キャリアアップ助成金は法人だけの制度ではありません。個人事業主でも、従業員を雇用し、雇用保険やキャリアアップ計画などの要件を満たせば利用できます。
ただし、自分一人で事業をしている場合や、個人事業主本人を対象労働者として申請することはできません。パートや契約社員を雇っている場合は、雇用形態や雇用保険、利用するコースの条件を確認する必要があります。
個人事業主が利用する際に特に迷いやすい、従業員1人でも対象になるのか、家族従業員はどう扱うのか、社会保険や就業規則は必要なのかといった点まで整理して確認していきましょう。
個人事業主でもキャリアアップ助成金は利用できる?

個人事業主でも、キャリアアップ助成金の要件を満たせば申請できます。法人化していること自体は条件ではありません。
ただし、助成金の対象となる従業員を雇用していることが前提です。
法人化していなくても要件を満たせば申請できる
キャリアアップ助成金は、法人だけを対象とした制度ではありません。
個人事業主でも、
- 雇用保険適用事業所である
- 対象となる従業員を雇用している
- キャリアアップ管理者を配置している
- キャリアアップ計画を提出している
- 利用するコースの要件を満たしている
といった条件を満たせば申請できます。
たとえば、個人で飲食店や小売店、美容室、事務所などを経営し、パートや契約社員を雇用している場合でも対象になり得ます。
法人か個人かよりも、事業主として制度要件を満たしているかが判断基準です。
従業員がいない一人事業主は基本的に対象にならない
自分一人だけで事業をしている個人事業主は、基本的にキャリアアップ助成金を利用する場面がありません。
キャリアアップ助成金は、有期雇用労働者や短時間労働者などの正社員化・処遇改善を行った事業主を支援する制度だからです。
整理すると次のようになります。
| 事業の状況 | 利用の考え方 |
| 自分一人だけで事業 | 対象となる従業員がいないため基本的に利用できない |
| パートを雇用 | 条件を満たせば対象候補 |
| 契約社員を雇用 | 正社員化などで対象候補 |
| アルバイトを雇用 | 雇用条件によって対象候補 |
| 家族を従業員として雇用 | 労働者性や雇用保険などを個別確認 |
「個人事業主なら誰でも申請できる」のではなく、雇用している労働者に対して対象となる取組を行うことが前提です。
個人事業主本人を対象労働者として申請することはできない
個人事業主自身を対象に、キャリアアップ助成金を申請することはできません。
たとえば、
個人事業主として働いている自分を正社員扱いに変更して正社員化コースを利用する
といった使い方はできません。
助成金を受け取る側は事業主であり、正社員化や処遇改善の対象となるのは事業主が雇用している労働者です。
そのため、個人事業主本人の所得や待遇改善を目的とした制度ではありません。
個人事業主がキャリアアップ助成金を受ける主な条件

個人事業主がキャリアアップ助成金を利用するには、雇用保険適用事業所であることや、キャリアアップ計画を取組前に提出することなどの条件があります。
法人と比べて特別に簡略化されるわけではなく、基本的には同じ制度要件を満たす必要があります。
雇用保険適用事業所であること
キャリアアップ助成金を利用するには、雇用保険適用事業所の事業主であることが基本です。
個人事業主でも、雇用保険の加入条件を満たす従業員を雇えば、必要な手続きを行う必要があります。
確認したいのは、
- 雇用保険適用事業所になっているか
- 対象従業員が雇用保険の被保険者となっているか
- 必要な資格取得手続きが済んでいるか
などです。
「個人事業だから雇用保険は関係ない」と考えないようにしてください。
初めて従業員を雇う場合は、助成金だけでなく労働保険・雇用保険の手続きも確認しておきましょう。
キャリアアップ管理者を配置すること
キャリアアップ助成金を利用する事業主は、事業所ごとにキャリアアップ管理者を置きます。
キャリアアップ管理者は、有期雇用労働者等の正社員化や処遇改善に関する取組を管理する担当者です。
小規模な個人事業では、専任スタッフを置けないこともあります。
その場合でも、要件を満たす形で事業所内の担当者を定めて対応します。
単に名前だけ決めるのではなく、キャリアアップ計画や対象従業員の状況を把握できる体制にしておく必要があります。
キャリアアップ計画を取組前に提出すること
キャリアアップ計画は、正社員化や賃上げなどの取組を行う前に提出する必要があります。
2026年度では、原則として取組日の前日までに所管の都道府県労働局へ提出します。
計画には、
- 対象となる従業員
- キャリアアップの目標
- 計画期間
- 実施予定の取組
などを記載します。
個人事業主が陥りやすいのは、
先にパートを正社員にしたあとで助成金を知った
というケースです。
取組後から計画を作っても間に合わないため、転換日や賃金改定日を決める前に制度を確認してください。
賃金台帳・出勤簿・雇用契約書などを整備すること
個人事業主でも、対象従業員の賃金や勤務状況を確認できる書類を整備する必要があります。
代表的なものは、
- 雇用契約書・労働条件通知書
- 賃金台帳
- 出勤簿・タイムカード
- 給与明細
- 就業規則・賃金規定
- 雇用保険関係書類
です。
小規模事業では、給与振込記録や簡単な勤務表だけで管理していることもあるでしょう。
しかし助成金申請では、転換前後の雇用条件や賃金、勤務実態を客観的に確認できる資料が必要です。
申請直前に帳尻を合わせるのではなく、雇用開始時から正確に管理しておきましょう。
利用するコースごとの対象要件を満たすこと
キャリアアップ助成金は、共通条件を満たせばどのコースでも利用できるわけではありません。
たとえば、
- 正社員化コース
- 賃金規定等改定コース
- 賞与・退職金制度導入コース
- 短時間労働者労働時間延長支援コース
では、それぞれ対象となる取組や従業員の条件が異なります。
正社員化コースなら雇用期間や転換後の賃金、賃金規定等改定コースなら基本給の引上げ率などを確認します。
個人事業主専用のコースがあるわけではなく、法人と同じコースから自社に合うものを選びます。
個人事業主が雇う従業員は誰が対象になる?

