2025年09月14日 更新
外国人技能実習生とは?制度の仕組みと企業が知っておくべきポイント
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- 技能実習制度とは?目的と制度の基本構造
- 制度創設の背景と目的(国際貢献・人材育成)
- 技能実習の3段階(1号・2号・3号)の概要
- 対象職種と主な業種分野の例
- 制度の法的位置づけ(入管法・技能実習法など)
- 外国人技能実習生を受け入れる際の基本的な流れ
- 監理団体との契約と事前準備
- 入国前の研修や生活準備のサポート
- 入国後講習と技能実習計画の認定取得
- 技能実習1号から3号への移行条件と流れ
- 技能実習生を受け入れる企業側の要件と義務
- 受け入れ人数の制限(常勤職員数との比率)
- 指導員・生活指導員の配置義務
- 技能実習計画の適正実施責任
- 報酬・労働条件・労災保険の整備
- 監理団体の役割と選び方
- 監理団体の種類(一般型・優良型)の違い
- 監理団体が行う業務(訪問指導・相談対応)
- 不適正な監理団体を避けるためのチェック項目
- 外国人技能実習生の受け入れに伴う注意点とリスク管理
- 失踪や契約違反のリスクと防止策
- 労務トラブル・人権侵害のリスク管理
- 異文化理解と職場内コミュニケーションの工夫
- 制度改正の動きと「育成就労制度」への転換の見通し
- 技能実習制度から育成就労制度への転換背景
- 制度再構築に関する有識者会議の提言
- 今後の制度変更に向けて企業が備えるべきこと
- 企業が技能実習制度を“戦略的に”活用する視点とは?
- 中長期的な人材育成戦略との連携
- 地域貢献・SDGsとの関係性の整理
- 実習生の活躍を社内で最大化する受け入れ設計
- 制度理解から戦略活用へ ― 外国人技能実習生受け入れの新常識
少子高齢化と労働力不足が進む日本において、「外国人技能実習生」の受け入れは、すでに多くの企業が注目する重要な人材確保手段のひとつとなっています。
技能実習制度は、単なる“労働力の穴埋め”ではなく、開発途上国の人材育成と日本企業の技術伝承を両立させる国際協力を目的とした制度です。
とはいえ、受け入れにあたっては監理団体との契約、制度上の義務、労務リスクの把握など、企業が理解すべき法的・実務的ポイントが多数存在します。
また、近年では「育成就労制度」への移行も議論されており、制度の変化に即した対応力が企業に求められるようになっています。
この記事では、技能実習制度の基礎知識から、受け入れの具体的な流れ、制度変更への備え、そして制度を戦略的に活用する企業視点まで、最新情報を含めて網羅的に解説します。
外国人技能実習生の受け入れを検討している企業ご担当者の方にとって、制度理解と成功のための土台づくりに役立つ内容となっています。ぜひ最後までご覧ください。
技能実習制度とは?目的と制度の基本構造

外国人技能実習制度は、開発途上国の人材を日本企業に一定期間受け入れ、技術・知識・技能を実践的に習得してもらうことを目的とした制度です。
単なる人材確保策とは異なり、「国際協力」や「人材育成」という側面を重視した制度であり、政府間の協定や法制度に基づいて運用されています。
現在、多くの企業が人手不足への対応として技能実習生の受け入れを検討していますが、その導入には制度の目的や構造、法的位置づけを正しく理解することが不可欠です。
本章では、技能実習制度の成り立ちと基本枠組みをわかりやすく解説します。
制度創設の背景と目的(国際貢献・人材育成)
技能実習制度は1993年に創設されました。その最大の目的は、日本の産業分野における技能・技術・知識を、開発途上国の若者に移転することです。
