福利厚生を充実させたいものの、制度の導入や運用にかかる費用が負担となり、なかなか取り組みを進められない企業もあるでしょう。
福利厚生や職場環境の改善に取り組む場合、国の助成金を活用できる可能性があります。
ただし、「福利厚生助成金」という一つの制度があるわけではありません。健康づくりや職場環境改善、人材育成、育児・介護との両立支援など、企業が実施したい施策に応じて利用できる助成金が異なります。
代表的な制度としては、「人材確保等支援助成金」「人材開発支援助成金」「両立支援等助成金」があります。
たとえば、健康づくり制度や職場活性化制度の整備には人材確保等支援助成金、研修やリスキリングには人材開発支援助成金が候補です。育児や介護と仕事を両立しやすい環境づくりには、両立支援等助成金を検討できます。
この記事では、福利厚生に活用できる主な助成金や対象となる施策、助成金と補助金の違い、申請時に注意したいポイントを解説します。
福利厚生に使える主な助成金

福利厚生に活用できる助成金を探すときは、最初に「自社で何を改善したいのか」を整理することが重要です。
福利厚生と一口にいっても、健康管理、人材育成、育児支援など内容はさまざまです。それぞれ目的が異なるため、対象となる助成制度も変わります。
主な制度を整理すると、次のようになります。
| 福利厚生・職場環境改善の目的 | 検討できる主な助成金 |
| 健康づくりや職場環境改善 | 人材確保等支援助成金 |
| 研修・人材育成・リスキリング | 人材開発支援助成金 |
| 育児・介護と仕事の両立 | 両立支援等助成金 |
福利厚生として実施している制度であれば、すべて助成対象になるわけではありません。
企業独自のレクリエーションや一般的な慰安目的の制度などは、今回紹介する雇用関係助成金の目的と一致しない場合があります。
助成金名から探すのではなく、「どのような職場課題を改善するのか」を基準に制度を選ぶと判断しやすくなります。
人材確保等支援助成金は健康づくりや職場環境改善に活用できる
従業員が働きやすい職場環境を整え、人材の定着につなげたい場合は「人材確保等支援助成金」が候補になります。
人材確保等支援助成金は、労働環境の向上などによって魅力ある職場づくりを進める事業主を支援し、人材の確保・定着につなげるための制度です。
2026年度の「雇用管理制度・雇用環境整備助成コース」では、以下のような制度が対象として示されています。
- 賃金規定制度
- 諸手当等制度
- 人事評価制度
- 職場活性化制度
- 健康づくり制度
- 業務負担軽減機器等
職場活性化制度には、メンター制度やエンゲージメントサーベイ、1on1ミーティングなどが含まれます。健康づくり制度も対象です。
そのため、従業員の健康管理やコミュニケーション改善などを通じて、働きやすい環境を整備したい企業と相性があります。
また、直接的な作業負担を軽減する機器・設備等も対象となる場合があります。
ただし、単に新しい制度を作れば助成を受けられるわけではありません。
このコースでは、導入する制度や機器などを盛り込んだ「雇用管理制度等整備計画」を作成し、管轄の労働局から認定を受ける必要があります。その計画に沿って制度を導入し、離職率低下などの目標を達成することが求められます。
福利厚生制度をすでに導入した後で助成金を探すのではなく、新設や見直しを計画している段階で制度内容を確認することが重要です。
人材開発支援助成金は研修やリスキリングに活用できる
従業員向けの研修やスキルアップ制度を充実させたい場合は、「人材開発支援助成金」を検討できます。
人材開発支援助成金は、事業主が従業員に対して職務に関連する知識や技能を習得させるための職業訓練などを行った場合に、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部などを助成する制度です。
2026年度は、以下を含む7つのコースが設けられています。
- 人材育成支援コース
- 教育訓練休暇等付与コース
- 人への投資促進コース
- 事業展開等リスキリング支援コース
- 建設労働者認定訓練コース
- 建設労働者技能実習コース
- 障害者職業能力開発コース
2026年4月には複数の制度改正が行われ、8月にも事業展開等リスキリング支援コースの変更が実施されています。
たとえば、現在の業務に必要な専門スキルを学ぶ研修や、新しい事業への進出に必要なリスキリングなどを行うケースが考えられます。
従業員にとって、研修制度や資格取得支援はスキルアップやキャリア形成につながります。
企業側にとっても、外部人材の採用だけに頼らず、現在働いている従業員の能力を高められる点がメリットです。
ただし、「福利厚生として講座代を会社が負担すれば助成対象になる」というものではありません。
利用するコースによって、対象労働者や訓練内容、訓練時間などの条件があります。
業務との関連性や訓練方法も確認されるため、受講予定の研修が決まった段階ではなく、研修計画を立てる段階で助成対象になるか確認するとよいでしょう。
両立支援等助成金は育児・介護と仕事の両立支援に活用できる
育児や介護などと仕事を両立しやすい環境を整えたい場合は、「両立支援等助成金」が候補です。
両立支援等助成金は、仕事と家庭の両立支援に取り組む事業主を対象とした制度です。2026年度についても、厚生労働省から支給申請の手引きや各コースの支給要領が公表されています。
育児や介護は、従業員の働き方に大きな影響を与えます。
制度上は休業を取得できても、
「同僚への負担が大きくなる」
「復帰後に元の業務へ戻れるかわからない」
「介護と勤務時間を両立できない」
といった問題が残っていれば、従業員が制度を利用しにくくなる可能性があります。
両立支援等助成金では、育児休業や介護との両立だけでなく、育休中の業務代替を支援する取り組みなども設けられています。また、2026年度には不妊治療や女性の健康課題への対応に関するコースも用意されています。
そのため、従業員のライフステージが変化しても働き続けやすい環境を整えたい企業に適した制度です。
特に、子育て世代が多い企業や介護離職を防ぎたい企業では確認しておきたい助成金といえます。
ただし、両立支援等助成金も、休暇制度を設けるだけで自動的に受給できるものではありません。
利用するコースに応じて、制度整備や対象従業員への対応、休業取得、職場復帰などの条件があります。
従業員から育児・介護に関する相談が出てから慌てて制度を探すのではなく、あらかじめ社内制度と助成金の要件を確認しておくことが大切です。
福利厚生に使える助成金と補助金の違い

