職場環境を改善するために設備を導入したいものの、「利用できる助成金はないか」と考えている中小企業や小規模事業者も多いでしょう。
「職場改善助成金」と検索される制度のなかで、現在確認しておきたいのが厚生労働省の「業務改善助成金」です。
業務改善助成金は、事業場内で最も低い賃金を一定額以上引き上げるとともに、生産性向上につながる設備投資などを行った中小企業・小規模事業者を支援する制度です。2026年度は、50円・70円・90円の3コースが設けられており、条件によって最大600万円の助成を受けられます。
ただし、職場で使う設備なら何でも対象になるわけではありません。
設備やシステムの導入によって、作業時間の短縮や業務効率化などの生産性向上につながることが必要です。また、2026年度は対象経費や申請条件にも変更があります。
この記事では、職場改善に活用できる業務改善助成金について、対象事業者、助成上限額、助成率、対象経費、申請の流れ、注意点まで解説します。
職場改善助成金とは「業務改善助成金」を指すことが多い

職場改善に関する助成制度を探している場合、まず確認したいのが業務改善助成金です。
業務改善助成金は、単純に職場を快適にするための費用を助成する制度ではありません。
「賃金引上げ」と「生産性向上につながる設備投資等」をセットで行うことが基本となります。
そのため、
- 最低賃金を引き上げたい
- 作業時間を短縮したい
- 人手不足を設備で補いたい
- 業務を自動化・効率化したい
といった企業に適した制度です。
業務改善助成金は賃上げと設備投資を支援する制度
業務改善助成金では、事業場内最低賃金を引き上げ、その賃上げとあわせて生産性向上に資する設備投資などを行います。
「事業場内最低賃金」とは、その事業場で働いている労働者のうち、最も低い時間当たり賃金のことです。
たとえば、複数の従業員が働く店舗で、最も低い時給が1,100円であれば、原則としてその1,100円が事業場内最低賃金となります。
業務改善助成金では、この最低賃金を一定額以上引き上げたうえで、生産性向上につながる設備などを導入します。
単なる賃上げだけでは対象になりません。
一方、設備を購入するだけでも対象にはなりません。
賃金引上げと業務改善の両方を計画的に実施することが制度の基本です。
2026年度は50円・70円・90円の3コース
2026年度の業務改善助成金では、事業場内最低賃金の引上げ額に応じて、
- 50円コース
- 70円コース
- 90円コース
の3コースが設けられています。
2025年度以前とはコース構成が異なるため、古い情報を参考にすると30円・45円・60円などのコースが表示される場合があります。
2026年度に申請する場合は、現在の3コースを基準に確認しましょう。
コースは単に高い金額を選べばよいわけではありません。
実際に何円賃上げできるのか、何人の労働者が対象になるのか、導入する設備にいくら必要なのかを踏まえて選択する必要があります。
職場改善助成金の対象となる事業者

業務改善助成金は、すべての企業が利用できる制度ではありません。
基本的には中小企業・小規模事業者が対象です。
また、従業員を雇用していることや、対象となる労働者の賃金を引き上げることなども必要になります。
中小企業・小規模事業者が対象
業務改善助成金は、中小企業・小規模事業者を対象とした制度です。
対象となる企業規模は、業種ごとに資本金や常時使用する従業員数などの基準が定められています。
制度を利用するときは、自社が中小企業者の範囲に含まれるか確認しましょう。
また、申請は企業全体ではなく、原則として事業場単位で考えます。
複数店舗や複数拠点を運営している企業では、それぞれの事業場における最低賃金や設備投資の内容を確認することが重要です。
賃上げ対象者は雇用保険被保険者などの条件を満たす必要がある
2026年度は、賃金引上げの対象となる労働者について、雇用保険被保険者であることが条件として追加されています。
そのため、「最低賃金付近で働く従業員であれば誰でも人数に含められる」とは限りません。
助成上限額は、賃上げを行う労働者数によって変わります。
申請前に、
- 誰を賃上げ対象者とするか
- 雇用保険の加入状況
- 現在の時間当たり賃金
- 引上げ後の賃金
を確認しておきましょう。
賃上げ対象者の人数を誤ると、想定していた助成上限額と実際の申請可能額が変わることがあります。
従業員がいない事業者は対象にならない
業務改善助成金は、従業員の賃金引上げを支援する制度です。
そのため、労働者を雇用していない事業者は対象になりません。厚生労働省も、労働者がいない場合は助成対象外であることを明記しています。
法人や個人事業主であるかどうかだけで判断する制度ではありません。
個人事業主でも対象要件を満たす従業員を雇用していれば申請できる可能性があります。
一方、代表者だけで事業を行っている場合は、賃上げする対象労働者がいないため利用できません。
職場改善助成金の助成上限額と助成率

