補助金や助成金は、事業成長を支える心強い支援制度ですが、その申請や運用には法令遵守と正確な実施が求められます。
近年では、補助金・助成金の不正受給が大きく報道されるケースも増えており、「知らないうちに自社も該当していた」と後から問題になる例も少なくありません。
この記事では、補助金・助成金の不正受給とは何か、どのような行為が該当するのかを明らかにしながら、実際の事例や発覚時のペナルティ、セルフチェックの方法までを体系的に解説します。
また、もし不正が疑われた場合の対応や、未然に防ぐための“セルフ監査”体制づくりについても詳しく紹介します。
自社の申請が本当に問題ないかを確認したい方、あるいは今後の補助金活用に向けて正しい知識を得たい方に向けて、リスクと対策を分かりやすくまとめました。
補助金の適正な活用のために、まずは正しい理解から始めましょう。
不正受給の定義と典型事例

補助金・助成金は、企業活動の発展を支援する重要な制度です。
しかし、その制度を悪用する「不正受給」や「目的外使用」が後を絶たず、企業の信頼を大きく損なうケースも増加しています。
「うちは関係ない」と考えていても、実は申請ミスや認識不足によって、意図せず不正に該当してしまう場合もあるため、注意が必要です。
このセクションでは、不正受給の定義とよくある典型的なケース、実際に報道された事例をもとに、何が不正に該当するのかをわかりやすく整理します。
リスクを避け、適切な申請・運用を行うための第一歩として、正しい知識を確認しておきましょう。
不正受給・交付取消・目的外使用の定義
「不正受給」とは、虚偽や不正な手段で補助金・助成金を受け取る行為を指します。
これには、意図的なものだけでなく、誤解や確認不足によるケースも含まれることがあり、形式的には「故意ではない」場合であっても、制度上は不正と見なされることがあります。
また、不正と類似する行為として、以下のような分類もあります。
・交付取消 – 補助金の交付が決定した後でも、条件に違反した場合などには、交付決定自体が無効になること。
・目的外使用 – 補助金の対象でない用途に資金を充てた場合。たとえば、補助対象外の経費を計上してしまったなど。
これらはいずれも返還命令や企業名の公表、悪質な場合には刑事罰に発展するリスクもあります。
よくある事例:架空経費、虚偽申請、交付前着手など
不正受給として特に多く見られるのが、以下のような典型的なケースです。
・架空の経費を計上
実際には存在しない取引を装い、見積書や請求書を偽造して補助金を申請する行為です。水増し請求もこれに該当します。
・交付決定前に事業を開始
補助金は原則として「交付決定後の事業」に対して支給されますが、手続きが完了する前に着手してしまうと、たとえ正当な事業であっても補助対象外とされる可能性があります。
・対象外経費の計上
本来補助対象ではないもの(車両費や広告宣伝費など)を誤って計上したり、経費区分を誤認してしまったケース。
・従業員の給与計上ミス
補助対象者の要件を満たしていない人件費を含めた場合など、要件違反によって一部もしくは全額が不正と判断されることもあります。
・事後の報告書に虚偽記載
実績報告や経費証明の段階で、支出証憑に不備がある、もしくは作為的な内容が含まれるケース。
いずれも「うっかり」や「知らなかった」では済まされない場合があり、専門家の確認やセルフチェック体制の構築が非常に重要です。
報道/公表された実例ケース
不正受給が発覚した場合、企業名の公表や報道によるイメージダウンは避けられません。以下は、近年実際に公表・報道された事例の一部です。
・大手飲食チェーンの雇用調整助成金の不正受給
一部従業員を出勤扱いにしていたにも関わらず、「休業」として申請し、数億円単位の返還命令が下されました。
・中小製造業によるものづくり補助金の経費水増し
実在する企業との取引を装い、架空の請求書を作成。結果的に補助金全額返還および事業者名の公表処分。
・IT導入補助金での目的外使用
補助対象外の汎用ソフトを「業務システム」と偽り導入し、不正が判明。事業実施主体からも採択取り消しの通達を受けた。
これらの事例からも明らかなように、制度理解の甘さやチェック不足が、企業の信用失墜や法的リスクにつながる可能性があります。
不正の境界線を知ることが最大の防衛策
補助金・助成金制度を安心して活用するためには、「知らなかった」では済まされない制度の正確な理解が欠かせません。
不正受給の定義や典型事例を知っておくことで、自社の行為がどのように判断されるのか、リスクの芽を早めに摘み取ることができます。
