外国人を採用するとき、「個人事業主でも助成金を使えるのか」「外国人を雇えば自動的に助成金がもらえるのか」と疑問に感じる方は多いでしょう。
個人事業主でも、制度ごとの要件を満たせば外国人雇用に関する助成金を利用できます。ただし、「外国人雇用助成金」という名称の単一制度があるわけではありません。
外国人労働者の職場定着を支援する専用コースのほか、正社員化、人材育成、試行雇用などを対象とする一般の雇用関係助成金もあります。外国人だから支給されるのではなく、それぞれの制度で定められた取組を実施することが必要です。
また、助成金を検討する前に、在留資格や就労可否、雇用保険、外国人雇用状況の届出など、雇用そのものに必要な手続きも確認しておきましょう。
個人事業主でも外国人雇用の助成金は使える?

個人事業主でも、各助成金の事業主・対象労働者の要件を満たせば申請できます。
法人であることが必須ではありません。一方で、個人事業主だから無条件で申請できるわけでもありません。
個人事業主でも制度要件を満たせば申請できる
厚生労働省の雇用関係助成金には、個人事業主も対象になり得る制度があります。
外国人を雇用する個人事業主が確認しやすい代表的な制度は、次のとおりです。
- 人材確保等支援助成金
- キャリアアップ助成金
- 人材開発支援助成金
- トライアル雇用助成金
- 特定求職者雇用開発助成金
ただし、それぞれ目的が異なります。
たとえば、外国人従業員の就労環境を整えるなら人材確保等支援助成金、非正規雇用から正社員への転換ならキャリアアップ助成金というように、実施する取組から制度を選びます。
個人経営の店舗や小規模事業所でも、制度要件を満たしていれば対象候補になります。
外国人を雇用しただけで助成金が支給されるわけではない
外国人を採用したという事実だけで、助成金が支給されるわけではありません。
助成金ごとに、
- 就労環境を整備する
- 正社員へ転換する
- 職務に必要な訓練を行う
- 一定の求職者を試行雇用する
など、対象となる取組が決められています。
たとえば外国人労働者就労環境整備助成コースは、外国人従業員を雇ったことに対して支給する制度ではありません。
多言語化や相談体制の整備など、外国人労働者が働きやすい環境を整えた事業主を支援する制度です。
「外国人採用=助成金」と考えず、採用後にどのような取組を行うかまで確認してください。
雇用保険適用事業主など制度ごとの条件を満たす必要がある
多くの雇用関係助成金では、雇用保険適用事業主であることが基本的な条件になります。
さらに、
- 対象労働者の雇用保険加入状況
- 労働保険料の納付状況
- 労働関係法令への対応
- 助成金ごとの計画提出
- 支給申請期限
なども確認されます。
従業員を雇い始めたばかりの個人事業主は、まず自社が雇用保険適用事業所になっているか確認しましょう。
助成金の名前だけを見るのではなく、事業主側と労働者側の両方の条件を確認する必要があります。
個人事業主が外国人雇用で確認したい主な助成金