個人事業主が雇う契約社員やパート、アルバイトも、各コースの条件を満たせばキャリアアップ助成金の対象になり得ます。
従業員の人数だけで決まるわけではなく、雇用形態や労働時間、雇用保険、事業主との関係などを確認します。
契約社員・パート・アルバイトも条件を満たせば対象になる
キャリアアップ助成金の主な対象は、有期雇用労働者や短時間労働者などの非正規雇用労働者です。
個人事業主が雇用する、
- 契約社員
- パートタイマー
- アルバイト
- 有期雇用労働者
なども対象候補になります。
ただし、「パートという名称だから対象」とは限りません。
実際の雇用契約や週所定労働時間、雇用期間などをもとに、利用するコースの条件と照らし合わせる必要があります。
たとえば正社員化コースなら、転換前の雇用形態や雇用期間、転換後の労働条件まで確認されます。
従業員1人だけでも人数だけを理由に対象外にはならない
従業員が1人だけだからという理由で、キャリアアップ助成金の対象外になるわけではありません。
小規模な個人事業主でも、対象従業員が1人いて、その人に対して制度要件を満たす正社員化や処遇改善を行えば申請できる余地があります。
たとえば、
パート従業員1人を正社員へ転換する
といった場合でも、事業主・労働者双方の要件を満たせば正社員化コースを検討できます。
一方で、従業員数が少ないから書類管理や計画提出が不要になるわけではありません。
規模にかかわらず、必要な手続きを行う必要があります。
家族従業員は労働者性や雇用保険の適用状況を確認する
配偶者や家族を従業員として雇っている場合は、一般の従業員と同じように一律判断できません。
確認したいのは、
- 実際に労働者として勤務しているか
- 他の従業員と同様に指揮命令を受けているか
- 賃金が適切に支払われているか
- 雇用保険の被保険者となっているか
- 利用するコースの対象労働者要件を満たすか
などです。
家族だから必ず対象外というわけではありません。
一方、家族間の手伝いに近い働き方で、労働者性が認められない場合には助成金の対象として扱えません。
青色事業専従者など税務上の区分だけで判断せず、雇用実態を確認してください。
社会保険は事業所・労働条件・利用コースに応じて確認する
キャリアアップ助成金を使うために、すべての個人事業主が一律に健康保険・厚生年金へ加入しなければならないわけではありません。
まず共通要件として確認するのは雇用保険適用事業所であることです。
健康保険・厚生年金については、
- 事業所が強制適用事業所に該当するか
- 従業員の労働時間・賃金が加入要件を満たすか
- 正社員化後に加入要件を満たすか
- 利用するコースで社会保険加入が要件になっているか
などを個別に確認します。
たとえば短時間労働者労働時間延長支援コースでは、新たな社会保険加入と収入増加が制度の中心です。
「個人事業主だから社会保険不要」「助成金には必ず社会保険加入が必要」と一律に判断しないようにしましょう。
個人事業主が利用しやすいキャリアアップ助成金のコース

