2020年の改正健康増進法により、事業主には受動喫煙防止対策の実施が義務化されました。
とくに飲食店や宿泊業、サービス業などでは、喫煙室の設置や分煙設備の導入が避けられない課題となっています。
しかし、「対策にはコストがかかる」「小規模店舗には負担が大きい」と感じる経営者も多いのが実情です。
そこで注目されているのが、厚生労働省が実施する「受動喫煙防止対策助成金」です。
この助成金は、喫煙室の設置や改修、換気設備の導入などにかかる費用の一部を国が支援する制度。
つまり、「義務的な設備投資」を“助成金を活用してコストを抑えながら実現できる”のが大きな特徴です。
さらに、この制度は単なる補助にとどまらず、「職場環境の改善」「従業員の健康保護」「企業の社会的イメージ向上」といった効果も期待できます。
喫煙・非喫煙者がともに快適に働ける職場づくりは、結果として生産性の向上や採用力の強化にもつながるのです。
この記事では、
・「どんな企業・店舗が対象になるのか」
・「助成金の受給条件・上限額」
・「申請に必要な手順と注意点」
をわかりやすく解説し、制度を“義務対応”ではなく“経営チャンス”として活かす方法を紹介します。
受動喫煙防止対策助成金とは?

まず押さえておきたいのは、「受動喫煙防止対策助成金」がどんな目的で設けられた制度なのかという点です。
この制度は単なる環境対策ではなく、中小企業が法改正に対応しながら職場の快適性と生産性を高めるための支援策として位置づけられています。
受動喫煙防止対策助成金の概要と目的
「受動喫煙防止対策助成金」は、厚生労働省が実施する支援制度で、中小企業事業主が職場や店舗で受動喫煙を防ぐための設備を設置・改修する際に費用の一部を助成するものです。
主な目的は以下の通りです。
・労働者の健康保護:喫煙・非喫煙者の双方が安全に働ける職場づくりを促進
・法令遵守支援:改正健康増進法に対応し、罰則リスクを防止
・中小企業の負担軽減:喫煙室や換気設備の設置にかかるコストを国が一部補助
つまり、企業が“義務対応”のために負担を背負うのではなく、助成金を使って負担を抑えつつ、より良い職場を実現できるというのがこの制度の本質です。
なぜこの助成金が注目されているのか(改正健康増進法との関係)
注目される背景には、2020年の改正健康増進法があります。
この改正により、原則としてすべての事業所・飲食店・宿泊施設に受動喫煙防止措置が義務化されました。
具体的には、
・屋内での喫煙は禁止
・喫煙専用室や加熱式たばこ専用室の設置が必要
・違反した場合は指導・罰則の対象
中でも小規模な飲食店や個人事業主にとって、喫煙室設置や改修に伴う費用負担は大きな問題でした。
そのため、政府はこの負担を軽減するために助成金制度を強化。
「義務対応=コスト」ではなく「助成金で環境改善」へ転換できる制度として注目されています。
助成金の対象となる事業・施設の主な種類
受動喫煙防止対策助成金の対象は、以下のような事業・施設です。
・飲食店、カフェ、バー、居酒屋など飲食関連施設
・宿泊業(ホテル、旅館など)
・サービス業(美容室、理容室、娯楽施設など)
・製造業・オフィスなど、労働者が屋内で働く事業場
基本的には、労働者が従事する屋内施設を有する中小企業事業主が対象。
特定の業種に限定されず、“喫煙者・非喫煙者双方がいる環境”であれば幅広く申請可能です。
制度の理解が第一歩
受動喫煙防止対策助成金は、改正健康増進法対応をサポートする代表的な国の支援制度です。
導入目的を理解すれば、「義務だから仕方なく」ではなく、“助成金を活かして職場の質を上げる”という前向きな選択ができるようになります。
助成金の対象者と申請できる条件

