中小企業や個人事業主の方へ——
「人手不足」「生産性向上」「賃上げ対応」など、経営課題を抱える現場では、何から手をつけるべきか悩むことも多いのではないでしょうか。
そんなときに心強い味方となるのが「業務改善助成金」です。
この制度は、最低賃金の引き上げとあわせて、業務効率化のための設備やシステム投資に対して支援が受けられる制度であり、思い込みで「うちは対象外だろう」と諦めていた事業者でも、実は活用可能なケースが数多く存在します。
この記事では、「業務改善助成金って結局どんな制度?」「どんな業務・経費が対象?」「支給額や条件は?」といった基本から、具体的な活用事例や申請の流れ、よくある失敗ケースまでを、できるだけわかりやすく整理して解説していきます。
読み終えたころには、「うちでも使えるかもしれない」と前向きに検討できるヒントが見つかるはずです。
業務改善助成金とは何か — 制度の基本構造

中小企業や個人事業主が「人材確保」や「生産性向上」に取り組む中で、経営の大きな助けとなるのが業務改善助成金です。
これは、厚生労働省が管轄する支援制度であり、賃金引上げと業務効率化を両立させたい企業にとって非常に心強い制度と言えます。
ここでは、制度の基本構造、申請対象、そして2025年度の改正ポイントまで、要点をわかりやすく整理します。
賃上げ+効率化投資という2本柱の仕組み
業務改善助成金の根幹は「事業場内最低賃金の引上げ」と「生産性向上のための設備・システム投資」の両立にあります。
たとえば、従業員の最低賃金を30円以上引き上げることを条件に、以下のような費用に対して補助が受けられます。
・業務効率化に資するITツールの導入費用
・生産性を上げるための設備機器購入
・社内研修や専門家によるコンサルティング費
補助率は中小企業で最大4/5(80%)、上限は600万円(事業主単位)に設定されています。
計画提出 → 実行 → 実績報告という流れで進めるのが基本です。
対象者(中小企業・小規模事業者・個人事業主)と除外規定
制度の対象となるのは主に以下のような事業者です。
・中小企業
・小規模事業者
・個人事業主
ただし、大企業の子会社など「みなし大企業」に該当する場合は除外となります。
さらに、助成対象となるには次のような条件も確認が必要です。
・申請前6ヶ月以内に解雇や賃金引下げがないこと
・6ヶ月以上継続雇用している労働者が対象
・単なる設備交換(例:エアコンの買い替え)など、快適性向上のみを目的とした投資は対象外
つまり、助成対象となるには「賃金改善」と「業務改善」が実質的かつ両立していることが前提です。
2025年度の制度改正・拡充ポイント(対象域拡大など)
2025年度は、より多くの事業者に制度を活用してもらうための拡充が行われました。
主な変更点は以下の通りです。
・助成金の上限が拠点ごとではなく、事業主単位で600万円に統一
・「みなし大企業」除外規定の明文化
・対象事業所の範囲拡大(地域別最低賃金+50円まで → 未満まで)
・最低賃金発効日前の賃上げであれば、事前提出不要になるケースあり
また、原材料価格高騰の影響を受ける特例事業者や個人事業主に対する特例措置も継続中で、助成率・上限額の加算が受けられる場合があります。
制度を最大限に活用するには、毎年の改正ポイントを正確に把握することが不可欠です。
賃上げと効率化の両立で持続的な成長を
業務改善助成金は、「人件費が上がるから」と賃上げに踏み切れない企業にこそ活用してほしい制度です。
助成を受けながら生産性向上のための設備投資も行えるため、短期的な負担を抑えつつ、長期的な利益体質への転換が可能になります。
2025年度の拡充によって、より多くの事業者が申請対象となりました。制度を正しく理解し、事前準備を整えることが成功の鍵です。
まずは自社が対象に該当するかどうか、具体的な支給条件をしっかり確認してみましょう。
対象業種・業務の具体例と活用ケース

業務改善助成金は「賃上げ」と「業務効率化」の両方を実現するための制度ですが、実際にどのような業種・業務で使えるのか、具体的にイメージしづらい方も多いのではないでしょうか。
ここでは、助成対象として認められやすい設備投資やシステム導入の一例を、業種別に解説していきます。
自社の業務に置き換えて活用のヒントを得られるよう、現場で実際に使われている具体例を交えて紹介します。
