地方での新たな事業展開や人材採用を検討している企業にとって、コスト面の壁は大きな課題です。
特に、人口減少や高齢化が進む地域では、安定した雇用の確保と同時に、地域経済への貢献が求められます。
そんな中、国が提供している「地域雇用開発助成金」は、地方における雇用創出を後押しする有力な支援制度として注目されています。
この助成金制度では、対象地域に新たな事業所を設置し、一定の条件を満たす労働者を雇用した企業に対して、最大3回に分けた助成金の支給が行われます。
対象地域は「過疎地域」「同意雇用開発促進地域」「有人国境離島地域」などに限定されており、受給には一定の施設整備や雇用計画が必要となりますが、その分、得られる助成額は高額かつ継続的です。
この記事では、地域雇用開発助成金の概要から、受給資格、支給金額、申請手続きの流れまでを網羅的に解説します。
読後には「自社でも活用できるのでは?」と前向きに制度を捉え、地方での事業展開や雇用戦略の一環として検討していただけるよう構成しています。
これから地方での雇用創出に挑む企業担当者の方は、ぜひご一読ください。
地域雇用開発助成金とは?

地域に根ざした事業を展開したいと考えていても、「人材確保の不安」や「初期投資の重さ」がネックとなり、地方進出に踏み切れない企業も少なくありません。
そうした課題を支援するのが地域雇用開発助成金です。
この制度は、人口減少や過疎化が進む地域に新たな雇用を創出する企業に対し、設備投資や人件費の一部を支援する仕組みとなっており、地域経済の活性化を目的としています。
ここでは、まず制度の成り立ちや対象地域、新設・整備事業所に関する基本的な条件を整理し、「自社も対象になるのか?」を判断するための出発点を提供します。
▼地域雇用開発コースの目的と創設背景
地域雇用開発助成金(地域雇用開発コース)は、人口減少や過疎化が進行する地域において、新たな雇用を創出することを目的に創設された国の制度です。
厚生労働省の主導で実施され、地域活性化や若年者の地元定着を促すための施策として位置づけられています。
この助成金の背景には、「都市部への一極集中」による地域経済の衰退という課題があります。
特に、若者の流出が深刻な地域では、事業所の新設や設備投資といった企業活動が地域雇用を支える重要な基盤となるため、国が制度を通じて企業に対して積極的な支援を行っています。
また、単に金銭的な補助にとどまらず、地元自治体との連携や中長期的な雇用維持を前提としている点が特徴です。
つまり、単発的な雇用対策ではなく、「地域とともに育つ企業づくり」が前提となる支援制度といえます。
▼対象となる地域区分(同意雇用開発促進地域・過疎地域・有人国境離島等)
地域雇用開発助成金が対象とするのは、以下のいずれかに該当する「雇用開発が特に必要とされる地域」です。
・同意雇用開発促進地域 – 都道府県と厚生労働省が共同で指定した地域
・過疎地域 – 過疎地域自立促進特別措置法に基づく指定地域
・有人国境離島地域 – 国境に近く、かつ離島で人口維持が課題となっている地域
これらの地域は、人口減少率や若年層流出の深刻度、地域経済の停滞度合いなどを総合的に評価して選定されており、全国どこでも申請できるわけではないという点に注意が必要です。
対象地域に該当するかどうかは、厚生労働省の最新の公表リストで確認できます。
また、同じ市町村内でも一部の区域のみが対象となるケースもあるため、事業所の具体的な設置場所まで正確に確認する必要があります。
▼設置・整備または新規事業所の要件
助成金の対象となるのは、上記の指定地域に「新たに事業所を設置」または「既存事業所を拡張・整備」し、地域住民を常用雇用として一定数以上採用する企業です。
具体的な要件としては以下のような点が挙げられます。
・対象地域において建物の新築・改修・機械導入等の設備投資を行うこと
・投資額が一定の基準(例:300万円以上など)を上回ること
・助成金申請前に、整備計画書を提出して認定を受ける必要があること
・投資後、対象労働者(被保険者)を所定数以上雇用すること
つまり、単なる人材採用では対象とならず、「地域での雇用創出と設備投資を一体的に進めること」が求められています。