特に、「交付前の事業着手」や「対象経費の誤認」などは申請担当者の認識次第で防げるものも多いため、日頃から社内体制の整備やチェックリストの運用、専門家への相談などを積極的に取り入れることが重要です。
不正をしない、させない。その意識こそが、企業の信頼を守り、補助金の本来の価値を最大限に活かす第一歩となります。
発覚時のペナルティ・処罰体系

補助金や助成金の制度は、企業の成長を後押しする心強い支援策ですが、その活用には厳格なルールが伴います。
もし不正受給が発覚した場合、金銭的な返還にとどまらず、行政的・法的なペナルティが重ねて科される点に注意が必要です。
特に補助金は「税金」を原資としているため、不正には厳しい対応が取られるのが通例です。
返還命令はもちろんのこと、加算金、刑事罰、企業名の公表、将来的な受給停止といった、企業にとって甚大な影響を及ぼす処分が連動して行われるケースもあります。
ここでは、補助金不正が発覚した際に起こり得る代表的なペナルティを4つの観点から整理し、事前の予防やガバナンス強化の参考となるよう解説します。
返還義務・加算金・延滞金の制度
不正が認定された際、最も基本的な処分が「補助金の返還命令」です。特に、以下のようなパターンが対象となります。
・申請時の虚偽記載
・実績報告書の不備・不正
・補助金交付前の事業着手
これにより、補助対象となった金額の全額返還が求められることが多く、さらに次のような金銭的負担が上乗せされることもあります。
・加算金(補助金適正化法第12条) – 不正手段で受給した場合、交付額の20%相当額が加算金として徴収されることがあります。
・延滞金・返還命令に応じなかった場合、日数や年利に応じた延滞金が課されます。
・遡及的な支援取消・不正が過去の申請にも及んでいた場合、複数年度にわたって返還対象が広がるケースも存在します。
つまり、単純な「返金」で済むと考えていると想像以上の財務負担となるため、申請から実績報告まで一貫して正確な運用管理が不可欠です。
補助金適正化法(第29条・罰則規定)
不正受給の法的根拠として中心に位置するのが、「補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律」、通称「補助金適正化法」です。
第29条には、不正に関与した者に対する明確な罰則が定められています。
【補助金適正化法 第29条の主な罰則】
・虚偽の申請で補助金を受給した場合:3年以下の懲役または100万円以下の罰金
・申請者だけでなく、共犯(士業、外部協力者など)も処罰対象
・法人が関与した場合には「両罰規定」により法人も罰金刑
企業として申請内容に誤りがある場合でも、「意図的」な虚偽と判断されればこの法律が適用され、経営者や担当者の刑事責任が問われるリスクも出てきます。
代行業者に丸投げしていた場合でも、責任は免れません。
刑事罰:詐欺罪・刑法適用の可能性
悪質な不正があったと判断された場合、補助金適正化法にとどまらず、刑法上の「詐欺罪」が適用されるケースもあります。
これは「補助金」という形で国や自治体から財産を騙し取った行為とされるためです。
【刑法 第246条 詐欺罪】
・10年以下の懲役刑
・補助金等は「財物」に該当し、詐欺罪の対象になる
・裁判所で有罪となれば実刑判決が下ることも
たとえば、実際には存在しない経費で申請したり、事業実施実態がないにも関わらず報告書を作成したような場合は、典型的な詐欺罪の構成要件を満たします。
中には、弁済(返金)をしても刑事事件として起訴された判例もあり、企業にとって極めて深刻な影響が生じます。
行政処分:名公表、受給停止、交付取消
法的措置と並行して、行政処分も重大な制裁として機能します。
特に、国や自治体が採る「社会的制裁」は、企業の信用を大きく損なうリスクがあります。
・事業者名の公表 – 不正が認定されると、補助金交付機関や所轄省庁のウェブサイトで社名・代表者名・所在地・内容が公開されるケースがあります。
・交付の取消・返還命令 – 交付決定があっても、事後に取消処分が行われれば未交付分の打ち切り+既交付額の返還が同時に命じられます。
・以後の申請除外 – 企業単位・代表者単位で、今後一定期間すべての補助金等の申請対象から除外される処分が下る可能性もあります。
こうした行政処分は、企業の取引先・金融機関・自治体からの信用失墜に直結するため、実質的な営業活動へのダメージも計り知れません。
不正受給は“企業の命取り”に
