- 資産運用を法人化するメリット・デメリットが知りたい
- 自分は資産管理会社を設立すべきかどうか知りたい
- 資産管理会社での運用は効果的なのかどうか知りたい
本記事では、資産管理会社の設立を検討する際に押さえておきたい基礎知識を解説している。
節税効果や資産運用の効率化、相続対策としての活用方法など、資産管理会社がもたらすメリットを整理する一方で、注意すべきポイントについても具体的に紹介する。
資産管理会社の仕組みや活用法を理解することで、自身の状況に適しているかを判断する助けとなるだろう。
本記事が、資産運用や税務対策を進める上での有益な指針となれば幸いである。
資産管理会社とは?
資産管理会社とは、現金、不動産、株式などの資産を効率的に管理・運用する目的で設立される法人を指す。
「プライベートカンパニー」とも呼ばれ、主にオーナー自身やその家族の資産を管理するために設立される。
大きな特徴は、事業活動ではなく、資産運用を通じて収益を得る点にある。
商品やサービスの販売を通じて収益を得る事業会社とは異なり、資産管理会社は、不動産からの賃貸収入や保有株式からの配当金などを収入源とする。
設立形態は、一般の会社と同様に「株式会社」や「合同会社」だ。オーナー本人が代表取締役を務め、家族や親族を役員として雇用することも多い。
かつては富裕層など限られた層が設立するケースが多かったが、近年は会社員や副業を行う人々にも注目されている。
資産管理会社を設立する目的・メリット
資産管理会社を設立する目的やメリットは、主に税金対策や資産の効率的な管理にある。以下に、具体的なポイントを解説する。
1. 所得に対する税負担を軽くできる
資産管理会社を設立し、所得を法人に移すことで、税負担を軽減できる。収入が多いほど税率が高くなる個人所得税とは異なり、法人税では税率が一律で低めに設定されているからだ。
所得税の税率
日本の個人所得税は、所得が増えるほど税率が高くなる「累進課税方式」を採用している。2024年11月時点での税率は、以下のようになっている。
課税所得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
~195万円 | 5% | 0円 |
195万円~330万円 | 10% | 97,500円 |
330万円~695万円 | 20% | 427,500円 |
695万円~900万円 | 23% | 636,000円 |
900万円~1,800万円 | 33% | 1,536,000円 |
1,800万円~4,000万円 | 40% | 2,796,000円 |
4,000万円以上 | 45% | 4,796,000円 |
所得税には住民税(10%)が加わるため、実質的な税負担はさらに大きくなる。
たとえば、課税所得が4,500万円の場合、所得税率45%に住民税10%を加え、実質的な税負担率は約55%に達する。
法人税の税率
一方、法人税の税率は個人所得税と異なり、一律的に設定されている。
たとえば、資本金1億円以下の普通法人では、課税所得800万円以下の部分に15%、800万円を超える部分に23.2%が適用される。
この場合、住民税や事業税をあわせた法定実効税率(実際に負担する税額の課税標準に対する割合)は、約30%程度にとどまる。
高所得者の場合は、累進課税方式が適用される個人所得税に比べると、法人税の税率が低く抑えられるのだ。
2. 経費として認められる範囲が広がる
法人化することで、経費として認められる範囲が広がる点も大きなメリットだ。
そもそも、税額計算の基準となる「所得」は、収入から経費などを差し引いた額のことを指す。
したがって、経費として認められる範囲が広がるほど、課税所得が減少し、税負担を軽減できるのだ。
個人事業主の場合、仕事に直接関係する費用しか経費として認められない。たとえば家賃については、仕事で使用している部分だけを合理的に算出する必要がある。
しかし、資産管理会社を設立すれば、事業に直接かかる費用に加え、間接的に関係する一部の費用も経費算入が可能になる。
たとえば、自宅家賃であっても、会社が社宅として賃借している形にすれば、家賃全額を経費として計上できる。
また、車も法人名義で社用車とすれば、維持費を含めて経費として扱える。
さらに、家族や親族を従業員(役員)として雇用し、役員報酬を支払うことも可能である。
これらの役員報酬も経費として扱えるため、結果的に法人税の節税効果も期待できる。
3. 所得を分散できる
収入を家族などへの報酬として分散することで、個人にかかる所得税の負担を軽減できる。
この仕組みを理解するために、まずは税額計算の基本を確認しよう。
税額計算の仕組み
まずは所得だ。所得とは前セクションでも説明したとおり、「収入から経費を差し引いたもの」である。
