キャリアアップ助成金の正社員化コースを利用する場合、「就業規則は必ず必要なのか」「10人未満の事業所でも作らなければならないのか」と迷う方は少なくありません。
正社員化コースでは、正社員への転換制度を就業規則や労働協約などに事前に定め、その規定に基づいて転換を行う必要があります。単に正社員へ雇用形態を変更しただけでは、助成金の要件を満たせません。
また、就業規則は正社員転換の6か月前から適用しておく必要があるわけではありません。大切なのは、転換前に必要な規定を整備・施行し、実際の転換手続きと一致させることです。
10人未満の事業所の取扱いや、賞与・退職金・昇給の考え方、規定を作るタイミングまで整理して確認していきましょう。
キャリアアップ助成金の申請に就業規則は必要?

正社員化コースでは、正社員への転換制度を就業規則などに定める必要があります。
ただし、「必ず就業規則という名称の文書だけでなければならない」という意味ではありません。労働協約や、一定の要件を満たす別規程で対応できることもあります。
正社員化コースでは正社員転換制度を就業規則等に規定する必要がある
正社員化コースを利用するには、非正規雇用労働者を正社員へ転換するための制度を事前に規定しておく必要があります。
たとえば、就業規則に次のような内容を定めます。
- 正社員転換の対象者
- 転換の手続き
- 転換の選考方法
- 転換要件
- 転換を実施する時期
制度上は、会社の判断だけで突然「今日から正社員」とするのではなく、あらかじめ定めたルールに基づいて転換したことを確認できる状態が必要です。
そのため、正社員化コースを検討するなら、対象者の転換日を決める前に現在の就業規則を確認してください。
就業規則は転換前に施行しておく必要がある
正社員転換制度は、対象労働者を正社員へ転換する前に施行されていなければなりません。
たとえば4月1日に正社員へ転換するのであれば、転換制度はそれより前に有効な状態にしておく必要があります。
転換後に、
助成金を使いたいので就業規則へ転換条文を追加した
としても、4月1日時点ではその制度が存在していません。
規定を作る日、施行する日、実際に転換する日の順番を間違えないことが大切です。
正社員転換の6か月前から就業規則を適用する必要はない
正社員化コースについて、「転換日の6か月前までに就業規則を作らなければならない」と考える必要はありません。
重要なのは、転換制度が正社員転換より前に規定・施行されていることです。
6か月という期間は、対象労働者の雇用期間や転換後の賃金支払いなど、別の要件と混同されやすい部分です。
就業規則の整備時期については、
規定作成・改定 → 施行・周知 → 正社員転換
という順番を意識してください。
キャリアアップ助成金の就業規則に必要な正社員転換規定

正社員転換規定では、「正社員に転換できる」とだけ書くのでは不十分です。
誰を、どのような手続き・条件で、いつ転換するのかを確認できる内容にします。
正社員転換の対象者を明確にする
最初に、誰が正社員転換の対象になるのかを明確にします。
たとえば、
- 有期契約労働者
- 無期契約労働者
- パートタイマー
- 契約社員
など、自社の雇用区分に合わせて対象者を定めます。
対象者を曖昧にしたままでは、実際に転換した労働者が制度上の対象だったのか確認しにくくなります。
就業規則本体で雇用区分を定めている場合は、その名称とも統一してください。
「契約社員」と「有期社員」など、書類によって呼び方が違う状態は避けた方が安全です。
転換の手続き・選考方法を具体的に定める
正社員へ転換するまでの手続きも、具体的に規定します。
たとえば、
- 本人からの申込み
- 所属長からの推薦
- 面接
- 筆記試験
- 人事評価
- 会社による審査
などです。
大切なのは、就業規則に書いた手続きを実際にも行うことです。
規定では「面接を実施する」としているのに、実際には面接をせず転換すると、規定と実態が一致しません。
助成金のために複雑な制度を作る必要はありません。普段の会社運用で無理なく実施できる手続きにしておく方が安全です。
勤続期間・評価など転換要件を客観的に定める
正社員転換の条件は、できるだけ客観的に確認できる内容にします。
たとえば、
- 勤続6か月以上
- 人事評価が一定基準以上
- 勤務成績が良好
- 所定の試験に合格
- 所属長の推薦を受けた者
などです。
「会社が必要と認めた者」だけでは、転換基準が分かりにくくなります。
もちろん、会社ごとに人事制度は異なります。自社で実際に運用できる基準を定めてください。
規定だけ細かくして、現場では守れない状態にしないことも重要です。
正社員への転換時期を明確にする
いつ正社員へ転換するのかも規定しておきます。
たとえば、
- 原則として毎月1日
- 毎年4月1日および10月1日
- 選考合格後の翌月1日
などです。
実施時期が明確なら、雇用契約書の変更日や給与改定日も合わせやすくなります。
助成金申請では日付の整合性が重要なので、就業規則だけでなく、
- 転換通知
- 雇用契約書
- 賃金台帳
などの日付とも一致させましょう。
正社員化コースで就業規則に定める正社員の労働条件