補助金や助成金は、本来であれば企業にとって大きな成長機会をもたらす制度です。
しかし、その利用において一度でも不正が発覚すると、金銭的・法的・社会的に重大な処罰が下される仕組みとなっています。
・返還義務+加算金・延滞金
・補助金適正化法による罰則
・詐欺罪など刑法適用の可能性
・事業者名の公表や交付取消
これらの処分は連動して行われることも多く、「知らなかった」「故意ではない」では済まされない現実があります。
だからこそ、補助金活用に際しては、社内ルールの整備や外部専門家の関与、申請時・実績報告時の正確性の確保が不可欠です。
制度を安全に使いこなすために、企業としてのリスクマネジメント意識を高めることが、長期的な成長と信頼構築につながります。
自社が不正受給に該当しないかをチェックする方法

補助金や助成金を活用する企業にとって、最大のリスクは「知らず知らずのうちに不正受給とみなされること」です。
悪意がなくても、制度理解の不足や運用ミスが重大なペナルティにつながるケースは少なくありません。
たとえば、交付要件を正しく満たしていなかった、申請時と実態に乖離があった、証憑の保存が不十分だった、といった事例は、企業規模を問わず全国で後を絶たないのが現実です。
そこで本章では、自社が不正受給に該当していないかを定期的にセルフチェックするためのポイントを4つの観点から解説します。
申請担当者や経営層だけでなく、実務現場の担当者も共有すべきリスク管理の基準としてご活用ください。
申請内容と実行状況の整合性チェック項目
まず確認すべきは、「申請時に記載した内容」と「実際に実行した内容」が一致しているか」という基本的な整合性です。
不正受給と判断されやすいのは、以下のようなケースです。
・申請書では購入予定とした設備が、実際には別の機器に変更されている
・導入時期が交付決定前だった(事前着手)
・雇用人数や業務内容が申請時の計画と著しく異なる
これらは「軽微なミス」として済まされないことが多く、訂正・報告義務を怠るとペナルティ対象になります。
月次・四半期単位で申請内容との整合を再確認し、ズレがあれば早期に事務局へ相談・修正届けを行う体制を整えておくことが大切です。
特に、交付決定通知前に対象事業へ着手した場合は、補助対象外になるだけでなく、「故意の不正」と見なされかねません。
プロジェクトスケジュールの管理と事務手続きのタイミング管理が、リスク回避の鍵を握ります。
証憑・書類管理の整備ポイント
補助金の申請や報告で求められる証拠資料(証憑)は、単に提出書類だけでは不十分です。「事業の実態が書類で客観的に説明できる状態」が必要です。
チェックすべき主な書類管理のポイントは以下の通りです。
・見積書・請求書・領収書などの原本保管(電子保存の場合は法的要件を確認)
・業務委託先との契約書、仕様書、納品書の整合性
・補助対象経費の仕訳・帳簿記録の明確化(補助対象/対象外の明示)
・事業実施状況を示す報告書・写真・導入履歴の記録
不備や紛失があると、事業の実在性に疑義が生じ、返還命令の対象となるリスクがあります。
特に、デジタル化に伴いPDF保存に切り替える企業が増える中で、保存要件(スキャナ保存要件・電子帳簿保存法)を満たしていない例が散見されます。
申請書類だけでなく、裏付けとなる一次資料の整備・保管ルールを明文化し、第三者が見ても説明できる状態を保つことが不正認定の回避につながります。
併用制度・重複申請のリスク確認
制度の複雑化が進む中、複数の補助金・助成金を並行して申請する企業が増えています。
しかし、補助金には「併給不可」の制約がある場合が多く、重複申請・二重受給は重大な違反と見なされます。
確認すべき主な併用リスクには以下があります。
・同一設備に対して、複数の補助金から交付を受けている
・同一目的の人材教育に対し、別制度(例:キャリアアップ助成金と人材開発支援助成金)を併用
・国と自治体それぞれから重複申請してしまった
こうした事例は、意図せず発生することもあるため、申請前に他部署・会計事務所・社労士と連携し、全体の補助金活用状況を一覧で可視化しておくことが重要です。
また、類似制度を別部門で活用している場合には、社内情報のサイロ化が不正リスクを招く要因にもなります。
制度名・申請時期・対象設備・事業責任者を整理した「補助金管理台帳」の作成が有効です。
モニタリング・監査対応の備え
補助金には、交付後も定期的な報告義務や現地調査(モニタリング)、抜き打ち監査が実施されることがあります。
この際に不備や虚偽が判明すると、事後的に返還や処罰に発展する可能性があります。
