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IT導入補助金の不正受給、発覚時のペナルティ・処罰を徹底解説

中小企業のDX推進を支援する制度として広く知られているIT導入補助金

しかし、ここ数年で問題視されているのが、不正受給の増加です。

「悪意はなかった」「知らなかった」では済まされず、返還請求だけでなく刑事罰・企業名の公表・将来的な補助金申請の停止といった、

重大なペナルティを受けるケースが相次いでいます。

特に2024年以降は、事務局による立入検査・監査の強化や、支援事業者(ベンダー)と申請企業双方の連帯責任を問う運用も進んでおり、

「知らずに不正とみなされる」リスクが現実化しています。

この記事では、

どんな行為が不正受給に該当するのか
発覚時に課されるペナルティや処罰の内容
再発を防ぐための実務上の注意点と対策

を、実際の調査事例や法的根拠とあわせてわかりやすく解説します。

補助金の正しい活用は、企業成長の武器にもなりますが、一歩間違えば信用を失い、経営存続に関わるリスクに直結します。

本記事を通じて、“制度を守る意識”と“コンプライアンス経営”を再確認していきましょう。

目次

不正受給とみなされる行為とは?

IT導入補助金の不正受給とは、本来の制度趣旨に反して虚偽・不正な方法で補助金を受け取ることを指します。

悪質なケースはもちろん、担当者の「知らなかった」「うっかり」でも不正と判断される場合があり、年々審査や調査は厳格化しています。

まずは、どのような行為が不正に該当するのかを具体的に確認しておきましょう。

虚偽申請・実施未履行・重複受給などの典型的な手口

不正受給として最も多いのが、虚偽内容を含む申請や報告です。

たとえば次のようなケースが典型です。

・導入していないシステムを導入したと装う
 →実際には別の用途で費用を使っているのに、「導入済み」と虚偽報告。
・実施未履行・計画未達成のまま補助金を申請
 →納品・運用テストが完了していないのに報告書を提出。
・同一名義での二重申請・重複受給
 →他の補助金(例:ものづくり補助金・小規模事業者持続化補助金など)と重複して受給。

これらはすべて、意図的でなくても「虚偽または不実の報告」と判断される可能性があります。

特に「支援事業者に任せきりで内容を把握していない」場合、企業側にも責任が問われるため注意が必要です。

補助事業者・IT導入支援事業者が注意すべきポイント

IT導入補助金では、補助事業者(企業)とIT導入支援事業者(ベンダー)が密接に関わります。

そのため、どちらか一方が不正を行えば“共同責任”が問われるのが特徴です。

支援事業者による過大請求や架空契約に関与していないか
実際の導入・運用が完了しているかを企業側も確認しているか
契約・納品・請求の証拠をすべて書面・データで保管しているか

これらの管理体制が整っていないと、企業自身が不正の共犯または監督不十分とみなされることがあります。

「意図せず不正になる」ケースを防ぐために

不正受給は、必ずしも悪意がある行為だけではありません。
「手続きの誤解」「支援事業者任せ」「証拠の欠如」でも不正認定されるリスクがあります。
申請書類の整合性・実施記録・経費の証明を常に確認し、「第三者が見ても説明できる透明性」を意識することが大切です。

不正受給が発覚した場合の具体的なペナルティと処罰

IT導入補助金の不正受給が発覚すると、返還だけでは済まない重いペナルティが課されます。

事務局や経済産業省の指導のもと、法的処分や企業名の公表に至るケースも少なくありません。

ここでは、主な処罰内容とその影響を具体的に見ていきましょう。

補助金の返還+加算金・延滞金の請求

不正受給が確認されると、まず行われるのが補助金の全額返還命令です。

さらに、返還金には次のような追加負担が発生します。

・加算金(不正受給額の最大20%)
・延滞金(返還が遅れた場合に日割りで加算)

これにより、受給額を上回る金銭的ダメージを受ける企業も珍しくありません。

また、支援事業者が関与していた場合には、両者に連帯返還義務が発生します。

補助金申請資格の停止(5年など)・事業者名公表

不正受給を行った企業や支援事業者は、一定期間(原則5年間)すべての補助金申請が停止されます。

さらに、公式サイトで企業名・不正内容が公表される場合もあります。

これは実質的に「信用失墜処分」に等しく、

新規取引・融資の拒否
取引先からの契約解除
採用活動・企業ブランドへの悪影響

など、経営全体に大きなダメージを及ぼします。

刑事罰(詐欺罪・補助金適正化法違反など)とその重さ

悪質な不正受給は、刑事事件として立件される可能性もあります。

主に適用される法律は以下の通りです。

適用法令内容想定される刑罰
補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律(補助金適正化法)不正受給・虚偽報告等3年以下の懲役または100万円以下の罰金
刑法第246条(詐欺罪)不正手段で金銭を得た場合10年以下の懲役

