用形態が助成対象に適合しているか
・労働保険・雇用保険の加入と支払状況に問題はないか
・過去6ヶ月以内に不適切な解雇や退職勧奨がなかったか
「雇った後に慌てて整備する」のでは遅く、雇用前から支給要件を意識しておくことで助成金を確実に受け取ることができます。
ぜひ制度の趣旨を理解し、リスクを避けながら賢く活用してください。次回は申請時に必要な書類や実務の流れを解説します。
助成金を“採用戦略”に活かす視点とは?

特定求職者雇用開発助成金は、「雇用による即時的なコスト支援」として捉えられがちですが、本質的には“中長期的な雇用安定と組織強化”の仕組みでもあります。
単に人を採用するだけでなく、「誰を」「どのように」迎え入れ、長く定着させていくかを考えることが、助成金の真価を引き出すポイントです。
このセクションでは、コスト削減だけに終わらせず、助成金を戦略的に活用するための実践的な視点を掘り下げていきます。
コスト削減だけで終わらせない、長期雇用への導線設計
助成金の活用というと、どうしても「いくらもらえるか」「どのくらいコストをカバーできるか」に意識が集中しがちです。
しかし、特定求職者雇用開発助成金の目的は、雇用の「数」ではなく「質」の改善と、職場での安定的な定着支援にあります。
したがって、短期的な補填ツールではなく、長期雇用を前提とした採用・育成の導線設計に組み込むことが重要です。
具体的には、以下のような視点が有効です。
戦略的観点 | 実践例 |
採用計画との連携 | 助成金対象者を1人採用する前に、将来的な人材構成や現場の定着率を分析し、採用枠における“適任者像”を定めておく。 |
定着支援の設計 | 採用後の3ヵ月間で不安を抱かせないよう、OJTやメンター制度を準備しておく。助成金の対象期間終了後も継続雇用する意識を持つ。 |
評価と登用制度の整備 | 新規採用者が「活躍できる余地」「成長できる余地」を設計し、意欲的な人材を惹きつける職場環境に整える。 |
このように、助成金を受けること自体を目的とするのではなく、「どうすればこの制度を使って持続可能な雇用を生み出せるか」という視点が経営的にも戦略的にも重要です。
また、制度上も、助成金の支給対象外となる行為(例:3ヵ月未満の解雇や職場不適応による早期離職)があるため、早期退職を防ぐ環境づくりは、申請金額以上のリターンを生み出す要素となります。
助成金を“戦略”として使える企業が生き残る
特定求職者雇用開発助成金は、単なる“人件費の一時支援”ではありません。
採用コストの一部を補填してくれるツールであると同時に、「長期雇用に向けた職場づくりを支援する制度」でもあるという点を忘れてはなりません。
一時的な補助金受給にとどめるのではなく、以下のようなステップで戦略化することが推奨されます。
・採用計画と助成制度のタイミングを連携させる
・早期離職を防ぐ体制(育成・評価・登用)を先回りで設計する
・制度対象者の採用が、既存社員への刺激や組織活性化につながるよう意識する
「助成金があるから採用する」のではなく、「この人材を定着させたいから助成金も使う」という発想が、結果として事業の安定成長に直結します。
経営戦略の一環として、助成金を“点”でなく“線”で捉える視点を持つことが、これからの時代に求められる雇用マネジメントの鍵となるでしょう。
“人材難”をチャンスに変える助成金活用の第一歩を

特定求職者雇用開発助成金は、単なるコスト削減の手段ではなく、人材確保と長期雇用の両立を支援する“戦略的ツール”です。
とくに採用リスクの高い中小企業にとっては、費用負担を軽減しながら、採用と育成のチャレンジに踏み出せる強力な制度といえます。
本記事で紹介したとおり、この制度には対象者の違いによる複数コースがあり、支給額も60万〜360万円と幅広く設計されています。
また、支給要件や手続きのタイミングも明確で、事前に流れを理解していればスムーズな活用が可能です。
つまり、「人が足りない」「採用にコストをかけられない」と悩む経営者・採用担当者こそ、この制度を知るべきです。
本記事を読んで、
「この制度を使えば人材確保と経費削減の両立ができそうだ」
そう思っていただけたなら、次はハローワークへの相談や、申請準備に一歩踏み出してみてください。
特定求職者雇用開発助成金という“選択肢”を、企業の未来を切り開く“戦略”に変えていきましょう。