中小企業の経営を取り巻く環境は年々厳しさを増しています。
人材確保・育成、雇用維持などの課題を抱える中で、「雇用保険を活用した助成金制度」は経営を支える重要な支援策のひとつです。
国の制度であるため信頼性が高く、返済の必要もありません。しかし、制度の種類が多く複雑で、「どれが自社に当てはまるのか分からない」という声も多く聞かれます。
本記事では、中小企業が活用できる主要な雇用保険関連の助成金を一覧形式で整理し、特徴や活用事例をわかりやすく解説します。
雇用維持、採用促進、スキルアップ支援など、目的別に制度を比較できるよう構成しているため、自社の状況に合わせて最適な助成金を見つけることができます。
読み終えたときには、「うちの会社でもこの助成金が活用できそうだ」と具体的にイメージできるようになるはずです。制度を知ることが第一歩。今こそ、国の支援を賢く取り入れ、企業の成長と人材安定を実現しましょう。
雇用保険制度をベースとした助成金制度とは

中小企業が利用できる「雇用保険を活用した助成金制度」は、国が雇用の安定や人材育成を目的に設けた支援策です。
雇用保険を財源として運用されており、従業員を雇用し社会保険を適正に納めている企業なら、返済不要の支援を受けられる可能性があります。
一例として、「雇用調整助成金」「キャリアアップ助成金」「トライアル雇用助成金」などが代表的な制度です。
これらは単に人件費の補填だけでなく、雇用の維持・新規採用・スキルアップ・職場環境改善など、企業の成長ステージに合わせて選択できる点が大きな魅力です。
雇用関係助成金の仕組みと原資
雇用保険をベースにした助成金は、企業と労働者が負担している雇用保険料を原資として設けられています。
つまり、企業が日頃から納めている保険料が「いざというときの支援金」として還元される仕組みです。
助成金の目的は、企業の雇用を守り、安定的な労働環境を維持することにあります。
主な特徴として以下が挙げられます。
・返済の必要がない支援金であること(融資ではなく給付型)
・雇用保険の適用事業者であることが原則条件
・厚生労働省が所管し、ハローワークや労働局を通じて申請・支給が行われる
・人材確保や育成、労働環境改善を支援する制度設計になっている
具体的な助成金の一例として、以下のような制度が存在します。
・雇用調整助成金 – 業績悪化時の雇用維持を目的とした代表的制度
・キャリアアップ助成金 – 非正規社員の正社員化や待遇改善を支援
・人材開発支援助成金 – 教育・訓練を実施した際の費用補助
・トライアル雇用助成金 – 未経験者などの試験的雇用を支援
これらはすべて雇用保険に基づいた制度であり、社会的にも「雇用を守る企業」を後押しする国の重要な政策ツールといえます。
実際には、景気変動や社会情勢に合わせて制度内容が見直されることも多く、常に最新情報を確認する姿勢が重要です。
特に中小企業では、これらの助成金を上手に活用することで、採用コストの削減や教育体制の強化につながります。
助成金活用の条件・共通要件
助成金を活用するためには、いくつかの共通条件を満たしている必要があります。
単に雇用保険に加入しているだけではなく、労務管理や雇用契約の整備が適正であることが前提となります。主な要件は以下の通りです。
・雇用保険適用事業所であること
・労働保険料の滞納がないこと
・労働基準法や最低賃金法など、労働関係法令を遵守していること
・対象となる雇用措置(採用・教育・転換・休業など)を適切に実施していること
・申請書類を期限内に正確に提出していること
一例として、キャリアアップ助成金を申請する場合は、正社員転換や教育訓練計画を事前に届け出る必要があります。
また、雇用調整助成金では「休業計画届」を提出し、実際の休業実績を報告する流れが求められます。
これらの条件は、助成金を「企業の改善努力を後押しする制度」として運用するためのものです。
つまり、単に資金援助を受けることが目的ではなく、健全な雇用体制を構築する企業ほど支援を受けやすいという仕組みになっています。
実務の現場では、社会保険労務士や専門機関に相談し、制度の条件を満たしているかを事前に確認することで、申請の手戻りを防げます。
雇用保険助成金は「人を守る経営」を後押しする仕組み
雇用保険を基盤とする助成金制度は、中小企業が「人を雇い、育て、守る」ための強力な支援策です。
企業と労働者が支払っている雇用保険料を財源とし、適切な労務管理を行う企業に対して、返済不要の給付金として還元されます。
ただし、どの制度にも共通して「法令遵守」と「計画的な運用」が求められます。助成金は経営課題を解決する一時的な手段ではなく、長期的に雇用を安定させるための仕組みとして捉えることが重要です。
次章では、実際にどのような助成金が存在し、どのような目的で使えるのかを項目別に整理していきます。
自社に最適な制度を見つけるための第一歩として、ここで基本をしっかり押さえておきましょう。
雇用維持を支える助成金制度

企業経営において、景気変動や業績悪化は避けられません。
特に中小企業では、売上減少時に人件費の負担が大きくのしかかるケースもあります。
そんなときに活用できるのが、「雇用保険を活用した雇用維持型助成金」です。
これらの制度は、企業が一時的な経営悪化や事業縮小に直面しても、従業員を解雇せず雇用を継続できるよう支援する目的で設けられています。
雇用を守ることは、企業の信頼と未来を守ること。
この章では、雇用調整助成金・産業雇用安定助成金・その他の維持型助成金について、それぞれの概要と活用ポイントを解説します。
雇用調整助成金
「雇用調整助成金」は、経済上の理由で事業活動の縮小を余儀なくされた企業が、従業員の雇用を維持するために支払う休業手当などの一部を助成する制度です。
厚生労働省が管轄し、景気の変化や感染症など、予期せぬ経済的ダメージを受けた際に幅広く活用されています。
この助成金の最大の特徴は、休業・教育訓練・出向といった雇用維持策を選択して実施できる点にあります。