外国人雇用で使える助成金は、職場定着、正社員化、人材育成、試行雇用など目的ごとに分かれています。
外国人専用の制度と、外国人も対象になり得る一般制度を分けて考えると選びやすくなります。
職場定着・多言語化なら「人材確保等支援助成金」
外国人労働者が働きやすい職場環境を整える場合は、人材確保等支援助成金の「外国人労働者就労環境整備助成コース」が代表的です。
このコースは、外国人労働者特有の事情を踏まえた職場環境を整備し、職場定着につなげる取組を支援します。
対象となる取組には、
- 雇用労務責任者の選任
- 就業規則等の多言語化
- 苦情・相談体制の整備
- 一時帰国休暇制度
- 社内マニュアルや標識類等の多言語化
などがあります。
外国人雇用に直接関係する制度なので、まず確認したい助成金です。
正社員化・処遇改善なら「キャリアアップ助成金」
外国人の非正規雇用労働者を正社員へ転換する場合などは、キャリアアップ助成金が候補になります。
キャリアアップ助成金は外国人専用ではありません。
日本人・外国人を問わず、対象労働者と事業主が各コースの要件を満たせば対象になり得ます。
正社員化コースでは、
- 転換前の雇用形態
- 在留資格
- 雇用期間
- 就業規則の転換制度
- 転換後の賃金
- 勤務実績
などを確認する必要があります。
外国人だから特別に緩和されるわけではありません。
職務に必要な訓練なら「人材開発支援助成金」
外国人従業員に職務上必要な知識や技能を身につけてもらう場合は、人材開発支援助成金が候補です。
たとえば、
- 専門技術研修
- 業務に必要な資格取得
- 職務関連のOff-JT
- 一定の訓練プログラム
などです。
ただし、外国人向けの日本語研修なら何でも対象になるわけではありません。
助成対象になるのは、制度の要件を満たす職業訓練です。
生活上の日本語学習と、業務に必要な技能・知識の訓練は分けて考える必要があります。
就職困難者の試行雇用なら「トライアル雇用助成金」
一定の要件を満たす求職者を試行的に雇用する場合は、トライアル雇用助成金を確認できます。
この制度も外国人専用ではありません。
ハローワーク等の紹介を通じ、職業経験の不足などにより就職が難しい求職者を一定期間試行雇用することが目的です。
そのため、
外国人を3か月試しに雇えば助成される
という制度ではありません。
対象者要件や紹介経路などを満たしているかを事前に確認してください。
対象属性に該当する外国人なら特定求職者雇用開発助成金も確認する
外国人労働者が特定求職者雇用開発助成金の対象属性に該当する場合は、利用を検討できます。
この助成金も、外国人であること自体を理由に支給する制度ではありません。
たとえば、
- 高齢者
- 障害者
- 母子家庭の母等
など、制度で定められた就職困難者を継続して雇用する場合に対象候補となります。
対象者の属性と雇入れ方法を確認し、該当する場合だけ検討しましょう。
人材確保等支援助成金は外国人を雇う個人事業主に使える?

外国人労働者の職場定着を進めるなら、人材確保等支援助成金の外国人労働者就労環境整備助成コースが中心的な制度です。
個人事業主でも、事業主要件を満たして必要な就労環境整備を行えば申請できます。
外国人労働者の職場定着を目的とした専用コース
外国人労働者就労環境整備助成コースは、外国人従業員が日本で働くうえで生じやすい言語や労務管理上の課題を改善する制度です。
主な目的は、採用費の補助ではなく職場定着です。
たとえば、
- 就業規則を理解できない
- 相談先が分からない
- 社内ルールや標識が日本語のみ
- 一時帰国しにくい
といった課題に対応する制度を整えます。
外国人を採用した後の離職防止や働きやすさの改善を考えている事業主に向いています。
2026年度は1制度導入につき20万円・上限80万円
2026年度は、対象となる就労環境整備措置について、1制度導入につき20万円が支給され、上限は80万円です。
以前の制度では対象経費に対する助成率や57万円・72万円といった上限が設定されていましたが、現在は支給体系が変更されています。
過去の記事や資料を参考にすると、旧支給額が表示されることがあります。
申請時は必ず2026年度の資料を確認してください。
雇用労務責任者の選任や就業規則等の多言語化が対象
外国人労働者の雇用管理を適切に行うため、雇用労務責任者の選任などが制度上の取組として設定されています。
また、就業規則や労働条件に関するルールを外国人労働者が理解できるよう、多言語化する取組も対象です。
多言語化では、単に翻訳文を作るだけでなく、対象となる外国人従業員が内容を理解できる状態にすることが大切です。
労働時間、休日、賃金、休暇など、日常的に関係するルールを確認できるようにしておくと、雇用トラブルの予防にもつながります。
苦情・相談体制や一時帰国休暇などの制度整備も対象
外国人労働者が職場で困ったときに相談できる体制や、一時帰国に対応した休暇制度なども対象となる取組があります。
たとえば、
- 相談担当者を決める
- 外国語で相談できる方法を用意する
- 一時帰国に対応できる休暇制度を整える
- 社内マニュアルや案内表示を多言語化する
といった取組です。
会社側が制度を作っただけでなく、外国人従業員が利用できる形で運用する必要があります。
計画提出から支給申請まで期限どおり進める必要がある
外国人労働者就労環境整備助成コースでは、取組を始める前に必要な計画手続きを行います。
助成対象になる制度を導入してから後付けで申請するのではなく、事前に制度の流れを確認してください。
特に注意したいのは、
- 計画書の提出期限
- 計画期間
- 就労環境整備の実施時期
- 支給申請期間
です。
助成要件を満たす取組を実施していても、期限を過ぎれば支給されないことがあります。
キャリアアップ助成金は外国人労働者にも使える?