製造業・軽工業での設備導入例
製造業や軽工業の現場では、生産効率の向上や省力化を目的とした機械設備の導入が助成対象となります。具体的には以下のようなケースが該当します。
・自動化装置の導入 – 従来は手作業だった検品工程を、画像認識による自動検査機に置き換えることで省人化。
・作業時間短縮マシンの導入 – 溶接や加工の工程で、多機能マシンに切り替えることで作業時間を削減。
・部品洗浄機や自動包装機の導入 – 作業時間の短縮に加え、従業員の負担軽減にもつながる。
いずれのケースも、「業務のスピード向上」や「人手不足の解消」を目的とした投資である点がポイントとなります。
運送業・物流業でのシステム・車両導入例(フォークリフト・配車システム等)
運送業や物流業では、配送効率や倉庫内作業の改善に資する設備やITツールが助成対象となりやすいです。以下のような導入事例があります。
・フォークリフトの電動化・自動化 – 倉庫内の積み下ろし作業を効率化し、省エネ化も同時に達成。
・配車支援システムの導入 – 手動だった配車管理を自動化し、ドライバーの拘束時間や事務負担を軽減。
・ドライブレコーダーやデジタルタコグラフの導入 – 運行管理をIT化し、安全性と業務効率を同時に強化。
特に、労働時間削減や業務の見える化に関わる設備投資は、助成対象として評価されやすい傾向があります。
小売・飲食・サービス業でのITシステム・接客ツール導入例
接客業を中心とした小売・飲食・サービス業でも、業務効率化の工夫によって助成対象となる投資があります。たとえば次のようなケースが挙げられます。
・セルフオーダーシステムやタブレット端末の導入 – 注文業務を簡素化し、ホールスタッフの負担を軽減。
・POSレジ・勤怠管理システム – 手書きや旧型レジからの切り替えでミスや集計時間を削減。
・Web予約システムの導入 – 電話応対の手間を減らし、予約率向上にもつながる。
これらは単なるIT導入ではなく、人手不足や接客品質の安定に寄与する「業務改善」として機能している点がポイントです。
活用の鍵は「業種ごとの課題」に即した改善策を選ぶこと
業務改善助成金は、業種に関係なく「賃上げを伴った業務効率化投資」であれば幅広く活用可能です。
製造業なら設備導入、物流業なら配車システム、小売や飲食では接客支援ツールといったように、それぞれの現場での改善ポイントに直結する取組みが支援対象となります。
自社にとってどの部分を改善すれば業務効率が高まり、従業員の待遇も向上できるかを見極めることが、制度を最大限に活かすカギとなるでしょう。
支給条件・要件の詳細

業務改善助成金は、中小企業や小規模事業者が「生産性向上」と「賃上げ」を両立させるために活用できる心強い制度です。
ただし、申請には一定の賃金引上げ条件や事業場の基準、そして不正防止の観点から定められたルールの遵守が必須となっています。
ここでは、特に重要な3つの支給要件と制度遵守のポイントについて整理し、実際に申請を検討している事業者が自社が対象となるかどうか、何に注意すべきかを判断しやすいように解説します。
事業場内最低賃金と地域別最低賃金との差額要件(50円以内など)
助成金を申請するには、対象事業場の事業場内最低賃金が地域別最低賃金と一定の範囲内に収まっていることが条件の一つです。
具体的には、申請時点での事業場内最低賃金が地域別最低賃金+50円以内でなければなりません。
この条件は、すでに高い賃金水準を持つ企業ではなく、比較的賃金が低めの企業の引き上げ努力を後押しするために設けられています。
仮に最低賃金より100円以上高い水準で従業員を雇っている企業は、この助成金の対象外となるケースが多いため、申請前に「自社の事業場内最低賃金」と「地域別最低賃金(都道府県ごとに異なる)」を必ず確認しておく必要があります。
賃金引上げ幅・対象労働者数とコース区分/助成率・上限額のパターン
助成金の支給額は、どれくらいの賃金引上げを、何人の労働者に対して行うかに応じて変動します。
これを表にしたものが「コース区分」で、2025年度は以下のように設定されています。
・30円引上げコース
・45円引上げコース
・60円引上げコース
・90円引上げコース
・120円引上げコース
・150円以上コース(最大600万円支給)