福利厚生に利用できる公的支援制度を探していると、「助成金」と「補助金」の両方を目にすることがあります。
どちらも企業の負担を軽減する制度ですが、支援の目的には違いがあります。
特に福利厚生に関係する制度では、雇用や職場環境の改善を目的とした助成金が中心です。
一方、設備投資やIT導入などが目的であれば、補助金が選択肢になる場合があります。
助成金は雇用や職場環境の改善を支援する制度が中心
雇用関係の助成金は、従業員の雇用維持や人材育成、労働環境改善などを支援する制度が中心です。
今回紹介した3制度も、それぞれ目的が明確に分かれています。
人材確保等支援助成金は、人材の確保・定着につながる職場環境改善を支援します。
人材開発支援助成金は、従業員の職業能力開発を支援する制度です。
両立支援等助成金は、育児や介護などと仕事を両立しやすい環境づくりを支援します。
つまり、福利厚生という名称そのものではなく、
「人材定着」
「人材育成」
「仕事と家庭の両立」
といった目的に対して支援される仕組みです。
そのため、「福利厚生を増やしたい」という段階ではなく、どの雇用課題を解決したいのかまで整理しておく必要があります。
補助金は設備投資やIT導入などを対象とする制度が多い
補助金は、新しい設備の導入やIT化、新事業への投資などを支援する制度が中心です。
そのため、一般的な福利厚生サービスの費用が、そのまま補助対象になるとは限りません。
一方で、職場環境改善のために設備やシステムを導入する場合、投資内容によっては別の補助制度が利用できる可能性があります。
たとえば、企業が業務効率化のためにITツールを導入する場合は、福利厚生向け助成金ではなくIT投資を対象とする制度を検討する方が適しているケースがあります。
制度を探すときは、
「福利厚生に使える制度」
という切り口だけでなく、
「何に費用を使うのか」
「何を改善するのか」
まで分解して考えると、対象となる制度を探しやすくなります。
福利厚生に助成金を活用するメリット

助成金を活用することで、企業は福利厚生や職場環境改善に必要な負担を軽減しながら、新しい施策へ取り組める可能性があります。
特に中小企業では、必要性を感じていても費用面から制度導入を後回しにすることがあります。
助成金をうまく利用できれば、こうした初期負担を抑えやすくなります。
ただし、助成金を受け取ること自体を目的にするのではなく、自社の課題解決に必要な施策を導入することが前提です。
福利厚生の導入や運用にかかる負担を抑えられる
新しい福利厚生や職場制度を導入すると、さまざまな費用が発生します。
研修制度であれば受講費用や訓練中の人件費が必要です。
健康づくりや職場環境改善では、制度設計や設備導入などの費用が発生する可能性があります。
育児休業を取得する従業員がいる場合には、業務代替を行う従業員への負担や代替要員の確保も考えなければなりません。
助成金によってこうした費用の一部を補うことができれば、企業側の負担を抑えながら制度整備を進められます。
特に、一度に複数の福利厚生を増やすのではなく、自社で優先度の高い課題から取り組み、利用可能な助成制度を確認すると効率的です。
人材の定着につながる職場環境を整えやすくなる
福利厚生を充実させる目的の一つが、従業員が働き続けやすい環境をつくることです。
健康上の問題や育児・介護、スキル不足など、従業員が離職を考える理由はさまざまです。
こうした課題に企業側が対応できれば、離職防止につながる可能性があります。
人材確保等支援助成金も、単に制度を導入するだけではなく、制度や機器等の導入による雇用管理改善と離職率低下を支援する仕組みです。
この点からも、福利厚生は制度の数だけを増やせばよいわけではありません。
従業員が実際に抱えている課題を確認し、
- 健康管理を改善する
- 学び直せる環境をつくる
- 育児・介護と両立しやすくする
- 職場内のコミュニケーションを改善する
といった具体的な施策へつなげることが重要です。
助成金は、こうした職場改善を進めるための費用負担を軽減する手段として活用するとよいでしょう。
福利厚生の助成金を申請する際の注意点

