2026年09月03日 更新
拠点が増えた会社のネットワークは作り直すべき?本社・店舗・営業所をつなぐ構成の見直し方

本社だけだった会社に営業所や店舗が増えると、ネットワークも拠点追加のたびに拡張されていきます。
回線会社が違う、ルーターの機種が違う、VPNの設定方法が違う、保守会社も違うという状態になっても、通信できている間は問題が見えにくい状態になりがちです。
しかし、障害時に「どこが原因か分からない」、新店舗を出すたびに設定方法を調べ直す、担当者が退職すると誰も構成を説明できないという状態なら、通信速度ではなくネットワークを管理する仕組みそのものに問題があります。
一方、拠点が増えたという理由だけで全社ネットワークを作り直す必要があるとは限りません。
特定拠点だけの問題なら部分改修で済みます。
判断すべきなのは、現在の構成を現状維持・部分改修・標準化・一元管理・全面再設計のどこまで進めるかです。
拠点が増えたからといってネットワークを全部作り直す必要はない

ネットワーク刷新では、機器代や工事費だけでなく、切替作業や一時的な業務停止も発生します。
そのため「5拠点になったから」「ルーターが古くなったから」といった単一の理由だけで全面刷新を決めるのは早計です。
まず確認したいのは、問題が一部なのか、全社構成そのものから発生しているのかです。
次のような状態が複数重なっている場合は、全体設計を見直す時期に入っている可能性があります。
| 状態 | 見直しが必要な理由 |
|---|---|
| 障害発生時に原因箇所を特定できない | 構成を把握できていない |
| 拠点ごとに回線・ルーター・VPNが異なる | 保守・変更作業が複雑 |
| 新拠点の開設方法が毎回違う | 標準構成がない |
| 設定を理解している担当者が1人だけ | 属人化している |
| クラウドやWeb会議の利用増加で通信が不安定 | 従来設計と利用実態が合っていない |
一つだけ該当するなら部分改修で済む可能性があります。
一方、「構成が分からない」「設定がバラバラ」「障害対応に時間がかかる」が同時に起きているなら、機器交換だけでは同じ問題を繰り返す可能性があります。
ネットワークを作り直すかどうかは、拠点数ではなく、構成の複雑さと運用負荷で判断することが重要です。
まず全拠点の回線・機器・契約を1枚にする

複雑化したネットワークを改善するとき、最初に製品やサービスを選んではいけません。
現在どの拠点に何があり、誰が管理しているか分からない状態では、新しい仕組みを追加しても管理対象が増えるだけだからです。
IPAが2026年3月27日に公開した 「中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン 第4.0版」 では、ハードウェアやソフトウェアだけでなく、本社・事業所など各拠点のネットワークについて、構成機器や保守事業者を整理することを求めています。
さらに、主要なネットワーク構成を記した構成図を作成・版管理し、変更のたびに更新する考え方も示されています。
付録には資産管理台帳のサンプルも用意されています。
自社でも、まず次の項目を拠点ごとに一覧化します。
| 項目 | 確認する内容 |
|---|---|
| 回線 | キャリア・サービス・速度・契約期間 |
| ルーター | 機種・導入年・設定管理者 |
| VPN | 接続先・方式・管理者 |
| Wi-Fi | AP台数・設置場所 |
| セキュリティ | FW・UTM等の構成 |
| 保守 | 保守会社・連絡先・対応範囲 |
| 費用 | 月額回線費・保守費 |
| 障害 | 過去1年の件数・停止時間・原因 |
ここで構成図が存在しない場合は、ネットワーク刷新より先に、現状把握へ予算を使うべきです。
「何を使っているか分からない会社」が「何を入れ替えるべきか」を正確に判断することはできません。
「通信が遅い」と「ネットワーク全体を作り直すべき」を分ける
ネットワークへの不満として最も分かりやすいのは「遅い」「つながらない」ですが、症状だけを見て回線変更や全面刷新を進めると、原因と違う場所へ投資することがあります。
問題は少なくとも5種類に分けて考えます。
| 問題 | 代表的な原因 | 最初に検討する対応 |
|---|---|---|
| 回線 | 帯域・速度不足 | 回線の増速・変更 |
