従業員の育児と仕事の両立を支援するため、事業所内に保育施設を設置したいと考えている企業もあるでしょう。その際、「事業所内保育施設設置・運営等支援助成金を利用できないか」と調べるケースがあります。
しかし、事業所内保育施設設置・運営等支援助成金は、現在新規申請できる制度ではありません。
厚生労働省では、2016年4月1日以降、新たな事業所内保育施設に関する設置・運営計画の認定申請受付を停止しています。現在残っている「事業所内保育施設コース」は、主に過去に計画認定を受けた施設に関する経過措置です。
その後、企業による保育施設整備を支援する仕組みとして「企業主導型保育事業」が創設されました。ただし、こちらも定員枠を概ね確保したことから、2022年度以降は新規募集や定員増員を行っていません。
そのため、これから企業内保育所を新しく設置したい場合は、国の旧制度だけでなく、自治体独自の補助制度や事業所内保育事業などを確認する必要があります。
この記事では、事業所内保育施設設置・運営等支援助成金の現在の状況や、旧制度の内容、企業主導型保育事業との関係、今から企業内保育所を設置する場合に確認したい支援制度を解説します。
事業所内保育施設設置・運営等支援助成金は新規受付を停止している

事業所内保育施設設置・運営等支援助成金について最初に確認しておきたいのは、現在は新規申請を受け付けていないことです。
過去の記事や資料では、設置費や運営費の助成額、申請方法などが紹介されていることがあります。しかし、それらの情報だけを見ると「今でも申請できる」と誤解する可能性があります。
現在の制度状況を整理すると、次のとおりです。
| 制度 | 現在の状況 |
| 事業所内保育施設設置・運営等支援助成金 | 新規受付停止 |
| 両立支援等助成金 事業所内保育施設コース | 新規受付停止・経過措置中心 |
| 企業主導型保育事業 | 2022年度以降、新規募集・増員なし |
| 自治体独自の企業内保育所支援 | 地域によって実施 |
まず現在利用できる制度かどうかを確認してから、具体的な設置計画を進めることが重要です。
2016年4月1日以降は新規の設置・運営計画を申請できない
事業所内保育施設設置・運営等支援助成金は、従業員の子どもを預かる保育施設を企業が設置・運営するときの負担を軽減するために設けられていた制度です。
しかし、厚生労働省は2016年4月1日以降、新規の設置・運営計画に関する認定申請の受付を停止しました。
そのため、2026年現在、
「これから社内保育所を作るので、事業所内保育施設設置・運営等支援助成金へ申請する」
という利用方法はできません。
過去に掲載された助成率や助成上限額、申請期限などは、当時の制度内容として理解する必要があります。
制度名で検索すると古い資料や解説ページも表示されますが、現在の申請可否は必ず厚生労働省などの最新情報で確認しましょう。
現在は既存施設に関する経過措置が中心
新規受付が終了したあとも、過去に認定された事業所内保育施設については、一定の経過措置が残っています。
そのため、厚生労働省の資料などで「事業所内保育施設コース」という名称を目にすることがあります。
ただし、これは現在新しく施設を設置する企業が利用できる一般的な新規助成制度という意味ではありません。
過去に計画認定を受けた施設に対する助成管理などが中心です。
「制度名が公式サイトに残っているから申請できる」と判断しないことが重要です。
これから新設する場合は、過去の事業所内保育施設コースではなく、現在利用できる自治体制度や保育事業の仕組みを確認しましょう。
事業所内保育施設設置・運営等支援助成金とは

