キャリアアップ助成金について、「会社がもらうのか、従業員本人がもらうのか」「個人事業主でも対象になるのか」と疑問に感じる方も多いでしょう。
キャリアアップ助成金を受け取るのは、非正規雇用労働者の正社員化や処遇改善を行い、所定の要件を満たした事業主です。パートや契約社員などの従業員本人が、国から直接受け取る制度ではありません。
ただし、事業主側だけでなく、対象となる労働者側にも条件があります。雇用形態や雇用期間、利用するコースによって要件が変わるため、双方を分けて確認する必要があります。
キャリアアップ助成金は誰がもらえる?

キャリアアップ助成金を受け取るのは、正社員化や処遇改善を行った事業主です。
従業員本人が直接受給する制度ではなく、事業主と対象労働者の両方が所定の要件を満たしたときに支給されます。
助成金を受け取るのは正社員化・処遇改善を行った事業主
キャリアアップ助成金の受給者は事業主です。
対象となる取組には、
- 有期雇用労働者等の正社員化
- 基本給の引き上げ
- 正社員と共通する賃金規定の導入
- 賞与・退職金制度の導入
- 短時間労働者の社会保険加入と収入増加
などがあります。
これらの取組を実施したうえで、利用するコースの支給要件を満たした事業主に助成金が支給されます。
そのため、対象となる従業員がいるだけでは受給できません。会社側が必要な計画や労務管理を整え、制度に沿った取組を実施する必要があります。
パート・契約社員などの従業員本人が直接受け取る制度ではない
パートや契約社員などの従業員本人が、キャリアアップ助成金を直接受け取るわけではありません。
たとえば、契約社員が正社員へ転換されたことで会社に助成金が支給されても、その助成金がそのまま本人へ渡される仕組みではありません。
整理すると次のとおりです。
| 立場 | キャリアアップ助成金との関係 |
| 事業主 | 要件を満たせば助成金を受給する |
| パート・契約社員等 | 正社員化・処遇改善の対象となる |
| 従業員本人 | 国へ直接申請して受け取るわけではない |
従業員側から会社へ「自分を対象に助成金を申請してほしい」と相談することはできますが、制度を利用するかどうかは会社側の取組や要件によって決まります。
事業主と対象労働者の両方が要件を満たす必要がある
キャリアアップ助成金は、会社側だけ条件を満たしていれば受給できる制度ではありません。
たとえば正社員化コースなら、事業主が雇用保険適用事業所であり、キャリアアップ計画などを整えていても、対象労働者の雇用期間や転換条件が要件を満たしていなければ支給対象になりません。
逆に、労働者側が対象条件を満たしていても、会社側に労働保険料の未納や必要書類の不備などがあれば受給できないことがあります。
そのため、申請前には、
- 事業主の共通要件
- 対象労働者の要件
- 利用するコース固有の要件
をそれぞれ確認しましょう。
キャリアアップ助成金をもらえる事業主の条件