制度を活用するには、まず「どんな企業や店舗が対象なのか」を明確に知る必要があります。
対象条件を理解しておくことで、無駄な準備や申請ミスを防ぎ、スムーズな手続きを行うことができます。
労災保険に加入している中小企業事業主が対象
この助成金を申請できるのは、労働者災害補償保険(労災保険)に加入している中小企業事業主です。
法人・個人事業主を問わず、労働者を1名以上雇用していることが前提となります。
中小企業の定義は、業種によって以下のように異なります。
| 業種 | 資本金 | 常時雇用する従業員数 |
| 製造業・建設業・運輸業など | 3億円以下 | 300人以下 |
| 卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
| 小売業 | 5,000万円以下 | 50人以下 |
| サービス業 | 5,000万円以下 | 100人以下 |
飲食店・宿泊業・サービス業など「労働者を雇う事業場」が対象
助成金の趣旨は「労働者の健康を守ること」
そのため、アルバイトやパートを含め、従業員が屋内で働く環境を持つ事業場が対象になります。
飲食店・ホテル・理美容室・娯楽施設など、喫煙者と非喫煙者が混在する空間を有する業種が主な対象です。
個人経営の店舗でも、労働者を雇っていれば対象となる可能性があります。
大企業・国・地方公共団体などは対象外
反対に、以下のような事業者は対象外となります。
・資本金・従業員数が中小企業基準を超える大企業
・国、都道府県、市町村などの公共団体
・国または自治体が出資する特殊法人や団体
この助成金は、中小企業の経営支援と労働環境整備を目的とした制度であるため、大企業や公共機関は対象外と明確にされています。
対象条件を把握すれば無駄な準備を防げる
受動喫煙防止対策助成金は、「労災保険に加入する中小企業」かつ「労働者を雇う屋内事業場」が基本条件です。
自社が該当するかを早めに確認することで、スムーズな申請と計画的な設備導入が可能になります。
助成対象となる設備・工事内容

この助成金の魅力は、対象となる設備や工事内容の幅広さにあります。
単なる「喫煙室設置」だけでなく、換気装置や仕切り、ドアなどの関連費用も対象になるのが特徴です。
喫煙専用室・指定たばこ専用喫煙室・加熱式たばこ専用室の設置
助成の中心となるのは、喫煙室の新設または改修です。
健康増進法の規定に基づき、以下の3種類の喫煙室設置が対象になります。
1.喫煙専用室:飲食を伴わない喫煙専用空間
2.指定たばこ専用喫煙室:加熱式たばこ専用スペース
3.加熱式たばこ専用室:紙巻きたばこを扱わない専用室
これらは、いずれも技術的基準(排気性能・区画要件など)を満たす必要があります。
喫煙室に必要な換気装置・間仕切り・自動ドアなどの設置要件
助成の対象となる経費には、喫煙室本体だけでなく、関連する周辺設備も含まれます。
たとえば、
・排気装置・換気ダクトの設置費
・間仕切り壁やドアなどの施工費
・照明・自動ドア・センサー関連工事
といった要素も助成対象経費に含まれます。
つまり、トータルで喫煙室を設けるための費用の一部を補助してもらえるのです。
工事費・機器購入費・設計費などの助成対象経費
助成の対象経費は大きく以下の3つです。
・工事費:喫煙室の設置・改修・換気設備の取り付け
・機器購入費:空気清浄機や排気ファン、ドアなどの購入費
・設計費・管理費:施工業者による設計・図面作成・現場管理費
これらの費用の一部が、助成金によって補助されます。
施工の範囲が広くても、条件を満たせば対象になるケースが多いのがポイントです。
幅広い設備が対象、計画的な見積もりがカギ
受動喫煙防止対策助成金は、喫煙室本体だけでなく関連する設備費も助成対象です。
申請前に、どこまでが対象になるかを施工業者と連携して見積もることで、補助を最大限に活かすことができます。
助成金額・補助率・申請上限の目安