| 機器 | 古いルーターやAP | 対象機器の更新 |
| 構成 | 特定経路への通信集中 | 通信経路の見直し |
| 運用 | 拠点ごとに設定が違う | 標準化 |
| 管理 | 全体構成を誰も把握していない | 台帳・構成図・一元管理 |
例えば、1店舗の会議室だけWi-Fiが不安定なら、全社ネットワークを刷新する前にアクセスポイントの配置や台数を確認します。
反対に、全拠点のクラウド通信が一度本社へ集まり、本社側の設備や回線が恒常的にボトルネックになっている場合は、一部機器を交換しても根本解決しない可能性があります。
局所的な故障なのか、設計上の問題なのかを分けることが、過剰投資を防ぎます。
現在のネットワークを維持する「見えないコスト」を計算する
新しいネットワークの見積もりが300万円と出れば、「今のまま使った方が安い」と感じるかもしれません。
しかし比較すべきなのは、新ネットワークの導入費と現在の回線料金だけではありません。
現状を維持するために社員が使っている時間もコストです。
年間維持コストは、
回線・保守費+設定変更工数+現地対応費+障害による停止損失
まで含めて考えます。
例えば8拠点を運営し、各拠点の回線・VPN・ルーターに関する設定変更や問い合わせ対応へ年間10時間ずつかかり、担当者の時間単価を4,000円とすると、
8拠点×10時間×4,000円=32万円の管理コストです。
さらに年4回のネットワーク障害があり、毎回20人の社員が3時間ほぼ業務できず、時間単価を3,000円とすれば、
20人×3時間×4回×3,000円=72万円です。
この例では、管理と停止だけで年間104万円になります。
3年間続けば312万円です。
もちろんこれは計算例であり、実際には障害中でもできる業務があるため、そのまま損失額になるわけではありません。
それでも、「今の構成を変えない場合にも費用は発生している」という視点は必要です。
再設計費用を判断するときは、現状維持コストをゼロとして比較しないことが重要です。
全拠点で同じ機器ではなく「最低限そろえるルール」を決める
ネットワーク標準化というと、全店舗に同じ回線・同じルーターを導入することを想像しがちです。
しかし50人が働く本社と5人の営業所では、必要な通信容量もWi-Fi環境も違います。
統一すべきなのは機器そのものより、管理方法です。
例えば会社として、
管理者権限
セキュリティ設定方針
VPNの利用ルール
Wi-Fiの設定方針
設定情報の保管場所
障害時の連絡方法
を共通化します。
一方、回線速度、アクセスポイント台数、バックアップ回線の有無などは拠点規模に応じて変えて構いません。
IPAの第4.0版でも、ネットワークに関する情報を組織全体で把握し、構成変更に応じてネットワーク図を更新していく考え方が示されています。
セキュリティ面でも、拠点ごとの独自運用を放置するのは避けたいところです。
IPAの 「情報セキュリティ10大脅威 2026」 では、組織向け脅威として「ランサム攻撃による被害」が1位、「サプライチェーンや委託先を狙った攻撃」が2位、「システムの脆弱性を悪用した攻撃」が4位に挙げられています。
ネットワークを統一する目的は機器構成をそろえること自体ではなく、どの拠点でも同じ基準で管理・変更・復旧できる状態を作ることです。
現状維持・部分改修・標準化・一元管理・全面再設計の5段階で判断する
現状を棚卸ししたら、「作り直す・作り直さない」の二択ではなく、必要な投資レベルを決めます。
判断の目安は次の通りです。
| 現状 | 判断 |
|---|---|
| 障害が少なく構成も把握できている | 現状維持 |
| 特定拠点・特定機器だけ問題がある | 部分改修 |
| 回線・機器・設定方法がバラバラ | 標準化 |
| 拠点増加で設定・監視工数が大きい | 一元管理を検討 |
| 通信経路そのものに問題がある | 全面再設計 |
例えば「各店舗の機器が違う」だけなら、更新時期に合わせて段階的に標準化すればよく、数百万円をかけて一斉刷新する必要はありません。
一方で、拠点追加のたびに現地へ担当者が行く、本社を経由する通信が集中している、障害発生時に影響範囲を特定できないといった状態なら、クラウド型の一元管理やSD-WANなど、通信・管理構造そのものを変える選択肢を検討します。
ただし、SD-WANなどの技術を導入すること自体を目的にはしません。