事業所内保育施設設置・運営等支援助成金は、企業が従業員向けの保育施設を整備し、仕事と育児の両立を支援するために設けられている制度です。
現在は新規申請できないものの、過去にどのような支援が行われていたかを理解しておくと、企業内保育所に対する公的支援の流れを把握しやすくなります。
従業員向け保育施設の設置・運営を支援していた制度
旧制度では、事業主が従業員の子どもを預かる保育施設を事業所内などに設置し、継続して運営する場合に費用の一部を助成していました。
目的は、従業員が出産や育児を理由に離職することなく、仕事を続けられる環境を整えることです。
特に、
- 勤務時間と保育園の開所時間が合わない
- 周辺地域の保育所へ入所できない
- シフト勤務や早朝・夜間勤務がある
- 職場の近くで子どもを預けたい
といった企業・従業員の課題に対応する役割がありました。
事業所内保育施設は、単なる福利厚生設備ではありません。
従業員の就業継続を支えるため、保育の安全性や職員配置、施設構造などについて一定の基準を満たす必要がありました。
設置費・運営費・増築費などが助成対象だった
旧制度では、保育施設を整備するときの設置費だけでなく、運営に必要となる一定の費用も助成対象でした。
制度の時期や条件によって異なりますが、主な支援対象として、
- 新たな保育施設の設置費
- 既存施設の増築費
- 保育施設の運営費
などがありました。
そのため、建物を用意する初期費用だけでなく、保育施設を継続して運営する企業側の負担も軽減する仕組みになっていました。
一方、現在は新規受付を停止しているため、過去の助成率や上限額を現在の事業計画にそのまま当てはめることはできません。
企業内保育所の設置費用を検討するときは、現在利用できる自治体制度などの条件をもとに資金計画を立てる必要があります。
単独設置だけでなく複数企業による共同設置も対象だった
旧制度では、1社だけで保育施設を設置する方法だけでなく、複数企業による共同設置も想定されていました。
事業所内保育施設は、施設整備だけでなく保育士の確保や日常的な運営にも費用がかかります。
従業員数が少ない企業の場合、1社だけで一定規模の保育施設を維持することが難しいケースもあります。
そのため、周辺企業と共同で利用できる仕組みは、中小企業にとっても重要な選択肢でした。
現在企業内保育所を検討する場合も、「自社専用施設を作る」という方法だけに限定せず、地域の保育資源や近隣企業との共同利用なども含めて検討するとよいでしょう。
事業所内保育施設設置・運営等支援助成金の対象施設

旧制度の対象となるためには、単に企業内に子どもを預かるスペースを設ければよいわけではありませんでした。
保育施設として安全に運営できるよう、一定の基準を満たす必要があります。
現在企業内保育施設を設置するときも、建築・消防・保育など複数の法令や基準が関係するため、事前の確認が欠かせません。
従業員の子どもを預かる事業所内保育施設が対象だった
旧制度では、事業主が雇用する従業員の子どもを預かることを目的として設置する保育施設が対象でした。
企業内保育所を設置する背景には、育児中の従業員が安心して勤務できる環境を整えるという目的があります。
そのため、一般的な託児スペースとは異なり、継続的に子どもを預かる保育施設としての運営体制が求められていました。
また、保育施設を設置する場所についても、安全性や利用しやすさなどを考える必要があります。
従業員が勤務する施設と同じ建物内だけでなく、一定の条件を満たす別の場所に設置する方法などもありました。
現在新たに企業内保育所を設ける場合も、従業員数や子どもの年齢、利用予定人数などを事前に調査し、必要な施設規模を検討することが重要です。
保育士配置や施設構造など一定の基準を満たす必要があった
事業所内保育施設には、子どもの安全を確保するための基準が設けられていました。
具体的には、
- 保育士などの配置
- 保育室の面積
- 調理・衛生設備
- 避難経路
- 消防設備
- 開所時間
などについて確認する必要がありました。
企業が会議室などを一時的に保育スペースへ転用するだけで、事業所内保育施設として認められるわけではありません。
企業内保育所は、設置費だけでなく日常的な保育士の人件費や施設維持費なども必要になります。
そのため、助成制度の有無だけで設置を決めるのではなく、補助終了後も運営を継続できるかを含めて計画することが大切です。
事業所内保育施設設置・運営等支援助成金の後継となった企業主導型保育事業

事業所内保育施設設置・運営等支援助成金の新規受付が終了した2016年度には、企業による保育施設整備を支援する新たな仕組みとして「企業主導型保育事業」が創設されました。
企業が従業員の働き方に応じた保育サービスを提供しやすくするための制度です。
ただし、企業主導型保育事業も現在は自由に新設申請できる状況ではありません。
企業主導型保育事業は2016年度に創設された
企業主導型保育事業は、企業が従業員向けの保育施設を設置しやすくすることを目的として2016年度に創設されました。
認可保育所とは異なる仕組みでありながら、一定の基準を満たすことで、施設の整備や運営に対して認可施設並みの支援を受けられる点が特徴です。
企業が単独で設置するだけでなく、
- 複数企業で共同利用する
- 他社の従業員枠を設ける
- 地域住民が利用できる枠を設ける
といった運営方法も可能とされてきました。
勤務時間が一般的な保育施設と合わない企業などにとって、柔軟な保育環境を整えやすい仕組みです。
一方、設置後は保育の質や安全管理、職員配置などの基準を継続して満たす必要があります。
2022年度以降は新規募集・定員増員を行っていない
企業主導型保育事業は、事業所内保育施設設置・運営等支援助成金の代替制度として紹介されることがあります。
しかし、現在新しく申請できる制度として単純に案内することはできません。
企業主導型保育事業は、全国で定員11万人分を概ね確保したことから、2022年度以降、新規募集や定員増員を行っていません。
そのため、
「旧助成金は終了したが、企業主導型保育事業なら今から使える」
と考えるのは適切ではありません。
これから新設を計画する企業は、企業主導型保育事業だけに依存せず、所在地の自治体が実施する保育施設整備支援などを確認する必要があります。
現在企業内保育所を設置する場合に確認したい支援制度

