事業の転換や拡大にあたり、補助金制度を活用したいと考える企業にとって、「新事業進出補助金」と「事業再構築補助金」は有力な選択肢です。
しかし、制度の名称が似ているため、
「結局どちらを選べばいいの?」
「うちの事業はどっちに当てはまる?」
と迷う方も少なくありません。
両者は一見似ているようでいて、支援の目的や補助対象、申請要件などに明確な違いがあります。
この記事では、それぞれの補助金の基本的な特徴から、制度の違い、申請時の注意点までをわかりやすく解説します。
読み終えるころには、自社に最も適した補助金はどちらなのかを判断し、スムーズに申請準備へ進めるための視点が得られるはずです。
新事業進出補助金と事業再構築補助金の基本概要

「新事業を立ち上げたい」「既存の事業を大きく転換したい」
こうした目的で活用される2大補助金が、「新事業進出補助金」と「事業再構築補助金」です。
どちらも国が支援する制度ですが、それぞれ支援の背景や目的が異なります。
まずは基本的な位置づけや共通点、確認すべきポイントを押さえ、自社の目的に合った制度選びの第一歩を踏み出しましょう。
新事業進出補助金とは
新事業進出補助金は、中小企業が既存事業の成長や拡大を目的に、新しい分野へ進出する際に活用できる制度です。
たとえば、「飲食業が冷凍食品の製造・販売を始める」「製造業がオンラインサービス事業を立ち上げる」といった“新分野展開”に活用できます。
主に以下のような経費が補助対象となります。
- 新規設備の購入費
- 商品開発・サービス開発費
- 広告宣伝・集客費
- 外注費や専門家への報酬など
目的は「事業の成長加速」であり、経営資源を活用しながら新しい挑戦を後押しする仕組みです。
新事業進出補助金についての詳しい記事はこちら
☞あなたの事業も対象かも?新事業進出補助金の条件と使い方のコツ
事業再構築補助金とは
事業再構築補助金は、市場環境の変化などに対応し、事業モデルを大きく変える企業を支援する制度です。
新型コロナ以降の経済変化を背景に創設され、売上減少や業態転換など、「再構築」がキーワードとなっています。
活用例としては、
・飲食店がテイクアウトやデリバリー専用の新業態に移行
・対面型事業がオンライン展開を進める
・BtoB業からBtoC業への転換
といった「構造的なビジネスモデルの変革」が対象です。
従来の事業が厳しい企業が、新たな柱を築くための補助金といえます。
新事業進出補助金についての詳しい記事はこちら
☞事業再構築補助金とは何かを5分で理解!はじめての人向け簡単ガイド
補助金制度の共通点
両制度には、いくつかの共通点もあります。
・国の中小企業支援策として設計されている
・補助対象となる経費の種類が似ている(設備・広告・開発など)
・「jGrants」などの電子申請システムを使用
・採択後には事業実施・報告義務あり
また、いずれも審査を通過するためには、具体的かつ説得力のある事業計画書の作成が重要です。
どちらの制度も、“補助金ありき”ではなく、「社会にどんな価値を提供するか」が問われます。
申請で確認すべきポイント
申請を検討する際には、次のような項目を事前に確認しておきましょう。
・自社の事業は「再構築」か「進出」か?
・売上要件や申請条件に該当しているか?
・補助上限額や補助率の違いを把握しているか?
・直近の公募要項・スケジュールを確認しているか?
また、どちらの制度も年度ごとに内容や要件が一部変更されることがあるため、最新の情報を必ずチェックすることが大切です。
・新事業進出補助金は「成長・拡大」に向けた新たな挑戦を支援
・事業再構築補助金は「業態転換・再起」を後押しする構造変革型の制度
・補助対象経費や申請方法に共通点が多い一方、目的・要件には明確な違いがある
・自社の事業フェーズ・目的を明確にしたうえで、どちらの制度が適しているか判断することが成功の鍵です
新事業進出補助金と事業再構築補助金、何がどう違う?