外国人労働者でも、在留資格や雇用条件などの要件を満たせばキャリアアップ助成金の対象になり得ます。
ただし、すべての外国人が同じ条件で対象になるわけではありません。
就労可能な外国人は正社員化・処遇改善の対象になり得る
就労目的の在留資格を持つ外国人や、永住者・定住者などは、その他の要件を満たせば正社員化コースなどの対象になり得ます。
確認したいのは、
- 日本でその仕事に就くことが認められているか
- 転換後も適法に就労できるか
- 対象労働者要件を満たしているか
- 転換制度が就業規則等に規定されているか
です。
在留資格だけで判断せず、キャリアアップ助成金側の対象要件も確認してください。
外国人技能実習生は正社員化コースの対象外
外国人技能実習生は、キャリアアップ助成金の正社員化コースの対象外です。
技能実習制度は、日本で技能等を修得して母国へ移転することを目的とした制度であり、一般の雇用労働者と同じ扱いにはなりません。
そのため、
技能実習生を正社員として扱えば助成金を申請できる
とは考えないようにしてください。
外国人従業員の在留資格によって制度上の取扱いが変わります。
在留資格によって対象可否が異なるため事前確認が必要
外国人の在留資格には、それぞれ就労できる範囲があります。
たとえば、
- 技術・人文知識・国際業務
- 特定技能
- 永住者
- 定住者
- 日本人の配偶者等
- 留学
- 家族滞在
などです。
留学や家族滞在では、資格外活動許可の範囲内で働いていることもあります。
助成金を検討する際は、「外国人」という一括りではなく、対象者の在留資格と就労条件を確認しましょう。
外国人を雇用する個人事業主が助成金申請前に確認すること

外国人雇用では、助成金の条件だけを確認すればよいわけではありません。
適法に雇用するための在留資格確認や雇用状況の届出などを行ったうえで、各助成金の申請準備へ進みます。
在留カードで在留資格・就労可否を確認する
外国人を雇用するときは、在留カードなどで就労可否を確認します。
主に見るのは、
- 在留資格
- 在留期間
- 就労制限の有無
- 資格外活動許可
などです。
外国人本人が「働けます」と説明していても、担当する業務が在留資格の範囲外なら就労できません。
たとえば、就労できる職種が限定される在留資格もあります。
採用を決める前に、担当業務と在留資格が合っているか確認してください。
雇用保険の適用条件を確認する
外国人労働者も、雇用保険の加入要件を満たす場合は原則として加入対象です。
国籍だけを理由に加入しないという扱いにはできません。
雇用保険は多くの雇用関係助成金とも関係するため、
- 週の所定労働時間
- 雇用見込み
- 労働契約
などを確認します。
外国人を初めて雇う個人事業主は、自身の事業所が雇用保険適用事業所になっているかも確認しましょう。
外国人雇用状況の届出を行う
外国人を雇い入れたときや離職したときは、原則として外国人雇用状況の届出が必要です。
対象となるのは、原則すべての外国人労働者です。ただし、在留資格「外交」「公用」や特別永住者などは対象外です。
雇用保険の被保険者になる外国人については、雇用保険の資格取得・喪失手続きと併せて届け出ます。
雇用保険の被保険者にならない外国人については、別途届出が必要です。
個人事業主でも義務は変わりません。
日本人と同様に適正な労働条件・賃金を設定する
外国人労働者だからという理由で、日本人より低い賃金や不利な労働条件を設定してよいわけではありません。
最低賃金や労働時間、休日、割増賃金など、日本の労働関係法令が適用されます。
雇用契約書や労働条件通知書では、
- 業務内容
- 勤務地
- 労働時間
- 賃金
- 休日
- 契約期間
などを明確にします。
外国人本人が理解できるよう、必要に応じて外国語で説明することも有効です。
助成金ごとの計画提出・申請期限を確認する
助成金によっては、取組前の計画提出が必要です。
たとえば、
- 就労環境整備を始める
- 職業訓練を行う
- 正社員転換をする
といった取組を先に進めてしまうと、後から助成金の対象にできないことがあります。
対象になりそうな制度を見つけたら、
- 対象者を確認
- 計画提出の有無を確認
- 取組を実施
- 必要な実績を記録
- 支給申請
という順番を確認してください。
外国人雇用助成金でよくある対象外・注意点