これにより、帰国後に母国の産業振興に貢献できる人材を育成するという、国際貢献と人材育成の二重の意義を持っています。
企業側から見ると、即戦力人材の確保という側面だけではなく、国際的な人的交流による企業価値の向上、そして地域社会への貢献といったブランディング効果も得られるというメリットがあります。
技能実習の3段階(1号・2号・3号)の概要
技能実習制度は、技能実習1号、2号、3号の3段階に分かれたステップ制になっています。
- 技能実習1号(入国1年目) 
 日本での実習開始にあたり、基礎的な技能・知識の修得期間。多くは集合研修を経て職場実習へ進む。
- 技能実習2号(2〜3年目) 
 1号修了後、試験に合格すれば移行可能。中核的な業務を担う存在に成長していく。
- 技能実習3号(4〜5年目) 
 2号を優良に修了した場合に限り、さらに2年間延長可能。特に高技能者の長期定着が期待されるステージです。
この段階的な制度設計により、受け入れ企業は段階的な教育と戦力化が可能となり、長期的な人材戦略にも対応しやすくなっています。
対象職種と主な業種分野の例
技能実習制度で受け入れ可能な職種は、国が定める「技能実習対象職種」に限られ、現在は90職種・160作業(2024年時点)に及びます。
主な分野には以下のようなものがあります。
- 製造業(機械加工、鋳造、溶接など)
- 建設業(土工、鉄筋施工、配管など)
- 農業(耕種農業、畜産農業)
- 介護(2017年から追加)
- 漁業・食品加工・縫製など
これらの職種は、現場の人手不足が深刻であり、かつ一定の技能伝承が可能な業務であることが共通点です。
企業は対象職種をよく確認した上で、自社の業務と制度の適合性を見極める必要があります。
制度の法的位置づけ(入管法・技能実習法など)
技能実習制度は、以下の法律に基づいて運用されています。
- 出入国管理及び難民認定法(入管法) – 技能実習という在留資格の根拠を規定。
- 技能実習法(正式名称:外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律) – 2017年施行。実習生の権利保護や受け入れ企業・監理団体の義務・罰則規定を整備。
この法体系により、企業は「受け入れによる利益」だけでなく「育成責任」も同時に負う存在として位置づけられています。
違反行為に対しては、受け入れ停止や監理団体への是正命令など厳しい処分が科されることもあるため、法令遵守が非常に重要です。
◆技能実習制度の本質を理解し、適切な制度活用を
技能実習制度は、単なる労働力補充の制度ではありません。
「人を育てる」「国際社会に貢献する」「企業の中長期的な成長に寄与する」という視点が不可欠です。
企業がこの制度を活用するうえでは、次のポイントを正しく理解しておく必要があります。
- 制度の3段階構造と在留資格要件
- 対象職種の業務内容と条件
- 法的責任と遵守すべき制度ルール
これらを踏まえたうえで、次章では実際の受け入れフローと準備事項について、より実務的な観点から詳しく解説していきます。
外国人技能実習生を受け入れる際の基本的な流れ

外国人技能実習制度を活用する企業にとって、「どのようなステップを経て実習生を受け入れるのか」は非常に重要なポイントです。
制度上、技能実習生は本人の希望だけでなく、監理団体や送り出し機関、企業の受け入れ体制など、さまざまな関係者の連携によってスムーズに就業できるかどうかが左右されます。
ここでは、企業が外国人技能実習生を受け入れる際に知っておくべき基本的なフローについて、4つの段階に分けてわかりやすく解説します。
監理団体との契約と事前準備
まず、外国人技能実習生の受け入れを希望する企業は、監理団体(組合など)と契約を結ぶことが出発点となります。