事業所内保育施設設置・運営等支援助成金と企業主導型保育事業の新規募集が利用できないからといって、企業内保育所を設置する方法そのものがなくなったわけではありません。
自治体によっては、企業内保育所の設置や運営を支援する独自制度を設けています。
また、児童福祉法に基づく「事業所内保育事業」として市区町村の認可を受ける方法もあります。
企業所在地によって利用できる制度や手続きが異なるため、設置前の情報収集が重要です。
自治体独自の企業内保育所補助金を確認する
都道府県や市区町村の中には、企業内保育所の設置・運営に対して独自に補助を行っている地域があります。
対象となる費用は自治体ごとに異なりますが、
- 施設整備費
- 改修費
- 備品購入費
- 運営費
などが支援される場合があります。
ただし、全国共通の制度ではありません。
同じような名称の制度であっても、所在地や企業規模、施設定員、開所時間などによって条件が異なります。
募集期間が限定されている場合や、予算上限に達すると受付を終了する制度もあります。
企業内保育所の設置を検討するときは、都道府県だけでなく、市区町村の制度も確認しましょう。
市区町村の事業所内保育事業も選択肢になる
企業が保育施設を設ける方法の一つとして、「事業所内保育事業」があります。
これは地域型保育事業の一つで、主に0~2歳児を対象とする保育サービスです。
企業の従業員の子どもだけでなく、一定の地域枠を設けて地域の子どもを受け入れる仕組みもあります。
市区町村の認可を受ける必要があるため、企業が自由に開設できるものではありません。
施設面積や保育士配置などの基準もあります。
一方、地域の保育ニーズと企業側の子育て支援を両立できる可能性があります。
自社内に保育施設を設けたい場合は、自治体に事業所内保育事業としての整備が可能か相談することも選択肢です。
設置前に自治体へ相談して対象制度を確認する
企業内保育所の設置では、補助金だけを先に探すのではなく、施設の設置自体が可能かどうかを確認することが重要です。
保育施設には、
- 建築基準
- 消防設備
- 保育士配置
- 面積基準
- 衛生管理
- 食事提供
など複数の要件が関係します。
たとえば既存オフィスの空きスペースを使う予定でも、そのまま保育施設として利用できるとは限りません。
まず企業所在地の自治体へ相談し、
- どの保育制度で設置できるか
- 必要となる認可・届出は何か
- 利用できる補助制度があるか
- 施設・人員基準は何か
- 開設までどの程度の期間が必要か
を確認しましょう。
自治体独自補助を利用する場合も、工事開始前の申請が必要になることがあります。
先に工事や設備購入を進めると補助対象外になる可能性があるため、設置計画の初期段階から相談することが大切です。
事業所内保育施設の新設では現在利用できる制度を確認しよう

事業所内保育施設設置・運営等支援助成金は、従業員の仕事と育児の両立を支援するため、企業が保育施設を設置・運営する費用を助成していた制度です。
設置費や運営費、増築費などが支援され、企業単独だけでなく複数企業による共同設置も対象とされていました。
しかし、2016年4月1日以降、新規の設置・運営計画に関する認定申請の受付は停止されています。
現在公式情報に残っている事業所内保育施設コースは、主に過去に認定を受けた施設に関する経過措置です。
また、2016年度に創設された企業主導型保育事業についても、定員枠を概ね確保したことから、2022年度以降は新規募集や定員増員を行っていません。
そのため、これから企業内保育所を設置する場合は、過去の国の助成制度だけを前提に資金計画を立てないことが重要です。
まず所在地の都道府県・市区町村に、
- 企業内保育所向けの独自補助があるか
- 事業所内保育事業として認可できるか
- 必要な施設・人員基準
- 申請や工事を進める順番
を確認しましょう。
特に補助制度を利用する場合は、工事や契約を始める前の申請が必要になることがあります。
古い制度の助成率や上限額ではなく、現在利用できる制度と最新の設置基準を確認したうえで計画を進めることが大切です。