外国人雇用の助成金では、「外国人だから使える」と考えることが最も大きな誤解です。
在留資格、取組内容、申請時期など、制度ごとの要件を満たしているかを個別に判断します。
外国人という理由だけでは助成対象にならない
一般の雇用関係助成金では、国籍を基準に支給するわけではありません。
たとえばキャリアアップ助成金は正社員化、人材開発支援助成金は職業訓練を支援する制度です。
外国人を雇っていても、対象となる取組を行っていなければ支給されません。
助成金を探すときは、
外国人を雇うから何が使えるか
だけでなく、
採用後に何をするのか
まで整理しましょう。
対象外の在留資格・雇用形態がある
在留資格や制度目的によって、助成金の対象外になることがあります。
特にキャリアアップ助成金の正社員化コースでは、技能実習生は対象外です。
また、留学生のアルバイトなど、勤務時間や雇用形態によっては各助成金の対象労働者要件を満たさないこともあります。
制度名だけで判断せず、対象労働者の条件まで確認してください。
取組を始めてから計画を提出しても対象にならない制度がある
雇用関係助成金では、取組前に計画書の提出を求める制度があります。
たとえば就労環境整備の制度をすでに導入した後で、
この取組に助成金が使えると知った
としても、さかのぼって対象にはできないことがあります。
外国人採用を予定している段階から、利用できる助成金を確認しておく方が安全です。
旧年度の支給額・制度内容をそのまま使わない
外国人雇用に関する助成金は制度改正があります。
特に外国人労働者就労環境整備助成コースは、2026年度に支給体系が変更されています。
過去の、
- 最大57万円
- 最大72万円
- 助成率1/2・2/3
といった情報を、現在の制度へそのまま当てはめることはできません。
申請年度の公式パンフレット・支給要領・様式を確認しましょう。
登録支援機関への委託費が自動的に助成されるわけではない
特定技能外国人を雇用する場合、登録支援機関へ支援を委託することがあります。
ただし、
登録支援機関に支払った費用=外国人雇用助成金の対象
と考えることはできません。
特定技能制度の支援義務と、雇用関係助成金は別の制度です。
支援機関への委託が必要かどうかと、助成金の対象経費・支給要件は分けて確認してください。
個人事業主の外国人雇用は助成金と雇用手続きをセットで確認しよう

個人事業主でも、制度ごとの要件を満たせば外国人雇用に関する助成金を利用できます。
ただし、「外国人雇用助成金」という一つの制度があるわけではありません。
外国人の職場定着を支援する人材確保等支援助成金の専用コースのほか、
- 正社員化ならキャリアアップ助成金
- 職業訓練なら人材開発支援助成金
- 試行雇用ならトライアル雇用助成金
など、目的に応じて制度を選びます。
外国人労働者就労環境整備助成コースは、2026年度では1制度導入につき20万円、上限80万円です。古い支給額をそのまま参考にしないようにしてください。
また、助成金申請だけを先に考えるのではなく、
- 在留資格と就労可否
- 雇用保険
- 外国人雇用状況の届出
- 労働条件
- 計画提出時期
まで確認する必要があります。
外国人を雇った事実ではなく、制度が定める取組を正しい順番で実施したかが支給判断の基本です。
採用を決める前から利用候補となる助成金を確認し、雇用手続きと助成金申請を並行して準備しましょう。