正社員化コースでは、単に契約期間を無期に変えればよいわけではありません。
正社員としての雇用区分や待遇を就業規則等で明確にし、制度上の正社員要件を満たす必要があります。
正社員・契約社員・パートなどの雇用区分を明確にする
まず、正社員と非正規雇用労働者の違いを就業規則で確認できる状態にします。
たとえば、
| 雇用区分 | 主な違いの例 |
| 正社員 | 無期雇用・昇給制度・賞与または退職金制度 |
| 契約社員 | 有期または無期契約・契約更新あり |
| パート | 短時間勤務など |
実際の区分は会社ごとに異なります。
大切なのは、「正社員」という名称だけを付けるのではなく、他の雇用区分と労働条件を区別できることです。
転換後も契約社員とほぼ同じ条件のままでは、正社員化として要件を満たすか確認が必要になります。
正社員には賞与または退職金制度のいずれかを設ける
正社員化コースでは、正社員に賞与または退職金制度のいずれかを適用する必要があります。
「賞与と退職金の両方が必須」というわけではありません。
たとえば、
- 賞与制度あり・退職金なし
- 賞与なし・退職金制度あり
でも、その他の要件を満たせば対象になり得ます。
一方で、規定上存在するだけではなく、正社員に適用される制度であることが確認できる必要があります。
賞与規定については、支給することが原則なのか、完全に会社の任意なのかでも扱いが変わります。
正社員には昇給制度を設ける
正社員には昇給制度も必要です。
就業規則では、
- 昇給時期
- 昇給の判断基準
- 対象者
などが分かる形にしておくと確認しやすくなります。
たとえば、
原則として毎年4月に、勤務成績、能力、会社業績等を勘案して昇給を行う
といった考え方です。
一方、
会社が必要と認めた場合のみ昇給する
という規定だけでは、制度として昇給が予定されているか分かりにくくなります。
自社の実際の賃金制度と一致する内容を定めてください。
多様な正社員にも対象となる労働条件を適用する
勤務地限定正社員や職務限定正社員など、多様な正社員へ転換する場合も、対象となる雇用区分の労働条件を明確にする必要があります。
たとえば、
- 勤務地
- 職務
- 労働時間
- 賃金制度
- 昇給
- 賞与・退職金
などです。
通常の正社員と一部条件が異なるからといって、直ちに対象外になるわけではありません。
ただし、どの正社員区分へ転換したのかが就業規則上分かる必要があります。
キャリアアップ助成金で使える就業規則の記載例と注意点

就業規則は、助成金用の文言をそのままコピーするより、自社で実際に運用できる内容にすることが重要です。
規定と実態が食い違うと、申請時に確認が必要になります。
正社員転換規定は自社の実際の手続きに合わせて作る
正社員転換規定では、次の要素を含めると整理しやすくなります。
有期契約労働者等のうち、一定の要件を満たした者について、本人の申込みに基づき、面接その他会社が定める選考を行ったうえで正社員へ転換する。転換日は原則として毎月1日とする。
これは考え方の一例です。
実際には、自社の雇用区分や選考方法に合わせて調整する必要があります。
特に注意したいのは、「書いた手続きを必ず実施すること」です。
面接を規定したなら面接を行い、試験を規定したなら試験を実施します。
助成金を意識して必要以上に複雑な選考制度を作ると、運用時に自社が守れなくなることがあります。
賞与は原則支給することが分かる規定にする
賞与制度を正社員要件として使う場合は、正社員へ賞与制度が適用されていることを確認できる規定にします。
たとえば、
賞与は原則として年2回、会社の業績および従業員の勤務成績等を勘案して支給する。ただし、著しい業績悪化等により支給しないことがある。
といった考え方があります。
一方、
賞与は会社業績により支給することがある
だけでは、賞与制度が原則として設けられているのか分かりにくくなります。
賞与を正社員要件として利用するなら、制度としての位置付けを明確にしましょう。
昇給は実施時期や客観的な基準を明確にする
昇給規定では、いつ・どのような基準で昇給するのかを確認できる形にします。
たとえば、
昇給は原則として毎年4月に行い、勤務成績、能力、職務内容等を勘案して決定する。
という考え方です。
会社によっては昇給しない年や据え置きになる人もいるでしょう。
その場合も、評価基準や判断方法をある程度明確にしておくと、制度としての昇給を説明しやすくなります。
就業規則と異なる手続きで転換すると支給対象外になる
就業規則を整えていても、実際の正社員転換を規定と異なる方法で行うと問題になります。
たとえば、
- 規定では面接必須なのに面接していない
- 転換日は毎月1日なのに途中の日付で転換
- 勤続1年以上が要件なのに6か月で転換
- 対象者の範囲外の労働者を転換
といったケースです。
就業規則は「申請時に見せる書類」ではなく、実際の転換ルールそのものです。
規定を作った後は、人事担当者や対象労働者にも運用方法を共有しておきましょう。
就業規則は正社員転換のいつまでに作成・改定する?

