国の代表的な中小企業支援策である「ものづくり補助金」
新設備の導入や業務のDX化を後押しする制度として多くの企業が活用していますが、同時に「不正受給」や「目的外利用」といった問題も後を絶ちません。
近年では、補助金の申請数増加に伴い監査が強化され、虚偽申請・経費の水増し・書類の改ざんなどが摘発されるケースが増加しています。
一見、軽微なミスや認識違いに見える行為でも、「不正」と判断されることがあり、全額返還・加算金・刑事罰などの厳しい処分が科されることもあります。
本記事では、過去に実際に起きた不正事例や典型的なパターン、発覚後のペナルティ、そして不正を防ぐための具体的な対策をわかりやすく解説します。
この記事を読むことで、「うちは大丈夫」と思っていた事業者が見落としがちなリスクの盲点を把握し、今後の申請・運用で「これは大丈夫か?」と自らチェックできる視点を身につけられるはずです。
なぜ不正受給が問題視されているのか

ものづくり補助金は、製造業を中心とした中小企業や小規模事業者の生産性向上・技術革新を支援する国の代表的な補助制度です。
しかし、支援の拡大に伴って、制度の“隙”を突いた虚偽申請や不正利用が増加し、国や自治体が厳しい監視体制を敷くようになりました。
ここでは、不正が問題化した背景と制度上のルールを整理します。
ものづくり補助金とは—企業成長を支える国の支援制度
「ものづくり補助金(正式名称:ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金)」は、
中小企業が新製品開発・生産プロセス改善・業務効率化などを行う際に、その設備投資やシステム導入の一部を国が補助する制度です。
たとえば、製造ラインの自動化や、建設業・IT業でのDX推進など、広範な分野に活用可能です。
企業にとっては「リスクを抑えて挑戦できるチャンス」ですが、その一方で不正な申請・利用が補助金全体の信頼を揺るがす要因となっています。
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不正受給が増加した背景—申請件数増加と監査強化
コロナ禍以降、企業の資金需要が高まり、補助金の応募件数は年々増加。
申請代行業者やコンサルタントが急増したことで、申請者自身が内容を十分に理解せず提出してしまうケースも見られます。
その結果、
・経費の使途が補助対象外だった
・交付決定前に発注していた
・架空取引を行っていた
といった事例が全国で発覚し、行政による監査体制も強化。不正が確認されると、採択取り消しや刑事告発まで至るケースも増えています。
法律による規制と罰則の厳格化(補助金等適正化法)
不正受給は、「補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律(通称:補助金等適正化法)」により厳しく規制されています。
この法律では、
・虚偽の申請や不正な手段で交付を受けた場合は「全額返還命令」
・悪質な場合は「刑事罰(懲役・罰金)」
が科されると明記されています。
さらに、企業名の公表や、今後の補助金申請の停止措置など、事業継続にも大きな影響を及ぼします。
そのため、「知らなかった」「担当に任せていた」では済まされず、経営者自身が法的リスクを理解する必要があります。
不正受給は“制度そのもの”の信頼を失墜させる行為
ものづくり補助金は、企業の挑戦を後押しする大切な制度です。
しかし、虚偽や水増しといった不正が横行すると、本来受け取るべき企業のチャンスを奪う結果にもなります。
申請者一人ひとりが「正しく使う責任」を意識することで、制度の持続性と企業の信頼性を守ることにつながります。
不正受給に該当する主な行為

