雇用調整助成金とは、売上減少など経済上の理由によって事業活動を縮小せざるを得ない事業主が、従業員を解雇せず、休業・教育訓練・出向によって雇用を維持した場合に、その費用の一部を助成する制度です。
2026年の通常制度では、休業や教育訓練を実施した場合の助成率は、原則として中小企業が3分の2、大企業が2分の1です。
1人1日あたりの助成額には上限があり、2026年8月以降は9,110円となっています。教育訓練を実施した場合には、条件に応じて1人1日あたり1,200円または1,800円が加算されます。
ただし、売上が落ちた企業なら自動的に受給できるわけではありません。
売上高などの生産指標、雇用量、休業規模、労使協定など複数の支給要件を満たしたうえで、原則として休業等を開始する前に計画届を提出する必要があります。
この記事では、2026年の雇用調整助成金について、対象となる事業主、助成率・上限額、休業・教育訓練・出向の違い、申請方法まで解説します。
雇用調整助成金とは

雇用調整助成金は、景気悪化や取引量の減少など、経済上の理由によって事業活動を縮小した事業主が、従業員の雇用を維持するために利用できる助成制度です。
厚生労働省が実施する雇用関係助成金の一つであり、事業主が従業員を休業させた場合の休業手当などの一部が助成されます。
経済上の理由で事業を縮小した企業の雇用維持を支援する制度
雇用調整助成金の目的は、事業活動が縮小した企業に対して人件費を直接補填することではありません。
従業員を解雇する代わりに、
- 一時的に休業させる
- 教育訓練を実施する
- 他社へ一時的に出向させる
といった雇用調整を行い、雇用を維持した事業主を支援します。
そのため、
売上が減ったので通常どおり勤務している従業員の給与を助成してほしい
という利用方法はできません。
実際に休業・教育訓練・出向などの措置を実施する必要があります。
休業・教育訓練・出向にかかる事業主負担の一部が助成される
雇用調整助成金の対象となる措置は、大きく次の3つです。
| 措置 | 内容 |
| 休業 | 従業員を一時的に休ませ、休業手当を支払う |
| 教育訓練 | 通常業務の代わりに職業に関する教育訓練を実施する |
| 出向 | 従業員を一定期間、別の事業所で勤務させる |
休業や教育訓練では、事業主が負担した休業手当等を基礎として助成額が計算されます。
教育訓練については、通常の助成額に加えて教育訓練加算が設けられています。
コロナ特例は終了し現在は通常制度が基本
雇用調整助成金というと、新型コロナウイルス感染症の影響を受けた企業向けの特例措置を思い浮かべる人もいるでしょう。
コロナ禍では、
- 助成率の引き上げ
- 1日あたり上限額の引き上げ
- 計画届に関する特例
など、通常制度より大幅に拡充された時期がありました。
しかし、2026年現在は基本的に通常制度へ戻っています。
そのため、過去の記事などに掲載されている「中小企業は10分の10」「上限15,000円」といった数字を、現在の制度にそのまま当てはめることはできません。
雇用調整助成金の対象になる事業主

雇用調整助成金を利用するには、雇用保険の適用事業主であることに加えて、生産指標や雇用量など一定の要件を満たす必要があります。
単に業績が悪化したという理由だけでは支給対象になりません。
最近3か月の売上高等が前年同期比10%以上減少している
代表的な要件の一つが、生産指標の低下です。
原則として、最近3か月間の売上高や生産量などの月平均値が、前年同期と比べて10%以上減少している必要があります。
たとえば、
- 前年4〜6月の平均売上:1,000万円
- 今年4〜6月の平均売上:850万円
であれば15%減少しているため、生産指標だけを見ると基準を満たすことになります。
ただし、売上高等の減少だけで受給が確定するわけではありません。
他の支給要件もあわせて確認します。
雇用保険被保険者数などが一定以上増加していない
雇用調整助成金では、事業活動を縮小している一方で大量に人員を増やしている企業を対象としないため、雇用量についても要件があります。
最近3か月間の雇用保険被保険者数と受け入れている派遣労働者数の月平均について、前年同期と比較します。
中小企業の場合、前年同期より10%を超え、かつ4人以上増加している場合などは要件を満たさない可能性があります。
売上だけではなく、従業員数の推移も確認しておきましょう。
雇用保険適用事業主として労使協定に基づき雇用調整を行う
休業や教育訓練を実施する場合は、会社が一方的に決めるのではなく、労使間で内容を協議し、労使協定を締結します。
協定では、
- 対象者
- 休業期間
- 休業日
- 休業手当の支払い基準
などを定めます。
申請時には、休業等の内容が労使協定や実際の勤務記録と一致しているか確認されます。
休業・教育訓練は一定の規模以上で実施する
一部の従業員をわずかに休ませれば対象になるわけではありません。
雇用調整助成金では、休業または教育訓練を一定規模以上で行う「休業等規模要件」があります。
判定基礎期間内の対象労働者について、所定労働延日数に対する休業・教育訓練の延日数が一定割合以上であることが必要です。
中小企業と大企業では基準が異なるため、実際の申請では最新のガイドブックで確認しましょう。
雇用調整助成金はいくらもらえる?

