2026年07月29日 更新
ネットワークカメラを価格だけで選ばない|JC-STARを活用した調達仕様書の作り方

- この記事でわかること
- 1.価格と映像性能だけでは調達判断ができない
- 1-1.カメラ本体だけでシステムは完結しない
- 1-2.購入価格が安くても総費用が下がるとは限らない
- 1-3.抽象的な仕様では納品後に確認できない
- 2.仕様書を作る前に利用環境とリスクを整理する
- 2-1.カメラを設置する目的を決める
- 2-2.映像が通る経路を構成図にする
- 2-3.守る情報と避けるべき事故を定める
- 3.JC-STARを調達条件として活用する
- 3-1.星の数と評価方法を混同しない
- 3-2.★3要件を要求事項のひな型として使う
- 3-3.登録情報の対象範囲と有効性を確認する
- 4.調達仕様書へ記載する要件を決める
- 4-1.認証と権限管理
- 4-2.アップデートと脆弱性対応
- 4-3.通信・ログ・データ消去
- 5.ベンダーの責任と納品条件を明確にする
- 5-1.回答形式を統一して比較する
- 5-2.責任分界を契約へ反映する
- 5-3.納品時に受入試験を行う
- 6.導入後の安全性を定期的に評価する
- 6-1.機器台帳を作成する
- 6-2.頻度を決めて監査する
- 6-3.入替えの判断基準を決める
- まとめ|JC-STARを要求事項を決める基準として使う
ネットワークカメラの導入では、画素数、録画日数、設置台数、初期費用などが比較されがちです。
しかし、長期間安全に利用できるかどうかは、製品カタログの価格表や映像性能だけでは判断できません。
カメラは映像を撮影する設備であると同時に、社内ネットワークやクラウドへ接続するIoT機器です。
管理画面への不正アクセス、映像の漏えい、脆弱性への未対応、録画停止の見落とし、サポート終了後の継続利用など、導入後に表面化する問題もあります。
こうした製品のセキュリティ機能を確認する基準の一つが、IPAの「セキュリティ要件適合評価及びラベリング制度(JC-STAR)」です。JC-STARでは、IoT製品が一定のセキュリティ要件を満たしているかをレベル別に評価し、適合製品へラベルを付与します。
ただし、JC-STARラベルのある製品を選ぶだけで、ネットワークカメラシステム全体の安全性が確保されるわけではありません。
利用目的、ネットワーク構成、閲覧権限、保守体制、映像の保存・消去などは、導入企業が調達条件として定める必要があります。
本記事では、JC-STARを単なる製品選びの目印ではなく、ベンダーへ提示する調達仕様書を作るための基準として活用する方法を解説します。
この記事でわかること
- 価格と映像性能だけで製品を比較するリスク
- JC-STARのレベルを調達時にどう確認するか
- 調達前に整理すべき利用環境と情報資産
- ベンダーへ提示するセキュリティ要件
- 提案書と契約書で確認すべき責任分界
- 納品時に行う受入確認
- 導入後の監査と入替えの判断基準
1.価格と映像性能だけでは調達判断ができない

ネットワークカメラの比較では、撮影範囲や暗所性能、保存容量などが重視されます。
これらは必要な条件ですが、導入後の安全性や維持費を判断するには不十分です。
製品にどのようなセキュリティ機能があるかだけでなく、それが納品時に設定され、保守期間中も維持されるかまで確認する必要があります。
1-1.カメラ本体だけでシステムは完結しない
実際のネットワークカメラシステムは、カメラ本体だけでは構成されません。
レコーダー、クラウドサービス、閲覧用パソコン、スマートフォンアプリ、ルーター、遠隔保守用の接続環境などが組み合わされています。
カメラ本体のセキュリティが確保されていても、共有アカウントを複数人で使用していたり、クラウドサービスの管理者権限が退職者に残っていたりすれば、映像へ不適切にアクセスされる可能性があります。
IPAの「ネットワークカメラシステムにおける情報セキュリティ対策要件チェックリスト」も、設計・構築、運用、保守、廃棄という段階ごとに対策を整理しています。製品単体ではなく、システム全体を調達・管理する視点が必要です。
1-2.購入価格が安くても総費用が下がるとは限らない
導入時の価格が安くても、セキュリティ更新の提供期間が短ければ、想定より早く機器を交換しなければならない可能性があります。
例えば、50台を5年間使用する予定で導入しても、3年でセキュリティサポートが終了すれば、残り2年分の入替え費用や再設定費用が発生します。
調達時には、次の費用を含めて比較する必要があります。
総保有コスト=機器・工事費+クラウド利用料+保守費+更新作業費+入替え・撤去費
初期費用だけでなく、サポート期間と運用費を含めて比較することで、長期利用に適した提案を選びやすくなります。
1-3.抽象的な仕様では納品後に確認できない
「十分なセキュリティ対策を講じること」とだけ仕様書に記載しても、何をもって要件を満たしたと判断するのかが分かりません。
価格と映像性能に加え、少なくとも次の項目を具体化します。
| 比較項目 | 製品比較で確認しやすい内容 | 調達仕様書に追加する内容 |
|---|---|---|
| 映像 | 画素数、画角、暗所性能 | 閲覧権限、映像書き出しの制御 |
| 保存 | 録画日数、容量 | 保存場所、消去方法、復旧方法 |
| 通信 | 有線・無線、通信速度 | 暗号化、接続元制限、外部通信先 |
| 保守 | 故障交換、保守料金 | 更新期間、脆弱性通知、対応期限 |
| 管理 | アプリの操作性 | 管理者権限、操作ログ、退職者対応 |
価格や撮影性能は製品を選ぶための必要条件です。しかし、セキュリティ、保守、運用まで仕様化しなければ、導入後のリスクと費用を含めた比較にはなりません。
2.仕様書を作る前に利用環境とリスクを整理する