業務改善助成金でもらえる金額は、一律ではありません。
主に、
- 事業場内最低賃金の引上げ額
- 賃上げを行う労働者数
- 事業場の規模
- 助成対象となる経費
によって変わります。
2026年度の助成上限額は30万円から最大600万円です。
助成上限額は賃上げ額と対象労働者数で決まる
2026年度の各コースにおける助成上限額の範囲は、次のとおりです。
| コース | 事業場内最低賃金の引上げ額 | 助成上限額 |
| 50円コース | 50円以上 | 30万円~130万円 |
| 70円コース | 70円以上 | 40万円~300万円 |
| 90円コース | 90円以上 | 90万円~600万円 |
実際の上限額は、賃上げを行う労働者数によって細かく変わります。
たとえば、1人だけを引き上げる場合と、複数の従業員を一斉に引き上げる場合では助成上限額が異なります。
そのため、導入したい設備の価格だけを先に決めるのではなく、
「何人を何円引き上げるのか」
を先に整理することが重要です。
最大600万円まで助成される
2026年度の最大助成上限額は600万円です。
これは90円コースで、一定の条件を満たした特例事業者が10人以上の労働者の賃金を引き上げる場合などに適用される上限です。
つまり、すべての企業が600万円を受給できるわけではありません。
「最大600万円」という数字だけを見て設備投資額を決めるのは避けましょう。
実際には、
賃上げコース
↓
対象労働者数
↓
助成上限額
↓
対象経費×助成率
という順番で助成額を確認します。
助成対象経費が上限額に届かなければ、当然ながら上限いっぱいまで支給されるわけではありません。
助成率は事業場内最低賃金によって異なる
2026年度の助成率は、引上げ前の事業場内最低賃金によって変わります。
| 引上げ前の事業場内最低賃金 | 助成率 |
| 1,050円未満 | 4/5 |
| 1,050円以上 | 3/4 |
2026年度は、助成率の基準も見直されています。
たとえば、助成対象経費が100万円で助成率4/5が適用される場合、80万円が計算上の助成額となります。
ただし、該当するコース・労働者数の助成上限額が80万円より低ければ、実際の助成額はその上限までです。
「経費×助成率」と「助成上限額」の両方を確認しましょう。
職場改善助成金の対象経費

業務改善助成金では、生産性向上や労働能率の増進につながる設備投資等が助成対象です。
単純に新しい設備へ買い替えるだけではなく、その設備によって業務がどのように改善するかを説明できる必要があります。
たとえば、
「作業時間を短縮できる」
「手作業を自動化できる」
「入力作業を削減できる」
「従業員の作業負担を軽減できる」
といった効果が重要です。
生産性向上につながる機械・設備が対象
代表的な対象経費は、業務効率化や省力化につながる機械・設備です。
たとえば、業種によって以下のような導入が考えられます。
| 業種 | 導入例 | 主な改善効果 |
| 飲食・小売 | POSレジ・自動釣銭機 | 会計時間の短縮 |
| 製造 | 加工設備・搬送設備 | 作業時間や人員負担の削減 |
| 物流 | 搬送機器 | 荷役作業の効率化 |
| サービス | 顧客管理システム | 入力・管理作業の削減 |
厚生労働省でも、POSレジシステムによる在庫管理の効率化などが活用例として示されています。
重要なのは、「新しいから便利」という説明ではありません。
現在の作業工程と比べて、何分・何時間削減できるのかなど、具体的な生産性向上効果を説明できることが大切です。
ITシステムや業務管理ツールも対象になる場合がある
業務改善助成金は、機械だけを対象とする制度ではありません。
生産性向上につながるものであれば、顧客管理情報のシステム化などが助成対象となる場合があります。
たとえば、
- 顧客情報を紙からシステム管理へ移行する
- 在庫管理を自動化する
- POSシステムで販売情報を一元管理する
といったケースです。
ただし、単にパソコンや一般的なソフトを購入するだけでは対象になるとは限りません。
事業場の業務改善と直接関係し、生産性向上につながることを示す必要があります。
また、パソコンやスマートフォン、タブレットなどの汎用端末については、2026年度も原則として通常の対象経費とは異なる扱いです。
一定の物価高騰等要件を満たす特例事業者については、新規導入費用が対象となる場合があります。
2026年度は教育訓練費など一部経費が対象外
2026年度は対象経費についても変更があります。
人材育成・教育訓練費は助成対象外となりました。
さらに、
- 動線確保に伴うレイアウト変更
- 通常の事業活動に伴う清掃用品
- 広告宣伝費
- 建築物構築に関する経費
- 再生可能エネルギーに関する一部経費
なども対象外となっています。
過去年度には対象だった経費が、2026年度には使えないケースがあります。
そのため、「以前に同じ助成金で認められた」という理由だけで判断するのは危険です。
設備を契約・発注する前に、2026年度の交付要領や対象経費区分を確認しましょう。
職場改善助成金の特例事業者