補助金制度を活用したいと思っても、「制度の目的や対象が似ていて区別がつきにくい」と感じる方は少なくありません。
しかし、新事業進出補助金と事業再構築補助金は、その支援の方向性や対象となる企業・事業が明確に異なります。
このセクションでは、5つの視点から両制度を比較し、自社に適した補助金の選択をサポートします。
支援対象の違い – 転換か、拡大か
最大の違いは、「どんな企業を支援するのか」という制度の方向性です。
・新事業進出補助金は、既存事業が堅調な企業が「新しい収益源を作りたい」ときに使える制度。つまり事業の“拡大・多角化”が前提です。
・事業再構築補助金は、売上減少などで事業継続に課題を抱える企業が、事業を“転換・再構築”して再起を図るための制度です。
そのため、企業の置かれている状況が補助金の選択に直結します。
補助対象経費の範囲と使い方の差
両制度とも設備投資や広告費、人件費などが補助対象になりますが、使える経費の柔軟性や重視される項目には差があります。
・新事業進出補助金では、新製品・新サービスの開発や設備導入、販路開拓に必要な経費が対象。
・事業再構築補助金では、既存事業の解体・縮小と新たな構造への移行にかかる経費(建物改修・機械撤去等)まで幅広く支援される傾向にあります。
再構築補助金のほうが「大がかりな業態転換」まで想定されており、その分、対象経費も広く設定されています。
申請要件と審査基準の違いに注意
申請するには、それぞれ特有の条件があります。
・新事業進出補助金では、売上減少などの要件はなく、革新性や市場性のある新規事業であることが審査のポイントになります。
・一方、事業再構築補助金では「売上が一定割合減少していること」や「認定支援機関との連携」が条件となっており、厳格な審査基準に基づいて評価されます。
どちらも事業計画の質が問われますが、再構築補助金の方が、経済的な打撃への対応策であることが重視されます。
補助金額・補助率はどちらが有利?
一概には言えませんが、事業再構築補助金の方が補助額・補助率ともに高めに設定されているケースが多いです。
・新事業進出補助金 – 補助上限額は数百万円〜1,000万円程度、補助率は2/3が一般的
・事業再構築補助金 – 補助上限額は数千万円〜最大1億円超、補助率も条件により2/3以上になることも
ただし、補助額が大きい分、提出書類や事後管理のハードルも高くなるため、規模だけで選ぶのは危険です。
それぞれの補助金が向いている事業とは
目的や事業フェーズによって、適した補助金は異なります。
・新事業進出補助金が向いているケース
→ 現在の事業が安定しており、新しいサービスや商品を立ち上げたい
→ 市場開拓や新たな販売チャネルを整備したい
→ 経営資源を活かして多角化を進めたい
・事業再構築補助金が向いているケース
→ コロナや物価高騰などで売上が落ち込み、現事業の継続が難しい
→ 大幅な業態転換や構造改革を考えている
→ 雇用維持や地域経済への波及を意識している
このように、「前向きな拡大」か「生き残りをかけた再構築」かが判断基準の分かれ目です。
あなたの会社は今、「新たな可能性に投資する時期」ですか? それとも「大きな転換が必要な局面」にありますか?
どちらの補助金も強力な支援策ではありますが、目的や状況に合わなければ、かえって時間と労力を無駄にしてしまうこともあります。
今一度、自社の現状とビジョンを見直し、補助金を“取りに行く”のではなく、“事業を実現する手段”として選ぶ視点を持つことが大切です。
申請プロセスのステップとポイント

補助金を活用するうえで、「制度を理解すること」と同じくらい重要なのが申請の進め方です。
制度ごとに申請手順は多少異なるものの、基本的な流れや注意点は共通しています。
このセクションでは、申請前の準備から採択後の対応までの流れをステップごとに整理し、初めての方でもスムーズに進められるように、重要なポイントを解説します。
事前準備として必要なこと
申請の前段階で最も重要なのが「社内体制の整備と情報収集」です。
準備不足で申請に間に合わないケースは非常に多く見られます。
主に以下のことを事前に行いましょう。
・最新の公募要領・スケジュールの確認(年度ごとに変更される)
・jGrantsやGビズIDの取得・アカウント設定(電子申請に必須)
・社内の経理・事業部門との連携体制の構築
・必要となる資料や見積書の手配
早めの準備が、計画性や信頼性のある申請へとつながります。
提出書類の作成方法
補助金の申請では、書類の質が採択の可否を左右します。
形式的にそろえるのではなく、「審査の視点を意識した記載」が重要です。
代表的な書類と注意点は以下の通りです。
・事業計画書 – 背景・課題・目的・手段・成果までを一貫して説明
・収支予測書 – 補助事業期間中の売上・コスト・利益見通しを具体的に
・企業概要書 – 過去の実績や保有リソースを整理し、信頼性をアピール
・見積書・契約書 – 経費の妥当性や計画の信憑性を示す根拠資料
分かりやすい構成、図表の活用、第三者が読んでも納得できる論理展開がポイントです。
審査までの流れ
提出後の一般的な流れは次の通りです。
1.書類提出(電子申請)
2.事務局での形式審査
3.審査員による内容審査(評価ポイントに沿って採点)
4.採択結果の発表(Webで公表)
5.採択通知の送付
審査期間は通常1〜2か月ほど。申請の質が高ければ高いほど、審査もスムーズに進みます。
よくある申請トラブルとその防止策
補助金申請には思わぬ落とし穴も存在します。以下は特によくあるトラブルです:
・GビズIDの取得が間に合わない
・提出書類の不備・記入漏れ
・見積書の有効期限切れ
・申請内容と実際の活動が食い違っている
・締切間際の申請でシステムエラーに遭遇
防止策としては、チェックリストの活用と、最低でも締切の1週間前までの提出を目指すことが有効です。
申請後の流れとフォローアップ
採択された後も、補助金事業には多くのフォローが求められます。
・交付申請と交付決定通知の受領
・補助事業の実施と進捗管理
・定期的な報告書類の提出(中間報告・完了報告)
・補助金の支払い(精算払い or 前払い)
・監査・検査対応の準備
採択後の流れを事前に把握しておくことで、申請前に計画を現実的に組み立てることが可能になります。
・申請成功のカギは、早めの準備と正確な情報収集
・書類作成では、審査基準に沿った明快な構成と数字の裏付けが必須
・トラブルを防ぐには、時間的余裕と複数人によるチェック体制の構築が効果的
・採択後も手続きは続くため、申請前から全体の流れを把握しておくことが重要
ケーススタディから学ぶ成功例と失敗例