ものづくり補助金の不正は、「悪意のある詐欺」だけでなく、軽い認識違いや管理ミスから発生するケースも少なくありません。
ここでは、代表的な不正パターンを整理し、注意すべきポイントを紹介します。
申請要件に関する虚偽記載や虚偽報告
最も多いのが、申請書や事業報告書で実態と異なる情報を記載するケースです。
たとえば、従業員数・売上・補助対象経費などを「採択されやすいように」操作したり、実際に実施していない工程を報告したりする行為は明確な不正に該当します。
経費の水増し・架空請求・日付改ざん
領収書や請求書の金額を不正に引き上げたり、架空の業者との取引を装って請求書を作成する行為も典型的な不正です。
また、発注日・納品日・支払日を改ざんして交付決定前の支出を隠すといったケースも、監査で頻繁に指摘されています。
補助金の目的外利用・転用
補助金はあくまで「採択された事業計画に沿った経費」に限定されます。
しかし実際には、私的な経費や別事業の設備購入に流用してしまう事例も存在。
「社内で共有して使っているから問題ない」という感覚でも、目的外利用と判断されるおそれがあります。
二重申請・二重受給や名義貸し
同一の事業内容で複数の補助金に申請する「二重申請」や、別法人・個人の名義を使って複数回申請する「名義貸し」も重大な不正行為です。
これらは意図的な制度悪用とみなされ、刑事事件として立件されることもあります。
過失でも不正とみなされるケースがある
不正は「故意」でなくても成立する場合があります。
たとえば、
・経理担当者のミスで誤った領収書を提出した
・交付決定後の変更届を出し忘れた
・期日を過ぎて報告書を提出した
といったケースでも、「補助金の適正な執行を妨げた」と判断される可能性があります。
そのため、申請から報告までの一連の流れを複数人でチェックする体制を整えることが大切です。
“意図せず不正になる”行為にも注意を
不正受給は「悪意がある人だけの問題」ではありません。
一見軽微な誤りでも、報告漏れ・日付ミス・対象経費の誤認などで処分対象になるリスクがあります。
“知らずに違反してしまうリスク”を防ぐために、常に第三者視点で内容を精査する姿勢が不可欠です。
実際に発生した不正事例とその経緯

ものづくり補助金は、多くの中小企業が正しく活用している一方で、ごく一部の事業者による不正受給が実際に摘発されています。
これらの不正は「意図的な虚偽報告」だけでなく、「書類の不備を装った巧妙な偽装」など、様々な形で行われています。
ここでは、実際に報道・行政資料などで明らかになった代表的な不正事例とその経緯を紹介します。
架空発注や領収書偽造による摘発事例
最も多いのが、実際には存在しない発注を装って補助金を受け取るケースです。
たとえば、設備導入を申請したものの実際には購入していなかったり、業者に「形式上の請求書・領収書」を作らせたりして補助金を申請する事例がありました。
こうした行為は「架空請求」として、補助金適正化法違反(虚偽申請)に該当します。
摘発後は補助金の全額返還だけでなく、返還金に加えて加算金(延滞金)を課せられることも多く、経営への打撃は大きいものとなります。
受注企業との共謀での経費水増しケース
補助金を申請した企業と、その受注先(制作会社・設備業者など)が共謀して経費を水増しするケースも見られます。
たとえば、実際の設備導入費が500万円だったにもかかわらず、見積書を800万円に改ざんし、差額を折半するような不正スキームです。
このような行為は、業者側も共犯として処罰対象となります。
実際、行政調査で業者からの供述が得られ、申請者側だけでなく関係企業全体が公表・取引停止処分を受けたケースもあります。
採択後に事業未実施・報告書偽造が発覚した事例
採択された後、実際には事業を実施していないのに、報告書だけ提出していたというケースもあります。
「機械を導入したことにして写真を加工した」「完了報告を虚偽記載した」といった事例では、調査時に現物確認や請求書照合で発覚することがほとんどです。
このようなケースは、行政からの「実地検査」や「事後調査」で明るみに出ることが多く、採択取消・全額返還・刑事告発にまで発展します。
採択取り消し後も返還せず刑事訴追されたケース
不正受給が認定された後も返還を拒み、結果的に詐欺罪や業務上横領として立件された事例も存在します。
返還命令に応じなかった企業は、地方裁判所での民事訴訟を経て強制執行されることもあり、最終的には代表者個人の責任追及(役員報酬の差し押さえ)に至ることもあります。
補助金は公金であるため、返還命令を無視する行為は「国家に対する詐取」として、一般的な企業不祥事よりも厳しく扱われます。
不正は“バレない”ではなく“必ず発覚する”
ものづくり補助金の不正は、年度をまたいだ調査や通報制度により、数年後に発覚するケースも多いのが実情です。
監査体制は年々強化されており、「一度の不正で企業の信頼を完全に失う」ということを忘れてはなりません。
短期的な利益より、制度の信頼と自社の信用を守る判断こそが、長期的な経営の安定につながります。
不正が発覚した場合のペナルティと法的措置