監理団体は、技能実習制度を適正に運用するために厚生労働省・出入国在留管理庁に認可された法人で、企業と技能実習生の間に立って制度の管理を行います。
契約の際には、以下の内容を事前に確認し合意する必要があります。
- 実習職種と内容の明確化
- 必要人数と実習期間の設定
- 実習計画に関する概要確認
- 提供すべき住宅・生活支援の基準
この時点で制度の全体像を把握し、社内での受け入れ体制(指導員の配置、就業ルールの整備など)を整えておくことが大切です。
入国前の研修や生活準備のサポート
送り出し国(多くはアジア諸国)では、技能実習生候補に対して、日本語や生活ルールに関する事前講習(約2〜3ヶ月)が実施されます。
これは送り出し機関の責任で行われますが、受け入れ企業も研修内容を確認し、実習生が日本での生活に適応しやすくなるように準備を支援します。
企業側で用意すべき主な項目には、以下のようなものがあります。
- 住居(寮)の確保と生活インフラの整備
- 通勤手段と通勤ルートの案内
- 生活必需品の購入補助や初期サポート
- 社内ルールや安全管理マニュアルの翻訳・配布
日本で安心して暮らせる環境を事前に整えることは、離職や失踪を防ぐための第一歩でもあります。
入国後講習と技能実習計画の認定取得
技能実習生が入国後は、1ヶ月程度の「入国後講習」が実施されます。
ここでは日本語教育のほか、法令、安全衛生、マナー・ルールなど、実務に必要な知識を体系的に学ぶ機会が設けられています。
この講習期間が終了すると、技能実習計画に基づいた「技能実習1号」が開始されます。
企業はこの時点で、事前に監理団体と作成・提出していた「技能実習計画」の認定を出入国在留管理局から取得しておく必要があります。
この計画には以下の情報が含まれます。
- 実習内容と到達目標
- 実施スケジュールと評価項目
- 教育訓練の実施体制(指導員の氏名・役職など)
不備があると認定が下りず、就業開始が遅れるケースもあるため、細部まで確認したうえでの提出が不可欠です。
技能実習1号から3号への移行条件と流れ
技能実習制度は、段階を踏んでステップアップする仕組みになっており、技能実習1号→2号→3号へと移行していくことで、実習期間が最長5年まで延長されます。
それぞれの移行には以下のような条件があります。
- 1号から2号への移行 
 所定の実技試験・筆記試験に合格していること。監理団体と企業が「優良」であることが条件。
- 2号から3号への移行
 2号期間の評価が高く、追加の認定審査を経て、かつ企業・団体ともに「優良認定」を受けていること。
これにより、企業は2年目以降も熟練度の高い実習生を継続的に活用できるようになります。
ただし、移行条件を満たすためには、日頃の実習環境の整備や法令遵守、記録の適正管理が問われます。
◆受け入れ成功のカギは「準備」と「継続支援」にあり
外国人技能実習生を受け入れるには、監理団体との契約から始まり、事前準備、入国後講習、計画認定、制度移行といった一連のフローを確実に進める必要があります。
特に重要なのは、以下の3点です。
- 準備段階での社内体制と生活環境の整備
- 実習計画の精緻な策定と提出書類の整合性
- 実習生との信頼関係を築く継続的な支援体制
このような手順を丁寧に実施することで、技能実習生が安心して実習に臨めると同時に、企業にとっても持続的な人材活用と国際協力という社会的価値を実現できます。
技能実習生を受け入れる企業側の要件と義務

外国人技能実習制度を導入する企業にとって、単に人手を確保する手段ではなく、法的に整備された制度の中での適正な受け入れ体制の構築が必須となります。
制度を活用しながらもトラブルを未然に防ぎ、継続的な人材育成と企業成長を両立させるには、企業側が遵守すべき要件と義務を正確に把握しておくことが不可欠です。