一度刑事罰が科されると、経営者個人の社会的信用にも深刻な影響を与えます。

たとえ「知らなかった」としても、法人代表者が責任を問われることを覚えておきましょう。

「返せば終わり」ではなく「信頼を失う」

不正受給が発覚した場合、返還しても企業の信用は元に戻りません。
特に補助金制度は“信頼前提”で成り立っており、再発防止計画を立てても再申請が認められないケースもあります。

つまり、不正受給の代償は金銭よりも信用
制度を正しく理解し、申請・運用・報告の全プロセスで透明性を保つことこそ最大の防御策です。

立入調査・監査の強化状況と企業が取るべき対応策

近年、IT導入補助金の不正受給に対する監査体制が大幅に強化されています。

補助金事務局や経済産業省は、不正の温床となりやすい「支援事業者任せの申請」や「実績報告の虚偽提出」を防ぐため、立入検査・現地確認・証拠書類提出の徹底を進めています。

こうした調査は、一度交付された補助金でも後から取り消されることがあるため、企業は“もらったら終わり”ではなく、アフターフォローまで責任を持つ姿勢が求められます。

現地確認・IT導入支援事業者登録取消の実例

事務局の調査では、以下のようなケースで実地確認や登録取消処分が行われています。

・導入実態が確認できない(納品書はあるが、ソフトが稼働していない)
・架空契約の疑い(実際には別サービスを提供)
・支援事業者が複数企業と共謀し、虚偽報告を行った

これらが発覚すると、補助金返還命令だけでなく、支援事業者は登録取消・業務停止処分、企業側も交付取り消し・再申請不可(5年程度)となる場合があります。

とくに2024年度以降は、AIツール導入・クラウドサービス導入などリモート完結型の案件が増加しており、「現地に実体があるか」「導入効果が確認できるか」を重視した監査が行われています。

監査は“抜き打ち”も想定して常に証拠を整備

立入検査は、事前通告なしの抜き打ちで実施されることもあります。
そのため、「完了報告が済んだ後も証拠を保持しておく」ことが重要です。

契約書・請求書・納品書・導入システムの画面キャプチャなどを、
最低でも5年間保管しておくことで、後の監査や問い合わせにも迅速に対応できます。

不正回避のためのチェックリストと実務上の注意点

不正受給を防ぐためには、「知らなかった」や「支援事業者に任せた」という状態を避けることが第一歩です。

企業自らがルールを理解し、日常の業務管理の中で不正防止体制を整える必要があります。

ここでは、実務で役立つ具体的なチェックポイントを整理します。

契約書・証憑の保管期間・実際のツール導入証明等

補助金の実績報告や後日の監査では、「導入が実際に行われたこと」を示す証拠が重視されます。

以下の書類を整理・保管しておきましょう。

契約書、注文書、請求書、領収書などの正式な取引書類
導入システムやツールのスクリーンショット・ログ・稼働証跡
納品報告書・検収書・社内承認記録などの第三者が確認可能な資料
書類やデータは原則5年間保管が義務

これらを整理するだけでも、「実態の裏付け」を明確にでき、不正疑惑の回避につながります。

IT導入支援事業者の見極めと“実質無料”提案のリスク

不正受給の背景には、悪質なIT導入支援事業者による誘導が存在するケースもあります。

特に注意すべきは次のような提案です。

「補助金が出るから実質無料です」
「全額代行するので書類は不要です」
「導入後すぐに別サービスに切り替えられます」

これらは一見魅力的に聞こえますが、制度違反の温床です。

実際、こうした業者が関与した申請では、不正判定・登録取消に至った例が多数あります。

・信頼できる支援事業者を選ぶためには、
・経済産業省の公式登録リストに掲載されているか
・導入実績・報告体制・顧客対応履歴が明確か

を必ず確認するようにしましょう。

「任せきり」をやめ、企業自らがチェック体制を

不正を防ぐ最善策は、自社が補助事業の主体であるという意識を持つことです。
支援事業者に丸投げせず、契約内容・導入実績・証憑管理を常に自分たちの目で確認しましょう。