具体的には以下の3つのケースで活用が可能です。
・休業対応型 – 業績悪化時に社員を一時的に休ませ、解雇を避ける場合
・教育訓練型 – 業務縮小時に従業員へスキルアップ研修を行う場合
・出向対応型 – 一時的に他社で働かせ、雇用を維持する場合
支給額は、休業手当の一部(中小企業の場合、最大で賃金の4/5〜10/10程度)が補填されます。
たとえば、コロナ禍では多くの飲食業・観光業がこの制度を活用し、従業員の雇用を守りました。
ただし申請には、「売上または生産量が一定割合減少していること」などの条件があり、事前計画書の提出や労使協定の締結が求められます。
制度自体は年度ごとに細かく見直されるため、最新の厚生労働省公表資料を確認しながら申請準備を行うことが重要です。
産業雇用安定助成金
「産業雇用安定助成金」は、事業環境の変化により一時的に余剰人員が発生した企業が、他企業への出向や再配置を通じて雇用を維持する際に支援を受けられる制度です。
この制度は、単に「人を減らさず雇う」だけでなく、“人材の流動化を通じた産業構造全体の安定”を目的としている点が特徴です。
活用パターンとしては、以下のようなケースが挙げられます。
・業績が落ち込んだ企業が、取引先やグループ会社へ従業員を一時的に出向させる
・異業種企業にスキルを活かした出向を行い、後に自社へ戻す(在籍出向)
・雇用維持とともに従業員のスキル多様化を図る教育型出向
中小企業の場合、出向にかかる経費(賃金・手当・交通費など)の一部を最大で10分の9まで助成されることもあります。
雇用調整助成金よりも柔軟な人材活用を支援する制度として注目されており、特に製造業や宿泊業、サービス業など、季節変動や需要の波が大きい業界での活用が増えています。
一例として、宿泊業の従業員が閑散期に地域の観光施設や飲食事業に出向し、双方の人手不足を補ったケースもあります。
このように、「人材を守りながら、地域や業界全体を支える」ことができるのがこの制度の強みです。
その他の維持型助成金(例 – 一時帰休・在籍型訓練対応型など)
近年は、企業の状況に応じて多様な雇用維持支援制度が展開されています。
代表的なものには、以下のような助成金があります。
・在籍型出向による雇用維持支援(在籍型訓練支援) – 出向先でスキルアップ研修を行う場合に費用の一部を助成
・一時帰休制度支援(短期雇用調整型) – 短期的な業績悪化時に従業員を一時的に休ませる制度
・人材開発支援助成金 – 休業中に従業員へ訓練を実施する際の訓練費用を補助
これらは単独で申請することもできますが、「雇用調整助成金」との併用でより効果的に活用できるケースもあります。
一例として、製造業の企業が需要減少時に生産ラインを一時停止し、休業期間中に技能訓練を実施してキャリアアップ助成金を併用した事例があります。
こうした制度の多くは、「従業員を解雇せずにスキルアップと雇用維持を同時に進める」ことを目的としており、結果的に企業の競争力向上にも寄与します。
「人を守る」ことが経営を守る一番の近道
景気の波や外的要因に左右されやすい時代だからこそ、雇用を守るための備えが経営安定の鍵になります。
雇用調整助成金や産業雇用安定助成金は、単に人件費を補填するための制度ではなく、「企業が人を守る意思を持つこと」を国が支援する仕組みです。
助成金をうまく活用すれば、経営の余力を確保しながら従業員の生活を守ることができます。
とくに中小企業では、業績変動が直接雇用に影響しやすいため、制度を知り、早期に行動することが何より重要です。
次の章では、採用・雇入れを支援する助成金制度について解説します。
「攻めの採用」と「守りの雇用」を両輪で進めるために、どの制度が自社に合うのかを整理していきましょう。
雇入れ・採用促進のための助成金制度

中小企業にとって、新しい人材の採用は事業成長に直結する重要なステップです。
しかし採用活動には、求人広告費や教育コストなど多くの費用が発生し、採用後すぐに定着しないという課題も少なくありません。
そんなときに頼れるのが、「雇用保険を財源とする採用・雇入れ促進型の助成金制度」です。
これらの制度は、企業が求職者の就業機会を創出し、社会全体の雇用を安定させることを目的に設けられています。
特に「未経験者」「高年齢者」「障害者」「地域人材」など、支援が必要な層を積極的に採用する企業を後押しする仕組みです。
ここでは、トライアル雇用助成金・特定求職者雇用開発助成金・人材確保等支援助成金・地域雇用開発助成金の4つを中心に解説します。
どの制度も返済不要で、採用リスクを抑えつつ「人材育成型の採用戦略」を実現できるのが大きな魅力です。
トライアル雇用助成金
「トライアル雇用助成金」は、就職が困難な求職者を一定期間試行的に雇用し、適性を見極めながら本採用を目指す制度です。
対象となるのは、職歴が少ない若年層やブランクのある中高年、障害者など。最長3か月間のトライアル期間中に発生する人件費の一部が助成されます。
・助成額の目安 – 対象者1人につき最大月4万円(最長3か月)
・目的 – 企業と求職者の“ミスマッチ”を防ぎ、定着率を高める
この制度のメリットは、採用前に「お試し雇用」ができる点にあります。
一例として、飲食業で接客経験のない求職者をトライアル雇用し、期間中に接客研修を行って本採用に至ったケースがあります。
このように、企業側にとっては採用リスクを軽減し、求職者側にとっては就業機会を得られる双方にメリットのある仕組みです。
ただし、トライアル期間中の雇用契約や労働条件は明示する必要があり、単なる短期雇用や人件費補填目的の利用は不可です。誠実な運用が支給の前提となります。
特定求職者雇用開発助成金
「特定求職者雇用開発助成金」は、高齢者・障害者・母子家庭の母など、就職が困難な人を新たに雇い入れた企業に支給される助成金です。
トライアル雇用助成金が“採用前の段階”を支援する制度であるのに対し、本制度は“採用後の定着支援”に重点を置いています。
