2026年08月27日 更新

集合研修をオンライン化すべき?教育コスト・受講率・実務定着で判断する方法

集合研修をオンラインへ切り替えると、会場費や交通費を削減でき、拠点が離れた社員にも同じ研修を届けやすくなります。

しかし、「オンラインにすれば安くなる」という理由だけで切り替えると、受講はされたものの仕事で使われない、理解度を確認できない、結局は対面フォローが増えるといった問題が起こります。

厚生労働省が2026年7月31日に公表した 令和7年度「能力開発基本調査」 では、教育訓練費用を支出した企業は54.4%、OFF-JTに支出した費用の労働者1人当たり平均額は2.0万円でした。

企業が研修に一定の費用を投じている以上、実施回数や受講人数だけでなく、投資した費用が社員の能力や行動変化につながったかまで確認する必要があります。

オンライン化を判断するときは、「集合研修かオンライン研修か」の二択にしません。

集合、ライブ型オンライン、録画型、両者を組み合わせるハイブリッドの中から、教育コスト・受講状況・実務定着の3つを比較して選ぶことが重要です。

1.集合研修をオンライン化する目的を先に決める

研修DXで起こりやすい失敗は、「オンライン化すること」そのものが目的になることです。

移動負担を減らしたいのか、受講機会を増やしたいのか、研修内容を標準化したいのかによって、適した形式は変わります。

厚生労働省の 職場における学び・学び直し促進ガイドライン でも、企業と労働者を取り巻く環境変化を踏まえ、労使が協働しながら継続的な学び・学び直しに取り組む考え方が示されています。

研修の形式より先に、「どの能力を身につけてほしいのか」を決めることが出発点です。

例えば、研修目的と形式は次のように整理できます。

研修の目的基本となる形式
制度・商品知識を覚える録画型オンライン
複数拠点へ同じ内容を届ける録画型・ライブ型
質疑応答をしながら理解を深めるライブ型
営業ロールプレイを行う集合・ライブ型
機械操作や実技を習得する集合中心
知識習得後に実技を行うオンライン+集合

中小機構が運営する中小企業大学校web校の WEBee Campus でも、Web会議を使ったオンライン研修と、動画で学ぶオンデマンド講座の両方が提供されています。

オンラインという一つの方式に統一するのではなく、学習目的に応じて形式を使い分ける考え方は中小企業でも取り入れられます。

したがって最初の判断は、「集合研修を廃止するか」ではなく、現在の研修のうち、どの学習工程ならオンラインへ移しても成果を落とさないかです。

2.教育コストは会場費だけでなく「社員を拘束する時間」まで計算する

オンライン研修の費用対効果を見る際、会場費や交通費だけを比較すると実態を見誤ります。

研修中は社員が通常業務から離れるため、受講時間そのものも会社が負担しているコストだからです。

研修形式を比較する際は、年間教育コストを次のように計算します。

年間教育コスト
=外部支出+受講者の拘束時間+講師・運営工数+教材制作費+システム費

例えば、30人に6時間の集合研修を行っている会社を想定します。

  • 講師費:20万円
  • 会場費:10万円
  • 交通費:1人5,000円
  • 社員の時間単価:3,000円
  • 運営準備:15時間

この場合、

20万円+10万円+15万円+54万円+4.5万円=103.5万円です。

同じ内容をライブ型オンライン研修に変更し、会場・交通費がなくなり、運営工数8時間、システム費3万円になれば、

20万円+54万円+2.4万円+3万円=79.4万円となります。

単純計算では約24万円の削減です。

さらに知識習得部分を3時間の録画教材に置き換え、初年度の動画制作費35万円、システム費6万円、管理工数5時間とすると、

35万円+6万円+27万円+1.5万円=69.5万円です。

ただし、録画教材は初年度に制作負担が集中します。

内容を毎年更新する必要がある研修なら、再制作費まで含めなければなりません。

つまり、オンライン化のコストメリットは、削減できる会場・移動費から、新たに生じる制作・システム・管理コストを差し引いて判断する必要があります。

3.実技や対話が成果を左右する部分までオンライン化しない

コストを下げられても、必要な能力が身につかなければオンライン化は成功とはいえません。

特に、講師が動作を見ながら修正する研修や、受講者同士の対話が学習成果に直結する研修は慎重に判断する必要があります。

そこで、「研修単位」ではなく「学習工程単位」で形式を分けます。

例えば営業研修なら、

商品知識・サービス理解
→録画教材

商談事例の解説・質疑応答
→ライブ型オンライン

ロールプレイ・個別フィードバック
→集合研修

という組み合わせが可能です。

これなら6時間すべてを集合で実施する必要はありません。

仮に6時間のうち3時間を録画、1時間をライブ、2時間を集合にすれば、移動や会場利用を減らしながら実技練習は残せます。

集合研修とオンライン研修を対立させるのではなく、「知識伝達はオンライン、実践とフィードバックは対面」のように、研修内容を分解することが効率化につながります。

4.受講率・完了率だけでオンライン化の成功を判断しない

オンライン化すると、誰が受講したか、どこまで視聴したかを把握しやすくなります。

しかし、受講率100%でも、社員の仕事が変わらなければ研修投資として十分とはいえません。

研修成果は、受講から実務成果まで段階を分けて確認します。

段階指標確認すること
受講受講率対象者が研修を開始したか
完了完了率最後まで受講したか
理解テスト・課題必要な知識を理解したか
実践実務適用率学んだ内容を仕事で使ったか
成果業務指標品質・時間・売上等が変化したか