キャリアアップ助成金を受給するには、雇用保険適用事業所であることやキャリアアップ計画を作成・提出することなど、事業主側の共通要件を満たす必要があります。
コースごとの条件を見る前に、まず会社側の基本要件を確認しましょう。
雇用保険適用事業所の事業主であること
キャリアアップ助成金を受給するには、雇用保険適用事業所の事業主であることが基本です。
従業員を雇用していても、必要な雇用保険の手続きが行われていなければ、助成金の申請に影響します。
特に初めて従業員を雇用する事業主は、
- 雇用保険適用事業所の手続き
- 対象労働者の雇用保険加入
- 労働保険関係の届出
などが適切に行われているか確認しましょう。
助成金だけを個別に考えるのではなく、日常的な労務管理が整っていることが前提です。
事業所ごとにキャリアアップ管理者を置くこと
キャリアアップ助成金を利用する事業主は、事業所ごとにキャリアアップ管理者を配置します。
キャリアアップ管理者は、非正規雇用労働者のキャリアアップに関する取組を管理する担当者です。
必ずしも助成金専任の担当者を新しく雇う必要はありません。事業所内の担当者を選任して対応できます。
ただし、単に名前だけ決めればよいのではなく、キャリアアップ計画や実際の取組内容を把握できる体制にしておく必要があります。
対象労働者のキャリアアップ計画を作成・提出すること
助成金を利用するには、対象労働者に関するキャリアアップ計画を作成し、所管の都道府県労働局へ提出します。
計画には、
- 対象となる労働者
- キャリアアップの目標
- 計画期間
- 実施予定の取組
などを記載します。
現在は、計画について「認定を受ける」というより、所定の様式で作成して提出する仕組みです。
正社員化や賃金改定などの取組後に慌てて準備するのではなく、実施前に必要な手続きを確認しておきましょう。
賃金台帳・出勤簿などの書類を整備していること
事業主は、対象労働者の雇用条件や賃金、勤務状況を確認できる書類を整備しておく必要があります。
代表的な書類は、
- 賃金台帳
- 出勤簿・タイムカード
- 雇用契約書
- 労働条件通知書
- 就業規則
- 給与明細
などです。
申請時には、実際に正社員化や処遇改善を行ったことをこれらの資料で確認されます。
たとえば、正社員転換日と雇用契約書の内容が一致していない、賃金台帳と申請書の数字が異なるといった状態は避けなければなりません。
キャリアアップ計画期間内に正社員化・処遇改善を実施すること
キャリアアップ助成金は、作成した計画に沿って、計画期間内に対象となる取組を実施する必要があります。
たとえば正社員化コースなら、計画期間外に正社員へ転換しても、その取組を計画に基づくものとして扱えないことがあります。
賃金規定の改定や賞与・退職金制度の導入も同様です。
「とりあえず取組を実施して、後から計画を合わせる」という進め方は避けましょう。
取組予定日と計画期間を確認し、必要に応じて変更手続きを行います。
会社・法人・個人事業主のどこまで対象になる?

キャリアアップ助成金は、株式会社などの一般企業だけが対象ではありません。
個人事業主や医療法人、社会福祉法人、NPO法人なども、事業主として共通要件を満たせば対象になり得ます。
中小企業だけでなく大企業も対象になる
キャリアアップ助成金は、中小企業だけの制度ではありません。
大企業でも要件を満たせば利用できます。
ただし、多くのコースでは中小企業と大企業で支給額が異なります。
たとえば正社員化コースでは、中小企業の方が大企業より高い助成額に設定されています。
そのため、「対象になるか」と「いくらもらえるか」は分けて確認しましょう。
大企業だから対象外というわけではありませんが、支給額は企業規模によって変わります。
個人事業主も要件を満たせば対象になる
個人事業主も、雇用保険適用事業所などの要件を満たしていればキャリアアップ助成金の対象になり得ます。
法人化していること自体は必須条件ではありません。
たとえば個人で店舗や事務所を経営し、パートや契約社員を雇用している場合でも、正社員化や処遇改善の取組が制度要件を満たせば申請できます。
一方、個人事業主本人が自分自身を正社員化して受け取るような制度ではありません。
あくまで、雇用する労働者について行った取組を支援する助成金です。
医療法人・社会福祉法人・NPO法人なども対象になり得る
一般企業以外の法人でも、雇用保険適用事業所などの要件を満たせば対象になり得ます。
たとえば、
- 医療法人
- 社会福祉法人
- NPO法人
- 公益法人
などです。
「株式会社ではないから使えない」と判断する必要はありません。
ただし、法人形態にかかわらず、雇用保険、キャリアアップ計画、対象労働者、労務管理などの共通要件は確認されます。
キャリアアップ助成金の対象になる従業員