また、支給額だけでなく、助成率(投資額に対する助成割合)も条件に応じて1/2〜4/5まで変動します。
たとえば小規模事業者や生産性向上の評価を受けている企業は、より高い助成率が適用されることがあります。
ここで注意すべきなのは、「対象となる労働者数」によって助成上限額が定まっている点です。
たとえば3人以上の従業員に60円の賃上げを行った場合と、1人だけに引き上げた場合では、同じ設備を導入しても支給額が異なります。
不交付事由・制度の遵守要件(解雇・賃金引下げ・著しい労働条件の変更等)
業務改善助成金には、申請後に満たすべき「遵守条件」も存在します。
これを満たしていないと、たとえ設備投資と賃上げを実施しても支給が取り消されたり、不交付となったりするリスクがあります。
代表的な不交付事由は以下の通りです。
・助成金支給の対象期間中に労働者の解雇を行った場合
・賃金の引下げや不利益変更を実施した場合
・法令違反や労働条件通知書の未整備、または社会保険未加入などが発覚した場合
また、「著しい労働条件の悪化」と見なされるような措置(無理なシフト変更、拘束時間の延長など)も避ける必要があります。
助成金は企業の「成長支援」であると同時に、労働者の処遇改善を前提とした制度であるため、制度の目的と矛盾するような行動があると不適切と判断されます。
支給対象かどうかの確認と遵守項目の徹底が成功の鍵
業務改善助成金を活用するには、対象となる賃金水準にあるかを見極めること、コースに応じた賃上げ計画を立てること、そして不交付リスクのある行為を避けることが重要です。
制度を最大限に活用するためには、単に設備を導入するだけでなく、助成金の趣旨に沿った適切な運用が求められる点を常に意識しておきましょう。
助成対象経費の範囲と例示

業務改善助成金では、単なる賃金引上げに対して補助が出るわけではありません。
生産性の向上につながる「設備投資」や「業務改善」の取り組みに対して、その費用の一部を助成する制度です。
対象となる経費は多岐にわたり、事業者の工夫次第で幅広く活用が可能です。本セクションでは、「モノ」「ノウハウ」「特例」の3つの切り口で、どのような経費が対象となるのか具体的に解説します。
▼機械・設備投資・システム導入など “モノ” の導入経費
まず代表的なのが、生産効率や業務スピードを向上させるための設備導入費です。例としては以下のようなものがあります。
・製造業 – 作業の自動化を図るための加工機械や搬送装置
・小売業 – POSレジや在庫管理システムの導入
・飲食業 – 高性能な調理機器やオーダーシステム
また、近年ではクラウド型業務システム(勤怠管理、予約管理、会計処理など)も対象になっており、ITツールの導入による業務効率化も推奨されています。
これらの設備はすべて「助成金の目的である生産性向上」と「継続的な賃上げ」の両立に貢献するものとして評価されます。
▼コンサルティング・教育訓練・業務見直し費用など “ノウハウ・人的投資” 経費
設備だけでなく、人材や知識への投資も助成対象に含まれます。たとえば以下のような費用です。
・外部専門家による業務フロー見直しのコンサルティング費用
・業務改善に必要なスキルを習得するための社員研修費
・IT導入に伴うマニュアル作成や教育資料制作費
このように、「生産性の向上=設備導入」と短絡的に考えるのではなく、組織全体の改善活動として支援される仕組みになっています。
特に小規模事業者では、人的な知識資本の強化が大きな効果を生むため、こうしたソフト面での投資を助成対象として検討する価値は大いにあります。
▼特例対応経費(車両・タブレット等の導入拡大)や対象拡充事例
以前は助成対象から除外されていた車両やタブレット端末の導入についても、2023年度以降の制度改正により一定の条件下で特例として認められるようになっています。
・運送業 – 業務改善のためのフォークリフトや配送車両(小型車)
・建設業 – 現場と本部をつなぐためのタブレット・スマートフォン端末
・飲食業 – モバイルオーダーシステムやセルフレジ端末
これらは、単に「道具」としてではなく、業務効率を数値的に改善し、それが賃上げにつながると明確に説明できる場合に限り、助成対象となります。