受動喫煙防止対策助成金を検討する際に、もっとも気になるのが「どのくらい補助されるのか」という点です。
この制度では、企業規模や喫煙室のタイプによって補助率や上限額が異なります。
事前に金額の目安を把握しておくことで、無理のない予算設計と申請準備が可能になります。
中小企業の補助率・上限額(最大100万円など)
厚生労働省の制度設計では、中小企業事業主を対象に最大100万円を上限として助成が行われます。
補助率は原則として助成対象経費の2分の1以内です。
たとえば、200万円の喫煙室設置工事を行う場合、そのうち最大100万円まで助成金として支給される計算になります。
この上限額は年度によって若干変動する可能性がありますが、小規模事業者や飲食店にとっては実質的に費用の半分を国が負担してくれる仕組みといえるでしょう。
工事規模や喫煙室タイプ別の助成額例
喫煙室のタイプや施工規模によって、助成金額は次のように変わります。
| 喫煙室の種類 | 想定工事費 | 助成上限額 | 補助率 |
| 喫煙専用室 | 約150万円 | 75万円 | 1/2以内 |
| 加熱式たばこ専用室 | 約180万円 | 90万円 | 1/2以内 |
| 指定たばこ専用喫煙室 | 約200万円 | 100万円 | 1/2以内 |
喫煙専用室は比較的コンパクトな設計が多く、一方で換気性能や区画基準を満たす加熱式たばこ専用室では工事費が上がる傾向にあります。
助成対象経費の範囲(施工費・設備購入費・設計費など)
対象経費として認められるのは、主に次の3項目です。
施工費:喫煙室の設置・改修工事、換気ダクト・排気装置の施工費用
設備購入費:排気ファン、空気清浄機、間仕切り、ドア、照明など
設計・管理費:施工図面作成費や設計監理費、現場管理に要する費用
ただし、喫煙室以外の工事(内装・照明リフォーム等)は対象外になる場合があります。
見積段階で必ず「助成対象範囲を明記」してもらうことが重要です。
費用の“半分”を国がサポート、計画的に使うのがカギ
受動喫煙防止対策助成金は、最大100万円・補助率1/2以内という現実的な支援が魅力です。
ただし、助成対象の範囲を理解しないまま工事を進めると、補助対象外になるリスクもあります。
まずは施工業者と補助金対象範囲を確認することが成功の第一歩です。
申請手続きの流れと注意点

助成金の申請は「書類が多くて難しそう」と思われがちですが、流れを理解すれば決して複雑ではありません。
重要なのは、工事着工前に必ず申請を完了しておくことと、交付決定後の報告までを一貫して管理することです。
申請前に知っておくべき工事着工のタイミング(事前申請必須)
この助成金の最大の注意点は、申請より前に工事を始めてはいけないことです。
着工後の申請は原則として認められず、全額自己負担となる可能性があります。
申請書を提出し、厚生労働省(または都道府県労働局)から交付決定通知を受けてから着工するのが正しい流れです。
したがって、工事日程を決める前に必ず交付決定日を確認しましょう。
申請書に必要な書類・見積書・図面の準備方法
申請時には、以下の書類が必要となります。
・申請書(様式第1号)
・事業計画書(助成対象経費の明細を記載)
・工事見積書・設計図面
・会社概要(登記事項証明書・労災保険加入証明書など)
申請書の内容と見積書・図面の記載内容に矛盾がないことが審査のポイント。
少しでも記載が異なると、差し戻しや再提出になるケースもあります。
交付決定後~実績報告・支給までのスケジュール
工事完了後は、次のような流れで実績報告・支給申請を行います。
1.工事完了報告書・支出証拠書類(領収書・契約書)を提出
2.実地確認・書類審査(都道府県労働局による確認)
3.助成金支給決定→指定口座に振込
報告の不備や書類不足があると支給が遅れるため、写真記録や証憑を確実に残すことが大切です。
着工前申請と書類整備が成功のカギ
申請の基本は「交付決定前に工事を始めないこと」さらに、申請書・見積書・図面の整合性を確保することが、スムーズな審査通過につながります。
スケジュールに余裕をもって準備することが成功の秘訣です。
受給するための要件と注意すべきポイント

助成金の申請が通っても、要件を満たさなければ支給されません。
ここでは、実際に支給を受けるために押さえるべき技術基準や禁止事項などを整理します。
助成金交付の前提となる「技術的基準(排気・区画)」の遵守
厚生労働省が定める技術基準には、以下のような要件があります。
・喫煙室内の空気が、毎時10回以上入れ替わる換気性能を持つこと
・喫煙室と非喫煙エリアの間に床から天井までの完全な仕切りを設けること
・喫煙室の出入口に自動ドアなどの閉鎖装置を設置すること
これらの基準を満たしていない場合、助成対象外となる可能性があります。
施工前に設計者・施工業者と基準を確認しておきましょう。
再申請・重複助成ができないケース
同一事業所で、過去に同じ助成金を受けた場合は再申請ができません。
また、同一工事内容について他の補助金・助成金を同時に受ける「重複助成」も禁止されています。
例として、
・省力化投資補助金
・業務改善助成金
などと同一設備での併用は原則認められません。
不正受給・報告漏れによる返還リスク
助成金交付後に、虚偽報告や書類不備が判明した場合、全額返還を求められる可能性があります。
特に以下のようなケースには注意が必要です。
・実際と異なる施工内容の報告
・領収書・契約書の提出漏れ
・工事後に基準を満たしていない状態での運用
助成金は「申請から支給まで一貫して透明性を保つ」ことが大前提です。
ルールを守れば確実に支給される制度
受動喫煙防止対策助成金は、基準を守れば支給される“確実性の高い助成金”です。
技術基準・申請条件・報告義務を丁寧に管理することで、自社の負担を軽減しながら、職場の安全・衛生環境をレベルアップできる制度といえます。
補助金活用で実現できる職場環境の改善