また、投資対象が事務所・工場・店舗などの種類を問わないのも特徴で、幅広い業種が活用可能です。
ただし、既に設備が整っている場合や一時的な人員補充目的のみでは対象外となるため、制度活用を前提とするなら事前準備と認定取得が必須です。
制度理解の第一歩は「地域」「投資」「雇用」の三位一体
地域雇用開発助成金は、単なる雇用助成ではなく、「地域×投資×雇用」という三要素の組み合わせを満たす企業のみが対象となる制度です。
地域活性化に資するという本来の目的を理解し、対象地域の確認、設備投資計画の策定、雇用計画の立案を丁寧に進めることが、助成金活用のスタートラインとなります。
受給資格・対象要件

地域雇用開発助成金を活用するには、ただ事業所を設置するだけでは不十分です。
事業主の属性や体制、雇用する労働者の条件、投資額の基準など、いくつものハードルをクリアする必要があります。
ここでは、制度を正しく理解し、「自社は対象になるか」を判断するために、3つの側面(事業主/労働者/整備内容)から、具体的な受給資格を解説します。
事業主として満たすべき条件
受給対象となるには、事業主側にも明確な条件があります。主な要件は以下の通りです。
・新たに事業所を設置または整備し、対象地域に雇用を生み出すこと
・常時使用する労働者を雇用保険に加入させること
・「地域雇用開発計画」を計画期間内に実施・完了できる体制が整っていること
・実地調査などに協力可能な事業者であること
・「設置・整備の事実」および「雇用実績」について、適切な証憑を提出できること
さらに、計画提出前に着工・着手している場合は原則として対象外となるため、事前計画の提出が必須条件です。
対象労働者の増加数・雇用形態・被保険者要件
助成金の支給対象となるには、「新たな雇用の創出」が前提です。
以下の条件を満たす必要があります。
・計画に基づいて3人以上(過疎地域・有人国境離島等では2人以上)の増員があること
・新たに雇用した労働者が、雇用保険の被保険者であること
・雇用形態は常用雇用(正社員相当)であること(短期・パート・業務委託は対象外)
・原則として新規雇用者は同一法人・団体での直近雇用歴がないこと
また、雇用は計画期間中に行われる必要があり、「対象期間外の雇用」や「別部署からの異動」は原則カウントされません。
設置・整備費用の最低金額・1案件あたりの経費要件
単に従業員を増やすだけでなく、事業所の新設や整備に一定以上の設備投資を行っていることも条件となります。
・設置・整備に要した対象経費が300万円以上であること
・助成対象となる経費は、建物費、設備費、外構費、設計費など
・ソフトウェア導入や車両購入費用は原則対象外
・複数案件を同時に進める場合でも、1案件ごとに300万円以上が必要
・経費は証憑書類(領収書・請求書・契約書)に基づき証明可能であること
また、建物の建設や改修の場合、建築確認済証や写真などの添付書類も必要になります。
制度の活用には3つの条件を満たすことがカギ
地域雇用開発助成金は、「雇用」「雇用主」「設備投資」の3つの観点で要件を厳密に満たす必要があります。
特に注意したいのは、計画書の提出タイミングと、雇用形態・被保険者の条件です。
要件を少しでも外れると受給対象外となるため、申請前に事前チェックを徹底することが成功の鍵となります。
支給金額・助成率・支給回数の目安

地域雇用開発助成金を検討する際に最も気になるのが、「いくら受給できるのか」という点です。
助成額は一律ではなく、設置地域や雇用人数によって細かく区分されています。
このセクションでは、支給額の階層構造、加算措置、支給回数と条件までを網羅的に紹介します。
資金計画や事業投資の目安としてぜひお役立てください。
支給額の階層表
地域雇用開発助成金の支給額は、地域区分と雇用人数に応じて段階的に設定されています。
以下は主な支給目安です。
地域区分 | 新規雇用者数 | 支給額(最大) |
同意雇用開発促進地域 | 3人~9人 | 60万円/人 × 回数 |
過疎地域・半島振興地域等 | 3人~9人 | 70万円/人 × 回数 |
有人国境離島地域 | 3人~9人 | 80万円/人 × 回数 |
10人以上(全地域共通) | 一律 | 50万円/人 × 回数 |