こうした特例措置をうまく活用することで、従来は対象外だった経費も含めて、より幅広い施策が実現できるのです。
「モノ・人・特例」すべてに目を向けた戦略的活用を
業務改善助成金は、「ハード」だけでなく「ソフト」や「制度の隙間」も活かすことで、多角的な業務改善を図れる柔軟な制度です。
設備導入だけでなく、人への投資や特例枠の活用まで視野に入れ、自社に最適な活用方法を検討しましょう。
こうした視点が、助成金を単なる補助ではなく経営戦略の一部として位置づける鍵となります。
支給額・助成率・支給上限の比較パターン

業務改善助成金の制度を最大限に活用するためには、「いくらまで助成されるのか?」という支給上限額や助成率の違いを正確に理解することが不可欠です。
本セクションでは、助成金制度の中心となる「賃上げコース別の上限額」、事業規模による限度の違い、そして地域別最低賃金との関係で決まる助成率について、分かりやすく整理します。
各コース(30円・45円・60円・90円)毎の助成上限額例
業務改善助成金は、賃上げ幅に応じてコースが分かれており、それぞれに支給上限額が設定されています。
・30円コース – 最大50万円〜300万円
・45円コース – 最大150万円〜450万円
・60円コース – 最大200万円〜600万円
・90円コース – 最大300万円〜900万円
上限額は、対象労働者数や事業場の規模に応じて増加します。
たとえば、90円以上の賃上げを行い、10人以上の労働者を対象とした場合、900万円という高額な助成が受けられるケースもあります。
つまり、賃上げ額と人数の両方を加味して支給額が決定される仕組みです。
事業場規模・従業員数別の助成限度と特例事業者区分
支給額のもう一つの決定要素が、事業場の規模(従業員数)です。
・1〜3人規模の事業場 – 上限50万円〜200万円程度
・4〜6人規模 – 100万円〜400万円程度
・7人以上 – 最大900万円まで可能
また、特例的な扱いが受けられる事業者(たとえば小規模事業者・最低賃金が特に低い地域の事業者など)に該当する場合は、さらに上限額が引き上げられるケースもあります。
地域や業種、従業員構成によって条件は変動するため、自社がどのカテゴリに属するのかを明確にしておくことが重要です。
助成率区分(事業場内最低賃金が1,000円未満/以上)とその適用条件
助成額の最終的な支給額を決める要素が「助成率」です。
支給対象経費に対して、以下のように助成率が変動します。
・事業場内最低賃金が1,000円未満 – 助成率4/5(最大90%)
・1,000円以上 – 助成率3/4(最大75%)
この助成率は、機械設備やシステム導入などにかかった経費総額にかけて計算され、最終的に交付される金額を大きく左右します。
特に、地方の中小企業や賃金水準の低い業種では、より高い助成率が適用されやすく、有利な条件で制度を活用できる可能性があります。
「賃上げ幅×従業員数×助成率」で支給額を戦略的に設計
業務改善助成金は、単純な固定金額支給ではなく、複数の要素が組み合わさって支給額が決定される制度です。
賃上げ額・対象労働者数・事業場の規模・最低賃金の水準など、さまざまな条件を組み合わせて最適なコースを選択し、自社の条件に合った助成金上限額をしっかりシミュレーションすることが成功のカギとなります。
無理なく、かつ最大限の支援を受けるためにも、助成金の構造を理解したうえで、制度設計を行いましょう。
申請手続き・期限・実施ルールの留意点

業務改善助成金を活用する際に見落としがちなのが、「申請タイミング」や「着手ルール」などの事務的な制約です。
制度内容を理解していても、運用ルールに反しただけで助成が不交付となるケースも少なくありません。
本セクションでは、スムーズな申請と確実な受給のために押さえておくべき手続きの流れ、禁止事項、スケジュール管理のポイントを解説します。
▼申請~交付決定~着手~完成までのフローと期限設定
業務改善助成金では、以下のような申請から実施までの厳格なステップが定められています。
1.交付申請書の提出
2.交付決定の通知を受ける
3.事業の着手(発注・契約・購入など)
4.事業の完了(納品・支払い・実施)
5.事業実績報告書の提出
6.支給決定・助成金の交付
重要なのは、交付決定を受けた後でなければ着手できないという点です。