さらに、この所得から「所得控除」を差し引いた金額が、所得税の課税対象となる「課税所得」である。
所得税額は、課税所得に税率を掛け、税額控除を差し引くことで算出される。
次に、この計算式を活用して、収入を分散した場合の効果を具体的に検証していこう。
収入を分割した場合の効果
収入1,200万円を一人で受け取る場合と、家族3人に分割して支払う場合の所得税額はどのように違うのだろうか。
ケース1:1,200万円を一人で受け取る場合
- 収入
- 12,000,000円
- 給与所得控除
- 1,950,000円
- 課税所得
- 12,000,000円-1,950,000円=10,050,000円
- 所得税額
- 10,050,000円×33%-1,536,000円=1,780,500円
ケース2:1,200万円を3人で分割する場合(一人400万円)
- 1人当たりの収入
- 4,000,000円
- 給与所得控除(1人分)
- 4,000,000円×20%+440,000円=1,240,000円
- 課税所得(1人分)
- 4,000,000円-1,240,000円=2,760,000円
- 所得税額(1人分)
- 2,760,000円×10%-97,500円=178,500円
- 3人分の合計所得税額
- 178,500円×3=535,500円
所得税額は、一人で受け取る場合と3人で分割した場合とでは、1,245,000円の違いが出る。
ただし、役員報酬として支払う金額は、実際の業務内容や能力に見合ったものにする必要がある点には注意が必要だ。
たとえば、実務を行っていない配偶者に高額な役員報酬を支払う場合、税務署から否認されるリスクがある。
4. 損益通算できる範囲が拡大する
資産管理会社を設立することで、損益通算できる範囲が広がる。
損益通算とは、利益(黒字)から損失(赤字)を差し引くことで、全体の税負担を減らす仕組みだ。
個人で資産運用をする場合、この損益通算には制限がある。これは、個人の場合、所得の種類(不動産所得、配当所得、事業所得など)ごとに計算が分かれているためだ。
たとえば不動産投資で100万円の損失が出ても、株式投資で得た200万円の利益とは相殺できない。
一方、資産管理会社では、会社全体の利益と損失を通算して計算できるため、損益通算の幅が広がる。
たとえば、不動産投資で生じた赤字を、株式の配当収入などと相殺することが可能となる。
これにより、会社全体の課税所得を抑えることができ、結果として法人税の負担が軽減される。
このような損益通算の仕組みは、特に不動産投資や事業運営で初期投資が大きく、収益が安定するまで時間がかかる場合に大きなメリットとなる。
5. 繰越控除できる期間が延びる
資産管理会社を設立することで、繰越控除の期間が大幅に延ばせる。
繰越控除とは、ある年度で発生した赤字を翌年度以降に繰り越し、将来の利益と相殺することで課税所得を減らす仕組みだ。これにも、個人と法人で大きな違いがある。
個人の場合、繰越控除が認められる期間は最長3年間だ。大きな赤字が発生しても、翌年度以降の利益が少なければ控除しきれず、税務上のメリットを十分に享受できない場合がある。
一方、資産管理会社では、繰越控除の期間が最長10年間まで延長される。
たとえば不動産投資や株式投資で初期費用が大きく、赤字が続いた場合でも、将来的に利益が出る年度に赤字を繰り越せば相殺できる可能性が高まる。
6. 将来の相続や事業承継を円滑に進められる
資産管理会社は相続税の軽減だけでなく、複雑な相続問題の解決策としても活用できる。
一つ目は、相続税の負担軽減だ。たとえば、5億円の不動産を個人で相続する場合、最大で55%の相続税がかかるケースがある。
しかし、この不動産を資産管理会社が保有することで、相続の対象は会社の株式となる。株式は不動産よりも低い評価額となることが多く、結果として相続税の負担を抑えられる。
二つ目は、遺産分割が簡易になる点だ。個人で複数の不動産を所有している場合、相続人の間で「誰がどの不動産を相続するか」という問題が生じやすい。
しかし、資産管理会社を設立して不動産を会社の資産とすれば、相続人は会社の株式を分け合うだけでよい。これにより、相続を巡る争いも防ぐことができる。
さらに、事業承継にも資産管理会社は有効である。会社の経営者が自社株式を個人で保有していると、相続時に株式が分散して経営権が不安定になりがちだ。
しかし、自社株式を資産管理会社に移しておけば、次世代の経営者に経営権を集中させつつ、他の相続人にも株式を分配するなどの方法がとれる。
7. 社会保険に加入できる
資産管理会社を設立すると、代表者は会社員と同じように社会保険に加入できる。
日本の年金制度は2階建て構造になっており、個人事業主は1階部分の国民年金のみだが、会社の役員は2階部分の厚生年金にも加入できる。