キャリアアップ助成金の対象となる労働者は、有期雇用労働者、短時間労働者、派遣労働者などが中心です。
ただし、対象条件はコースごとに異なり、「非正規社員なら全員対象」というわけではありません。
有期雇用労働者・パートなどの短時間労働者が主な対象
キャリアアップ助成金は、いわゆる非正規雇用労働者のキャリアアップを支援する制度です。
主な対象として、
- 契約社員
- 有期雇用労働者
- パートタイマー
- アルバイト
- 短時間労働者
などが挙げられます。
ただし、社内で「パート」と呼んでいるだけで自動的に対象になるわけではありません。
実際の雇用契約や週所定労働時間、雇用期間などをもとに、利用するコースの条件と照らし合わせる必要があります。
派遣労働者は直接雇用などコースの条件を満たせば対象
派遣労働者も、利用するコースの条件を満たせば対象になることがあります。
たとえば正社員化支援では、派遣先で直接雇用へ転換する取組などが対象となる制度があります。
ただし、
派遣社員だから自動的にキャリアアップ助成金の対象になる
ということではありません。
派遣元・派遣先の関係や直接雇用の条件、対象期間などを確認する必要があります。
派遣労働者を正社員化する予定がある場合は、転換前に該当コースの要件を確認しましょう。
正社員化コースは雇用期間などの対象要件を確認する
正社員化コースでは、対象労働者の雇用期間や転換前後の雇用形態などが確認されます。
単に、
契約社員を正社員に変更した
という事実だけで支給されるわけではありません。
確認したい内容には、
- 転換前の雇用形態
- 雇用されていた期間
- 転換後の正社員区分
- 転換後の賃金
- 就業規則上の転換制度
などがあります。
自社で「正社員」と呼んでいても、制度上求められる正社員の条件を満たさなければ対象になりません。
重点支援対象者に該当すると正社員化コースの支給額が変わる
2026年度の正社員化コースでは、対象労働者が重点支援対象者に該当するかどうかで支給額が変わります。
中小企業が有期雇用労働者を正社員化する場合、
- 重点支援対象者:80万円
- それ以外:40万円
が基本です。
重点支援対象者には、一定期間以上有期雇用されている労働者や、一定条件を満たす派遣労働者、母子家庭の母等、人材開発支援助成金の特定訓練修了者などが含まれます。
つまり、「誰がもらえる?」という疑問には二つの意味があります。
助成金を受け取るのは事業主ですが、いくら受け取れるかは対象労働者の区分によって変わるということです。
キャリアアップ助成金をもらえない事業主・対象外になる人

キャリアアップ助成金を活用するには、事前に「キャリアアップ計画書」を作成し、労働局に提出する必要があります。
キャリアアップ助成金は、基本要件やコースごとの条件を満たさなければ受給できません。
会社側の問題で不支給になるケースと、対象労働者側の条件を満たさないケースを分けて確認しましょう。
労働保険料を納入していない事業主は受給できない
労働保険料の納付状況に問題がある事業主は、雇用関係助成金の支給対象外になることがあります。
キャリアアップ助成金だけの要件を満たしていても、共通する支給要件を満たしていなければ受給できません。
申請前には、
- 労働保険料の納付状況
- 必要な申告
- 雇用保険の適用状況
を確認しておきましょう。
特に納付漏れを放置したまま助成金申請へ進まないよう注意してください。
一定の労働関係法令違反がある事業主は受給できない
一定期間内に労働関係法令の違反がある事業主は、助成金の支給対象外となることがあります。
キャリアアップ助成金は、従業員の処遇改善を支援する制度です。
そのため、労働時間、賃金、雇用保険などに重大な法令違反がある状態で、助成金だけを利用することはできません。
正社員化や賃上げの制度設計とあわせて、通常の労務管理も確認しておく必要があります。
雇用保険適用事業所でなくなった事業主は受給できない
支給申請時や支給決定時に雇用保険適用事業主でなくなっている場合、助成金を受給できないことがあります。
たとえば、事業を廃止して雇用保険適用事業所ではなくなった場合などです。
助成金は、取組を実施した時点だけで判断されるわけではありません。
申請から支給決定までの間も、事業主としての支給要件を満たしている必要があります。
コースごとの雇用期間・賃金・転換条件を満たさない労働者は対象外
対象労働者が有期雇用やパートだからといって、すべてのコースを利用できるわけではありません。
たとえば正社員化コースでは、転換前後の雇用期間や賃金条件などを確認します。
賃金規定等改定コースなら、対象労働者に適用する基本給の引上げ率などが条件です。
つまり、同じ労働者でも、
正社員化コースでは対象
別のコースでは対象外
となることがあります。
必ず利用予定のコース単位で判断しましょう。
正社員化コースでは一部の新規学卒者などが対象外になる
正社員化コースでは、一定の新規学卒者などが対象外となります。
たとえば、申請事業主に新規学卒者として雇い入れられてから一定期間を経過していない労働者は、正社員化コースの支給対象になりません。
若年者を有期雇用で採用し、すぐ正社員へ転換すれば助成金が受けられる、と単純に考えないようにしてください。
採用時期や雇入れの経緯まで含めて対象条件を確認する必要があります。
自社がキャリアアップ助成金をもらえるか確認する方法