このセクションでは、受け入れにあたって必要となる人員基準や体制整備、技能実習計画の管理責任、そして労働環境の整備といった4つの観点から企業の責任範囲を明確に解説します。
受け入れ人数の制限(常勤職員数との比率)
企業が技能実習生を受け入れる際には、「常勤職員数に応じた上限人数」が制度で明確に定められています。
これは、技能実習生に対する適切な指導やサポートを確保するためのルールであり、人数が多すぎると十分な育成体制を取れなくなるリスクがあるためです。
一般的な上限は以下の通りです(通常の受け入れ企業の場合)
- 常勤職員30人以下 – 実習生の受け入れは3人まで
- 31〜40人 – 4人まで
- 41〜50人 – 5人まで
- 以降、常勤職員の20%が目安
ただし、「優良な受け入れ企業」として認定されれば、受け入れ人数枠の緩和措置が適用される場合もあります。
したがって、制度を長期的に活用したい企業ほど、組織的なコンプライアンス体制が求められます。
指導員・生活指導員の配置義務
技能実習生の受け入れ企業は、実習生の適切な業務指導と生活支援を行うため、実習指導員と生活指導員をそれぞれ1名以上配置する義務があります。
これらの役割は制度上の必須要件であり、未配置や兼任の不備は制度違反となるおそれがあります。
- 実習指導員
 実習現場において技術・技能の教育を行う担当者。原則として3年以上の実務経験が必要。
- 生活指導員
 住居や日常生活での困りごとに対応する窓口となり、実習生が安心して生活できるよう支援する役割。
これらの指導体制は、技能実習計画の審査や監理団体による監査でも重視される項目であり、トラブル防止や実習生の離脱リスクを低減するためにも、適切な人選と教育が求められます。
技能実習計画の適正実施責任
技能実習制度では、企業ごとに「技能実習計画」を作成し、出入国在留管理局からの認定を受けたうえで運用することが義務付けられています。
認定後は、その内容に沿って実習を実施する責任が企業にあります。
技能実習計画には以下のような情報が盛り込まれます。
- 実習の目的・内容・目標と評価方法
- 実習期間と段階的な進行スケジュール
- 使用する教材・設備や指導体制
- 労働時間・休日・安全管理体制
この計画が形骸化すると、制度違反(不正就労・過剰労働など)と判断されるリスクが高まり、受け入れ資格停止の可能性も生じます。
企業は実習の進捗や評価を記録・保管し、必要に応じて監理団体や行政機関に提出できる体制を整える必要があります。
報酬・労働条件・労災保険の整備
外国人技能実習生も、日本国内の労働者として労働基準法や最低賃金法などの労働関連法令の適用対象です。
受け入れ企業は、報酬の適正支払い、労働時間管理、休暇取得の整備、労災保険・健康保険などの加入義務を負っています。
- 最低賃金以上の報酬支払い(時間給または月給ベース)
- 所定外労働(残業)に関する手当の明確化
- 法定福利(健康保険・厚生年金・雇用保険・労災)の加入
- 深夜・休日勤務の管理と手当整備
これらの整備が不十分な場合、実習生の不満・離職リスクが高まるだけでなく、制度全体の信頼性を損なう社会問題に発展する可能性もあるため、慎重な管理が必要です。
◆適正な受け入れ体制こそが制度活用の前提
外国人技能実習生の受け入れは、人材確保だけでなく、国際貢献や地域との共生といった側面も含む社会的責任を伴う制度です。
そのため、企業側には以下のような明確な義務と体制整備が求められます。
- 常勤職員数に応じた受け入れ人数の把握
- 適切な実習指導員・生活指導員の選定と配置
- 実習計画の策定・実行・評価・記録の徹底
- 報酬や労働条件の法令遵守と透明な運用