備えておきたい監査対応の基本は以下の通りです。
・提出書類の最新版を常に社内共有サーバーに保管
・証憑一式と関連帳簿をすぐに提示できる状態で整理
・設備導入や研修実施の「写真・映像記録」も保存
・外部専門家(社労士・税理士)と監査想定のロールプレイを実施
監査対応に不慣れな企業では、「担当者が退職して書類の所在が不明」「内容が口頭で説明できない」といった対応ミスが発生しがちです。
これを防ぐためには、申請から報告までのプロセス全体をチームで共有し、属人化させない体制づくりが求められます。
知らなかったでは済まされない“防衛策”
補助金の活用は、企業にとって大きなメリットをもたらしますが、同時に制度の複雑さや監視体制の厳格化により、知らぬ間にルール違反とされてしまうリスクも存在します。
・申請内容と実行内容の整合性
・証憑・帳簿・書類の保存体制
・併給制度の重複チェック
・監査対応・内部統制の仕組み
これらを定期的にセルフチェックすることで、重大な不正リスクを未然に防ぐことが可能です。
「補助金の活用をきっかけに、社内のガバナンス強化にもつながった」と言えるような、制度と向き合う姿勢こそが企業の持続的な成長と信頼の基盤となります。
もし不正受給が疑われた場合の対応策

補助金や助成金を受け取った後、「この申請内容は本当に問題なかっただろうか」「監査で指摘されるのではないか」と不安を感じるケースもあります。
実際に、不正受給が疑われるだけでも大きなリスクを伴うため、速やかに適切な対応を取ることが重要です。
このセクションでは、不正が疑われた際の初期対応から、交付機関とのやり取り、さらには再発防止策の構築まで、企業として取るべきステップを解説します。
自主返還・事前相談でリスク軽減する手順
不正の意図がなかったとしても、申請内容と実態に齟齬があれば「形式上の不正受給」として扱われる場合があります。
このようなケースでは、発覚前に自主的に交付機関へ相談・返還することがリスク軽減につながります。
まずは、社内で「どの点に誤りがあったのか」「どのような支出が問題とされるのか」を整理し、根拠となる書類を準備した上で、交付機関に連絡を入れましょう。
制度によっては「自主返還制度」が設けられており、加算金や刑事告発を回避できるケースもあります。
一例として、厚生労働省の助成金においては、事前の自己点検による申出が一定の救済対象となることが明記されています。
問題を隠そうとするのではなく、早期の自発的な対応こそが、信頼回復の第一歩となるのです。
交付機関との交渉・説明責任の果たし方
不正受給の疑いを指摘された場合、交付機関とのやり取りは極めて重要です。
まずは事実関係を整理し、誤解を解くための説明資料を整備します。
書類不備や経費区分のミスなど、「悪意なき申請ミス」であることを論理的に説明できれば、厳罰を回避できる余地が生まれます。
また、交付機関とのやり取りには責任者が対応に当たることが求められます。
曖昧な回答や不十分な準備では、かえって疑念を深めることにもなりかねません。
必要に応じて社労士や行政書士、弁護士といった専門家に相談し、法的な根拠や制度解釈を明確にした説明方針を立てることが効果的です。
説明責任を果たす際は、事実の隠蔽や誤魔化しを避け、誠実かつ具体的な対応を徹底しましょう。
交付機関も「制度趣旨を理解して協力的に対応しているか」という観点で企業を見ています。
再発防止体制の構築とガバナンス強化
たとえ大きなペナルティを受けずに済んだとしても、今後の補助金申請に悪影響が出ないように再発防止体制を整えることが重要です。
具体的には、以下のような対策が挙げられます。
・補助金運用に関する社内マニュアルの整備
・担当部署による事前点検とダブルチェック体制の確立
・不正防止を意識した社内研修の実施
・外部専門家による定期監査の導入
さらに、社内通報制度(ホットライン)の設置など、内部から問題を早期に発見できる仕組みを作ることもリスクマネジメントの一環です。
補助金は公的資金である以上、ガバナンス意識の高い組織運営が今後の信頼確保にもつながります。
疑われた時こそ、誠実かつ積極的な行動がカギ
不正受給が疑われたとき、対応を誤れば企業の信用失墜や法的リスクに直結します。
早期の自主対応・丁寧な説明・再発防止の徹底という3つの柱を意識し、組織として誠実に動くことが最善の防御策です。
万が一の際にも、信頼回復と持続的な補助金活用を見据えた行動を取りましょう。
次の申請のチャンスを守るのは、日々のガバナンス意識にかかっています。