不正が明らかになった場合、補助金の取り消しや返還命令にとどまらず、法的措置や社会的制裁が科されることになります。
行政は「補助金等適正化法」に基づき厳格に対応しており、特に悪質な事例では刑事事件化も珍しくありません。
ここでは、実際に企業が受けるペナルティの具体的な内容を見ていきます。
補助金の全額返還および加算金(延滞金)の支払い
不正が確認されると、交付された補助金は全額返還命令の対象になります。
さらに、返還までの期間に応じて加算金(延滞金)が課される場合もあります。
たとえば、1,000万円の不正受給に対して10〜15%の加算金が上乗せされることもあり、実質的に1,100〜1,200万円の返還負担となることもあります。
企業名の公表・将来の補助金申請資格停止
行政は不正を行った企業の名称・所在地・代表者名を公表します。
この公表はウェブ上に残り続け、取引先や金融機関からの信頼失墜につながる重大なダメージです。
また、多くのケースで「以後5年間の補助金・助成金申請の停止措置」が取られ、今後の国・自治体支援を受ける道も閉ざされます。
補助金適正化法・詐欺罪による刑事罰(懲役・罰金)
悪質な不正受給については、刑事告発→起訴→有罪判決に至るケースもあります。
補助金適正化法第29条により、
・虚偽申請を行った場合:3年以下の懲役または100万円以下の罰金
・詐欺罪が適用される場合:10年以下の懲役
と定められています。
これは「経営判断のミス」ではなく犯罪行為と見なされることを意味します。
関係事業者や士業にも処分が及ぶ可能性
不正に関与した外部業者(設備会社・制作会社・コンサルタントなど)や、書類作成に関与した税理士・行政書士などの士業にも処分が下ることがあります。
実際、支援機関やコンサルタントが不正に関与した事例では、認定取り消しや業務停止命令が出された例も確認されています。
不正の「主犯」でなくとも、共謀・黙認・不作為であれば処罰対象となる点に注意が必要です。
不正発覚後は“経済制裁+社会的制裁”が同時に襲う
不正受給が発覚すると、返還義務・罰金・公表・信用失墜の四重苦に直面します。
特に中小企業にとって、補助金返還と同時に「今後の支援制度が使えない」状況は致命的です。
不正のリスクは一時的な利益よりもはるかに大きく、「受け取ること」より「正しく使うこと」こそが補助金活用の本質だといえるでしょう。
不正受給を防ぐためのチェックポイント

ものづくり補助金の不正は、意図的な虚偽申請だけでなく、小さなミスや確認不足から生まれる「うっかり不正」も少なくありません。
申請や報告の段階で正確さを欠くと、結果的に不正と判断されることもあります。
ここでは、企業が不正受給を防ぐために押さえるべき4つのチェックポイントを整理します。
補助対象経費の確認と領収書・契約書の整備
不正防止の第一歩は、「どこまでが補助対象経費か」を明確に理解することです。
ものづくり補助金では、機械装置費・システム構築費・外注費などが代表的な対象ですが、交付決定前の支払い、領収書が不備の経費、個人的利用の費用などは補助対象外です。
また、支払いの証拠となる契約書・請求書・領収書・振込明細書を整然と保管することが重要です。
これらが揃っていない場合、「経費の正当性が証明できない」として、後から返還命令を受けるリスクがあります。
事業内容・従業員数・金額の正確な記載
申請書や実績報告書には、事業内容・従業員数・支出金額などを正確に記載する必要があります。
特に、申請時点での情報と実施後の報告内容が食い違うと、「虚偽報告」とみなされることがあります。
社内で入力を分担している場合は、最終的な確認責任を明確にしておくことが大切です。
誤った金額やデータの入力も、監査で「不正」と判断されることがあるため注意しましょう。
外部コンサルや代行業者の選定時の注意点
補助金申請サポートをうたう業者の中には、不正スレスレの方法を提案する悪質な代行業者も存在します。
「採択率90%」「書類はお任せください」といった謳い文句の裏には、虚偽内容の盛り込みや過剰請求が隠れていることもあります。
契約前に以下を確認しておくと安心です。
・実績や過去の採択件数を公式に公表しているか
・成果報酬型か、着手金型か(報酬体系の明確化)
・認定経営革新等支援機関として登録されているか
「丸投げすれば安心」ではなく、内容を自社で理解していることが最大の防止策です。
不明点は事務局・認定支援機関に必ず確認
申請内容や経費区分で不明な点がある場合は、必ず事務局や認定支援機関に確認するようにしましょう。
「たぶん大丈夫」「他社もやっている」といった判断は危険です。
公式の問い合わせ履歴を残しておくことで、後日問題が発生した場合も、「確認済みである」と説明できる証拠になります。
不明点を放置せず、“疑問は必ず解消する”姿勢が不正防止のカギです。
不正防止の基本は“正確な記録”と“第三者確認”
不正受給を防ぐ最大のポイントは、正確な経理と書類管理、そして独りよがりな判断を避けることです。
領収書の整備や社内チェック体制の構築など、「透明性を高める仕組み」が結果的に企業を守ります。
「不安な点は確認する」「怪しい業者とは関わらない」という基本姿勢を徹底することが、信頼性ある補助金運用への第一歩です。
不正が疑われた場合の対応と相談先