業務改善助成金には、一定の条件を満たす「特例事業者」という区分があります。
特例事業者になると、一部の助成上限額や助成対象経費について通常より有利な扱いを受けられる場合があります。
ただし、「中小企業だから特例になる」というものではありません。
申請時点で自社が条件に該当するかを確認する必要があります。
特例事業者は助成上限額が拡大する場合がある
2026年度の助成上限額表では、10人以上の労働者を賃上げする区分は特例事業者が対象です。
そのため、多くの従業員を一斉に賃上げし、高額な設備投資を行う企業では、特例事業者に該当するかが助成上限額に影響します。
90円コースで10人以上の対象労働者を賃上げする場合には、最大600万円の上限が設定されています。
一方、特例要件に該当しなければ利用できない上限区分もあります。
申請額を試算するときは、通常区分と特例区分を混同しないようにしましょう。
物価高騰等要件を満たすと対象経費が拡大する
特例事業者のうち物価高騰等要件を満たす場合には、一部の助成対象経費が拡大されます。
2026年度では、パソコン、スマートフォン、タブレットなどの端末や周辺機器の新規導入が対象になる場合があります。
一方、過去年度に特例対象となっていた一部の自動車については、2026年度から対象外となっています。福祉車両などの特殊用途自動車は別扱いです。
制度改正によって対象範囲が変わっているため、特例事業者の場合も最新情報の確認が欠かせません。
特に高額な設備を導入する場合は、交付申請前に対象性を確認しておくと安心です。
職場改善助成金の申請から支給までの流れ

業務改善助成金では、申請・交付決定・設備投資・賃上げの順番が重要です。
順序を間違えると、本来対象となる設備や賃上げでも助成を受けられなくなる可能性があります。
基本的な流れは以下のとおりです。
- 賃金引上げと設備投資の計画を立てる
- 交付申請を行う
- 交付決定を受ける
- 設備を発注・導入する
- 計画した賃上げを実施する
- 事業実績報告と支給申請を行う
- 審査後に助成金が支給される
申請した直後に設備を発注できるわけではありません。
交付決定まで一定の審査期間があることも想定して計画しましょう。
賃金引上げと設備投資の計画を立てて交付申請する
まず、事業場内最低賃金を何円引き上げるのかを決めます。
あわせて、生産性向上につながる設備投資等の計画を作成します。
設備を選定するときは、
- 現在の業務上の課題
- 導入する設備
- 導入後の改善効果
- 導入費用
- 納期
まで確認しておきましょう。
見積書などの書類も必要になるため、設備販売事業者への確認も早めに行う必要があります。
2026年度は申請から交付決定まで一定期間を要する場合があります。労働局の案内では、審査に3か月程度かかるケースも示されています。
事業完了期限から逆算し、短期間で納品・支払いまで完了できる設備を選ぶことも重要です。
交付決定後に設備投資と賃上げを実施する
業務改善助成金では、交付決定前の設備発注・契約・納品などは避ける必要があります。
厚生労働省も、交付決定前の設備投資は対象外と明記しています。
また、2026年度では賃上げにも実施時期のルールがあります。
賃金引上げは申請後から地域別最低賃金発効日の前日までに行う必要があり、賃上げ後に交付申請することはできません。
したがって、
交付申請
↓
交付決定
↓
設備発注・導入
という設備投資の順番と、
交付申請
↓
定められた期間内に賃上げ
という賃上げの期限をそれぞれ管理する必要があります。
「設備を早く使いたいから先に注文する」といった対応は避けましょう。
事業完了後に実績報告と支給申請を行う
設備投資や賃上げなど、計画した事業が完了した後は実績報告と支給申請を行います。
提出する書類には、設備の導入・支払いを確認する資料や、賃金引上げの実績を確認できる資料などがあります。
実績報告・支給申請には期限があります。
労働局の案内では、設備の納品、対象経費の支払い、賃金引上げのすべてが完了した日から1か月を経過する日、または4月10日のいずれか早い日までとされています。
申請時の計画書だけでなく、契約書、請求書、支払記録、賃金台帳なども整理して保管しておきましょう。
職場改善助成金を申請するときの注意点