自社がキャリアアップ助成金の対象になるかは、事業主側、対象労働者側、利用するコースの3段階で確認すると分かりやすくなります。
取組後に条件を確認するのではなく、正社員化や処遇改善を行う前にチェックしましょう。
1.雇用保険適用事業所か確認する
最初に、事業所が雇用保険適用事業所になっているか確認します。
あわせて、
- 労働保険料の納付状況
- 対象労働者の雇用保険加入
- 労務関係書類の整備状況
なども確認しておくと、その後の申請準備が進めやすくなります。
初めて助成金を利用する事業主は、キャリアアップ助成金特有の条件だけでなく、雇用関係助成金の共通要件も確認してください。
2.対象労働者の雇用形態・雇用期間を確認する
次に、正社員化や処遇改善の対象となる労働者を確認します。
チェックしたいのは、
- 有期雇用か
- 短時間労働者か
- 派遣労働者か
- いつから雇用しているか
- 現在の賃金はいくらか
などです。
正社員化コースでは雇用期間が重要になり、賃金規定等改定コースでは基本給などの条件が中心になります。
対象者ごとに雇用状況を整理しておきましょう。
3.利用するコースの対象要件を確認する
事業主と労働者の基本情報を整理したら、実施したい取組に合うコースの条件を確認します。
たとえば、
- 正社員へ転換する
- 基本給を引き上げる
- 賞与・退職金制度を導入する
- 社会保険加入に合わせて労働時間を延長する
などで利用するコースは異なります。
同じキャリアアップ助成金でも要件は共通ではありません。
コースの名称だけを見て判断せず、対象年度の支給要領を確認しましょう。
4.キャリアアップ計画を取組前に提出する
利用するコースと対象者が決まったら、キャリアアップ計画を作成して提出します。
計画には、誰に対して、どのような正社員化・処遇改善を行うのかを記載します。
特に避けたいのは、
すでに正社員へ転換したあとで助成金を知った
という状態です。
取組の実施時期と計画提出の順番を確認し、制度に沿って進めましょう。
5.不明点は都道府県労働局などへ確認する
対象になるか判断が難しいときは、自己判断で取組を進めず、所管の都道府県労働局などへ確認しましょう。
特に、
- この従業員は重点支援対象者か
- 個人事業主でも申請できるか
- この正社員区分で対象になるか
- 過去の雇用期間をどう数えるか
- 他の助成金と併用できるか
といった内容は、個別条件によって判断が変わります。
取組後では修正できない条件もあるため、疑問がある場合は実施前に確認する方が安全です。
キャリアアップ助成金は事業主と対象労働者の両方の条件を確認しよう|まずは対象かどうかを確認しよう

キャリアアップ助成金を受け取るのは、正社員化や処遇改善を行った事業主です。
パートや契約社員などの従業員本人が直接受給する制度ではありません。一方で、助成金の対象となる取組には従業員側の条件もあるため、会社側だけ確認すればよいわけではありません。
自社が対象になるか確認するときは、
- 雇用保険適用事業所か
- キャリアアップ管理者を置いているか
- キャリアアップ計画を提出できているか
- 対象労働者の雇用形態・雇用期間は条件を満たすか
- 利用予定のコース固有の条件を満たすか
を順番に確認してください。
個人事業主や医療法人、NPO法人なども要件を満たせば対象になり得ますが、法人形態だけで受給可否は決まりません。
また、正社員化コースでは重点支援対象者かどうかによって支給額も変わります。「誰がもらえるか」と「いくらもらえるか」を分けて考え、実際の取組前に最新の支給要件を確認しましょう。
