2025年11月12日 更新
「落とし物DX」で売上15億円 競合だったJR東日本も導入した「find」はどんなサービスなのか

「探すのに8分、見つかるのは8%」――非効率な落とし物対応を変えたfindの挑戦
記事のポイント
・駅や鉄道会社などで課題となっていた“落とし物対応”を、AIと画像認識で効率化するクラウドサービス「find」が急成長。
・従来8分かかっていた照合対応を2分に短縮し、マッチング率を4倍に向上。JR九州・JR東日本など全国へ導入が拡大中。
・廃棄予定の落とし物をリユースする新事業も展開し、“拾得から循環”までを支える社会インフラへ進化している。
「落とし物」は誰にとっても身近なトラブルだ。にもかかわらず、落とし物を探して回収する作業はいまもアナログで、非効率なままだ。警視庁によると、2024年に東京都内で届けられた落とし物件数は約440万件で、過去最高に上る。
困っているのは落とし主だけでない。交通機関や宿泊・商業施設などには毎日落とし物が届けられる。中でも鉄道会社には膨大な数の落とし物が届く。
京王電鉄は、落とし物に関して1日500件前後の電話問い合わせを受けていた。それに10~14人体制で対応していくのだが、利用していた落とし物管理システムはテキスト情報しか登録できない仕様だったため、1件の対応に約8分かかっていた。
しかし、8分かかった後に確実に見つかるわけでもなく、落とし物と落とし主が合致するマッチング率は8%程度だったという。
そんな課題を抱えつつ運用を続ける中で、落とし物クラウドサービス「find」と出合う。findは、駅係員などが落とし物をスマートフォンで撮影し登録する「find scan」、落とし物情報を一元管理する「find search」、落とし主がLINEで問い合わせできる「find chat」を提供している。
駅員などが落とし物をスマホで撮影し、findに登録する。落とし主はLINE経由で落とし物を問い合わせる。問い合わせの内容と登録された落とし物をAIが自動照合する仕組みだ。
2023年2月から3カ月の実証実験を実施したところ、1件当たり8分ほどかかっていた対応時間は約2分に短縮され、電話での問い合わせ件数も3割ほど減少。もともと8%程度だったマッチング率は32%と、約4倍に向上した。
findの取締役COOの和田龍氏は、findの強みについて「当時は『画像登録』『LINE問い合わせ』『画像検索』がサービスの3本柱でした。既存のシステムはテキスト検索のみなので落とし物の照合が難しかったのですが、画像登録によって照合率が上がりました」と話す。
画像検索に加え、チャットでの問い合わせによってこれまでマッチングが難しかった落とし物の照合率も上がったという。例えば、ワイヤレスイヤホンのAirPodsなどがそうだ。デコレーションなどを施していない限り特徴がなく、落とし主の物だと証明するのが難しかった。
「もしiPhoneを使っている人がAirPodsを落とした場合、iPhoneの設定からAirPodsのシリアルナンバーを確認できます。そのシリアルナンバーをfind chat経由で送ってもらうだけで、落とし物とマッチングできるようになりました」(和田氏)
競合だったJR東日本も導入 決め手は何だったのか?