IT導入補助金は、正しく使えばDX推進の強力な支援制度です。
しかし、一度の不正で企業の信用を失えば、今後の補助金申請や取引にも影響が及びます。
透明性の高い運用を心がけ、「安心して活用できる補助金管理」を徹底することが、結果的に最も大きなリスク対策となります。

不正受給は「知らなかった」では済まない、経営リスクとしての影響

IT導入補助金の不正受給は、返還すれば済む問題ではありません

一度「不正」と判定されると、企業としての社会的信用・取引関係・資金調達力にまで大きなダメージを与えます。

さらに、支援事業者や元従業員による内部通報で発覚するケースが増えており、「意図せず巻き込まれる」リスクも現実的です。

ここでは、不正受給が企業経営にどのようなリスクをもたらすのか、具体的に解説します。

信用低下・取引停止・金融機関への波及リスク

不正が明らかになると、補助金の返還命令だけでなく企業名の公表が行われます。

これにより、仕入れ先や取引先、金融機関からの信用が一気に失われることになります。

・銀行や信用保証協会の融資審査に影響(補助金返還を“債務リスク”と判断)
・入札や公共調達からの排除(コンプライアンス違反として扱われる)
・株主・従業員・顧客からの信頼低下

不正受給は「金銭的な損失」だけでなく、企業ブランドの失墜という形で長期的な悪影響を及ぼします。

IT導入支援事業者だけでなく発注企業も“連帯責任”の可能性

多くの企業が誤解しているのが、「不正を行ったのは支援事業者だから自社は関係ない」という考え方です。

しかし、IT導入補助金の制度では、補助金の受給者=発注企業と定義されており、支援事業者が申請代行を行った場合でも、最終的な責任は受給企業側にあります

支援事業者が架空請求や虚偽申請をしていた場合でも、「知らなかった」「任せていた」という主張は通用しません。

結果的に企業も返還命令・公表対象となるケースが発生しています。

企業側としては、契約段階で支援事業者の登録状況や実績、報告体制を確認し、“不正に巻き込まれない仕組み”を整備することが不可欠です。

内部告発・元従業員からの通報で発覚するケースが増加

最近では、補助金事務局に対する内部通報制度の利用が増えています。

元社員・関係者・同業他社などからの通報によって発覚するケースも多く、「表向きは正常でも、内部の不満や不正隠蔽で発覚する」リスクが現実化しています。

とくに以下のような状況では、内部通報が起こりやすい傾向があります。

会社が不正を知りつつ是正しなかった
経理・管理職が「不自然な申請」を疑問視していた
支援事業者や代理店とのやり取りに不透明な部分があった

内部通報をきっかけに調査が入り、一気に全件調査→交付取消という事例も確認されています。

不正は「金銭問題」ではなく「経営危機」の引き金に

IT導入補助金の不正受給は、単なる会計上の違反ではなく、企業の社会的信頼を根底から揺るがす重大なリスクです。

不正が発覚した瞬間に、

補助金の返還義務+加算金
公表による取引停止
銀行取引・信用保証への悪影響
将来的な補助金申請の制限

という経営全体への波及リスクが一気に表面化します。

「知らなかった」「他社がやっていたから」は通用しません。
今後は、コンプライアンス意識の強化・監査体制の整備・透明な申請管理が、
経営リスクを最小化する最大の防御策です。

IT導入補助金の「不正受給」は企業の信頼を失う重大リスク

IT導入補助金は、企業のDX化や業務効率化を支援する非常に有用な制度です。

しかし、その一方で、不正受給が発覚した際の影響は極めて深刻です。

「返還すれば済む」ではなく、

・補助金の全額返還+加算金・延滞金の請求
・企業名の公表・今後数年間の申請停止
・場合によっては刑事告発(詐欺罪・補助金適正化法違反)

といった、企業経営に直接的な打撃を与える処分が科されます。

特に最近は、IT導入支援事業者の不正関与や内部通報による発覚が増加しており、「知らなかった」「任せていた」では済まない時代に突入しています。

一方で、制度自体は真っ当に活用すれば、中小企業のデジタル化を加速させる強力な支援策であることも事実です。

したがって、今後IT導入補助金を活用する企業は、

・契約書・導入証憑などの保管徹底
・信頼できる支援事業者との連携
・内部チェック体制の構築

を意識的に行うことが重要です。

正しい申請と誠実な運用こそが、「DX推進のチャンス」を「経営リスク」に変えない最善の防御策です。

制度の本来の目的を理解し、健全な補助金活用によって企業の成長と信頼を両立させていきましょう。

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