制度の概要や申請方法を理解しても、「実際にどう活用されたのか?」が見えなければ、自社に落とし込むのは難しいもの。
そこで本セクションでは、新事業進出補助金と事業再構築補助金の活用事例をもとに、成功パターンと失敗パターンの違いを整理します。
他社の事例から得られるヒントは多く、自社の方向性を明確にする重要な材料となります。
成功した企業の事例
補助金活用が事業成長の転機になった成功例として、地方の金属加工業の事例があります。
この企業は、コロナ禍で受注が激減し将来の不安を抱えていた中、事業再構築補助金を活用し、自社工場の設備を刷新。従来のBtoB中心のOEM製造から、オリジナル製品の開発・販売に乗り出しました。
具体的には、補助金でレーザー加工機を導入し、オーダーメイドの金属インテリア雑貨の開発に着手。
地域のクラフトイベントやECサイトでの直販を強化した結果、売上構成比の中で新事業が1年で全体の30%以上を占めるまでに成長しました。
この成功は、単に資金を得られたことよりも、自社の強みと時流を捉えた事業転換ができたことが大きな要因です。
また、補助金ありきではなく、「将来の主力事業を育てる手段」として計画を構築した点も評価されました。
失敗した企業の事例
一方で、申請はしたものの残念ながら採択に至らなかった事例もあります。
都市部の中小飲食店が、新事業進出補助金で「オリジナル冷凍食品の製造販売」を計画したものの、不採択となったケースです。
この企業は、既存店舗の売上を補う目的で新事業を構想しましたが、計画書の内容に市場調査や差別化戦略の裏付けがなく、製品のニーズや収益見込みが曖昧でした。
また、補助金を使うことで「どう変わるのか」という変化の具体像が見えづらかったため、審査で十分な説得力を持たなかったと考えられます。
さらに、提出直前に見積書の不足や整合性のない記載が判明し、計画の整合性と準備不足が疑われたことも要因の一つでした。
このような失敗事例は、ただの「準備ミス」ではなく、計画の浅さや“補助金を取ること”が目的化していたことの表れであり、採択の壁の厳しさを物語っています。
成功するための戦略
事例から見えてくる、成功に必要な戦略は以下の通りです。
・ニーズと自社の強みを明確に定義した事業計画
・補助金ありきではなく、自立的な成長を見据えた構想
・経営層だけでなく、現場・経理・外部支援者を巻き込んだ体制
・補助対象経費の使い方にメリハリを持たせること
特に「自社だからこそ実現できる価値」を伝える視点が、審査では高く評価されます。
業界別実績とトレンド
近年、採択されやすい傾向のある業界・テーマには以下のようなものがあります。
・DX化・デジタルシフトを含むIT関連投資(製造、卸売、小売など)
・脱炭素・エコ対応の設備更新(建設・製造業)
・地域資源活用・観光振興などの地方創生型プロジェクト
・女性活躍・高齢者支援といった社会課題解決型の事業
補助金の審査は社会的トレンドを反映するため、国の政策方針を押さえておくことが成功率アップの鍵となります。
専門家のアドバイス
中小企業診断士や補助金コンサルタントの多くが口をそろえるアドバイスは、「補助金を取るための事業ではなく、事業のために補助金を使うこと」。
加えて、
・採択後の実行フェーズも見据えたリアリティある計画
・専門家との早期相談による申請の質向上
・他社事例との比較で客観視する姿勢
が、結果として採択率を高め、補助金活用が“事業成長の起爆剤”になる可能性を広げます。
「補助金って、うちには関係ないと思ってた」。
そう語ったある経営者が、制度を知り、挑戦し、補助金を活用して新たな柱を築いた——それが現実に起きています。
成功も失敗も、スタートは「知ること」から。
この記事で紹介した事例やポイントを、自社に照らし合わせてみてください。
あなたの事業にも、きっと新しい可能性が広がっています。
補助金選びが、次の事業の未来を左右する

企業にとって、補助金は単なる“お金の支援”ではなく、事業成長のきっかけとなる重要な選択肢です。
「新たな柱を育てたい」のか、「既存のビジネスを根本から再構築したい」のか。
どちらの補助金が自社にフィットするかを正しく見極めることで、申請の成功確率だけでなく、その後の経営判断にも自信が持てるようになります。
制度は年々アップデートされており、要件や審査基準も変化しています。
今の事業に合った制度をタイミングよく活用することが、未来の成長を決めるカギになるでしょう。
補助金を「取るため」の手段ではなく、「未来のため」に使うという視点で、ぜひ制度を活かしてください。
次の一歩を、チャンスにつなげていきましょう。