「現在のどの問題を、どれだけ減らすために構成を変えるのか」を説明できないなら、全面再設計の前の段階に戻って整理すべきです。
全面再設計する場合も全拠点を一度に切り替えない
全面再設計が必要と判断しても、全店舗・営業所を同日に切り替える必要があるとは限りません。
ネットワークは業務基盤なので、設計ミスがあった場合の影響範囲を小さくする必要があります。
例えば10拠点なら、
本社+テスト拠点
→問題の多い2拠点
→残りの営業所
→全社展開
と段階的に進めます。
テスト拠点では、通信速度だけでなく、クラウドサービス、Web会議、VPN、Wi-Fi、プリンター、業務システムなど実際の業務が問題なく行えるか確認します。
さらに重要なのが、失敗した場合の「切り戻し」です。
新構成で不具合が起きた場合、誰が旧構成へ戻すのか、旧回線・旧機器をいつまで残すのか、営業時間中に問題が発生した場合に誰が判断するのかまで決めてから切り替えます。
ネットワーク刷新は、製品選定だけでなく移行の失敗をどこまで小さくできるかまで含めて設計する必要があります。
作り直した後に「またバラバラになる」ことを防ぐ
ネットワーク刷新で最も避けたいのは、数年後に再び同じ状態へ戻ってしまうことです。
拠点追加のたびに現場判断でルーターや回線を契約すれば、せっかく統一しても再び管理できなくなります。
そこで、新拠点を出すときの標準構成を決めておきます。
例えば「10人以下の営業所」「11~30人の店舗」「本社・大型拠点」のように規模別の標準を作り、回線、ルーター、Wi-Fi、保守方法をあらかじめ定めます。
同時に、
機器追加の承認者
管理者アカウント
設定変更履歴
契約更新日
障害連絡先
構成図の更新責任者
も決めます。
担当者が変わっても同じ方法で管理できる状態になって初めて、ネットワークを「会社の仕組み」として管理できているといえます。
6か月後に管理工数・障害・通信品質で再設計の成果を確認する
ネットワーク更新は「正常に通信できた」で終了すると、投資効果を判断できません。
導入前に数値を記録し、半年後に比較します。
少なくとも次の指標を確認します。
| 指標 | 比較する内容 |
|---|---|
| 障害件数 | 月・年何回発生したか |
| 平均復旧時間 | 障害から復旧まで |
| IT担当工数 | 設定・問い合わせ対応時間 |
| 現地対応 | 出張・立ち会い回数 |
| 通信品質 | Web会議等の問題件数 |
| 総コスト | 回線・保守・管理費 |
例えば年間のネットワーク管理工数が200時間から80時間へ減り、担当者の時間単価が4,000円なら、
120時間×4,000円=年間48万円
の工数削減です。
さらに障害停止時間が年間100時間分減り、回線契約整理で年間30万円削減できたなら、それらを再設計費用と比較して回収期間を判断できます。
ネットワーク刷新の成果は、「速くなった」だけではありません。
障害が減った、復旧が早くなった、担当者の仕事が減った、新拠点を短期間で追加できるようになったという運用面まで評価する必要があります。
まとめ|最初にネットワークを買い替えるのではなく「全拠点を1枚にする」
拠点が増えた会社でも、ネットワークを全面的に作り直すことが必ず正解とは限りません。
特定拠点だけに問題があるなら部分改修、設定がバラバラなら標準化、管理工数が大きいなら一元管理、通信経路そのものに問題があるなら全面再設計と、問題の大きさに合わせて投資範囲を決めます。
最初に行うべきことは、新しいネットワークサービスの見積もりを取ることではありません。
Excelやスプレッドシートを1枚用意して、
拠点名/回線/ルーター/VPN/Wi-Fi/保守会社/月額費用/管理者/導入年/過去1年の障害件数
を書き出してください。
その横に「問題あり・問題なし」を付けます。
一部の列・拠点だけに問題が集中しているなら部分改修から始めます。
ほぼすべての拠点で構成や管理方法が違い、障害原因も追えないなら、標準化や全面再設計を検討する段階です。
「拠点が増えたから作り直す」のではなく、「今の構成を維持する負担が、作り直すコストを上回り始めたか」で判断する。
この順番で整理すれば、必要以上に大きなネットワーク投資を避けながら、今後さらに店舗や営業所が増えても管理できる構成へ移行できます。
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