個人事業主が新しい事業を始めるとき、「法人でないと補助金は使えないのか」「ひとりで事業をしていても対象になるのか」と迷う方は少なくありません。
個人事業主でも、新規事業に活用できる補助金・助成金はあります。ただし、制度ごとに従業員数、事業内容、投資規模、対象経費などの条件が異なります。
特に、新市場への本格的な進出を支援する「新事業進出・ものづくり商業サービス補助金」は、個人事業主も対象になり得ますが、応募時点で常時使用する従業員が0人の事業者は対象外です。
また、新規事業への設備投資や販路開拓では、一般に「助成金」より「補助金」が中心になります。従業員の雇用や処遇改善を行う場合は、別途、雇用関係助成金を検討します。
自分の事業内容と規模に合う制度を選ぶために、まずは目的ごとの違いを整理しましょう。
個人事業主でも新規事業に使える助成金・補助金はある?

個人事業主でも、新規事業に活用できる公的支援制度はあります。
ただし、個人事業主であることだけで対象になるわけではありません。制度ごとの申請要件を満たす必要があります。
個人事業主でも対象になる補助金・助成金はある
法人でなくても、個人事業主を対象に含む補助金・助成金は複数あります。
代表的なものとして、
- 新事業進出・ものづくり商業サービス補助金
- 小規模事業者持続化補助金
- デジタル化・AI導入補助金
- 中小企業省力化投資補助金
- 雇用関係助成金
- 自治体独自の創業・新事業支援
などがあります。
ただし、制度ごとに対象者の範囲は異なります。
たとえば、個人事業主でも申請できる制度であっても、従業員数や既存事業の有無、投資額などの条件を満たさないと申請できません。
そのため、「個人事業主だから使えるか」ではなく、「自分の事業条件が制度に合っているか」で判断する必要があります。
新規事業への設備投資・販路開拓は助成金より補助金が中心
新規事業を始めるための設備投資や広告、販路開拓などを支援する制度は、助成金より補助金が中心です。
助成金は主に、
- 雇用
- 賃上げ
- 人材育成
- 就労環境改善
など、人に関する取組を支援する制度が多くなっています。
一方、補助金は、
- 新規事業への進出
- 設備投資
- IT導入
- 販路開拓
- 省力化
など、事業そのものへの投資を支援する制度が中心です。
そのため、「新しい事業を始めるための資金がほしい」という場合は、まず補助金を確認する方が探しやすくなります。
制度によって従業員数・開業時期などの条件が異なる
個人事業主向けの制度でも、申請条件は一律ではありません。
主に確認したいのは、
- 常時使用する従業員数
- 既存事業の有無
- 開業時期
- 事業規模
- 投資額
- 対象業種
- 補助対象経費
です。
特に、新事業進出・ものづくり商業サービス補助金では、応募時点で常時使用する従業員が0人の事業者は対象外です。
ひとりで事業を行っている個人事業主と、従業員を雇っている個人事業主では、使える制度が変わります。
個人事業主が新規事業で確認したい主な補助金・助成金