例えば100人中95人が研修を完了しても、実際の業務で研修内容を使った社員が20人なら、

20人÷95人×100=約21%

しか実務で活用できていません。

「完了率95%」だけを経営会議で報告すれば成功しているように見えますが、実際には受講と行動の間に大きな差があります。

したがって、オンライン研修では受講率をゴールにせず、理解・実践・成果まで一段ずつ追う必要があります。

5.実務定着は研修直後ではなく1~3か月後に確認する

研修直後の理解度テストや満足度アンケートだけでは、実際に仕事で使われているか分かりません。

特に録画型研修では「見た」ことと「できる」ことを区別する必要があります。

厚生労働省が2026年6月に公開した 株式会社JTBの人材育成事例 では、受講前に本人が目標を設定して上司が確認し、受講後1週間以内に行動計画を作成、3か月後に達成度と能力の到達レベルを確認する運用が紹介されています。

上司が研修前後にフォローすることで、社員の成長や行動変容につながっているとされています。

中小企業でも、この仕組みをそのまま大規模に導入する必要はありません。

例えば営業研修なら、

研修前:商談後の次回アクション設定率60%
→研修後1週間:学んだ質問方法を3商談で試す
→1か月後:設定率75%
→3か月後:80%を維持

という形で、受講内容を実務指標につなげられます。

オンライン化後に実務定着が落ちた場合も、「オンラインだから失敗」と即断しません。

受講後に試す機会がない、上司が内容を知らない、研修課題が実務と合っていないなど、フォロー側に原因がある場合もあります。

研修形式と、研修後の実践環境を分けて評価することが重要です。

6.全社導入する前に一つの研修だけオンライン化して比較する

オンライン研修の効果は、会社の業種や社員構成、研修内容によって異なります。

そのため、最初からすべての集合研修をオンラインに移すのではなく、一つの研修で試験運用します。

対象には、年に複数回実施している研修や、知識習得の割合が高い研修が向いています。

例えば営業基礎研修を変更した場合、集合研修時とオンライン化後を同じ指標で比較します。

評価項目集合研修オンライン化後
年間総コスト120万円80万円
1人当たりコスト4万円2.7万円
受講率85%95%
完了率85%90%
理解度テスト82点84点
3か月後の実務適用率70%68%
運営工数40時間18時間

この例では、実務適用率はわずかに下がっていますが、受講率・コスト・運営工数は改善しています。

研修目的に照らして許容できる差なら、オンライン中心に移行する合理性があります。

一方、年間コストが40%減っても、実務適用率が70%から35%へ落ちたなら、削減額だけを理由に継続すべきではありません。

「いくら安くなったか」と「社員育成の成果を維持できたか」を同じ表で見ることで、オンライン化を経営判断として評価できます。

7.研修ごとに「オンライン・併用・集合継続」を判断する

一つの研修で効果を確認できたら、他の研修にも広げます。

ただし、「オンライン化に成功したから全研修を移行する」とは考えません。

判断結果を次のように分類します。

検証結果判断
コスト減・受講率向上・実務定着も維持オンライン中心へ移行
知識習得は良好だが実技が弱いオンライン+集合
受講率は高いが実務定着が低い内容・フォローを再設計
質疑応答が多く録画では理解不足ライブ型へ変更
動作確認・実技指導が成果を左右する集合研修を維持
オンライン運営工数が大きく効果がない集合・外部研修を再検討

集合研修へ戻すことも失敗ではありません。

例えば法改正の説明は録画型で十分でも、新任管理職の面談トレーニングは対面でのロールプレイを残した方が成果が出る可能性があります。

つまり、会社全体で「オンライン研修にする」と決めるのではなく、研修ごとに最適な形式を選べる状態を目指すことが重要です。

8.90日間でオンライン化の適否を判断する

研修オンライン化の検証を、何年も続ける必要はありません。

まず一つの研修を対象に、約90日で継続・改善・撤回を判断します。

最初の2週間で、現在の集合研修について、外部費用、受講者の拘束時間、運営工数、受講率、実務で期待する行動を整理します。

その後、

1~2週目:現状コストと成果を測定
→3~4週目:オンライン化する部分を決定
→1か月目:試験実施
→直後:受講率・完了率・理解度を確認
→1か月後:実務での使用状況を確認
→3か月後:業務指標と行動変化を評価

という流れで進めます。

評価する数字は、

教育コスト
受講率
理解度
実務適用率
運営工数

の5つに絞っても構いません。

3か月後に、集合研修より安く、受講しやすく、実務定着も維持できているならオンライン化を拡大します。

実技部分だけ成果が落ちているならハイブリッドへ変更します。

オンライン化したという事実ではなく、研修成果と教育コストの両方が改善したかで継続を決めます。

まとめ|オンライン化する「研修」ではなく「部分」を決める

集合研修をオンライン化する目的は、研修をデジタルに置き換えることではありません。

移動・会場・運営の負担を減らしながら、社員に必要な学習機会を提供し、仕事で使える能力を身につけてもらうことです。

そのため、判断する順番は、

教育コストが下がったか
→受講しやすくなったか
→必要な知識を理解できたか
→1~3か月後に仕事で使われているか

とします。

最初にLMSやWeb会議ツールを選ぶ必要はありません。

まず現在実施している集合研修を一つ選び、「年間外部費用」「社員の拘束時間」「講師・運営工数」「現在の受講率」「研修後に期待する行動」の5項目をA4一枚に書き出してください。

次に、研修内容を「知識習得」「質疑応答」「実技・演習」に分けます。

知識習得だけを録画型に、質疑応答をライブ型に移し、実技・フィードバックは集合で残す。

そこから90日間だけ試験運用し、集合研修時の数字と比較します。

全面オンライン化を前提にせず、成果を維持できる部分だけをオンラインに移すこと。

これが、中小企業が研修DXをコスト削減だけで終わらせず、社員育成の質まで改善するための現実的な進め方です。

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