就業規則の転換制度は、対象労働者を正社員へ転換する前に規定・施行しておく必要があります。
「申請するときまでに作ればよい」わけではありません。
転換制度は正社員転換前に規定・施行する
正社員転換を実施する日より前に、転換制度を整えてください。
たとえば、
- 就業規則を改定
- 施行・周知
- 規定に沿った選考
- 正社員転換
- 転換後の雇用契約開始
という順番です。
就業規則改定と正社員転換を同時進行で進めると、施行日や手続き日が逆転することがあります。
日付は必ず事前に整理しておきましょう。
転換後に規定を追加しても遡って要件を満たせない
正社員へ転換した後から就業規則を改定しても、過去の転換時点へ遡って制度が存在したことにはできません。
たとえば、
- 4月1日:正社員へ転換
- 5月1日:転換規定を施行
- 10月:助成金申請
では、4月1日の転換は5月1日施行の規定に基づいたものではありません。
この順番のミスは、申請直前に修正しにくい部分です。
転換予定がある段階で就業規則を確認してください。
改定した就業規則は労働者に周知してから運用する
就業規則を作成・改定したら、労働者へ周知する必要があります。
周知方法としては、
- 事業場の見やすい場所へ備え付ける
- 書面を交付する
- 社内システム等で閲覧できるようにする
などがあります。
正社員転換制度を別規程にした場合も、対象労働者が内容を確認できる状態にしておく必要があります。
規定を社長や人事担当者だけが保管している状態は避けましょう。
従業員10人未満でもキャリアアップ助成金の就業規則は必要?

従業員10人未満の事業所でも、正社員化コースを利用するなら正社員転換制度を確認できる規定が必要です。
労働基準法上の届出義務と、キャリアアップ助成金の支給要件は分けて考える必要があります。
10人未満でも正社員転換制度を確認できる規定が必要
常時10人未満の事業場では、労働基準法上、就業規則の作成・届出義務がないケースがあります。
しかし、正社員化コースでは正社員転換制度が事前に設けられていることを確認する必要があります。
そのため、
従業員が5人しかいないから就業規則は一切必要ない
という考え方では申請できません。
正社員転換のルールを確認できる書面を整備しておきましょう。
労基署への届出または所定の申立書で対応する
10人未満の事業所では、就業規則の取扱いが10人以上の事業所と異なります。
キャリアアップ助成金の申請では、状況に応じて、
- 労働基準監督署へ届け出た就業規則
- 所定の申立書を添付した規則
などで確認する方法があります。
具体的な添付書類は、申請年度や利用コースの最新様式・チェックリストで確認してください。
10人未満だからといって、就業規則を労基署へ必ず届け出なければキャリアアップ助成金を利用できない、と一律に考える必要はありません。
「届出義務がないから何も作らなくてよい」わけではない
法律上の届出義務がないことと、助成金上の制度整備が不要であることは別です。
正社員化コースでは、
- 正社員転換制度
- 正社員の雇用区分
- 昇給
- 賞与または退職金
などを確認できる必要があります。
小規模事業所では雇用条件を口頭で運用していることもありますが、助成金を利用するなら書面化が必要です。
正社員転換を予定している段階で、現在の雇用ルールを整理しておきましょう。
就業規則本体以外の規程でもキャリアアップ助成金を申請できる?