JC-STARの要件をそのまま仕様書へ転記するだけでは、自社に必要な調達条件にはなりません。
店舗の出入口を撮影する場合と、工場の製造工程やサーバールームを監視する場合では、映像が漏えいしたときの影響や、録画停止を許容できる時間が異なるためです。
2-1.カメラを設置する目的を決める
最初に、防犯、事故調査、作業記録、遠隔監視など、カメラを利用する目的を明確にします。
例えば、事故発生時の証拠として映像を使用する場合は、録画できることだけでなく、時刻が正確であること、必要な範囲を撮影できていること、映像を書き出した履歴が残ることも重要です。
一方、混雑状況の確認だけが目的なら、長期間の保存や高い解像度が必要とは限りません。
2-2.映像が通る経路を構成図にする
カメラから利用者が映像を見るまでの経路を一枚の図にします。
構成図には、カメラ、レコーダー、クラウド、ルーター、閲覧端末、スマートフォンアプリ、保守会社の遠隔接続を記載します。
そのうえで、各構成要素について次の点を確認します。
| 確認項目 | 記載例 | 必要になる要件 |
|---|---|---|
| 撮影目的 | 店舗内の事故確認 | 必要箇所を継続録画する |
| 閲覧者 | 店長、本部管理者 | 役割別に権限を分ける |
| 保存場所 | 国内クラウド | 通信と保存データを保護する |
| 停止許容時間 | 最長4時間 | 障害通知と復旧手順を設ける |
| 映像の用途 | 警察・保険会社への提出 | 時刻同期と書き出し記録を残す |
構成図を作る目的は、技術的に詳しい資料を作ることではありません。
映像や認証情報がどこを通り、どの会社や担当者が管理するのかを明らかにすることです。
2-3.守る情報と避けるべき事故を定める
保護対象は撮影した映像だけではありません。
管理者パスワード、暗号鍵、機器設定、カメラの設置場所、アクセスログなども、漏えいや改ざんを防ぐべき情報です。
また、避けるべき事故を「映像漏えい」だけに限定しないことも重要です。
録画が停止していることに気づかない、時刻がずれて証拠として使いにくい、退職者が映像を閲覧できるといった状態も調達上のリスクになります。
3.JC-STARを調達条件として活用する