個人事業主専用のコースはありません。法人と同じコースの中から、従業員に対して行いたい取組に合う制度を選びます。
特に利用場面をイメージしやすいのは、正社員化、賃上げ、賞与・退職金制度、社会保険加入と労働時間延長に関するコースです。
契約社員やパートを正社員化するなら正社員化コース
契約社員やパートを正社員へ転換したい場合は、正社員化コースを確認します。
2026年度の中小企業区分では、有期雇用から正社員へ転換した場合、
- 重点支援対象者:80万円
- それ以外:40万円
が基本です。
無期雇用から正社員への転換では、重点支援対象者40万円、それ以外20万円となります。
個人事業主でも、中小企業の区分や対象者の条件を満たせば同様に支給額を判断します。
ただし、単に呼び方を「正社員」に変更するだけでは対象になりません。
就業規則上の正社員区分や雇用条件、賃金など、制度で定められた要件を満たす必要があります。
基本給を引き上げるなら賃金規定等改定コース
パートや契約社員の基本給を引き上げたい場合は、賃金規定等改定コースが候補です。
対象となる有期雇用労働者等の基本給に関する賃金規定を3%以上増額改定し、実際に適用します。
個人事業主でも、
パートを正社員化する予定はないが、時給や基本給を見直したい
という場合に検討できます。
一人だけの給与を任意に上げればよい制度ではありません。
賃金規定等を整備し、その内容に基づいて対象者の賃金を引き上げる必要があります。
賞与・退職金制度を導入するなら賞与・退職金制度導入コース
非正規雇用労働者向けに賞与や退職金制度を新設したい場合は、賞与・退職金制度導入コースを確認します。
たとえば、
- パートにも賞与制度を設ける
- 契約社員向けに退職金制度を作る
といった取組です。
小規模事業でも利用を検討できますが、制度を口頭で決めるだけでは足りません。
就業規則などに制度を定め、実際に賞与の支給や退職金の積立てを行う必要があります。
導入後も継続できる制度かどうか、資金面も含めて検討しましょう。
社会保険加入と労働時間延長を進めるなら短時間労働者労働時間延長支援コース
パートなどの短時間労働者を新たに社会保険へ加入させ、勤務時間と収入を増やす場合は、短時間労働者労働時間延長支援コースが候補です。
いわゆる「年収の壁」に対応する取組を支援する制度です。
社会保険へ加入させるだけではなく、所定労働時間の延長や賃上げなど、収入を増やす取組が求められます。
個人事業主でも、事業所と対象労働者が制度要件を満たせば利用できます。
社会保険の加入条件や助成額は取組内容によって異なるため、実施前に最新要件を確認してください。
個人事業主がキャリアアップ助成金を申請するときの注意点

個人事業主が申請するときは、従業員数が少ないからといって手続きが簡略化されるとは限りません。
特に就業規則、取組前の計画提出、社会保険の適用、古い制度情報には注意が必要です。
従業員10人未満でも就業規則・制度規定の整備が必要になる
常時10人未満の労働者を使用する事業場では、労働基準法上の就業規則作成・届出義務がないことがあります。
しかし、キャリアアップ助成金を利用する場合は別です。
正社員化コースなら正社員転換制度、賞与・退職金制度導入コースなら対象となる制度など、助成金上必要な規定を整備する必要があります。
10人未満の事業所では、利用するコースや規程の内容に応じて、労働基準監督署への届出や所定の申立書による対応を確認します。
「10人未満だから就業規則は一切いらない」と考えないようにしてください。
正社員化や賃上げを実施してから制度を探さない
キャリアアップ助成金は、先に取組をして後から申請する制度ではありません。
キャリアアップ計画を取組前に提出するなど、実施前に済ませる手続きがあります。
たとえば、
パートを正社員にして給与も変更したあとで、正社員化コースを知った
という状態では、助成対象として進められないことがあります。
まず助成金の対象条件を確認し、必要な計画や規程を整えてから取組を実施しましょう。
「個人事業主だから社会保険不要」と一律に判断しない
個人事業主の社会保険適用は、事業所の業種や従業員数、法人か個人か、労働者の勤務条件などによって異なります。
そのため、
個人事業主=社会保険の対象外
とは限りません。
また、キャリアアップ助成金でも利用するコースによって社会保険との関係が変わります。
特に正社員化や短時間労働者の労働時間延長を行うと、対象者が新たに加入条件を満たすことがあります。
取組後の労働条件まで含めて確認してください。
古い支給額・旧コースの情報を現在の申請に使わない
キャリアアップ助成金は制度改正が多いため、数年前の記事に掲載されている支給額やコース名を現在の申請に使わないよう注意してください。
たとえば正社員化コースでは、以前使われていた57万円などの支給額は現在の制度と異なります。
社会保険適用時処遇改善コースについても、現在の新規取組では別のコースを確認する必要があります。
検索した情報がキャリアアップ助成金について書かれているだけでなく、
自社が取組を行う年度の制度か
まで確認しましょう。
助成金を前提に無理な正社員化をしない
支給額が大きいからという理由だけで、無理に正社員化を進めるのは避けた方がよいです。
正社員化すれば、
- 労働時間
- 賃金
- 社会保険
- 賞与
- 雇用管理
など、その後の人件費や労務管理にも影響します。
助成金は一時的な支援ですが、正社員としての雇用は継続します。
将来の人件費を支払えるか、本人が正社員化を希望しているか、事業の働き方に合うかを確認したうえで利用しましょう。
個人事業主がキャリアアップ助成金を申請する流れ