新規事業で使える制度は、何にお金を使うかによって選び分けます。
大きな設備投資、新市場への進出、販路開拓、IT導入、人手不足対策では、それぞれ適した制度が異なります。
新市場へ進出するなら「新事業進出・ものづくり商業サービス補助金」
既存事業とは異なる新しい製品・サービスを、新しい市場へ展開する場合は、「新事業進出・ものづくり商業サービス補助金」が候補になります。
この制度には複数の申請枠があり、新規事業への進出では「新事業進出枠」が中心です。
対象になるには、単に売上を増やすだけではなく、
- 自社にとって新しい製品・サービスである
- 自社にとって新しい市場へ進出する
という両方の要件を満たす必要があります。
個人事業主も対象になり得ますが、常時使用する従業員が0人では申請できません。
また、一定規模以上の投資を前提とした制度なので、小さな販促費だけを補助してほしい場合には向きません。
販路開拓なら「小規模事業者持続化補助金」
新規事業の販売促進や販路開拓が中心なら、小規模事業者持続化補助金を確認します。
たとえば、
- チラシ
- 広告
- Webサイト
- EC関連
- 店舗改装
- 販促ツール
など、新たな顧客を獲得するための取組が候補になります。
大規模な設備投資や新市場進出そのものを支援する制度ではなく、小規模事業者の販路開拓を支援する制度として考えると分かりやすいです。
個人事業主にとって使いやすい制度の一つですが、対象経費や申請枠は公募ごとに確認してください。
IT・AIツールを導入するなら「デジタル化・AI導入補助金」
新規事業でITツールやAIを導入する場合は、「デジタル化・AI導入補助金」が候補です。
たとえば、
- 会計ソフト
- 顧客管理システム
- POSレジ
- 予約管理
- EC
- 業務管理
- AI関連ツール
などを導入する場合に活用を検討できます。
個人事業主も対象になり得ます。
ただし、対象になるのは登録されたITツールなど、制度のルールに沿ったものです。
「パソコンを買えば補助される」「好きなAIサービスなら何でも対象」というわけではありません。
人手不足を解消する設備投資なら「中小企業省力化投資補助金」
人手不足を解消するための設備導入が目的なら、中小企業省力化投資補助金が候補です。
たとえば、
- 清掃ロボット
- 配膳ロボット
- 無人搬送設備
- 券売機
- 自動検査装置
- 自動化システム
などです。
ただし、新規事業を始めることそのものを支援する制度ではありません。
あくまで、人手不足や省力化が課題になっている事業者向けの制度です。
新しい事業を立ち上げるために設備を買う場合でも、制度の目的と合っているかを確認してください。
従業員の雇用・処遇改善なら雇用関係助成金
新規事業に伴って従業員を雇用したり、非正規雇用労働者を正社員化したりする場合は、雇用関係助成金を確認します。
たとえば、
- キャリアアップ助成金
- 人材開発支援助成金
- 特定求職者雇用開発助成金
などがあります。
これらは新規事業の設備費や広告費を補助する制度ではありません。
人を雇う、育てる、処遇を改善するといった取組に対して支給されます。
新規事業の立ち上げ費用と雇用費用を分けて考えると、制度選びがしやすくなります。
地域独自の新規事業なら自治体の補助金・助成金も確認する
都道府県や市区町村では、独自の創業・新事業支援制度を設けていることがあります。
対象になる経費として、
- 店舗改装
- 設備導入
- 家賃
- 広告
- 地域資源を活用した新事業
などが設定されることがあります。
自治体制度は全国共通ではありません。
開業地や事業所所在地によって内容が変わるため、国の補助金だけでなく自治体の制度も確認しましょう。
新事業進出・ものづくり商業サービス補助金は個人事業主も使える?

個人事業主も対象になり得ますが、すべての個人事業主が申請できるわけではありません。
特に、従業員0人の事業者は対象外です。
従業員0人の事業者は補助対象外
新事業進出・ものづくり商業サービス補助金では、応募時点で常時使用する従業員が0人の事業者は対象外です。
つまり、
自分ひとりだけで事業をしている個人事業主
は、この制度を利用できません。
個人事業主か法人かよりも、常時使用する従業員がいるかどうかが重要です。
なお、事業主本人は常時使用する従業員には含まれません。
ひとり事業主の場合は、持続化補助金やデジタル化・AI導入補助金、自治体制度など、別の制度を確認する必要があります。
新事業進出枠は既存事業と異なる新製品・サービスと新市場が必要
新事業進出枠では、既存事業とは異なる事業へ進出する必要があります。
基本的には、
新しい製品・サービス
と
新しい市場
の両方を満たすことが必要です。
たとえば、
法人向けの業務サービスだけを提供していた事業者が、個人向けの新サービスを開発して販売する
といった取組が考えられます。
一方、既存商品を同じ顧客へ多く売るだけでは、新事業進出には当たりにくくなります。
世の中で初めての事業である必要はない
新規性は、「社会全体で初めてか」ではなく「自社にとって新しいか」で判断されます。
そのため、すでに他社が行っている事業でも、自社にとって新しい製品・サービスと市場であれば対象候補になります。
たとえば、
- 他社では一般的だが、自社では初めて扱うサービス
- 既存技術を使って新しい顧客層へ提供する商品
- BtoBからBtoCへ展開する新サービス
などです。
ただし、過去に行っていた事業を再開するだけでは、新規性を満たさないことがあります。
新事業進出枠は補助率1/2・最大7,000万円
新事業進出枠では、中小企業者の補助率は1/2です。
補助上限額は従業員規模によって異なり、最大7,000万円です。一定の賃上げ要件を満たす場合は、さらに上限が引き上げられます。
また、補助下限額も設定されています。
そのため、数十万円程度の小規模な投資を補助してほしい事業には向きません。
制度の上限額だけを見るのではなく、
- 自己負担額
- 投資規模
- 補助下限
- 資金繰り
まで含めて判断してください。
機械装置・システム構築費または建物費を含む投資が必要
新事業進出枠では、補助対象経費として、
- 機械装置・システム構築費
- 建物費
- 運搬費
- 技術導入費
- 知的財産権等関連経費
- 外注費
- 専門家経費
- クラウドサービス利用費
- 原材料費
- 広告宣伝・販売促進費
などがあります。
ただし、機械装置・システム構築費または建物費のいずれかを含む投資が必要です。
広告費だけ、外注費だけで申請する制度ではありません。
新事業へ本格的に設備投資する事業者向けの制度と考えると分かりやすいです。
どこまでが「新規事業」として補助対象になる?