これらを実現することで、実習生が安心してスキルを学び、企業は安定した戦力を得るという双方向のメリットが生まれます。
監理団体の役割と選び方

外国人技能実習生の受け入れにおいて、監理団体の存在は制度の健全な運用を支える重要な要素です。
企業が直接技能実習生と契約するのではなく、適正な受け入れと支援を行うために、第三者機関である監理団体が制度運営のハブとして機能しています。
しかし、監理団体にも質の差があり、選定を誤るとトラブルの増加・制度違反・受け入れ停止のリスクを伴います。
ここでは、監理団体の基本的な分類、具体的な役割、そして選定時に注意すべきチェックポイントについて詳しく解説します。
監理団体の種類(一般型・優良型)の違い
監理団体には、「一般監理団体」と「優良監理団体」の2種類があります。
- 一般監理団体
 技能実習制度に関する基本的な要件を満たし、監理業務を行っている団体です。公益法人、協同組合、事業協同組合などが該当し、特定の業界や地域に根差した活動をしています。
- 優良監理団体 
 法令順守・実績・指導体制などが厳しく評価され、出入国在留管理庁・厚生労働省の基準を満たすと「優良」として認定されます。優良団体を利用することで、実習期間の延長や受け入れ人数の上限緩和といったメリットがあります。
企業側から見ると、信頼性・対応品質・制度運用の柔軟性の面で優良団体を選ぶことが極めて重要です。
監理団体が行う業務(訪問指導・相談対応)
監理団体の主な業務は、技能実習生と受け入れ企業が制度に則って活動できるようにする「監督・支援業務」です。具体的には以下のような役割を担っています。
- 訪問指導
 定期的に企業を訪問し、実習計画に基づいて適正に実習が行われているかを確認します。労働環境・報酬・健康管理・生活支援などもチェック対象です。
- 相談対応
 実習生からの生活・労務に関する相談や、企業側の疑問・トラブルについても中立的な立場でサポートを提供します。言語面の対応や通訳も含まれます。
- 申請・手続き代行
- 技能実習計画の作成支援、認定申請、在留資格更新、定期報告書類の提出など、制度運用に不可欠な手続きを代行・サポートします。
こうした監理業務が適切に行われることで、企業側の事務負担が軽減され、制度トラブルの未然防止にもつながります。
不適正な監理団体を避けるためのチェック項目
一部の監理団体では、不十分な支援体制や違法な金銭要求、実習生への指導放棄といった問題が報告されています。
以下のようなポイントを踏まえて、慎重に選定しましょう。
- 過去の行政処分歴がないかを確認する
- 相談体制や訪問頻度が明示されているか
- 対応言語や通訳体制が整っているか
- 料金体系が明確かつ法令に則っているか
- 受け入れ企業や実習生からの評判・口コミ
企業としては、コストだけで判断せず、制度運用のパートナーとしての信頼性を重視した選定が、トラブル回避と安定運用のカギとなります。
◆制度運用の成否を左右する“監理団体選び”
監理団体は、外国人技能実習制度の実務と制度運用の中核を担う存在です。
企業が制度を通じて人材育成や安定的な労働力確保を実現するためには、実習生の権利保護と法令順守を徹底できる信頼ある監理団体の選定が不可欠です。
選定にあたっては以下のポイントを押さえましょう。
- 「優良監理団体」かどうかの認定状況を確認する
- 訪問指導や相談対応などの実務体制を具体的に把握する
- 費用・契約内容が法的に適正か、過去の評判はどうかを調査する
適切な監理団体と連携することで、制度トラブルを回避しつつ、実習生のパフォーマンスを最大限に引き出す体制づくりが可能になります。
外国人技能実習生の受け入れに伴う注意点とリスク管理

外国人技能実習制度は、労働力不足の解消と国際的な人材育成の双方に資する仕組みとして活用されてきました。