受動喫煙防止対策助成金の目的は、単に喫煙室を設置することではありません。
その本質は、従業員一人ひとりが健康的に働ける環境を整えることにあります。
喫煙・非喫煙のどちらの立場にも配慮しながら、「働きやすさ」と「企業イメージの向上」を同時に実現できるのが、この助成金の大きなメリットです。
ここでは、助成金を活用してどのような環境改善が期待できるのかを具体的に見ていきましょう。
喫煙・非喫煙者双方が働きやすい環境づくり
近年、職場では「喫煙者のためのスペースを確保しつつ、非喫煙者に迷惑をかけない設計」が求められています。
助成金を活用して喫煙専用室や加熱式たばこ専用室を設けることで、喫煙者も気兼ねなく休憩でき、非喫煙者も快適に働ける空間を両立できます。
さらに、適切な排気設備を整えることで空気環境の質(IAQ)が改善され、事務所全体の空調負荷軽減や清掃コストの削減にもつながるケースがあります。
つまり、喫煙室の設置は単なる規制対応ではなく、従業員満足度を高めるための“投資”と言い換えることができます。
店舗や企業のイメージアップ・採用強化効果
受動喫煙対策を積極的に進める企業は、「従業員の健康と環境に配慮する会社」として評価されやすくなります。
厚生労働省が推進する「健康経営優良法人」や「働きやすい職場認証制度」など、他の支援制度・表彰制度との連携を図る企業も増えています。
また、採用活動の面でも、「喫煙室を完備している」「分煙環境が整っている」ことが応募者への安心感となり、若年層・女性・非喫煙者など幅広い人材から選ばれる企業づくりにつながります。
結果として、採用コスト削減・離職率低下・企業ブランディング向上といった副次効果も期待できるのです。
助成金を活用した「健康経営」の一歩
受動喫煙防止対策助成金は、「健康経営」の第一歩としても注目されています。
健康経営とは、従業員の健康保持・増進を経営戦略の一環として推進する考え方であり、企業の生産性や創造性の向上にも直結します。
助成金を使って喫煙環境を整備することは、職場の安全・衛生環境を客観的に改善する行動であり、同時に「健康経営を実践する企業」という社会的評価を得るチャンスでもあります。
一例として、助成金を活用して喫煙室を新設した中小企業では、従業員の健康診断結果に改善傾向が見られたほか、顧客や取引先からの企業評価が上がったという事例もあります。
義務対応から“魅せる職場づくり”へ
受動喫煙防止対策助成金は、法令対応を目的とするだけでなく、働きやすく・選ばれる職場づくりを後押しする制度です。
・従業員の快適性を高める
・採用・ブランディングを強化する
・健康経営の推進につなげる
こうした効果を踏まえれば、助成金は“義務のための費用”ではなく、企業の成長基盤を築くための前向きな投資として活用すべき支援策といえます。
受動喫煙防止対策助成金で“義務対応”から“企業価値向上”へ

受動喫煙防止対策助成金は、法令対応のためだけに存在する制度ではありません。
むしろ、「働きやすい職場づくり」と「企業ブランディングの向上」を同時に実現できる支援策として、多くの中小企業が注目しています。
この助成金を活用すれば、
・喫煙・非喫煙者双方が快適に働ける職場環境を整備できる
・健康経営・人材定着・採用力向上など経営面のプラス効果が期待できる
・助成金を活用してコストを抑えつつ法令遵守を達成できる
といった多面的なメリットを得られます。
また、申請の際には労災保険への加入・工事の事前申請・技術基準の遵守などいくつかの条件がありますが、これらはしっかりと準備すれば中小企業でも十分にクリア可能です。
重要なのは、「喫煙対策=コスト」ではなく、「企業の未来への投資」という視点を持つこと。
受動喫煙防止対策助成金を上手に活用し、「義務対応のための設備投資」から「従業員が誇りを持てる職場づくり」へと、一歩先の経営へ進んでいきましょう。