新規事業だからといって、すべての事業が補助対象になるわけではありません。
新事業進出枠では、自社にとっての新規性と、新しい市場への進出が重視されます。
自社にとって新しい製品・サービスへの進出が必要
まず、自社がこれまで提供していなかった製品やサービスであることが必要です。
たとえば、
- 飲食店が食品加工品の製造販売を始める
- 製造業者が既存技術を使った新商品を開発する
- 法人向け事業者が個人向けサービスへ進出する
などです。
単に既存商品のサイズや色を変えただけでは、新規性が弱いと判断されることがあります。
新しい価値や用途を説明できるかを確認しましょう。
既存事業とは異なる顧客層・市場を狙う必要がある
新しい製品・サービスだけでなく、新しい市場へ進出することも必要です。
たとえば、
既存の法人顧客に新商品を追加販売する
だけでは、市場が同じままです。
一方、
これまで法人向けだけだった技術を、一般消費者向けに提供する
のであれば、新しい市場として整理しやすくなります。
市場の違いは、顧客の属性やニーズから説明します。
過去に行っていた事業の再開は新規性を満たさない
以前に実施していた事業を一度休止し、再び始めるだけでは、新規事業とは扱われにくくなります。
たとえば、
数年前に販売していた商品を再販売する
といった取組です。
新規性を判断するときは、
- 過去に同じ商品を扱っていないか
- 同じサービスを提供していないか
- 実質的に既存事業の再開ではないか
を確認してください。
設備を新しくするだけでは新規事業にはならない
機械や設備を新しいものに変えただけでは、新規事業とはいえません。
たとえば、
古い機械を高性能な新型機へ入れ替える
だけでは、既存事業の設備更新です。
新規事業として申請するなら、その設備を使って、
- 新しい商品を作る
- 新しいサービスを提供する
- 新しい市場へ販売する
といった事業内容まで必要です。
資産運用的な事業は対象外になる制度がある
新事業進出枠では、実質的な労働を伴わず、資産運用的な性格が強い事業は対象外になるものがあります。
代表例として、
- 無人駐車場
- コインランドリー
- 飲食料品などの自動販売機
などが挙げられています。
設備を設置するだけで収益を得る事業と、人が事業活動を行って価値を生み出す事業では、制度上の扱いが異なります。
個人事業主が新規事業の補助金を選ぶ方法