2026年の通常制度では、企業規模によって助成率が異なります。
基本的な内容は次のとおりです。
| 項目 | 2026年通常制度 |
| 中小企業の助成率 | 原則2/3 |
| 大企業の助成率 | 原則1/2 |
| 1人1日あたり上限 | 9,110円 |
| 教育訓練加算 | 1,200円または1,800円 |
| 支給限度日数 | 1年100日・3年150日 |
実際の支給額は、企業が従業員へ支払った休業手当そのものに単純に助成率を掛けるだけではなく、制度上の算定方法によって決まります。
中小企業は原則2/3・大企業は1/2が助成される
通常制度の基本助成率は、
中小企業:3分の2
大企業:2分の1
です。
たとえば助成対象となる額が1万円の場合、中小企業ではその3分の2相当が基本的な助成額となります。
ただし、1人1日あたりの上限額があります。
1人1日あたりの上限は9,110円
2026年8月1日以降の雇用調整助成金では、1人1日あたりの支給上限額は9,110円です。
仮に助成率を掛けて算出した額が9,110円を超えても、原則として上限額を超える部分は助成されません。
上限額は毎年度固定とは限りません。
雇用保険の基本手当日額等に応じて見直されることがあるため、申請時点の最新額を確認してください。
教育訓練を行うと1人1日1,200円以上が加算される
休業だけではなく教育訓練を実施した場合は、通常の助成額に加えて教育訓練加算を受けられる可能性があります。
通常の加算額は1人1日あたり1,200円です。
さらに、一定の教育訓練実施率を満たす場合などには1,800円へ引き上げられます。
教育訓練は単に空き時間に勉強させれば対象になるわけではありません。
業務に必要な知識・技能の習得や向上を目的とした訓練であることなど、制度上の要件を満たす必要があります。
累計30日を超えると教育訓練実施率で助成率が変わる
2024年4月以降、雇用調整助成金では教育訓練をより重視する仕組みが導入されています。
休業等の累計支給日数が30日に達した後は、教育訓練実施率によって助成率が変わります。
中小企業の場合、教育訓練実施率が低いと助成率が2分の1へ下がる場合があります。
一方、一定以上の教育訓練を実施すれば基本の3分の2を維持でき、さらに高い実施率を満たすと教育訓練加算が1,800円になる仕組みです。
長期間にわたって雇用調整を行う企業は、休業だけではなく教育訓練も含めた計画を検討しましょう。
休業・教育訓練は1年100日・3年150日まで
休業・教育訓練については、助成対象となる日数に上限があります。
通常は、
- 1年間で100日
- 3年間で150日
です。
同じ企業が長期間にわたり無制限に利用できる制度ではありません。
これまでの利用実績がある場合は、残りの支給可能日数も確認しておきましょう。
雇用調整助成金の対象となる3つの措置

雇用調整助成金では、休業だけでなく、教育訓練や出向も助成対象になります。
企業の状況に応じて使い分けます。
休業は従業員を一時的に休ませて雇用を維持する
休業は、事業活動を一時的に縮小しながら従業員との雇用契約を維持する方法です。
休業させる場合、労働基準法などに基づき一定の休業手当を支給します。
雇用調整助成金では、この休業手当等の一部が助成対象になります。
全日休業だけでなく、一定の条件を満たした短時間休業も対象になることがあります。
たとえば事業所全体で一斉に1時間以上の休業を行うなど、制度上の条件を満たす必要があります。
教育訓練は職業に必要な知識や技能を身につける
仕事量が減っている期間を利用して、従業員の能力向上を図る方法が教育訓練です。
対象になり得るのは、
- 新しい設備の操作研修
- 業務に必要な専門知識の習得
- 新規業務への転換に必要な技能訓練
などです。
通常業務そのものや単なる社内ミーティングなどは、教育訓練として認められない可能性があります。
教育訓練を利用する場合は、訓練内容や時間、受講者などを記録しておきましょう。
出向は従業員を一定期間別の事業所で勤務させる
出向は、雇用関係を維持したまま、一定期間ほかの事業主のもとで働いてもらう方法です。
雇用調整助成金では、一定の条件を満たす出向についても助成対象になります。
原則として出向期間は3か月以上1年以内で、出向終了後には元の事業所へ復帰することが前提です。
単なる人材紹介や転籍とは異なります。
出向元・出向先で費用負担や労働条件などを明確にし、出向契約を締結する必要があります。
雇用調整助成金の申請方法