主な対象者と助成内容は以下の通りです。
| 対象者 | 助成額(中小企業の場合) | 支給期間 |
| 高年齢者(60歳以上65歳未満) | 60万円(1年間) | 6か月ごと分割支給 |
| 障害者(重度以外) | 120万円(1年間) | 同上 |
| 重度障害者・精神障害者 | 240万円(2年間) | 同上 |
| 母子家庭の母・父子家庭の父 | 60万円(1年間) | 同上 |
雇用契約が1年以上であることや労働時間が週20時間以上などの条件を満たす必要があります。
この制度を通じて、企業は社会的責任を果たしながら、人材不足解消にもつなげることができます。
たとえば、物流業で60代の元ドライバーを再雇用した事例では、若手社員の育成にもつながり、経験の継承と雇用安定の両立を実現しました。
人材確保等支援助成金
「人材確保等支援助成金」は、職場環境の改善や働き方改革を通じて“離職防止”を図る取り組みを支援する制度です。
単に採用するだけでなく、「人が辞めない職場をつくる」ことに焦点を当てています。
この助成金には複数のコースがあり、たとえば次のような取り組みが対象となります。
・設備投資による労働負担の軽減(例 – 介護リフト導入など)
・両立支援制度の導入(例 – 子育て・介護休業制度の整備)
・長時間労働是正や有給取得促進の取り組み
支給額はコースによって異なりますが、設備投資費用の一部(最大で数百万円規模)が補助されることもあります。
中小企業では、採用コストだけでなく、退職防止や働きやすい環境づくりへの支援として活用されています。
「人を採るより、辞めさせない方がコスト効率が良い」という視点から、経営戦略に直結する制度として注目度が高まっています。
地域雇用開発助成金
「地域雇用開発助成金」は、雇用機会が不足している地域で新規事業所を設置し、地元人材を雇用する企業を支援する制度です。
雇用の創出と地域活性化の両方を目的としており、地方拠点の立ち上げや工場・店舗の新設時に利用されています。
- 対象地域 – ハローワークが指定する雇用開発促進地域・過疎地域など
- 主な要件
- 地域内に新規事業所を設置する
- 一定数以上の雇用を創出する
- 継続的に雇用を維持する体制があること
- 地域内に新規事業所を設置する
助成額は地域や雇用人数によって異なりますが、最大で1人当たり60万円〜900万円の支給が受けられる場合もあります。
一例として、地方の製造業が新工場を開設し、10名の新規雇用を行ったケースでは、設備投資負担の一部を実質的に軽減できたという事例があります。
この制度は、都市部集中から地方分散への流れを後押しするものであり、地方創生や地域経済の底上げに寄与する重要な助成金です。
採用リスクを抑え、人材を「長く活かす」ための助成金活用を
雇用保険を財源とした採用・雇入れ促進型助成金は、単なる“採用支援”にとどまらず、人材の定着と育成までを一貫して支援する仕組みです。
トライアル雇用助成金でミスマッチを防ぎ、特定求職者雇用開発助成金で多様な人材を迎え入れ、人材確保等支援助成金で働きやすい環境を整える。
さらに地域雇用開発助成金を活用すれば、地域に根ざした採用戦略も実現できます。
採用活動は企業の未来を決める重要な投資です。助成金を上手に組み合わせることで、採用コストを抑えながら優秀な人材を確保し、長期的な雇用安定を実現することが可能です。
次の章では、転職支援や再雇用を促す制度について紹介します。
雇用の“入り口”だけでなく、“出口からの再チャレンジ”を支える助成金にも注目してみましょう。
再就職支援・転職促進を支援する助成金

企業経営では、どうしても人員整理や配置転換など、雇用を見直さざるを得ない局面が生じます。
特に景気変動や事業再構築などによって、従業員の雇用を維持し続けることが難しくなるケースは少なくありません。
そんなとき、単に「辞めてもらう」だけで終わらせるのではなく、次のキャリアへとつなぐ支援を行うことが企業の社会的責任です。
その取り組みを後押しするのが、雇用保険を財源とした再就職支援・転職促進型の助成金制度です。
これらの制度を活用することで、退職者の円滑な再就職を支援しながら、企業のイメージ低下やトラブルを防ぐことができます。
ここでは、「早期再就職支援等助成金」と「労働移動支援助成金」の2つを中心に、概要と活用のポイントを紹介します。
早期再就職支援等助成金
「早期再就職支援等助成金」は、事業縮小や廃止などに伴って離職する従業員の再就職を企業が支援した場合に、その費用の一部を助成する制度です。
目的は、解雇や離職による生活不安を軽減し、従業員ができるだけ早く新しい職場へ移行できるよう支援することにあります。
この制度では、企業が外部の再就職支援会社などに依頼して再就職プログラムを実施した場合、その費用の一部が助成されます。
主な助成内容は以下の通りです。
| 支給対象 | 内容 | 助成額の目安 |
| 企業 | 再就職支援会社への委託費用など | 対象者1人あたり最大40万円 |
| 事業再編・再構築に伴う離職支援 | キャリアカウンセリング・職業紹介・スキル研修など | 実費の一部を助成 |
実際には、企業が「再就職支援計画」をハローワークに提出し、認定を受けることから始まります。
そのうえで、専門機関を通じてキャリア相談や職業紹介、スキルアップ研修などを実施し、離職者の就業を後押しします。
たとえば、製造業の企業が事業整理の際に従業員の再就職支援を行い、複数名が新しい職場にスムーズに転職できたケースがあります。
「従業員を最後まで責任を持って送り出す」姿勢は、企業ブランドの維持にもつながるでしょう。
また、助成金申請の際には「再就職支援会社が厚生労働大臣の認定事業者であること」などの条件があります。
制度の詳細は年度ごとに更新されるため、最新の実施要項を確認してから申請を進めることが大切です。
労働移動支援助成金