不正の疑いがかけられた場合、最も重要なのは「隠す」「放置する」ではなく、早期に対応することです。
誠実な説明と再発防止の意思を示すことで、行政からの評価や処分内容に大きな差が生まれます。
ここでは、疑われたときに取るべき行動と、相談すべき窓口をまとめます。
自主返還の手続きと再発防止策の提出
万が一、申請内容や支出に誤りが見つかった場合は、自主的に補助金を返還する手続きを行うことが推奨されます。
「指摘を受ける前に自主返還した」場合、行政側の評価が軽減されるケースもあります。
同時に、再発防止策として以下をまとめて提出すると効果的です。
・書類管理・チェック体制の見直し
・担当者教育の実施
・今後の申請ルールを明文化した社内ガイドライン作成
「誠実に対応する姿勢」を見せることが、信頼回復の第一歩です。
調査協力の義務と誠実な説明が重要
行政や監査機関から調査要請があった場合、正直に・誠実に回答する義務があります。
書類の提出を拒否したり、虚偽説明を行うと、処分が重くなる(返還+刑事告発)リスクがあります。
特に、調査官からの質問には「知らない」「確認します」といった正確な対応を行い、憶測や曖昧な回答を避けることが重要です。誠意ある対応は後の判断に必ず影響します。
弁護士・認定支援機関への早期相談のメリット
不正の疑いを持たれた場合は、早期に専門家へ相談することが何よりも重要です。
特に、
・不正と判断される基準が曖昧
・書類の不備か、意図的な虚偽と見なされるか不安
・行政からの聞き取りや通知を受け取った
といった状況では、弁護士や認定支援機関のサポートが有効です。
専門家が入ることで、法的な立場整理・交渉・再発防止策の策定までを一貫してサポートできます。
“誠実な対応”が唯一の信頼回復ルート
不正の疑いを完全に避けることは難しいですが、その後の対応が企業の信頼を左右します。
自主返還・説明・相談という3つのステップを迅速に実行することで、行政の判断や再起の可能性が大きく変わります。
焦らず、隠さず、正直に。
「問題を正面から受け止める姿勢」こそが、補助金制度を健全に活用するための最大の防御策です。
「知らなかった」では済まされない、不正防止への意識が信頼を守る

ものづくり補助金は、中小企業の技術革新や生産性向上を支える重要な支援制度です。
しかしその一方で、虚偽申請・経費の水増し・目的外利用などの不正事例が後を絶たず、
制度全体の信頼を揺るがす事態にもつながっています。
今回紹介したように、不正が発覚した場合には補助金の全額返還・加算金の支払い・企業名の公表・刑事罰の適用といった、極めて厳しい処分が科されます。
しかも、故意ではなくても「確認不足」「報告漏れ」などの過失があれば不正とみなされるケースも少なくありません。
重要なのは、申請や実績報告を「形式的な手続き」と捉えず、
経費の裏付け・書類の整備・第三者確認・専門機関への相談を日常的に行うことです。
もし不明点や不安がある場合は、事務局や認定支援機関に早めに確認し、必要であれば弁護士などの専門家に相談しておくことで、後のトラブルを未然に防げます。
補助金は企業の挑戦を後押しするための制度であり、正しく活用すれば経営を大きく前進させる強力な武器になります。
だからこそ、「不正をしない」「疑われない」「誤解を生まない」という三つの意識を持ち、公正で透明性の高い運用を心がけることが、長期的な企業価値と信頼を守る最善の道です。