また、交付決定から6カ月以内に事業を完了する必要があり、スケジュールの遅れは不支給の原因となり得ます。
▼交付決定前着工禁止ルール・事前提出書類・証拠保全要件
業務改善助成金では、「交付決定前の着工」は原則禁止です。
これに違反した場合、助成金の対象から除外されます。
たとえば、申請前に設備を発注したり、システム開発契約を結んだりすると、その支出は無効とされる可能性があるため、十分注意が必要です。
また、以下のような事前書類や証拠の保全も必須です。
・賃金台帳・出勤簿などの人事関係書類
・契約書・納品書・請求書・領収書などの証拠資料
・事業実施前後の比較が可能な業務フロー図や写真
これらを提出できなければ、申請内容の正当性が証明できず、助成金が支給されないケースもあります。
▼事業完了期限、納品・支払い・賃上げ実施のタイミング制限
助成対象となる「事業の完了」は、「納品」や「支払い」だけでなく、「実際に賃上げを実施したこと」も含まれます。
つまり、機械やシステムを導入して終わりではなく、その後に給与改定を行って初めて完了と見なされる点に注意が必要です。
また、支給決定通知から原則6カ月以内に事業を完了するルールがあり、この期限内にすべての業務を完了させ、報告書を提出しなければなりません。
たとえば納品が遅延し、賃上げ実施が間に合わなければ交付取消しとなる可能性もあるため、スケジュールと支払いタイミングの管理は非常に重要です。
事前準備とスケジュール管理が助成成功の鍵
業務改善助成金の申請・実施には、制度内容の理解だけでなく、細かな運用ルールの把握が不可欠です。
交付決定前の着工禁止、証拠保全、賃上げの実施タイミングなど、一つでも見落とすと不支給のリスクがあります。
助成金活用を成功させるためには、「制度を知る→計画を立てる→ルール通りに実行する」という3ステップを丁寧に踏むことが大切です。
専門家への相談や、スケジュール表の作成などで、抜けや漏れを防ぎましょう。
成功・失敗事例から学ぶポイント

業務改善助成金を有効に活用するには、制度の概要を知るだけでなく、実際の事例を通して成功の要因や失敗の落とし穴を知ることが重要です。
特に、業種や目的によって活用の仕方はさまざまです。
本セクションでは、実際に助成金を使って業務効率や賃上げを実現した中小企業の成功事例と、制度を正しく理解しなかったことで不交付となった失敗事例を紹介し、活用時のヒントをお届けします。
▼運送業の設備投資活用例(配車システム・フォークリフト導入)
ある中堅運送会社では、人手不足と現場の混乱を解消するため、配車システムと電動フォークリフトの導入を決定。業務改善助成金を活用して設備投資を行いました。
配車システムにより運転手の稼働時間を可視化・最適化し、フォークリフト導入により荷下ろし時間が短縮。
これにより、残業時間が減り、人件費に余裕が生まれたことでパート従業員の時給を引き上げることに成功しました。
事前に社労士と相談し、計画的にスケジュールと導入内容を詰めていたことが功を奏しました。
▼小売・飲食業でのIT化導入例
ある飲食チェーンでは、業務負担軽減のため、オーダーシステムと自動釣銭機を導入。助成金を活用してこれらの設備費用を補助してもらい、店舗ごとに業務効率が大きく改善されました。
従業員からは「伝票の記入がなくなってミスが減った」「閉店後のレジ締めが早くなった」といった声が上がり、労働環境の改善によって離職率が低下。
その成果を踏まえて、一部スタッフの基本給を20円引き上げることができました。
この事例では、“労務環境の改善”→“定着”→“賃上げ”という流れを意識した設計が評価されました。
▼失敗ケース|申請前着工・不交付事由に触れたケース
ある製造業者では、制度をよく確認せずに助成金の申請前に機械を発注・納品してしまいました。
後日申請したものの、「交付決定前の着工は禁止」という原則に抵触し、不交付となる結果に。
また、別の小規模事業者では、助成事業後に労働条件の悪化(休日数の減少や賃金体系の変更)が発覚し、「著しい労働条件の変更」と見なされて支給却下された例も。
いずれも制度上のルールや遵守要件を見落としたことが原因で、せっかくの制度が活かされなかった代表的なケースです。
制度を使いこなすには「計画と確認」が鍵