「労働移動支援助成金」は、雇用過剰となった企業が労働者の再就職を支援した場合、または受け入れる企業側が教育・訓練を行った場合に支給される助成金です。
特に「送出し企業」と「受入れ企業」の双方に支給される仕組みになっている点が特徴です。
制度の目的は、単なる離職支援ではなく、労働市場全体で人材を有効に循環させることにあります。
そのため、個人のキャリアアップと産業構造の転換を同時に促進する意義があります。
助成の主な対象と内容は次の通りです。
| 対象企業 | 助成内容 | 支給額の目安 |
| 送出し企業 | 再就職支援費用、教育訓練費用など | 離職者1人あたり最大60万円程度 |
| 受入れ企業 | 採用後のOJT・OFF-JTにかかる訓練費用 | 1人あたり最大50万円程度 |
この制度は、人材の流動化を前提に「社会全体で雇用を守る」という発想で設計されています。
たとえば、業績悪化で雇用維持が難しくなった製造業が、地域の医療・介護業界へ人材を送り出した場合などに活用できます。
また、受け入れ側企業も人材育成のための訓練費が支援されるため、双方にメリットのある制度です。
実際に、コロナ禍では観光・宿泊業から物流・介護業への人材移動を支援するために多くの企業が本助成金を活用しました。
このように、人材を「辞めさせる」のではなく「活かす」方向で支援する制度である点が、従来の助成金とは異なる特徴です。
申請の際は、出向・再就職支援計画の作成や雇用契約書の提出などが必要です。
また、支給対象となる離職・採用時期に制限があるため、早めの準備が成功のカギとなります。
人材を「送り出す支援」も企業の責任と戦略の一部
雇用を守ることと同じくらい重要なのが、社員の“その後”を支える姿勢です。
早期再就職支援等助成金や労働移動支援助成金は、従業員を単に「離職者」として扱うのではなく、次のステージへの橋渡しを企業が担うという考え方に基づいています。
これらの制度を活用することで、企業は「雇用を切らない努力」と「離職後の責任」を両立できます。
結果として、従業員の信頼を得るだけでなく、企業としての社会的評価の向上にもつながります。
中小企業にとっても、こうした助成金の活用は経営リスクを減らし、「人を守りながら再構築する経営」への転換を実現する有効な手段です。
次章では、職場環境や定着率を高めるための助成金制度について解説します。
人材を採用・移動させるだけでなく、「長く働ける環境をどうつくるか」に焦点を当てていきましょう。
職場環境・処遇改善・定着支援助成金

採用した人材を長く活かすためには、職場環境や待遇の改善が欠かせません。
特に中小企業では、「せっかく採用してもすぐに辞めてしまう」「家庭や介護の事情で働き続けられない」などの課題を抱えるケースが多く見られます。
こうした課題に対して、国は雇用保険を財源とした職場定着・処遇改善型の助成金制度を設けています。
目的は、企業の環境整備を後押ししながら、従業員が安心して働き続けられる仕組みを整えること。
ここでは、中小企業の現場で特に活用が多い以下の3つを取り上げます。
・キャリアアップ助成金
・両立支援等助成金
・65歳超雇用推進助成金
いずれも“人を辞めさせない経営”を支える制度であり、採用後の安定雇用を実現するための鍵となる助成金です。
キャリアアップ助成金
「キャリアアップ助成金」は、非正規社員(有期契約・パート・アルバイトなど)の待遇改善や正社員化を支援する代表的な助成金です。
人手不足が深刻化するなかで、「今いる人材を育てて戦力化する」ために、多くの中小企業で活用されています。
主な支給コースは以下の通りです。
| コース名 | 概要 | 支給額(中小企業の場合) |
| 正社員化コース | 有期→正規への転換 | 1人当たり最大57万円(※加算あり) |
| 賃金規定等改定コース | ベースアップなど賃金体系の見直し | 最大72万円 |
| 健康診断制度コース | 従業員の健康管理体制整備 | 最大38万円 |
この制度の最大の魅力は、「既存社員のやる気を引き出す」効果にあります。
たとえば、契約社員を正社員化した企業では、モチベーション向上や離職率低下が見られ、結果的に採用コスト削減にもつながっています。
ただし、申請には「転換計画の事前提出」「就業規則の整備」などの手続きが必要です。
形式だけでなく、実際に働き方や賃金制度を改善しているかどうかが審査のポイントになります。
両立支援等助成金
「両立支援等助成金」は、仕事と家庭の両立を支援するための制度で、特に子育てや介護を担う従業員を支える取り組みを行った企業に助成されます。
近年は、男性育休の取得促進や、介護離職防止のための制度整備などで注目を集めています。
主なコースには次のようなものがあります。
| コース名 | 対象となる取り組み | 助成額(中小企業の場合) |
| 出生時両立支援コース | 男性社員の育児休業取得促進 | 最大72万円 |
| 介護離職防止支援コース | 介護休業や短時間勤務制度の導入 | 最大57万円 |
| 再雇用者支援コース | 育児・介護等で離職した人の再雇用 | 最大60万円 |
具体的な事例として、建設業の中小企業が男性従業員に育休を取得させ、管理職への研修を行ったことで助成対象となったケースがあります。
このように、働きやすさを整えることが助成対象となり、企業のブランド力や採用力向上にもつながるのがこの制度の強みです。
両立支援等助成金は「福利厚生の拡充=経営の負担」と考えがちな企業にとって、制度導入コストを軽減できる貴重な支援策といえます。
65歳超雇用推進助成金
少子高齢化が進む中で、高年齢者が活躍できる職場環境を整備することも、企業経営の重要課題です。
「65歳超雇用推進助成金」は、その名の通り、65歳以上の継続雇用や定年引き上げを行う企業を支援する制度です。
主な支給対象は次の3つです。
・定年年齢の引き上げ(65歳以上に設定)
・定年制の廃止
・希望者全員を対象とした継続雇用制度の導入