福利厚生に使えそうな助成金を見つけても、すぐに制度導入や契約を進めるのは避けましょう。
助成金によっては、実施前に計画書を提出し、認定を受けることが支給要件となっています。
対象となる従業員や実施期間、必要な書類なども制度ごとに異なります。
「対象になりそう」という判断だけで進めず、実施前に最新の支給要件を確認することが重要です。
助成金ごとに対象となる福利厚生や支給要件が異なる
同じ福利厚生でも、制度の内容によって助成対象になるかどうかが変わります。
たとえば、人材確保等支援助成金の雇用管理制度・雇用環境整備助成コースでは、対象となる制度として賃金規定制度、諸手当等制度、人事評価制度、職場活性化制度、健康づくり制度などが具体的に定められています。
一方、人材開発支援助成金は、人材育成や職業能力開発を目的とする制度です。
同じ「従業員向けサービス」であっても、単なる娯楽や慰安を目的とするものと、職業能力向上のための研修では扱いが異なります。
両立支援等助成金についても、育児・介護などとの両立支援に必要な制度や取り組みが対象です。
そのため、
「福利厚生として会社が費用を負担している」
という事実だけでは、助成金の対象になるとは判断できません。
まず、導入予定の制度が助成金の目的・対象施策と一致しているか確認しましょう。
制度を導入する前に計画提出が必要か確認する
助成金申請で特に注意したいのが、手続きの順番です。
人材確保等支援助成金の雇用管理制度・雇用環境整備助成コースでは、制度等を導入する前に「雇用管理制度等整備計画」を作成し、管轄労働局の認定を受けることが主な受給要件となっています。
つまり、
「すでに制度を導入したので、後から助成金を申請する」
という進め方では利用できない可能性があります。
福利厚生を新しく導入するときは、次の順番を意識するとよいでしょう。
- 自社の課題を整理する
- 導入する福利厚生や制度を決める
- 対象となる助成金があるか確認する
- 事前計画や認定が必要か確認する
- 必要な手続きを行う
- 制度や施策を実施する
- 支給申請を行う
この順番を守ることで、「制度を導入した後に助成対象外だとわかった」という失敗を防ぎやすくなります。
就業規則や社内制度の整備が必要になる場合がある
福利厚生に関係する助成金では、単に費用を支払った事実だけではなく、社内制度として正式に整備されていることが重要になるケースがあります。
たとえば、新しい休暇制度や手当、健康づくり制度などを導入する場合、就業規則や社内規程の変更が必要になることがあります。
制度内容を従業員へ周知することも重要です。
実際には制度があるものの、従業員が存在を知らず利用できない状態では、職場環境改善につながりません。
助成金の支給要件として必要かどうかだけではなく、
- 誰が対象になる制度なのか
- どのような条件で利用できるのか
- 申請方法はどうするのか
- 社内のどこへ相談するのか
まで明確にしておくと、福利厚生を実際に利用しやすくなります。
制度導入と社内運用をセットで考えることが大切です。
申請年度の最新情報を必ず確認する
助成金制度は毎年度同じ内容で継続するとは限りません。
コース名称や助成対象、支給要件、申請様式などが変更されることがあります。
実際、2026年度の人材確保等支援助成金では、令和8年4月8日版の支給要領や申請様式が公開されています。
人材開発支援助成金も2026年4月に複数の改正が行われ、8月にも事業展開等リスキリング支援コースの変更が実施されています。
両立支援等助成金についても、2026年度版の支給申請の手引きや支給要領が公開されています。
前年の記事や過去の申請事例だけを参考にすると、現在は廃止された制度名や古い条件を使ってしまう可能性があります。
申請するときは、厚生労働省や都道府県労働局などが公開している最新年度の一次情報を確認しましょう。
福利厚生の目的に合った助成金を活用しよう

福利厚生や職場環境の改善に取り組む企業は、国の助成金を利用できる可能性があります。
ただし、「福利厚生に使える一つの助成金」があるわけではありません。
自社が何を改善したいのかによって、確認する制度が変わります。
健康づくりや職場活性化などを通じて働きやすい環境を整えたい場合は、人材確保等支援助成金が候補です。
従業員の研修やリスキリング、職業能力開発を進める場合は、人材開発支援助成金を確認しましょう。
育児や介護などと仕事を両立できる環境づくりを進めたい場合は、両立支援等助成金が選択肢になります。
助成金を活用するときに重要なのは、支給額だけで制度を選ばないことです。
まず、
「従業員が働き続けるうえで何が課題になっているか」
「どの制度を改善すれば解決につながるか」
を整理します。
そのうえで、対象となる助成金があるか確認しましょう。
また、助成金によっては制度導入前の計画提出や労働局の認定が必要です。
導入してから助成金を探すのではなく、福利厚生を企画する段階で確認することが重要です。
制度内容は年度途中でも変更される場合があります。
申請時には最新の支給要領や申請様式を確認し、自社の取り組みが対象になるかを確かめたうえで手続きを進めましょう。