findはその後、九州旅客鉄道(以下、JR九州)とも実証実験を経て、導入を実現した。当時、JR九州では1日当たり約500件の落とし物が届けられ、電話対応件数も1000件に上っていた。
それに対応するのは社員7人程度だったため、応答率がそもそも2~3割と低く、そこから落とし物に関するヒアリングをして手作業で検索するとなると、1件の対応に8~10分ほどの時間を要した。マッチング率も1割程度で課題視されていた。
find導入後、電話での問い合わせ数は約200件と80%減り、応答率も約8割に向上した。課題となっていたマッチング率も、find chat経由では約30%と4倍になった。
JR九州によると、find導入によって人件費削減効果があることが試算で示されたという。
findの成長は生成AIの進化にも支えられている。和田氏は「これまでは写真を登録する際に落とし物の特徴を入力していましたが、ChatGPTを連携させることで写真の登録時に自動で特徴が入力されるようになりました。そこがfindが波に乗ったところだと実感しています」
その後、タクシー会社や百貨店、羽田空港などさまざまな交通インフラ企業への導入を進めていき、findが「鉄道業界の頂点」としてアプローチしていた、東日本旅客鉄道(以下、JR東日本)での導入も決まった。
もともと同社は自社で落とし物管理ツールを開発していたため、findは競合企業だった。しかし他社との成功事例を携えて何度も提案を重ね、セキュリティ面含めサービス改善を行った結果、2年半かけて2026年4月からの導入にこぎつけた。
JR東日本は画像登録や検索機能に加え、複数の導入先を横断して落とし物を探せる点を高く評価しているという。
「例えば新宿駅で落とし物をしたときに、これまでは乗り合わせている鉄道会社や百貨店など全てに電話する必要がありました。しかし、いろいろなところにfindの導入企業があることで、横断的に落とし物が探せて、findに問い合わせれば見つかる世界を実現できると思ったんです。2025年内の実装を目指していまして、JR東日本さん含め評価いただいている機能です」(和田氏)
落とし物に悩む多くの企業に支持されているため、紹介ベースで導入先が決まっていく好循環にあるという。試験的な広告費以外の出費はほぼ0円にもかかわらず、現時点で2026年12月の売り上げ着地見込みは15億円に上る。一大市場へと進化していることが分かるだろう。
廃棄される落とし物を活用できないか?

落とし物市場で存在感を強め始めているfindだが、落とし主に落とし物を返すこと以外にも、面白い取り組みをしている。それが2月に実証実験を実施し、9月から開始した「findリユース」というサービスだ。
和田氏はfindリユースを「3カ月間落とし主が現れなかった落とし物は『満期遺失物』となり、権利が警察から拾得先の施設に移ります。多くの施設ではお金を払って落とし物を廃棄しているのですが、その落とし物を回収してメルカリで販売し、収益の一部を施設側に還元するサービスです」と説明する。
現在は週1回のペースで専門の業者が各商業施設を回り、メルカリで売れそうな落とし物を回収、find社がメルカリに出品するという流れで運営している。メルカリ販売ページのフォロワーは8776人(11月4日時点)で、実際に出品されていたアディダスのスニーカーには買い手がついていた。現状、回収した落とし物の中でメルカリで販売できるものは5~10%程度だという。
メルカリへの手数料や人件費などを踏まえるとまだまだ赤字とのことだが、和田氏は「リユースによって廃棄が減るため、落とし物の事業を展開している会社としては続けていきたいです。もちろんどこかで黒字転換はしたいですが」と話す。
回収費用や人件費などコスト圧縮が難しいようにも感じるが、どのように黒字化を目指すのか。和田氏は「現在、findセンターという拠点づくりを進めています。警察署をはじめ、民間でも保管場所が足りていません。例えばホテルのバックヤードは落とし物でいっぱいで、スタッフさんは落とし物に囲まれながら仕事をしている。それらの回収から落とし主への配送、警察への手続きなどを一括で代行する拠点として運営していきます。そこの回収と保管の利用料を受け取ることで、今までリユースの回収にかけていた費用が売り上げとして計上されるという流れです」と説明する。
稼働は2026年2~3月を目指しており、稼働によって売り上げは倍になると和田氏は踏んでいる。
「現在findは、落とし物DXサービスとしてソフトウェアツールのサブスクビジネスを展開しています。そこにfindセンターができることで、落とし物そのものの管理が追加されます。IT企業から正式に落とし物管理の会社になり、事業の幅が広がると感じています」(和田氏)
これまでの落とし物は、探しても見つかる可能性が低かった。しかし、テクノロジーを用いて市場を切り開いていったfindによって、少しずつ落とし物が落とし主の手元に戻り始めている。落とし物を探す手間が削減され、誰かのうっかりが社会の循環につながる未来が少しずつ形になりつつある。
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