2026年02月06日 更新

【SES業界に異変】50代・60代ITエンジニア採用で「案件採用」が常態化、無給営業の実態が明らかに

IT人材不足が叫ばれる中、50代・60代のベテランITエンジニアの転職市場に異変が起きている。

SES(システムエンジニアリングサービス)業界では「案件採用」と呼ばれる新たな採用形態が広がり、最終面接合格後も無給で営業活動を強いられるケースが増加していることが分かった。

専門家は「採用リスクを求職者に転嫁する構造」と指摘しており、シニアエンジニアを取り巻く雇用環境の厳しさが浮き彫りになっている。

SES業界で広がる「案件採用」とは

従来のIT業界の採用プロセスでは、企業が正社員として雇用した後に営業活動を開始し、案件にアサインするのが一般的だった。

しかし現在SES業界で増えているのは、最終面接に合格しても即座に雇用契約を結ばず、案件が確定するまで無給のまま営業活動を続けさせる「案件採用」という形態だ。

エンジニアリングマネージメント社の久松剛代表によると、「案件が獲得できなければ給与を発生させずに済むため、企業側にとってはコストを最小化できる仕組み」だという。

実際に50代・60代のエンジニアが数ヶ月間無収入のまま「営業中」という名目で待機を余儀なくされるケースも報告されている。

人材紹介会社を経由した求人でも、こうした案件採用が紹介されるようになっており、求職者がリスクを負う構造が業界全体で常態化しつつある。

かつては営業期間中に契約社員として雇用する制度も存在したが、現在の主流は案件が決まるまで完全に雇用契約が存在しない状態だ。

スタートアップバブル崩壊後の反動

この背景には、2021年頃のスタートアップ投資ブームの反動がある。

当時は「正社員を採用すること自体が投資」と考える企業が増え、経験豊富なシニア人材の採用にも積極的な動きが見られた。人手不足の中で、50代の受け入れに挑戦するスタートアップも少なくなかった。

しかし実際に活躍できたケースは多くない。スタートアップは一見「自由でフラット」な組織に見えるが、実態は「若くて規律が未整備な職場」であることが多く、大企業で長く働いてきたシニア層にとってはカルチャーギャップが大きかった。

経験や人脈を生かそうとしても、スタートアップのスピード感や意思決定スタイルに順応できず、結果的に短期間で離職してしまうケースが目立った。

スタートアップ経営者の中には「PR材料を作り、時価総額を高めてイグジットを狙う」ことに注力していた人もおり、採用段階で「シニア人材を迎え入れる」という表向きのメッセージを掲げていても、実際には長期的な活躍の場が設計されていない場合もあった。

結果として、2020年以降、短期間で転職を繰り返すジョブホッパー型のシニア層が増加している。

技術革新とマネジメント層の若年化が追い打ち

採用市場の厳しさに拍車をかけているのが、急速な技術革新だ。

特に2023年以降は生成AIやローコード開発などの技術変化が激しく、企業は新しいツールやフレームワークにすぐ適応できる人材を求めている。

そのため、経験が豊富でも「現場との技術ギャップ」があると判断されやすくなっている。

さらにIT業界ではマネジャーや役員の年齢も若い傾向にあり、彼らと比較した上での希望年収と年齢に対する期待値が高すぎることから、50代・60代は不利な立場に置かれやすい。

企業側は年齢に見合った報酬を支払う以上、マネジメント能力や最新技術への対応力といった明確な付加価値を求める傾向が強まっている。

フリーランスエージェントの変容

SES業界の変化と並行して、フリーランスエージェントの役割も変わりつつある。本来は独立したプロフェッショナルを支援する仕組みであったはずが、現在は「短期間だけ働きたい」という登録者も一定数見られ、”期間限定労働者”の受け皿になっている側面もある。

正社員としての雇用が難しくなったシニアエンジニアが、フリーランスという形態を選択せざるを得ない状況も生まれている。ただし、フリーランスとして安定した案件を獲得し続けるには、高度な専門性と営業力、そして最新技術へのキャッチアップが不可欠だ。

シニアエンジニアが生き残るための戦略

こうした厳しい状況下で、50代・60代のエンジニアはどう振る舞うべきなのか。専門家は以下のポイントを挙げる。

技術スキルの継続的なアップデートは必須条件だ。生成AI、クラウドネイティブ、DevOpsなど、現在需要の高い技術分野について学習を続けることが重要となる。オンライン学習プラットフォームや技術コミュニティへの積極的な参加が効果的だ。

マネジメント経験の明確化も鍵となる。技術力だけでなく、チームリーダーやテックリードとしての実績を具体的にアピールすることで、シニア層ならではの価値を示すことができる。

柔軟な働き方の検討も視野に入れるべきだ。正社員採用にこだわらず、業務委託や顧問といった多様な働き方を選択肢として持つことで、活躍の場が広がる可能性がある。

企業文化との適合性確認も重要だ。面接段階で組織の文化や働き方、意思決定プロセスについて十分に確認し、自身のワークスタイルとマッチするか見極めることが、早期離職を防ぐポイントとなる。

業界全体での議論が必要

SES業界における案件採用の広がりは、企業側の採用リスク回避という合理性がある一方で、求職者に過度な負担を強いる構造でもある。

IT人材不足を解消し、経験豊富なシニアエンジニアの活躍を促進するためには、業界全体での雇用慣行の見直しや、年齢に関わらず実力を評価する仕組みづくりが求められている。

今後、SES業界の採用形態がどのように変化していくのか、そしてシニアエンジニアの活躍の場がどう広がっていくのか、注視していく必要がある。

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