しかし、その一方で「実習生の失踪」「労務トラブル」「文化摩擦による職場不和」といった問題が後を絶たず、企業にとっては制度運用リスクへの備えが不可欠です。
この章では、企業が技能実習生を安心して受け入れ、制度を安定的に運用するために留意すべきリスク要素とその対策について具体的に解説します。
失踪や契約違反のリスクと防止策
技能実習制度における最も深刻な問題の一つが、実習生の失踪や契約違反です。
法務省の公表データでも、年々数千人単位での失踪が報告されており、企業にとっては信頼性の低下・業務中断・再受け入れ制限などの大きな損失を招くリスクとなります。
原因として多いのは以下の点です。
- 実習内容と事前説明の乖離
- 報酬や労働時間に対する不満
- 日本語や文化への適応ストレス
- 他業種・高収入職への移動希望
防止策としては以下のような取り組みが有効です。
- 契約内容・就労条件を多言語で明示し、相互理解を深める
- 受け入れ前に仕事内容や生活面の「見える化」説明を行う
- 職場・生活面での相談窓口を常設し、早期の問題発見につなげる
- 監理団体と連携し、定期的な面談・フォローを実施する
こうした“事前説明の徹底”と“継続的フォローアップ”の体制整備こそが、失踪リスクを最小限に抑えるカギとなります。
労務トラブル・人権侵害のリスク管理
技能実習制度は「労働」ではなく「実習」であるとされていますが、実態として労働に近い環境下で稼働するケースがほとんどです。
そのため、労働基準法違反やハラスメント、賃金未払い、過重労働といった労務関連のトラブルが発生するリスクは常に存在します。
企業として注意すべき点は次の通りです。
- 労働時間・残業時間が36協定内に収まっているか
- 最低賃金や法定手当が適正に支払われているか
- 実習生に対するハラスメント(言葉・行動)がないか
- 寮の環境や生活インフラが整備されているか
これらを怠ると、監督署の是正勧告・実習生からの申告・制度違反による受け入れ停止措置といったペナルティを受ける可能性があります。
特に「受け入れ数が増えている中小企業ほど、制度運用のノウハウが不足している」という構造的問題があるため、早期に社内マニュアルの整備と管理体制の構築が求められます。
異文化理解と職場内コミュニケーションの工夫
外国人技能実習生は、言語・文化・宗教・価値観の異なる環境で働くことになります。
これに対し、日本人社員が十分な理解や対応力を持たない場合、職場内コミュニケーションの不足や誤解がトラブルを引き起こします。
以下のような取り組みが、円滑な職場環境づくりに寄与します。
- 受け入れ前に社員向けの“異文化理解研修”を実施
- 通訳スタッフやバイリンガル社員の配置
- 母国語マニュアルの整備やピクトグラム活用
- 業務以外でも交流できる環境(社内イベント・懇親会など)の促進
また、宗教的配慮(礼拝時間・食事制限など)や慣習(挨拶・上下関係)にも柔軟な理解を持つことで、実習生の働きやすさと職場の定着率向上につながります。
◆リスクを見越した制度運用が成功のカギ
外国人技能実習制度は、優れた労働力確保手段である一方で、制度設計・運用を誤ると大きな損失を生む可能性があります。
企業が制度を効果的に活用するためには、以下の3点が不可欠です。
- 実習生の期待とのギャップを埋める透明性のある事前説明
- 法令順守と人権配慮を徹底した労務管理体制
- 文化・言語の壁を超えるコミュニケーションと相互理解の促進
これらを実現することで、単なる労働力確保ではなく、「育成・共生・持続可能な人材活用」という本来の目的に沿った制度活用が可能となります。
制度改正の動きと「育成就労制度」への転換の見通し

外国人技能実習制度は長年にわたり、国際貢献や人材育成の名のもとに運用されてきました。