利用環境とリスクを整理したら、JC-STARを使って候補製品のセキュリティ水準を確認します。
ここで確認すべきなのは、パンフレットにラベルが掲載されているかどうかだけではありません。
評価レベル、対象型番、有効期間、ファームウェアなどを確認し、自社の用途に足りない要件を補います。
3-1.星の数と評価方法を混同しない
JC-STARの★1は、IoT製品に共通する最低限のセキュリティ要件を対象とした自己適合宣言です。
一方、★3は政府機関、重要インフラ事業者、自治体、大企業などでの利用を想定した製品類型別の要件で、独立した第三者評価機関による評価が前提です。
ネットワークカメラ向け★3では、認証・認可、アップデート、安全な通信・保存、ログ、データ消去、可用性などの要件が定められています。
ただし、適合ラベルは完全なセキュリティを保証するものではありません。
IPAの資料でも、ラベルは定められた要件への適合を示すものであり、完璧な安全性を保証するものではないと明記されています。
3-2.★3要件を要求事項のひな型として使う
2026年6月版の「ネットワークカメラ★3セキュリティ要件」と適合要件は公開されています。
一方、2026年7月29日時点で、IPAの公開ページでは評価ガイドが「準備中」とされています。
そのため、調達時点の製品取得状況を確認せずに「★3ラベル取得済み」を一律の必須条件とすると、候補製品を必要以上に狭める可能性があります。
現時点では、次のように使い分ける方法が現実的です。
| 利用環境 | JC-STARの活用方法 | 追加で確認する内容 |
|---|---|---|
| 一般的な店舗・事務所 | ★1取得製品を優先する | 初期設定、権限、更新体制 |
| 個人情報を多く撮影 | ★1に加えて★3要件を参照する | 保存期間、閲覧記録、消去 |
| 重要設備・機密区域 | ★3要件への対応証跡を求める | 第三者評価、障害対策 |
| 長期間使用する | ラベルとサポート期間を確認する | 更新保証、保守終了時の対応 |
| クラウドを利用する | 機器と付随サービスの範囲を確認する | データ移行、解約後の消去 |
星の数を製品価格のグレードのように扱うのではなく、自社の利用環境に必要な要件を満たしているかを確認する基準として使います。
3-3.登録情報の対象範囲と有効性を確認する
提案書に「JC-STAR取得」と書かれていても、採用予定の型番やファームウェアが対象とは限りません。
IPAの「適合ラベルの確認方法」では、製品情報ページでラベルのステータス、製品情報、アップデート情報、脆弱性情報などを確認できます。
適合ラベルの有効期間は原則として発行日から2年間です。
調達時には、登録番号、対象型番、ファームウェア、有効期限、サポート期間、脆弱性の連絡先を確認し、確認日と参照ページを選定記録へ残します。
4.調達仕様書へ記載する要件を決める

仕様書では、「機能を搭載していること」だけでなく、納品時にどのような設定とし、誰が継続的に管理するかまで定めます。
機能が存在していても、初期設定のまま無効になっていたり、運用担当者が更新方法を知らなかったりすれば、実際の対策として機能しません。
4-1.認証と権限管理
管理者、映像閲覧者、映像書き出し担当者の権限を分けられることを要求します。
共有アカウントを原則禁止し、退職や異動時に個別アカウントを停止できる構成にします。
遠隔保守用アカウントについても、常時有効にするのか、作業時だけ有効にするのかを決めます。
4-2.アップデートと脆弱性対応
ベンダーへ、更新提供期間、脆弱性の通知方法、緊急更新の対応期限、更新作業の費用を確認します。
「保守契約あり」という回答だけでは不十分です。
セキュリティ更新が保守範囲に含まれるか、更新によって録画を停止する場合の作業時間、更新失敗時の復旧責任まで確認します。
4-3.通信・ログ・データ消去
管理画面の暗号化、不要な通信機能の停止、接続元の制限、設定変更や映像書き出しの記録を要求します。
保存期間は「長いほど安全」ではありません。個人情報保護委員会は、カメラ画像などの個人データについて、利用の必要性を考慮して保存期間を設定し、不要になった場合は遅滞なく消去するよう努める考え方を示しています。
保存期間は容量ではなく利用目的から決める必要があります。
仕様書には、次のように要求内容と証跡をセットで記載します。
| 要求項目 | 仕様書への記載例 | 求める証跡 |
|---|---|---|
| アカウント | 管理者と閲覧者を分離できること | 管理画面、操作マニュアル |
| 更新 | 導入後5年間、更新を提供すること | サポート方針書 |
| 通信 | 管理画面の通信を暗号化すること | 構成図、設定画面 |
| ログ | 認証と設定変更を記録すること | ログ出力例 |
| 障害 | 録画停止を指定先へ通知すること | 通知機能の仕様 |
| 消去 | 契約終了時に映像を消去すること | 消去手順、証明書のひな型 |
「対応可能」という回答だけでは、納品後に確認できません。要求事項ごとに、マニュアル、設定画面、ログの見本など、適合を判断できる証跡を求めます。
5.ベンダーの責任と納品条件を明確にする