補助金は、金額の大きさよりも事業目的との相性で選ぶ必要があります。
「何をしたいのか」「どれくらい投資するのか」を先に整理すると選びやすくなります。
新市場への本格投資か販路開拓かを最初に分ける
最初に、新規事業そのものへの投資なのか、既存・新規事業の販路開拓なのかを分けます。
たとえば、
- 新しい店舗や設備を整えて新市場へ進出
→新事業進出枠を確認 - 新商品の広告や販路を広げたい
→持続化補助金を確認
という考え方です。
同じ新規事業でも、支出内容によって制度が変わります。
従業員数と事業規模から申請できる制度を確認する
次に、従業員数を確認します。
特に個人事業主は、
- 自分ひとり
- アルバイトやパートを雇っている
- 常用従業員がいる
で使える制度が変わります。
新事業進出枠は従業員0人では対象外です。
一方、持続化補助金などは小規模事業者を対象としており、ひとり事業主でも要件を満たせば対象になり得ます。
使いたい経費が補助対象に含まれるか確認する
制度名が合っていても、使いたい経費が対象外なら申請できません。
たとえば、
- 設備
- 建物
- IT
- 広告
- 外注
- 人件費
- 家賃
などは、制度によって扱いが異なります。
先に「何にいくら使うか」を整理し、公募要領の対象経費と照らし合わせてください。
補助下限額と自己負担額まで含めて判断する
補助金は、上限額だけで選ばないことが大切です。
たとえば最大7,000万円の制度でも、補助下限が設定されているため、小規模な投資には使えません。
また、補助率が1/2なら、対象経費の残り半分は自己負担です。
さらに補助金は後払いが基本なので、事業実施時には一度自分で支払う資金も必要です。
資金計画まで含めて制度を選びましょう。
個人事業主が新規事業の補助金・助成金を申請するときの注意点

補助金は、制度を見つけたらすぐ申請できるとは限りません。
公募時期、電子申請、支出時期、資金繰りなどを事前に確認しておく必要があります。
最新年度・公募回の対象要件を確認する
補助金は年度や公募回によって内容が変わります。
制度名が同じでも、
- 補助率
- 上限額
- 対象者
- 対象経費
- 申請期限
などが変更されることがあります。
旧制度の記事をそのまま参考にせず、必ず現在の公募要領を確認してください。
特に新事業進出関連は制度再編が行われているため、過去の「新事業進出補助金」と現行制度を混同しないようにしましょう。
GビズIDなど申請に必要な準備を早めに行う
国の補助金では、電子申請にGビズIDなどが必要になる制度があります。
アカウント取得には手続きが必要です。
締切直前に取得しようとすると間に合わないことがあります。
制度を利用する可能性がある段階で、
- 申請方法
- 必要なID
- 添付書類
を確認しておきましょう。
交付決定前の契約・購入は対象外になることがある
補助金では、交付決定前に契約や購入をすると対象外になる制度があります。
たとえば、
補助金を使う予定で先に機械を購入した
場合、その支出が認められないことがあります。
契約、発注、支払いを行う前に、補助対象期間を確認してください。
申請しただけで支出を始めてよいとは限りません。
補助金は後払いを前提に資金計画を立てる
多くの補助金は後払いです。
たとえば、1,000万円の対象経費に対して補助率1/2なら、最終的に500万円補助されるとしても、最初は1,000万円を支払う必要があります。
そのため、
- 自己資金
- 金融機関からの融資
- 運転資金
なども含めて資金計画を立てます。
補助金だけをあてにして新規事業を始めるのは避けましょう。
同じ経費を国の他制度と重複して申請しない
同じ設備や経費について、複数の国の補助金を重複して受けることは原則できません。
たとえば同じ機械を、
- 新事業進出枠
- 省力化投資補助金
の両方へ申請して二重に補助を受けることはできません。
複数制度を利用する場合は、対象経費を明確に分ける必要があります。
自治体制度との併用も、各制度のルールを確認してください。
個人事業主の新規事業は事業内容と規模に合う補助金・助成金を選ぼう

個人事業主でも、新規事業に使える補助金・助成金はあります。
ただし、「個人事業主なら使える」という一括りではなく、
- 従業員数
- 新規事業の内容
- 投資規模
- 使いたい経費
- 既存事業との違い
を確認して制度を選ぶ必要があります。
新しい市場へ本格的に進出するなら、新事業進出・ものづくり商業サービス補助金の新事業進出枠が候補です。
一方で、従業員0人の事業者は対象外です。ひとり個人事業主の場合は、持続化補助金やデジタル化・AI導入補助金、自治体の支援制度などを確認しましょう。
また、新規事業だからといって設備更新や既存事業の拡大がすべて対象になるわけではありません。
自社にとって新しい製品・サービスか、新しい市場へ進出するかまで整理する必要があります。
制度を選ぶときは、補助上限額だけで判断せず、補助対象経費、自己負担額、後払いの資金繰りまで含めて確認してください。