業務改善助成金の活用では、設備やITツールを導入するだけでなく、「助成制度の正確な理解」「実施計画の整合性」「申請手続きの正確さ」が不可欠です。
成功事例では、これらを押さえたうえで戦略的に賃上げと業務改善をリンクさせています。
一方、失敗事例の多くは「制度の読み飛ばし」「確認不足」に起因します。
助成金を確実に受け取るには、専門家への事前相談や、制度ガイドラインの熟読が重要な対策となるでしょう。
見落とされがちな業務も対象に?意外と知られていない活用パターン

業務改善助成金は、名前から「工場や倉庫などの現場に導入する大型機械」や「ITシステムの導入」といったハードな業務改善のみが対象と思われがちです。
しかし、制度の範囲は意外に広く、日常的な業務の見直しやレイアウト変更といった“ソフト”な改善も対象となるケースがあります。
特に、サービス業や小売・飲食業などでは、店舗の運営効率や顧客導線の改善も“生産性向上”とみなされるため、助成対象として認められる可能性があるのです。
店舗レイアウト変更やレジシステム刷新も助成対象になる理由
たとえば、飲食店でホールとキッチンの間に死角が多く、スタッフの無駄な移動や伝達ミスが頻発していた場合、店舗レイアウトを見直してオーダー動線を効率化することで、業務時間の短縮や従業員の負担軽減が見込まれます。
このような改善を目的とした店舗改装や什器の配置変更費用も、助成対象に含まれることがあります。
また、レジシステムの刷新も注目すべき活用例です。旧式のPOSレジをクラウド型レジに変更することで、売上データの自動集計や在庫管理の自動化が可能になり、バックヤード業務が大幅に効率化されます。
このようなIT化によって事務作業の時間が減り、その分スタッフが接客や販促に専念できるようになるため、労働生産性の向上に直結します。
これらのような投資は、一見すると“地味”でありながら、従業員の業務負担の軽減→労働環境の改善→時給引き上げという流れにつながることが多く、制度趣旨と合致しやすいのが特徴です。
中には、カウンター席をなくして省スペース化し、掃除や配膳の手間を軽減した例や、予約管理アプリを導入して待機時間を減らした美容院なども助成対象になった実績があります。
こうした「小さな改善」の積み重ねが、結果として従業員の働きやすさや時給引上げを可能にするのです。
もちろん、導入前には専門家への相談や、“業務改善による生産性向上と賃上げ”という因果関係が示せる資料づくりが重要となりますが、制度上「生産性向上に資すること」が明確であれば、現場のちょっとした工夫や工事も十分対象となり得るという点は見逃せません。
「うちには関係ない」が覆る可能性
業務改善助成金の真の魅力は、「大がかりな投資」だけでなく、日々の業務に潜む小さなムダや非効率を改善するための取り組みにも活用できる点にあります。
店舗の配置替えやレジの刷新といった、一見地味な改善であっても、“生産性の向上”という視点で評価されれば助成の対象になるのです。
「うちは対象外だろう」と思い込まず、現場の悩みを制度でどう解決できるかを今一度見直してみることで、新たな可能性が開けるかもしれません。
「うちは対象外」と決めつける前に一歩踏み出そう

業務改善助成金は、賃上げと業務効率化を両立させる中小企業の強い味方です。
制度の根幹にあるのは「人材への投資を支援しながら、持続可能な職場をつくる」という考え方であり、業種や業態を問わず、工夫次第で幅広く活用できます。
制度の複雑さに不安を感じている方もいるかもしれませんが、「自社にも使えるかもしれない」と気づくことが第一歩です。
実際に、製造業や運送業だけでなく、小売・飲食・サービス業などでの導入実績も多数あり、意外な取り組みも助成対象になる可能性があります。
また、2025年度には対象経費や制度設計の柔軟化が進み、使い勝手は確実に向上しています。
「申請のタイミング」「交付決定前の着工NG」など注意すべきルールはあるものの、しっかりと準備をすれば十分に活用可能な制度です。
「人手不足に対応したい」「従業員の定着率を上げたい」「働きやすい職場をつくりたい」そんな課題を抱える企業こそ、この助成金を前向きに活用すべきです。
まずは、自社の業務を振り返り、小さな改善の種を見つけてみることから始めてみてください。
そこから、制度の活用が大きな成長への一歩となるはずです。