支給額の目安は、取り組み内容により最大160万円程度(中小企業の場合)。
たとえば、定年を65歳から70歳に引き上げた企業や、定年制を廃止した企業などが対象になります。
実際に、製造業や運送業では、熟練の技術を持つ高齢社員の継続雇用が生産力維持につながるケースも多く見られます。
「シニア人材を守ることは、技術と企業文化を守ること」と言えるでしょう。
「働き続けたい職場」をつくることが最大の支援
職場環境や待遇を改善することは、助成金をもらうための手段ではなく、企業の持続的成長に直結する投資です。
キャリアアップ助成金で非正規社員を正社員化し、両立支援等助成金で働きやすい制度を整え、さらに高年齢者向けの助成金でベテラン人材を活かすことで、年齢や立場を問わず誰もが活躍できる企業文化を築くことができます。
こうした環境整備は、採用力・定着率・企業イメージのすべてを高める好循環を生み出します。
雇用保険助成金は「企業と人の信頼関係を守るための仕組み」
補助金の枠を超えて、“働き続けたいと思われる企業づくり”を進めるための経営戦略ツールとして積極的に活用していきましょう。
次章では、障害者雇用など、特定の条件に合わせた助成金制度について詳しく解説します。
障害者雇用・特性別対応の助成金

企業にとって、障害のある方の雇用は「社会貢献」だけでなく、多様性を活かす経営資源の一つです。
しかし、中小企業では「どんな仕事を任せればいいのか」「職場環境を整えるにはコストがかかるのでは」と悩むケースも少なくありません。
こうした課題を解決するため、国は障害者の雇用促進・職場定着を支援する助成金制度を多数設けています。
これらは雇用保険の仕組みの一部として運用され、「障害者を受け入れたい企業」と「働きたい障害者」の架け橋となる仕組みです。
この章では、障害者雇用の現場で特に活用されている「障害者介助等助成金」と「障害者雇用納付金制度に関わる助成」について解説します。
どちらも職場環境の整備費や支援人材の配置費など、実務に直結する支援内容が中心です。
障害者介助等助成金
「障害者介助等助成金」は、障害のある従業員が円滑に働けるよう、企業が行う支援や職場改善の取り組みを支援する制度です。
障害の種類や程度に応じて、作業補助者の配置や職場環境の整備、設備改修などにかかる費用を助成します。
主な助成対象は以下の通りです。
| 対象となる取組内容 | 助成の概要 | 助成額の目安 |
| 職場介助者の配置 | 身体・知的・精神障害者の職務遂行を補助する支援者の配置 | 1人あたり月額最大10万円(最長3年) |
| 通勤支援 | 通勤時に介助が必要な場合の費用補助 | 実費の一部(上限あり) |
| 職場環境の改善 | 点字表示・スロープ設置・照明改善など | 費用の2/3以内を助成(上限あり) |
この制度の目的は、「配慮」ではなく「環境整備」です。
つまり、特別扱いをするのではなく、誰もが働きやすい環境を整えるための支援という位置づけです。
たとえば、視覚障害のある社員のために音声読み上げソフトを導入したケースや、
肢体不自由のある社員のために作業台の高さを調整できる装置を設置したケースなどが実際の事例として挙げられます。
これらの取り組みを通じて、障害の有無に関係なく働ける「ユニバーサルな職場づくり」を進めることが可能になります。
また、助成金の申請にあたっては、ハローワークや地域障害者職業センターの支援を受けながら計画を立てるとスムーズです。
障害者雇用納付金制度に関わる助成
「障害者雇用納付金制度」は、障害者雇用を進めるための企業間の支え合い制度です。
常用労働者が43.5人以上いる企業は、法定雇用率(現在は2.5%)を満たす義務があり、未達の場合は「納付金」を納め、逆に超過している場合には「調整金」や「報奨金」が支給されます。
この仕組みの中で、障害者を実際に雇用している企業が利用できる助成金が複数用意されています。
代表的なものは次の通りです。
| 助成の種類 | 内容 | 助成額の目安 |
| 職場改善助成金 | 障害者の作業環境を改善するための設備・機器導入 | 費用の3/4(上限600万円) |
| 重度障害者等通勤対策助成金 | 通勤用設備(エレベーター・車両改修等)の整備費用補助 | 上限300万円 |
| 作業施設設置等助成金 | 重度障害者が働く職場の整備・新設費用の支援 | 費用の3/4(上限1,000万円) |
| 職場適応援助者(ジョブコーチ)助成金 | 障害者の職場定着を支援する専門員配置費用 | 実費の一部(上限あり) |
これらの助成金は、障害者を受け入れる企業の「負担感」を軽減し、雇用を促進するための支援です。
特に、ジョブコーチの活用は近年増えており、「支援付き雇用」という形で企業と障害者双方の安心感を高める取り組みが広がっています。
さらに、障害者雇用納付金制度は、企業規模によって支給・納付の金額が異なるため、自社が対象かどうかを確認することも大切です。
中小企業の場合、一定の条件を満たせば助成金のみ受け取れるケースもあります。
これにより、「雇用率を満たすこと」が目的化するのではなく、障害者が活躍できる持続的な雇用環境を整える動機づけにもなっています。
多様な人材が共に働ける企業は、社会に信頼される
障害者雇用に関する助成金は、単に制度的義務を果たすためのものではありません。
その本質は、「誰もが能力を発揮できる職場をつくること」にあります。
障害者介助等助成金を活用すれば、物理的・人的な支援体制を整備できます。
また、障害者雇用納付金制度に関わる助成を活用することで、雇用の質を高め、長期的に安定した人材確保を実現できます。
こうした取り組みを進める企業は、社会的評価が高まるだけでなく、社内の風通しやチームワークの改善にもつながります。
「多様な人材が共に働ける会社」こそ、これからの時代に選ばれる企業。
助成金をうまく活用し、障害者も健常者も共に活躍できる持続可能な職場づくりを進めていきましょう。
廃止・経過措置中の助成金制度(注意点)