不正受給を未然に防ぐための“セルフ監査”体制づくり

補助金を活用する中で最も避けたいのが、不正受給のリスクです。
申請書類に虚偽の記載があった、支出が実態と異なる、報告内容と実行状況にズレがある──こうした事態は、意図せず起きるケースもあります。
そのため、企業側で日常的に内部チェックを行う“セルフ監査”の仕組みを構築することが、不正受給防止のカギになります。
ここでは、セルフ監査体制の基本要素として「社内チェックリストの仕組み化」「外部専門家によるダブルチェック」「リスク感知力を育てる社内教育」の3つを軸に解説します。
社内チェックリストと定期点検の仕組み化
セルフ監査の第一歩は、チェックすべき項目を明文化し、誰でも確認できる状態にすることです。
たとえば、以下のようなチェックリストを整備すると効果的です。
・申請内容と実際の支出の整合性は取れているか
・計画通りに事業が進んでいるか
・実績報告書や証憑書類は漏れなく保管されているか
・他制度との重複申請がないか
・申請書類の更新・修正の履歴を管理しているか
こうしたリストをもとに、定期的な点検(例:月1回、四半期ごと)をスケジュール化することで、担当者が業務の合間でも確認作業を継続しやすくなります。
また、リストには「改善すべき点」「次回確認事項」などのメモ欄を設けておくと、ナレッジが蓄積され、チーム全体の精度向上にもつながります。
外部専門家(社労士・税理士)によるダブルチェック体制
自社内だけでの監査にはどうしても“慣れ”や“見落とし”がつきものです。
そこで、社労士・税理士・中小企業診断士などの外部専門家に定期監査を依頼することで、チェック体制を二重に強化できます。
とくに助成金や補助金には「労務管理」「経費処理」「資産管理」など、多角的な観点からの適正確認が必要です。たとえば、
・社労士は「雇用契約書や勤務実績の整合性」
・税理士は「帳簿・領収書の証憑性や計上の適切さ」
を重点的にチェックできます。
また、専門家による監査結果を文書化し、役員会での共有や保存を徹底することで、監査体制が対外的にも説明可能なガバナンスの一部となる点も大きなメリットです。
リスク感知と改善を促す社内教育・研修のポイント
制度の知識やリスク感覚を育てるうえで、社内教育や研修は非常に有効な手段です。
とくに管理部門だけでなく、現場担当者にも“なぜチェックが必要なのか”を理解してもらうことが重要です。
効果的な研修例としては以下のようなものがあります。
・最新の不正受給事例とその処分内容を紹介し、他人事でないことを意識させる
・「こういうケースはNG」というグレーゾーンの共有
・チェックリストや証憑の扱い方の実務研修
・実地形式の模擬監査(ワークショップ)
また、社内イントラネットやマニュアルに定期的な“監査ニュース”を配信するのも、継続学習に役立ちます。
重要なのは、一度の教育で終わらせず、繰り返しリスク感知の感度を高めていくことです。
セルフ監査は“未然防止”の最前線
補助金や助成金の適正運用は、単に申請通過を目指すだけではなく、実行フェーズにおける透明性とガバナンスの確保が問われます。
そのなかで、社内チェックリストの運用、外部の専門家による監査、社内教育の三位一体によるセルフ監査体制は、企業の信頼性と持続的な制度活用の要です。
「知らなかった」「うっかりしていた」が通用しない時代だからこそ、“疑われない企業体質”を育てる意識改革が求められています。
不正受給を「知らなかった」では済まされない時代に

補助金・助成金の活用は、中小企業や個人事業主にとって経営を加速させる有効な手段です。
しかし、その裏で不正受給や不適正な運用に対するチェック体制は年々厳しくなっています。
意図的であれ、知らずにであれ、不正とみなされれば返還義務や罰則、名公表といった重大なペナルティを受ける可能性があります。
だからこそ、「自分たちは問題ないか?」と立ち止まり、自社の申請・運用体制を見直すことが不可欠です。
この記事で紹介した以下のポイントをチェックし、組織として透明性と適正性を担保する体制づくりを進めていきましょう。
・不正受給の定義と典型的な事例を理解する
・ペナルティ体系(返還・刑事罰・行政処分)を把握する
・実行状況と書類整備をセルフチェックする
・問題が疑われたときの対応手順を知る
・セルフ監査と外部チェック体制を構築する
補助金は制度を正しく理解し、適正に運用することで初めて真価を発揮します。今一度、“活用”と“リスク管理”の両輪を意識した制度運用を徹底しましょう。