しかし実際には、制度の趣旨と現場運用との間に乖離があるという批判が国内外から寄せられ、制度の抜本的見直しが急務となっています。
現在、日本政府は技能実習制度に代わる新たな枠組みとして「育成就労制度」の導入を検討しており、企業にとっても対応方針の見直しが求められるタイミングを迎えています。
この章では、制度改正の背景と政府の動き、そして企業が取るべき具体的な備えについて整理します。
技能実習制度から育成就労制度への転換背景
技能実習制度は、建前上「発展途上国への技能移転」を目的として導入されたものでした。
しかし、現実的には国内の人手不足を補うための労働力確保手段としての側面が強く、制度趣旨との乖離が大きな問題となっていました。
さらに、長時間労働や賃金未払い、パワーハラスメントなどの労務トラブルが頻発したことにより、「人権侵害の温床」として国際的にも批判を浴びる事態に発展しています。
こうした背景を受け、日本政府は「技能実習制度はもはや限界である」と判断し、新たに創設される予定なのが「育成就労制度」です。
この制度は、外国人を単なる労働者としてではなく、育成を前提とした就労者として受け入れることを想定しており、より長期的な視点での就労・定着を支援する枠組みへと移行する見込みです。
制度再構築に関する有識者会議の提言
制度改正にあたっては、法務省・厚生労働省・経済産業省を中心に、有識者会議が設けられ、具体的な方向性や論点が議論されています。
提言の中で強調されているのは、「人材育成」と「人権保護」の両立、そして「適正な労働環境の確保」という3本柱です。
具体的には、外国人がより長期にわたり同一事業所で働けるよう、転籍の自由度を一定程度認める案や、労働法制との整合性を図った管理体制の義務付け、言語・生活支援の強化が提起されています。
また、従来は技能実習生に限られていた職種の範囲についても、より柔軟な運用を可能にする方向で制度再設計が進められており、企業にとっても新制度を前提とした人材戦略の再構築が必要となるでしょう。
今後の制度変更に向けて企業が備えるべきこと
育成就労制度の正式な導入時期は現時点では未定ですが、早ければ数年内の法制化が見込まれています。
すでに技能実習制度を活用している企業や、今後外国人材の受け入れを検討している法人にとっては、現行制度の運用と同時に、新制度への移行を見据えた準備が急務です。
第一に、技能実習生に対する教育体制やキャリア支援の質を高め、制度改正後も継続的に受け入れ可能な組織体制を整える必要があります。
第二に、職場環境や就業条件の見直しを行い、外国人労働者にとって魅力的で働きやすい環境を整備することが求められます。
そして第三に、監理団体や支援機関と連携し、法令遵守だけでなく、将来的な「育成就労制度の受け入れ企業」として信頼される基盤を築くことが大切です。
新制度は、単なる制度変更ではなく、企業の労働力確保・育成・共生戦略に直結するテーマとなります。
変化に柔軟に対応し、外国人材とともに持続可能な組織をつくる視点が、これからの企業経営には不可欠となるでしょう。
◆制度移行の本質を理解し、企業の受け入れ体制を再構築する
育成就労制度への移行は、表面的な制度の呼び名変更ではありません。
これは、企業と外国人材との関係を「短期労働者」から「中長期の戦力・育成対象」へと進化させる転換点です。
今後制度が整備されていく過程においても、企業側は「人材を育てる」という発想と、「共に働き、共に成果を上げる」姿勢を持って、制度運用に臨むことが求められます。
制度改正の波に翻弄されるのではなく、変化を先取りして活用する企業こそが、これからの時代の人材確保において優位に立つ存在となるでしょう。
企業が技能実習制度を“戦略的に”活用する視点とは?