雇用保険を活用した助成金は、経済状況や労働市場の変化に応じて毎年見直しが行われています。
そのため、「以前あった助成金が廃止されていた」「知らないうちに新制度へ移行していた」というケースも少なくありません。
特に中小企業では、古い情報をもとに計画を立ててしまい、申請が間に合わなかったり要件を満たせなかったりするトラブルが起きがちです。
この章では、近年廃止・統合された助成金制度の代表例と、最新情報の確認・移行のポイントを解説します。
助成金は“知っている企業”が得をする仕組み。
制度変更を正しく理解し、申請タイミングを逃さないことが何より重要です。
廃止済み・経過措置中の制度一覧
まず把握しておきたいのは、過去に人気があったものの、現在は廃止・統合された主な助成金制度です。
これらは現在新規受付が終了しており、申請できるのは経過措置期間中のみ、または後継制度を通じてとなります。
| 廃止・統合された制度 | 廃止・統合の時期 | 後継・類似制度 |
| 働き方改革推進支援助成金(勤務間インターバル導入コース) | 2023年度終了 | 人材確保等支援助成金(働き方改革支援コース) |
| 両立支援等助成金(出生時両立支援コース旧版) | 2022年度改定 | 新版「出生時両立支援コース(男性育休取得促進型)」 |
| 雇用関係助成金(中途採用等支援助成金) | 2022年度終了 | トライアル雇用助成金・特定求職者雇用開発助成金へ統合 |
| 特定求職者雇用開発助成金(長期失業者コース旧型) | 2023年度改定 | 新設「特定求職者雇用開発助成金(一般コース)」 |
| 産業雇用安定助成金(スキル習得支援コース) | 2023年度末終了 | 人材開発支援助成金(事業内訓練コース)へ統合 |
これらの変更は、制度の重複を避け、企業がより目的に合わせて使いやすくするために行われています。
しかし実際の現場では、「同じ名称でも内容が変わっている」「旧コースの条件では申請できない」といった混乱も起きています。
一例として、かつて存在した「勤務間インターバル導入コース」は廃止されましたが、現在は人材確保等支援助成金の中の“働き方改革支援コース”として内容を引き継いでいます。
つまり、制度名が変わっても支援の趣旨自体は残っているケースが多いのです。
過去に検討した制度でも、名称変更や統合によって“再び利用できる”可能性があるため、常に最新情報を確認することが大切です。
申請可能性・移行措置の確認方法
助成金制度の更新情報を見落とさないためには、定期的な情報収集と専門家への相談が欠かせません。
特に廃止や改定の多い「雇用関係助成金」では、次の3つの確認ルートを押さえておくと安心です。
① 厚生労働省・都道府県労働局の公式サイトを確認
助成金の最新情報は、まず厚生労働省公式サイト内の「雇用関係助成金」ページに掲載されます。
加えて、都道府県ごとに運用が異なる場合もあるため、各労働局のホームページで最新要綱や申請期限をチェックすることが重要です。
② 社会保険労務士など専門家への相談
制度改定は細かく、文言だけでは理解が難しいこともあります。
特に「経過措置の対象になるか」「旧制度で計画を出していた場合どうなるか」といったケースでは、実務経験のある社労士に相談するのが最も確実です。
③ 後継制度の比較を行う
廃止された制度と後継制度では、目的や対象範囲が一部異なる場合があります。
たとえば、「両立支援等助成金」は旧版よりも男性育休取得促進を重視する方向に変更されました。
「以前より対象が広がった」ケースもあるため、廃止イコール利用不可とは限らないのです。
また、申請中の助成金が制度改定にかかる場合、経過措置期間中であれば支給を受けられる可能性があるため、期限の確認を怠らないようにしましょう。
助成金は「情報の鮮度」が成否を分ける
助成金制度は生き物のように変化し続けています。
とくに雇用保険関連の助成金は、労働市場の動向や国の重点施策に合わせて毎年のように新設・統合・廃止が行われます。
そのため、制度をうまく活用できる企業とそうでない企業の差は、「情報の鮮度」と「準備の早さ」にあります。
最新情報を定期的に確認し、必要に応じて専門家のアドバイスを受けることで、「廃止後に気づいた」「申請できなかった」といったミスを防ぐことができます。
また、制度が変わっても目的が同じであれば、後継制度を通じて支援を受けられるケースもあります。
助成金を単なる資金援助ではなく、経営戦略の一部として“継続的にアップデートする仕組み”と捉えることが、これからの時代の賢い活用法です。
助成金選定のポイントと申請手順

助成金は、国や自治体が企業の成長や雇用維持を支援するために設けている制度ですが、種類が多く、「どれを選べばいいのか」「どう進めればいいのか」と迷う経営者も少なくありません。
自社に合った助成金を正しく選び、スムーズに申請するためには、目的の明確化と準備の段取りが重要です。
ここでは、助成金を効果的に活用するための選定基準と、申請の進め方、そして審査で落ちないためのチェックポイントを整理します。
自社に合った助成金を選ぶ基準
助成金選定で最も重要なのは、「目的と課題の一致」です。
雇用保険助成金は目的別に大きく5つのカテゴリに分類されます。
| 区分 | 主な目的 | 代表的な助成金 |
| 雇用維持型 | 景気悪化・業績低下時の雇用確保 | 雇用調整助成金、産業雇用安定助成金 |
| 採用促進型 | 求職者の雇入れ・採用支援 | トライアル雇用助成金、特定求職者雇用開発助成金 |
| 再就職支援型 | 離職者の再就職を支援 | 労働移動支援助成金、早期再就職支援等助成金 |
| 処遇改善型 | 賃金・働き方・制度改善 | キャリアアップ助成金、両立支援等助成金 |
| 特定支援型 | 障害者・高齢者など特性別支援 | 障害者介助等助成金、65歳超雇用推進助成金 |
まずは自社の課題が「人材の採用」「育成」「定着」「再雇用」「環境改善」のどこにあるのかを明確にし、該当するカテゴリーの中から候補を絞り込みましょう。