正社員転換制度は、必ずしも就業規則本体だけに書かなければならないわけではありません。
労働協約や転換規則など、要件を満たす別規程で対応できる場合があります。
転換規則・労働協約など別規程でも対象になり得る
会社によっては、就業規則本体とは別に、
- 正社員転換規程
- 人事規程
- 雇用区分規程
- 労働協約
などを設けていることがあります。
こうした規程であっても、正社員転換制度を確認でき、制度上の要件を満たしていれば対象になり得ます。
ただし、規程名だけで判断されるものではありません。
誰が対象で、どのような条件・手続きで転換するのかを確認できることが必要です。
別規程を利用する場合も労働者への周知が必要
別規程だから社内の管理者だけが見られればよい、というわけではありません。
対象労働者が規定内容を確認できる状態にしておく必要があります。
たとえば、
- 就業規則と一緒に閲覧できるようにする
- 社内ポータルへ掲載する
- 対象者へ書面を交付する
などです。
「規程自体は存在するが、従業員は誰も知らない」という状態にならないようにしてください。
就業規則本体との内容に矛盾がないか確認する
別規程を使う場合に注意したいのが、就業規則本体との矛盾です。
たとえば、
- 就業規則では正社員転換制度なし
- 別規程では転換制度あり
というだけなら整理できることもあります。
一方で、
- 対象となる勤続期間が違う
- 転換時期が違う
- 正社員の定義が違う
- 昇給・賞与条件が違う
といった矛盾があると、どの規定を基準に運用しているのか分かりにくくなります。
関連規程は一式で確認し、内容をそろえておきましょう。
キャリアアップ助成金の就業規則で不支給を防ぐチェックポイント

就業規則に関する不支給を防ぐには、「規定があるか」だけでなく、施行時期・実際の運用・正社員要件まで確認する必要があります。
申請直前では修正できない部分もあるため、正社員転換前に一度チェックしておきましょう。
転換日より前に規定が施行されているか
最初に確認するのは日付です。
少なくとも、
- 就業規則・転換規程の施行日
- 労働者への周知
- 選考日
- 正社員転換日
を並べてください。
基本の順番は、
規定施行・周知 → 選考 → 正社員転換
です。
就業規則の改定日だけでなく、実際の施行日まで確認しましょう。
実際の転換手続きと就業規則が一致しているか
次に、就業規則へ書いた手続きを実際に行ったか確認します。
チェックしたいのは、
- 対象者要件
- 勤続期間
- 面接・試験
- 推薦
- 転換時期
などです。
規定どおり実施したことを確認できる資料も整理しておくと安心です。
面接を行ったのであれば、実施日や結果が分かる記録を残しておく方法もあります。
就業規則を申請用の書類として扱うのではなく、日常的な人事制度として運用することが基本です。
正社員の賞与・退職金・昇給要件を満たしているか
転換規定だけでなく、転換先となる正社員の労働条件も確認します。
チェックしたい項目は、
- 正社員区分が明確か
- 賞与または退職金制度があるか
- 昇給制度があるか
- 対象労働者へ制度が適用されるか
です。
たとえば会社に退職金制度があっても、「管理職のみ対象」で転換した正社員には適用されないなら、その制度をそのまま正社員要件として扱えるとは限りません。
制度の有無だけでなく、対象者まで確認しましょう。
2026年度の最新Q&A・支給申請様式を確認する
最後に、申請年度の公式資料を確認します。
キャリアアップ助成金は年度ごとに制度改正があり、過去の解説記事や就業規則例が現在の要件と一致しないことがあります。
特に確認したいのは、
- 最新パンフレット
- 支給要領
- Q&A
- 支給申請チェックリスト
- 最新様式
です。
過去に作った就業規則をそのまま使う場合も、現在の正社員定義や転換制度の要件を満たしているか再確認してください。
キャリアアップ助成金は正社員転換前に就業規則を整備しよう

キャリアアップ助成金の正社員化コースでは、正社員への転換制度を事前に就業規則等へ定め、その規定に基づいて転換する必要があります。
「正社員へ転換してから助成金申請のために就業規則を整える」という順番では遅くなります。
確認しておきたいのは、
- 転換対象者
- 転換手続き
- 転換要件
- 転換時期
- 正社員と非正規社員の雇用区分
- 賞与または退職金制度
- 昇給制度
- 規定の施行日と周知状況
です。
また、就業規則を正社員転換の6か月前から適用する必要があるわけではありません。転換前に必要な規定を施行し、その制度どおりに運用することが中心になります。
従業員10人未満の事業所でも、正社員化コースを利用するなら転換制度を確認できる規定は必要です。届出義務の有無だけで判断せず、助成金上の取扱いに沿って必要書類を準備してください。
就業規則は助成金申請の直前に確認する書類ではありません。正社員転換の予定が決まった段階で最新の制度要件と照らし合わせ、規定・実際の手続き・労働条件が一致した状態で転換を進めましょう。