業務改善助成金は、対象設備を導入すれば自動的に支給される制度ではありません。
申請時点から事業完了・支給申請まで、定められたルールに沿って進める必要があります。
特に注意したいのが、設備投資と賃上げの実施時期、申請期限です。
交付決定前に設備投資を実施しない
最も注意したいのが、交付決定前の設備購入です。
業務改善助成金の利用を考えている段階で、
- 契約する
- 発注する
- 設備を納品してもらう
といった手続きを先に進めると、助成対象にならない可能性があります。
交付申請を提出しただけでも不十分です。
設備投資については、原則として交付決定を確認してから実施します。
設備販売事業者にも助成金を利用する予定であることを伝え、納期や契約時期を調整しておきましょう。
2026年度の申請期限と事業完了期限を確認する
2026年度の交付申請受付は9月1日に開始されています。
申請期限は、
申請する事業場がある都道府県の地域別最低賃金発効日の前日
または
2026年11月30日
のいずれか早い日です。
そのため、全国一律で11月30日まで申請できるわけではありません。
各地域の最低賃金発効日によって、締切が早くなる可能性があります。
また、2026年度の事業完了期限は原則として2027年1月31日です。
この日までに設備の納品や対象経費の支払いなどを完了させる必要があります。
申請が締切直前になると、交付決定後に設備を導入できる期間が短くなります。
納期の長い設備を導入する場合は特に注意しましょう。
計画変更が必要な場合は事前に手続きを行う
申請時に予定していた設備とは違う製品を購入したい場合や、事業完了予定日を変更したい場合は、自己判断で変更しないようにしましょう。
厚生労働省では、事業計画変更申請書や事業完了予定期日変更報告書などの様式を用意しています。
たとえば、
「申請した機種が売り切れたので別製品を購入した」
「価格が上がったので別の設備へ変更した」
「納期が間に合わなくなった」
といったケースです。
申請内容と実際の設備投資が異なると、助成対象として認められない可能性があります。
変更が必要になった段階で管轄労働局へ確認し、必要な手続きを行いましょう。
また、解雇や賃金引下げなどの不交付事由がある場合は、助成金の支給に影響します。支給後であっても返還が必要になるケースがあります。
設備投資だけでなく、申請期間中の雇用管理にも注意が必要です。
職場改善助成金は賃上げと生産性向上をセットで検討しよう

職場改善に活用できる助成金を探している中小企業・小規模事業者は、まず「業務改善助成金」を確認するとよいでしょう。
業務改善助成金は、事業場内最低賃金を引き上げ、生産性向上につながる設備投資等を行った場合に、その費用の一部を助成する制度です。
2026年度は、
- 50円コース
- 70円コース
- 90円コース
の3つが設けられています。
助成上限額は賃上げ額や対象労働者数などによって異なり、条件を満たせば最大600万円です。助成率は、引上げ前の事業場内最低賃金が1,050円未満なら4/5、1,050円以上なら3/4となっています。
対象となるのは、単なる職場環境改善ではありません。
機械・設備やシステムなどを導入し、作業時間の短縮や業務効率化といった生産性向上につなげる必要があります。
また、2026年度は人材育成・教育訓練費などが助成対象から外れています。過去年度の情報をそのまま参考にしないよう注意しましょう。
申請手続きでは順番も重要です。
設備投資は交付決定後に実施し、賃金引上げについても申請後の指定された期間内に行います。
2026年度の申請期限は、地域別最低賃金発効日の前日または11月30日のいずれか早い日です。事業完了期限は原則2027年1月31日となっています。
まずは現在の事業場内最低賃金と、改善したい業務を整理しましょう。
そのうえで、何円の賃上げが可能なのか、どの設備を導入すれば生産性向上につながるのかを検討し、最新の公募要件を確認してから申請を進めることが重要です。