一例として
・採用が課題の企業 → トライアル雇用助成金・特定求職者雇用開発助成金
・離職率が高い企業 → キャリアアップ助成金・両立支援等助成金
・高齢社員や障害者の活躍を進めたい企業 → 65歳超雇用推進助成金・障害者介助等助成金
さらに、「一時的な支援」ではなく、自社の人材戦略に沿って活用できる制度かどうかも確認しましょう。
助成金は経営課題を解決するための“戦略ツール”として捉えると、より継続的な成果につながります。
申請までの流れと注意点
助成金の申請は、制度によって細部は異なりますが、基本的な流れはほぼ共通しています。
以下のステップを意識することで、スムーズな手続きを行うことが可能です。
【申請の基本フロー】
1.制度の選定
自社の課題に合った助成金を選び、支給要件を確認します。
2.計画書の提出(事前手続き)
多くの助成金は、事業実施前に「計画届」や「実施計画書」の提出が必要です。
これを怠ると、条件を満たしていても不支給となることがあります。
3.取り組みの実施
雇用、訓練、制度導入など、助成対象となる取り組みを行います。
4.実績報告書の提出
実施内容・費用・従業員データなどを報告。ハローワークや労働局が審査します。
5.支給決定・入金
問題がなければ数か月後に助成金が入金されます。
注意点として重要なのは、「事後申請では受けられない」こと。
特に雇用保険関連助成金の多くは、「取り組みを始める前に申請書を提出する」ことが必須です。
たとえば、キャリアアップ助成金では「転換前の契約段階で届け出をしていなかったため不支給になった」というケースもあります。
また、申請書類は細かく、記載ミスや添付漏れで差し戻しになる例も多いため、事前に社労士など専門家の確認を受けると安心です。
審査落ちを防ぐチェックリスト
せっかく時間をかけて準備しても、形式的な不備や要件の誤解で支給されないことがあります。
審査落ちを防ぐために、申請前に次のポイントを確認しておきましょう。
【審査落ち防止の主なチェック項目】
□ 労働保険・社会保険に適正加入している
□ 労働基準法・最低賃金法など法令を遵守している
□ 過去に助成金の不正受給・返還命令がない
□ 対象となる従業員の雇用契約・勤怠・賃金台帳が整備されている
□ 提出期限を守っている(遅延提出は不支給対象)
□ 取り組みの実施記録(訓練資料・写真・就業規則変更履歴など)を保存している
□ 事業所・従業員情報に虚偽や誤りがない
特に多いのが「事前計画書を出していなかった」「契約書の日付が助成対象期間外だった」という事例です。
これらは形式上のミスであり、悪意がなくても支給対象外になります。
また、「助成金を目的に形だけ取り組んだ」と見なされる場合も審査で不支給となるため、制度の趣旨(雇用安定・職場改善・人材育成など)に沿った実施であることを明確に示すことが求められます。
助成金は「事前準備」と「継続運用」が成功の鍵
助成金を活用するうえで最も重要なのは、“後から探す”ではなく“前もって計画する”ことです。
自社の経営計画や人事戦略に沿って制度を選び、取り組みを始める前に申請準備を整えることで、支給までの道のりが格段にスムーズになります。
さらに、制度は毎年見直されるため、一度申請して終わりではなく、継続的にアップデートしていく姿勢も欠かせません。
社内で助成金活用のノウハウを蓄積すれば、次回以降の申請効率が飛躍的に向上します。
助成金は、国の制度を「知り」「使い」「続ける」企業ほど恩恵を受けられる仕組みです。
正確な情報と確実な準備で、雇用保険助成金を経営の追い風に変えていきましょう。
よくある質問/Q&A
雇用保険を活用した助成金は種類が多く、毎年内容が更新されるため、「制度は知っているが使い方が分からない」という声が多くあります。
ここでは、中小企業の経営者・人事担当者からよくある質問をまとめました。制度活用の前に、基本を押さえておきましょう。
Q1. 助成金と補助金の違いは?
A.. 助成金は条件を満たせば基本的に受け取れる支援金で、返済不要・採択審査なしが特徴です。
一方、補助金は審査に通過した事業のみが採択される競争型の制度です。
助成金は厚生労働省系(雇用・人材)、補助金は経産省系(設備・事業拡大)に多く、目的が異なります。
Q2. 雇用保険に加入していないと申請できない?
A. はい。ほとんどの助成金は雇用保険の適用事業所であることが必須です。
従業員が1人でもいれば、まず雇用保険へ加入しましょう。
未加入のまま雇用していると、申請資格を失うだけでなく労働法違反と見なされるリスクもあります。
Q3. 複数の助成金を同時に申請できますか?
A. 目的が重ならなければ可能です。
例として「キャリアアップ助成金(正社員化)」と「両立支援等助成金(育児支援)」の併用が挙げられます。
ただし、同一の取組みで二重受給することは禁止です。スケジュールや対象者を明確に区分し、社労士の確認を受けながら進めましょう。
Q4. 支給までの期間はどれくらい?
A. 一般的に申請から3〜6か月程度です。
申請件数が多い年度末はさらに時間がかかる場合もあります。
書類不備があると差し戻されるため、初回提出の正確さがスピード支給の鍵になります。
Q5. 対象社員が途中で退職した場合は?
A. 支給決定前に退職した場合は対象外になることが多いです。
キャリアアップ助成金では、転換後6か月以上の継続勤務が条件です。
やむを得ない事情による退職なら一部支給が認められる場合もあるため、早めに労働局へ相談を。
Q6. 不正受給になるケースは?
A. 虚偽報告・書類改ざん・形式的な要件操作などは不正受給に該当し、返還や企業名公表の対象になります。
代表的な例として「架空研修」「賃金の虚偽記載」「契約書の一時的書き換え」などがあります。
不正発覚時は最大5年間の申請停止となるため、誠実な運用が不可欠です。
Q7. 最新の助成金情報を入手するには?