・上記は1人あたりの助成額。最大3回の分割支給(年1回×3年)です。
・支給額は「新規常用雇用者数」に応じて増減します。
・10人以上の雇用を行う場合は地域に関係なく一律で支給されます。
初回支給の加算・創業時の優遇措置
初回の支給時には、条件を満たせば加算措置が適用される場合があります。
・創業事業者(設置から1年以内の法人等)の場合、1人あたり10万円が加算
・障害者を新たに雇用した場合、1人あたり20万円の加算措置あり
・助成額が「50万円/人以上」の地域であれば、加算後の上限は最大100万円/人
また、「地域との連携」や「ハローワーク経由の雇用」などがあると審査上の加点にもつながる可能性があります。
制度の活用を前提に創業する場合は、初回支給での加算が特に有利です。
第2回・第3回支給のための維持要件
助成金は最大3回に分けて支給されますが、2回目・3回目の支給には「雇用の維持」が条件となります。
・雇用した労働者の離職率が高いと減額・不支給のリスクあり
・1年ごとに「支給申請」と「実績報告書」の提出が必要
・「支給対象人数」のうち、75%以上が継続雇用されていることが望ましい
・雇用保険被保険者であることを証明する書類提出が必須
つまり、単なる「採用」だけでなく、安定した雇用環境の整備と継続的な就労支援が必要不可欠となります。
助成額だけでなく“継続雇用の仕組み”も視野に入れて
地域雇用開発助成金は、条件を満たせば1人あたり最大80万円×3回=240万円の受給も可能な、非常に魅力的な制度です。
しかし、受給するためには「計画通りの雇用人数」と「継続的な雇用維持」が求められます。
特に2回目・3回目は“実績”で判断されるため、採用後の離職や手続き漏れには細心の注意が必要です。
創業時や地方進出時の資金繰りを支える手段として、本制度を戦略的に活用する視点が重要です。
事前に支給額の目安を把握しておくことで、無理のない雇用計画が立てられるでしょう。
申請の流れと手続き上の主な注意点

地域雇用開発助成金を受給するには、計画書の提出から支給申請まで複数のステップを踏む必要があります。
申請準備が不十分だったり、必要書類に不備があると、不支給や支給遅延の原因にもなりかねません。
このセクションでは、助成金申請の流れ、計画期間中の留意点、提出書類のポイントを時系列で整理し、注意すべき落とし穴についても詳しく解説します。
計画書の提出と計画期間(最長18か月など)
まず申請の第一歩として必要なのが、「地域雇用開発計画書」の提出です。
この書類では、以下の内容をあらかじめ整理する必要があります。
・事業所の設置または整備内容
・新規雇用する労働者の人数と雇用形態
・整備・設置に要する経費の見積
・雇用開始予定日とスケジュール
提出先は事業所を管轄する都道府県労働局またはハローワークで、計画期間は最長18か月。
この期間内にすべての整備・設置を完了し、雇用を開始しなければなりません。
ポイント
・計画提出前に労働局との事前相談が強く推奨
・18か月を超えた整備・設置は助成対象外
・提出は「整備前」でなければならず、着工後では不可
実地調査の実施・完了届・支給申請までのスケジュール
計画通りに設置・整備が完了したら、以下のステップに移ります。
1.設置・整備の完了後、完了届を提出
2.労働局またはハローワークによる実地調査(現地確認)を受ける
3.実際に雇用した労働者の雇用証明・出勤記録などを揃え、支給申請
初回の支給申請は、整備・雇用完了後に所定の申請様式に基づいて提出します。
支給申請は毎年度1回のみ可能なため、スケジュール管理が極めて重要です。
注意点
・雇用後すぐに申請はできず、一定期間の就労継続実績が必要
・支給申請の期限は原則、整備完了後2か月以内が目安(地域により異なる)
・誤った期日の計算で申請不可となるケースもあるため、必ずガイドラインを確認
書類の要件(設置整備・設備費の明細・労働者雇用の証明等)と注意すべき落とし穴
地域雇用開発助成金の申請には、書類の正確性と証明性が極めて重要です。
主な提出書類は以下の通りです。
・設置・整備に関する工事契約書、設計図、請求書
・購入した設備の明細書・領収書
・雇用契約書、雇用保険被保険者資格取得届