個人事業主が申請する場合も、基本的な流れは法人と同じです。
対象者とコースを確認し、キャリアアップ計画を提出してから制度整備・取組を進め、所定の期間を経た後に支給申請します。
1.対象となる従業員と利用コースを確認する
最初に、助成対象としたい従業員の状況を整理します。
確認したいのは、
- 雇用形態
- 雇用期間
- 週所定労働時間
- 現在の賃金
- 雇用保険の加入状況
- 家族従業員の場合は労働者性
などです。
そのうえで、
- 正社員化
- 基本給引上げ
- 賞与・退職金制度導入
- 社会保険加入と労働時間延長
など、自社が実施したい取組に合うコースを選びます。
2.キャリアアップ計画を取組前に提出する
利用するコースが決まったら、キャリアアップ計画を作成して所管の都道府県労働局へ提出します。
2026年度では、原則として取組日の前日までに提出する必要があります。
計画と実際の取組内容がずれないよう、
- 対象者
- 実施予定日
- 転換・処遇改善の内容
- 計画期間
を整理しておきましょう。
途中で内容を変更する場合は、必要な変更手続きも確認してください。
3.就業規則・賃金規定などを整備する
次に、利用するコースに必要な制度を就業規則や賃金規定などへ反映します。
正社員化コースなら、正社員への転換方法や正社員の労働条件を明確にします。
賃金規定等改定コースなら、基本給の新しい基準を整備します。
従業員10人未満の事業所でも、助成金上必要な規程がなくてよいわけではありません。
実際に行う取組と規程内容が一致していることを確認しましょう。
4.正社員化・賃上げなどの取組を実施する
必要な準備を終えたら、キャリアアップ計画に沿って取組を実施します。
正社員化なら雇用契約を切り替え、賃上げなら改定した賃金規定を対象者へ適用します。
この段階から、
- 雇用契約書
- 賃金台帳
- 出勤簿
- 給与明細
などの記録を正確に残します。
助成金の要件と実際の雇用実態が一致していることが必要です。
5.必要書類をそろえて支給申請する
所定の取組期間や賃金支払いを終えたら、支給申請を行います。
必要書類は利用するコースによって異なりますが、
- 支給申請書
- キャリアアップ計画関係書類
- 就業規則
- 雇用契約書
- 賃金台帳
- 出勤簿
などが中心です。
申請期限を過ぎると、取組が正しくても受給できません。
対象者が複数いる場合は、それぞれの転換日や申請期限を一覧で管理しておくと漏れを防ぎやすくなります。
個人事業主も従業員を雇用していればキャリアアップ助成金を検討できる

キャリアアップ助成金は法人限定ではなく、個人事業主も利用できます。
ただし、対象となる従業員を雇用し、雇用保険適用事業所であることやキャリアアップ計画の提出、コースごとの要件を満たす必要があります。
特に個人事業主は、
- 一人で事業をしているだけでは対象にならない
- 事業主本人は対象労働者にならない
- 従業員1人でも条件を満たせば対象候補になる
- 家族従業員は労働者性や雇用保険を確認する
- 社会保険は事業所・労働条件・コースごとに判断する
- 10人未満でも助成金上必要な制度規定を整える
といった点を先に確認しておきましょう。
また、正社員化や賃上げを行ってから制度を探すのではなく、取組前にキャリアアップ計画や就業規則などを整える必要があります。
自社が対象になるか判断しにくい場合は、取組を始める前に都道府県労働局などへ確認し、最新年度の制度要件に沿って進めてください。
メタディスクリプション:
キャリアアップ助成金は個人事業主でも利用できます。従業員ゼロや本人は対象になるのか、パート・家族従業員の条件、雇用保険・社会保険、就業規則、正社員化コース、申請の流れや注意点まで解説します。