A. 厚生労働省「雇用関係助成金」ページや都道府県労働局サイトの定期確認が確実です。
新制度や改定は毎年4月前後に更新されることが多く、社労士や商工会議所のサポートを受けるのも有効です。
疑問を放置せず、最新情報と専門家を味方に
雇用保険助成金は、中小企業の雇用維持と成長を支える制度です。
ただし、「理解したつもり」で申請を逃すケースも少なくありません。
迷ったら早めに社労士やハローワークへ相談し、自社で使える制度を明確にしましょう。
助成金を有効活用できる企業は、正確な情報と行動の早さを持っています。
常に最新情報をキャッチし、助成金を経営戦略の一部として活かす姿勢が成功の鍵です。
助成金の“組み合わせ活用”で支援額を最大化する方法

雇用保険を活用した助成金は、1つの制度だけでも企業経営を大きく支える力を持っています。
しかし、より効果的に資金支援を得たい場合は、複数の助成金を組み合わせて活用する戦略が重要です。
実は多くの助成金は、目的が重ならなければ同時申請が可能です。
たとえば「採用」を目的とした助成金と、「処遇改善」や「職場環境整備」を目的とした助成金を併用することで、支援額を増やしながら組織強化を同時に進められます。
この章では、実際に組み合わせ活用できる助成金の例と、注意すべき二重受給リスク、さらに成功事例を紹介します。
単発的な利用ではなく、「人材戦略の一部として助成金を設計する」という発想を持つことがポイントです。
同時に申請できる雇用保険系助成金の組み合わせ例
複数の助成金を併用する際は、目的の違いを明確にしておく必要があります。
同じ対象従業員や取り組み内容でなければ、同時申請が可能なケースは多いです。
以下は、実際に併用しやすい代表的な組み合わせ例です。
| 組み合わせ内容 | 活用イメージ | 期待できる効果 |
| トライアル雇用助成金 × 特定求職者雇用開発助成金 | 試行的に雇用(3か月)→適性を見て本採用 | 採用リスクの軽減+採用コスト削減 |
| キャリアアップ助成金 × 両立支援等助成金 | 非正規社員を正社員化+育児・介護制度導入 | 定着率の向上+働きやすい環境整備 |
| 人材確保等支援助成金 × 65歳超雇用推進助成金 | 職場の安全改善+高年齢者の雇用継続 | シニア層の戦力化+人材不足対策 |
| 地域雇用開発助成金 × キャリアアップ助成金 | 地方拠点新設+地域人材の正社員化 | 地域採用の強化+地域経済貢献 |
| 障害者介助等助成金 × 職場適応援助者助成金(ジョブコーチ) | 障害者雇用+支援体制構築 | 離職防止+多様な人材活用の実現 |
このように、「採用」→「育成」→「定着」→「環境改善」という流れに沿って組み合わせることで、助成金を戦略的に運用できます。
特に中小企業の場合、1件あたりの支給額が数十万円〜数百万円規模となるため、複数活用で年間数百万〜1,000万円以上の支援を受けられることもあります。
二重受給を避けるための注意点と実務対応
複数の助成金を同時に申請する際に注意すべきなのが、「二重受給」や「支給対象の重複」です。
これは、同じ目的・同じ従業員・同じ費用に対して複数の助成を受けることを指し、原則として禁止されています。
たとえば以下のようなケースは不支給対象になります。
・キャリアアップ助成金とトライアル雇用助成金を同じ従業員に対して同一期間内で適用した場合
・教育訓練費を「人材開発支援助成金」と「雇用調整助成金」で重複計上した場合
・別部門の助成金で同じ設備投資費用を二重申請した場合
このような誤りを防ぐために、以下の3つの実務対応が有効です。
1.助成金ごとに目的・対象を明文化する
→ 社内申請リストを作り、「どの助成金を、どの従業員・取組みに使うか」を明確化。
2.申請スケジュールを統一管理する
→ Excelやスプレッドシートで、申請日・実施期間・審査日程を一元管理。
3.社労士・専門機関へ事前相談する
→ 労働局によって解釈が異なる場合があるため、管轄労働局または社労士に事前確認を行う。
特に雇用保険関連助成金は細部の条件が似ており、「知らないうちに二重受給になっていた」というケースも実際にあります。
実務上は、1人の従業員に対して同時期に1制度までと覚えておくと安全です。
事例として見る、複数助成金を活用した中小企業の成功パターン
ここでは、実際に複数の雇用保険助成金を組み合わせて活用した企業の例を紹介します。
【事例① – 製造業A社】
人材不足解消と定着率改善を同時に狙い、「トライアル雇用助成金」+「キャリアアップ助成金」を活用。
未経験者を3か月のトライアル期間で育成し、適性を見て正社員化することで、採用リスクを抑えながら優秀な人材を確保しました。
結果的に1人あたり約100万円以上の助成金を受給し、採用・育成コストの大幅削減に成功しました。
【事例② – 介護業B社】
離職率が高い課題を解決するため、「両立支援等助成金」+「人材確保等支援助成金」を組み合わせ。
育児や介護との両立を支援する制度導入と同時に、業務負担軽減のための設備(リフト・見守りセンサー等)を導入。
従業員満足度が向上し、離職率が前年の半分に減少。支給総額は約400万円に達しました。
【事例③ – 運送業C社】
高齢ドライバーの継続雇用を支援するため、「65歳超雇用推進助成金」を活用。
定年制度を70歳まで引き上げ、倉庫設備を高齢者向けに改良。
熟練人材の離職を防ぎながら、安全性と生産性の両立を実現しました。
これらの事例に共通するのは、“課題に合わせて制度を組み合わせたこと”です。
助成金を単体で見るのではなく、「雇用・育成・定着」の流れ全体で設計すると、より高い効果を得られます。
助成金を「点」ではなく「線」で活用する発想を
助成金の真価は、単発で申請して終わりではなく、複数の制度を連携させて活用することで発揮されます。
雇用・育成・定着・環境改善といったフェーズごとに適切な助成金を組み合わせれば、企業の成長ステージに応じて柔軟に支援を受けられる体制を構築できます。
同時に、二重受給を避けるためのルールを理解し、“制度のつなぎ方”を意識した経営戦略を立てることが重要です。
助成金は「知って申請する企業」が最も恩恵を受けます。
複数制度を上手に組み合わせ、自社の課題解決と支援額の最大化を両立させましょう。
まとめ|雇用保険助成金を“知る”ことが経営の第一歩

中小企業にとって、雇用保険助成金は「人を守りながら成長するための仕組み」です。
採用・育成・定着・環境改善といったあらゆるフェーズで使える制度が整っており、
適切に活用すれば、人材課題を解決しながら経営の安定化にもつながります。
この記事で紹介したように、雇用保険助成金には多くの種類があり、
・雇用を維持する制度(雇用調整助成金など)
・採用を支援する制度(トライアル雇用助成金など)
・職場環境を整える制度(キャリアアップ助成金、両立支援等助成金など)
といったように、目的ごとに使い分けることができます。
さらに、複数の助成金を“組み合わせて活用”すれば、支援額を最大化しながら組織全体の成長基盤を築くことも可能です。
「採用」だけで終わらせず、「育成」「定着」「環境整備」まで見据えて制度を選ぶことで、
一時的な補助ではなく“持続的な人材戦略”として機能します。
助成金は、知っているかどうかで結果が大きく変わる制度です。
「うちの会社でも該当する助成金があるかもしれない」と感じたら、まずは厚生労働省やハローワーク、または社会保険労務士へ相談してみてください。
制度の仕組みを理解し、計画的に申請を行えば、雇用を守りながら企業の成長を加速させる大きな武器になります。
今日から、あなたの会社でも雇用保険助成金を“経営の味方”として活かしていきましょう。
