2026年07月16日 更新

採用コストはどこまでかけるべきか|採用単価ではなく「投資回収期間」で判断する方法

求人広告や人材紹介にかかる費用が上昇すると、「採用単価を下げなければならない」と考えがちです。しかし、採用単価が安いことと、採用によって会社の利益が増えることは同じではありません。

50万円で採用した人材が早期に退職する一方、150万円をかけて採用した人材が数年間にわたって利益に貢献するなら、経営上の合理性が高いのは後者です。

採用予算を判断するときは、1人を採用するまでにかかった金額だけでなく、「採用した人材が、何か月で投資額を回収するのか」を確認する必要があります。

1.採用単価が安くても、採用が成功したとは限らない

一般的な採用単価は、求人広告費や人材紹介手数料などの採用費を、採用人数で割って算出します。

採用単価=採用活動に使った費用÷採用人数

計算しやすく、採用経路を比較する指標としては有効です。しかし、採用後の教育費や社内担当者の工数、戦力化するまでの期間、早期離職による再採用費用までは反映されません。

特に新卒採用では、採用した時点で成果を判断するのは危険です。厚生労働省が2025年10月に公表した「新規学卒就職者の離職状況」によると、2022年3月卒の新規大学卒就職者のうち、就職後3年以内に離職した割合は33.8%でした。採用人数だけでなく、入社後の定着まで含めて成果を評価する必要があります。

採用活動の成果は「何人採用したか」ではなく、必要な人材が入社し、定着し、期待した役割を担える状態になったかで判断すべきです。

2.採用コストは「採用投資総額」で計算する

経営判断に使用する採用コストには、求人媒体や人材紹介会社へ支払った金額だけでなく、採用から戦力化までに発生する費用を含めます。

費用区分含める費用
外部採用費求人広告費、人材紹介手数料、採用サイト、説明会、適性検査
社内採用費採用担当者、面接官、経営者が採用活動に使った時間
入社準備費PC、制服、備品、アカウント発行、入社手続き
教育・受入費研修費、教育担当者の工数、同行やOJTにかかる時間
欠員による損失受注できなかった案件、残業増加、外注費、納期遅延

例えば、人材紹介会社へ100万円を支払ったとしても、それだけが採用コストではありません。面接や選考に20万円相当の社内工数が発生し、入社後の研修と教育に30万円かかったなら、採用投資総額は150万円です。

採用予算を検討するときは、この150万円を基準に投資回収を考えます。

3.採用投資の回収期間を計算する

採用投資の回収期間は、採用した人材が生み出す利益から、給与や社会保険料などの継続的な人件費を差し引いて計算します。

月次純貢献額=採用者が生み出す限界利益-給与・法定福利費・業務経費

採用投資回収期間=採用投資総額÷月次純貢献額

ただし、入社直後から一定の成果を生むとは限りません。実際には、月ごとの貢献額を積み上げ、累計額が採用投資総額を上回る時期を確認します。

採用投資150万円の計算例

期間月次純貢献額期間終了時点の累積状況
入社時採用・教育費150万円-150万円
1~3か月目毎月-10万円-180万円
4~6か月目毎月+15万円-135万円
7か月目以降毎月+30万円約12か月目に回収

この例では、採用時に150万円を支出し、研修期間中の負担も含めると、回収まで約12か月かかります。

仮に10か月目で退職した場合、採用投資を回収できない可能性があります。そのため、採用予算の妥当性を判断するときは、回収期間と想定勤続期間をセットで確認しなければなりません。

4.売上を直接生まない職種の効果をどう測るか

営業職やコンサルタントなどは、売上や粗利から貢献額を計算できます。

一方、経理、人事、総務、エンジニアなどは、個人の売上だけで評価できません。

この場合は、その人材を採用したことで回避・削減できた費用を金額に置き換えます。

例えば、経理担当者の採用によって月30万円の外注費を削減できた、管理職の残業を月20万円分減らせた、請求業務の遅れを解消して入金を早められた場合、それらが採用による経済効果です。

売上を直接生まない職種でも、次の変化は測定できます。

採用による変化金額への換算方法
外注業務の内製化削減できた外注費
残業時間の減少削減された残業代と管理職工数
納期遅延の減少失注や違約金などの回避額
管理職の負担軽減本来業務へ戻せた時間の価値
品質・生産性の改善手戻り、返品、再作業の削減額

重要なのは、すべてを無理に売上へ結び付けることではありません。採用前に「この人材を採ることで、どの経営課題を、いくら改善したいのか」を決めておくことです。

5.採用予算を増やしてよい会社、見直すべき会社

人材紹介手数料が高いという理由だけで、その採用経路を止める必要はありません。

欠員によって毎月100万円の利益機会を失っているなら、150万円の紹介手数料を支払ってでも、早期に採用したほうが合理的な場合があります。反対に、採用を急ぐ理由が明確でなく、入社後に任せる仕事も決まっていない状態では、採用費を増やしても回収できません。

採用予算を増やせるのは、採用する職種の役割、戦力化までの期間、期待する利益または費用削減効果、受け入れ担当者が明確になっている会社です。

一方、採用後の配属が決まっていない、同じ理由で早期離職が続いている、採用経路別の定着率を確認していない会社は、予算を増やす前に採用設計を見直す必要があります。

6.採用費を増やす前に、定着できる組織かを確認する

採用費を増額して応募者を集めても、入社後に人材が定着しなければ投資は回収できません。

「2025年版中小企業白書」では、人材が不足していない事業者は、直近3年間に採用した従業員の定着率が「7割以上」である割合が高い一方、人材が不足している事業者では「3割未満」の割合が高いことが示されています。

人材不足への対応では、採用数を増やすだけでなく、採用した人材の定着率を高める取組が重要です。

厚生労働省も、採用と定着を向上させるには、評価・処遇、配置、人材育成、業務管理、福利厚生などを含む「魅力ある職場づくり」が重要だとしています。

採用広告の表現だけを改善しても、実際の職場環境に問題があれば定着にはつながりません。詳しい考え方は、厚生労働省の「人材確保対策」で確認できます。

また、経済産業省の「人材版伊藤レポート2.0」では、経営戦略と人材戦略を連動させる必要性が示されています。

採用予算も「去年と同額」「1人当たり○万円」と決めるのではなく、事業計画上必要な人材と期待する成果から逆算することが重要です。

まとめ|採用単価ではなく、回収できる採用かを判断する

採用単価は採用活動の効率を比較するには便利ですが、それだけでは採用投資の成否を判断できません。

採用費、社内工数、教育費、戦力化までの負担を合算し、採用した人材が生み出す利益や費用削減効果によって、何か月で回収できるかを確認する必要があります。

採用予算を増やすべきか迷ったときは、「紹介手数料が高いか」「広告費が高いか」ではなく、次の問いに置き換えてください。

この人材を採用するための総投資額はいくらで、採用後何か月で回収できるのか。

この問いに数字で答えられるようになれば、採用費を単なるコストではなく、事業を成長させるための投資として管理できるようになります。

※本記事内の回収計算は考え方を示すための一例です。実際の予算判断では、自社の粗利益率、人件費、戦力化期間、定着率、採用する職種の役割に合わせて試算してください。

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