雇用調整助成金では、休業等を実施した後にいきなり支給申請するのではありません。
通常は、
労使協定
↓
計画届
↓
休業・教育訓練・出向を実施
↓
支給申請
↓
審査・支給
という流れで進みます。
休業等を開始する前に計画届を提出する
まず、いつ・誰を対象として休業等を実施するのか計画を作成します。
そのうえで労使協定を締結し、原則として休業等を開始する前に計画届を提出します。
災害などに伴う特例措置では事後提出が認められる場合がありますが、通常制度では事前提出が基本です。
「とりあえず休業して、後から助成金を申請する」という進め方は避けましょう。
計画に基づいて休業・教育訓練・出向を実施する
計画届を提出した後は、内容に沿って雇用調整を行います。
休業を行った場合は、
- 出勤簿
- タイムカード
- シフト表
- 賃金台帳
- 休業手当の支払い記録
などを残します。
申請書に記載した日数と実際の勤務記録が一致していることが重要です。
教育訓練の場合は、カリキュラムや受講記録なども必要になります。
判定基礎期間終了後2か月以内に支給申請する
休業等を実施した後は、判定基礎期間ごとに支給申請します。
判定基礎期間とは、原則として賃金締切期間などに基づいて設定される期間です。
支給申請期限は、判定基礎期間の末日の翌日から2か月以内です。
たとえば4月30日が判定基礎期間の末日であれば、その翌日から数えて2か月以内が申請期間となります。
期限を過ぎると原則として受け付けられないため、計画届の提出時点から支給申請日まで管理しておきましょう。
雇用関係助成金ポータルから電子申請できる
雇用調整助成金は、雇用関係助成金ポータルを利用した電子申請にも対応しています。
電子申請では、
- 計画届
- 支給申請
- 添付書類
などをオンラインで提出できます。
電子申請を利用する場合でも、出勤簿や賃金台帳などの根拠資料は必要です。
オンラインだから書類準備が不要になるわけではありません。
雇用調整助成金を利用するときの注意点

雇用調整助成金は、売上減少だけを理由に支給される制度ではありません。
休業実態や給与の支払い状況なども含めて審査されます。
売上減少だけでは支給要件を満たさない
最近3か月の売上高等が前年同期比10%以上減少していても、それだけで支給対象にはなりません。
雇用量要件や休業等規模要件なども確認されます。
さらに、
- 労使協定を締結している
- 計画届を提出している
- 実際に休業等を行っている
- 適切に休業手当を支給している
ことも必要です。
「売上が10%減ればもらえる助成金」と誤解しないようにしましょう。
残業や休日労働があると助成額が調整される場合がある
休業によって雇用調整を行っている一方で、多くの時間外労働や休日労働を行わせている場合、その内容によって助成対象となる休業日数等が調整されることがあります。
制度の趣旨は、仕事量が減少したため休業等によって雇用を維持することです。
そのため、
平日は休業させながら別日に大量の残業を行わせる
といった勤務実態では、申請内容との整合性が問われる可能性があります。
勤怠記録を正確に管理しましょう。
コロナ特例時の助成率・上限額を使わない
雇用調整助成金は、新型コロナウイルス感染症の影響に対応するため、大幅な特例措置が実施されていた時期があります。
そのため、インターネット上には現在も、
- 助成率10分の10
- 上限15,000円
- 計画届不要
などの古い情報が残っています。
2026年の通常制度とは条件が異なります。
申請するときは、厚生労働省が公開している最新年度のガイドブックや支給要領を確認してください。
申請書類と出勤簿・賃金台帳の内容を一致させる
申請時には、休業した日数や休業手当の支給状況を確認するため、勤怠・給与関係資料を提出します。
たとえば、
- 申請書では休業日
- 出勤簿では通常勤務
- 賃金台帳では休業手当の支払いが確認できない
という状態では、内容確認や修正が必要になる可能性があります。
休業を実施した段階から、
計画届
労使協定
勤務記録
賃金台帳
が一致するよう管理しておくことが重要です。
雇用調整助成金は解雇を避けて雇用を維持するための制度

雇用調整助成金は、経済上の理由によって事業活動を縮小した企業が、従業員を解雇せず、
- 休業
- 教育訓練
- 出向
によって雇用を維持した場合に、事業主の負担を一部支援する制度です。
2026年の通常制度では、休業・教育訓練について、
中小企業:原則2/3
大企業:原則1/2
が基本助成率です。
2026年8月以降の1人1日あたり上限額は9,110円となっています。
また、教育訓練を実施した場合は1人1日あたり1,200円、一定の条件を満たす場合には1,800円が加算されます。
ただし、
売上が減ったから申請する
だけでは受給できません。
原則として、
最近3か月の生産指標を確認
↓
雇用量などの要件を確認
↓
労使協定を締結
↓
計画届を提出
↓
休業・教育訓練・出向を実施
↓
判定基礎期間終了後2か月以内に支給申請
という流れで進めます。
特に注意したいのは、コロナ特例時の情報と現在の通常制度を混同しないことです。
2026年に利用する場合は、厚生労働省が公開する最新の雇用調整助成金ガイドブック、支給要領、申請様式を確認し、自社が要件を満たしているか確認したうえで手続きを進めましょう。