外国人技能実習制度は、単なる労働力補填ではなく、企業が中長期的に人材を確保・育成するための手段として活用できる制度です。
これまで「労働力の穴埋め」として消極的に導入していた企業も、近年では持続可能な経営と国際人材育成を結びつける“戦略的活用”を進める傾向にあります。
この章では、技能実習制度を「戦力化」「地域貢献」「企業価値向上」につなげる観点から、企業が押さえておくべきポイントを解説します。
中長期的な人材育成戦略との連携
技能実習制度は最大5年間(1号〜3号)の受け入れが可能であり、一定の継続性をもった人材活用が可能です。
企業はこれを単なる短期的な労働力と捉えるのではなく、中堅層・現場リーダー候補としての育成戦略と連動させることで、より高い価値を引き出せます。
たとえば、技能実習2号終了後に3号へ移行する過程で、社内OJTを強化し、教育マニュアルや評価制度を整備することで、実習生の定着と成長を促すことができます。
また、実習期間終了後に特定技能や育成就労制度に移行できるよう備えておくことで、企業内における人的資源の継続的活用も可能になります。
こうした視点に立つことで、実習制度は「一時的な人手確保」ではなく、「企業における次世代人材育成プロセス」の一環として機能させることができるのです。
地域貢献・SDGsとの関係性の整理
技能実習制度は、国際貢献を理念に掲げる制度であり、受け入れる企業にとっては地域社会との関係性や社会的責任(CSR)を果たす手段としての意義も大きくなっています。
たとえば、農業・介護・建設など地域密着型産業においては、外国人技能実習生の活躍が地域経済の維持に直結しているケースも多く、地元自治体や教育機関との連携による共生型コミュニティづくりが注目されています。
また、SDGs(持続可能な開発目標)における「質の高い教育」「ディーセント・ワーク」「パートナーシップの強化」といった視点と技能実習制度は高い親和性を持ちます。
企業が実習生に対して適切な教育環境を整備し、労働条件を守る姿勢は、ESG経営やステークホルダーからの評価にもつながり、ブランディングの一部としても機能します。
実習生の活躍を社内で最大化する受け入れ設計
制度の効果を最大化するには、制度そのものよりも社内の受け入れ体制と設計力が鍵となります。制度を“使うだけ”では、実習生が本来持つポテンシャルを引き出すことはできません。
具体的には、現場の教育担当者に対する異文化理解研修や、外国人とのコミュニケーションに配慮した指導方法のマニュアル化が効果的です。
また、就業後の定期面談やフィードバック体制を整えることで、実習生自身の不安や職場の課題を早期に把握し、離職やトラブルを防ぐことができます。
さらに、活躍する実習生の存在を社内に広報し、他部門や役員層にその成果を見える化することで、制度への理解と企業全体の受け入れ意識が高まり、より良い循環を生み出すことができるでしょう。
◆技能実習制度を「制度活用」から「戦略活用」へ
企業が技能実習制度を単なる制度利用にとどめず、「人材育成」「企業価値向上」「地域社会との連携」の一環として捉えることで、制度のもたらす価値は何倍にも広がります。
今後、制度の改正や移行が進む中でも、こうした戦略的な視点を持っている企業こそが、外国人材を自社の強みとして育て、持続可能な組織経営に成功していくでしょう。
技能実習制度は、未来志向の人材戦略の入り口でもあるのです。
制度理解から戦略活用へ ― 外国人技能実習生受け入れの新常識

外国人技能実習制度は、かつて単なる労働力補完として捉えられていた時代から、現在では人材育成・国際協力・地域貢献を包括する制度へと進化を遂げています。
受け入れる企業にとっても、単なる制度利用にとどまらず、中長期的な戦略と連動した活用が求められる時代です。
本記事で紹介した内容を振り返ると、技能実習制度を有効に活用するには以下のような多面的な視点が必要です。
- 制度の本質的理解と法的遵守
 技能実習制度の目的、3段階構造、対象職種などを正しく理解し、適切な運用を行うことが企業の信頼に直結します。
- 受け入れ体制の構築とリスク管理
 監理団体との連携や生活指導体制、文化的配慮、契約遵守の仕組みが、実習生の定着と活躍を支えます。
- 制度変更への備え
 育成就労制度への移行を見据えた対応力が、今後の安定した外国人材活用の鍵を握ります。
- 戦略的活用と社会的意義の両立
 企業の人材育成戦略や地域貢献活動と技能実習制度をリンクさせることで、企業価値や社会的評価の向上にもつながります。
これから技能実習生の受け入れを検討する企業、あるいは既に導入しているが改善を図りたい企業にとって、「制度を知ること」から始め、「戦略的に活かすこと」へと進化させる視点が不可欠です。
外国人技能実習生の受け入れは、人材の確保にとどまらず、企業の未来を育てるプロジェクトでもあるのです。
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