・出勤簿、給与台帳、就業規則(該当する場合)
よくある落とし穴
・工事請負契約書と請求書の日付が不一致
・領収書が紛失または宛名が事業主名でない
・雇用開始日が計画書とずれている
・労働者が計画と異なる雇用形態での採用となっている
また、書類の原本提示が求められることがあり、電子データのみでは不十分な場合も。
書類保存期間や提出時の様式指定にも十分注意する必要があります。
計画性と書類の精度が助成金申請成功のカギ
地域雇用開発助成金を活用するには、ただ設備投資や採用を行うだけでは不十分です。
申請の各ステップごとに明確なルールがあり、書類の整合性・計画通りの実施・雇用の実績が厳格に審査されます。
特に、「計画提出前に着工してしまった」「書類の不備で不支給となった」といった失敗例も少なくありません。
助成金の活用を本気で考えるなら、事前準備・書類管理・スケジュール把握の3点が極めて重要です。
不明点は早めに労働局へ相談し、慎重かつ戦略的に申請を進めましょう。
地域雇用開発助成金を“経営戦略”として活かす視点

助成金は「一時的な経費補填」として見られがちですが、地域雇用開発助成金は中長期的な経営戦略と密接に結びつけて活用すべき制度です。
とくに、対象地域での新規事業所設置や雇用創出を伴う場合、その事業自体が地域との接点を持ち、企業ブランドや採用力の強化につながる可能性があります。
このセクションでは、単なる“補助金活用”ではなく、地域密着型の事業展開やブランディング戦略として地域雇用開発助成金をどのように活かせるかについて考察します。
単なる補助金活用ではなく、地域密着型ビジネスの基盤づくりへ
地域雇用開発助成金の大きな特徴は、過疎地・離島・被災地域など特定のエリアに限定して設けられている点にあります。
これらの地域では人材不足や地域経済の疲弊が問題となっており、企業が新たに進出することで、雇用創出だけでなく地域経済への波及効果が期待されます。
このような環境で事業所を新設し、人を雇うということは、単なる助成金目当てではなく、地域との共生を前提とした事業展開を求められるということでもあります。
企業にとってもこれは大きなチャンスです。
・地元の人材を採用することで、定着率や企業理解が高まる
・自治体や商工会議所との連携によって地域ネットワークが構築できる
・「地域とともに歩む企業」という社会的信用・ブランド力が醸成される
これらは短期的な支給金額よりもはるかに大きな中長期的リターンを生む可能性を秘めています。
さらに、地方創生やサテライトオフィス構想など、国の政策ともリンクさせることで、次なる制度活用やPR戦略にもつなげやすくなります。
助成金は“経費削減”ではなく“経営資源”として使う
地域雇用開発助成金を経営視点で活用するには、「どの地域で、誰を雇い、何を育てるか」まで設計する発想が求められます。
ただ支給を受けるだけではなく、その地域に根ざした事業基盤を築くことで、助成金の効果は数倍にも高まります。
短期的なコストメリットに目を奪われず、地域と共に成長するビジョンを描き、経営戦略として制度を活かす。
それこそが、企業にとって真の“活用”と言えるのではないでしょうか。
地域雇用開発助成金の制度を正しく理解し、自社の成長と地域貢献を両立させよう

地域雇用開発助成金は、地方で新たに事業所を開設し、地域住民の雇用を創出する企業にとって大きな追い風となる制度です。
補助の対象となる地域は限定されますが、その分、助成の金額も手厚く、要件を正しく満たせば複数年にわたって支給される可能性があります。
事業主としての条件や雇用する労働者の要件、設置費用の基準など、一見するとハードルが高く感じられるかもしれません。
しかし、制度の全体像を把握し、自社の展開計画と照らし合わせて整理することで、実は対象になるケースも少なくありません。
また、単なる経費補助としてだけでなく、地域に根ざした持続可能なビジネスモデルの構築や、採用ブランディングの一環として捉えることで、経営的なメリットも広がります。
地方での事業展開や雇用拡大を検討している企業にとって、この助成金制度は非常に有効な選択肢です。
ぜひ前向きに活用を検討し、地域と企業の双方にとって価値ある取り組みへとつなげていきましょう。