ネットワークカメラでは、機器メーカー、施工会社、クラウド事業者、保守会社が異なることがあります。
障害発生後に各社が「自社の範囲ではない」と主張する事態を避けるには、契約前に責任分界を明確にしなければなりません。
5-1.回答形式を統一して比較する
ベンダーには、要件ごとに次の区分で回答を求めます。
| 回答 | 内容 |
|---|---|
| 標準対応 | 追加作業や費用なしで満たす |
| 設定対応 | 納品時の設定によって満たす |
| オプション | 追加費用や別契約が必要 |
| 代替対応 | 別の方法で目的を満たす |
| 非対応 | 要件を満たせない |
「対応予定」「個別相談」といった曖昧な回答は、そのままにしません。
対応主体、追加費用、実施時期、確認方法まで記入してもらいます。
5-2.責任分界を契約へ反映する
少なくとも、機器の脆弱性対応、ファームウェア更新、ネットワーク障害の切り分け、クラウド障害、映像消失、アカウント管理、契約終了時のデータ消去について、担当者と連絡先を決めます。
脆弱性通知や更新提供など、導入後も継続する義務は、提案書だけでなく契約書、保守契約、SLAなどへ反映することが重要です。
5-3.納品時に受入試験を行う
機器が設置されたことをもって、導入完了としてはいけません。
実際の管理画面と接続環境を使い、次の項目を確認します。
| 確認項目 | 確認方法 | 合格条件 |
|---|---|---|
| 初期パスワード | 管理画面へログインする | 変更済み |
| 権限分離 | 閲覧者アカウントで操作する | 設定変更ができない |
| 操作ログ | ログイン・設定変更を行う | 時刻付きで記録される |
| 障害通知 | カメラ通信を一時的に切断する | 指定先へ通知される |
| ファームウェア | バージョン画面を確認する | 承認した版と一致する |
| 時刻同期 | 基準時刻と比較する | 設定した許容範囲内 |
| データ消去 | テスト映像を削除する | 所定の手順で消去できる |
仕様書に記載した要件を実機で確認し、不適合があれば是正したうえで受け入れます。
機器の納品日ではなく、受入試験の合格日を運用開始日とする考え方が有効です。
6.導入後の安全性を定期的に評価する

JC-STARラベルや納品時の設定は、将来にわたる安全性を保証するものではありません。
新しい脆弱性の発見、担当者の異動、保守会社の変更、クラウドサービスの仕様変更によって、導入時の管理状態は崩れていきます。
6-1.機器台帳を作成する
台帳には、設置場所、型番、シリアル番号、ファームウェア、JC-STAR登録番号と有効期限、管理者、保守会社、サポート終了日、最終更新日を記録します。
担当者が変わっても、どの機器を誰が管理し、いつまで安全に使用できるかを確認できる状態にします。
6-2.頻度を決めて監査する
| 頻度 | 確認事項 | 主な担当者 |
|---|---|---|
| 毎月 | 録画停止、通信障害、容量不足 | 運用担当者 |
| 四半期 | アカウント、権限、ログ、時刻 | システム担当者 |
| 半年 | ファームウェア、脆弱性情報 | 保守会社・システム担当者 |
| 年1回 | 契約、サポート期限、入替え計画 | 総務責任者・経営者 |
| 随時 | 退職、異動、構成変更に伴う権限 | 管理責任者 |
導入後の監査は、製品に問題がないかを調べるだけではありません。
仕様書で決めた管理方法が、実際に継続されているかを確認する作業です。
6-3.入替えの判断基準を決める
セキュリティ更新が終了した、重大な脆弱性を修正できない、必要なログや権限管理に対応できない場合は、故障していなくても入替えを検討します。
カメラが映るかどうかではなく、安全に管理し続けられるかどうかを継続判断の基準にします。
まとめ|JC-STARを要求事項を決める基準として使う

ネットワークカメラは、価格、画質、保存容量だけでは選べません。
JC-STARは、製品のセキュリティ機能を共通の基準で確認するために有効です。
ただし、ラベルはシステム全体の安全性や、自社の運用方法まで保証するものではありません。
調達時には、利用目的と映像の経路を整理したうえで、認証、アップデート、通信、ログ、障害通知、データ消去を要求事項へ変換します。
さらに、ベンダーの責任、確認証跡、受入試験、導入後の監査まで仕様書と契約へ反映することが重要です。
最初に行うべきことは、製品カタログを比較することではありません。
導入予定のカメラ、レコーダー、クラウド、閲覧端末、保守接続を一枚の構成図にし、それぞれについて「誰が管理するのか」「障害や脆弱性へ誰が対応するのか」を記入してください。
その構成図をもとに必要な要件を選ぶことが、価格だけに左右されない調達仕様書を作る第一歩です。
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