これにより、将来受け取る年金額が増えるうえ、健康保険の保障も手厚くなる。さらに、役員として雇用している家族も同様に社会保険に加入できる。
毎月の社会保険料は会社の経費となるため、税負担の軽減にもつながる。
資産管理会社を設立するデメリット
資産管理会社設立には、メリットも多いが、デメリットもある。設立検討の際には、注意点を慎重に考慮する必要がある。
設立・運営にコストがかかる
資産管理会社の設立にはコストがかかる。株式会社の場合、設立費用だけで25万円程度、合同会社でも10万円程度が必要だ。
これらを考慮したうえで、設立のメリットが費用を上回るかを慎重に判断する必要がある。
会社保有の資産は自由に使えない
一度会社の資産となったものは、たとえオーナーであっても自由に使用することはできない。
個人的な目的で会社の資金を使用する場合は、役員報酬や配当という形で支払う必要があり、その額には所得税がかかる。
また、役員報酬の金額は会社法で厳密に定められており、急な出費が必要になったからといって簡単に増額することはできない。
このように、資産の柔軟な活用が制限されることは、ひとつのデメリットといえよう。
事業承継税制の対象外となる
事業承継税制とは、会社経営者の相続人が自社株式を相続する際、相続税の納税を猶予する制度である。
しかし、資産管理会社は「資産保有型会社」または「資産運用型会社」として、この優遇制度の対象外となることが多い。
具体的には、以下のいずれかに該当する場合、事業承継税制を利用できない。
- 特定の資産(有価証券、不動産等)の保有割合が総資産の70%以上
- 特定の資産からの運用収入が総収入の75%以上
このため、事業承継を考える経営者は、資産管理会社の活用と事業承継税制の利用を慎重に比較検討する必要がある。
資産管理会社を設立が適しているケース
資産管理会社の設立は、主に以下の3つのケースで検討する価値がある。
年収900万円を超えるサラリーマン
年収900万円を超えるサラリーマンが他に収入を得る場合は、資産管理会社の設立は税負担を軽減する有効な手段となり得る。
個人の所得税率は、課税所得900万円超では33%となる。住民税10%が加わると、実質的な税負担率は43%に達する。
一方で、法人税では、住民税や事業税を加えた実効税率が約30%だ。税率を抑えられることや、経費計上の範囲が広がることで、課税所得はさらに減らせる。
相続税の発生が見込まれる資産家
資産管理会社を活用することで、相続税の負担軽減や遺産分割の簡易化が可能となる。
よって、以下の条件に該当する資産家は、資産管理会社の設立を検討する価値がある。
- 見込みの遺産額が1億円を超える資産家
- 複数の不動産を保有する資産家
- 将来の相続で争いが起きる可能性のある資産家
オーナー経営者
オーナー経営者が資産管理会社を活用することで、経営権の集中、相続税の軽減、事業承継計画の円滑な実現が可能となる。
特に以下のようなケースでは、大きなメリットが期待できる。
- 自社株式の評価額が高い
- 複数の相続人がいる
- 経営権を集中させたい後継者が決まっている
資産管理会社での資産運用も有効
資産管理会社を活用することで、個人よりも有利な条件で資産運用を行うことも可能になる。
ただし、メリットを最大限に活かすためには、適切な規模の資産と運用計画が必要だ。
資産管理会社で資産運用するメリット
これまでに見てきたとおり、資産管理会社を通じた資産運用では、さまざまな税効果が期待できる。
損益通算の範囲も広がるほか、一定の条件下で配当金の益金不算入制度が使えるなど、法人ならではの利点がある。
とはいえ、資産規模や運用益が十分でなければ、設立・維持コストが利点を上回りかねない。
以下のような規模なら、法人化のメリットを感じられるだろう。
- 運用資産が5,000万円以上
- 年間の運用益が900万円以上
- 年間の経費が100万円程度発生
資産管理会社での運用が向いている人
以下のような人には、資産管理会社での運用が向いている。
- 長期的な資産形成を目指している
- 複数の運用手法を組み合わせたい
- 毎年の税負担を抑えたい
- 将来の相続対策も考えている
一方で、以下の条件に当てはまる人には、資産管理会社の設立が必ずしも有効ではない。
- 短期的な売買を中心に考えている
- 運用資産が少額である
- 資産を頻繁に個人で使いたい
- 会計処理などの事務負担を避けたい
資産管理会社での資産運用はプロに相談
資産管理会社での運用を検討する場合は、自身の運用スタイルや資産規模、将来の計画などを総合的に判断することが重要だ。
考慮すべき要素が多いため、専門家に相談することを強くおすすめする。
なぜ専門家の相談が必要なのか
資産管理会社での運用を成功させるためには、専門家への相談が欠かせない。理由は以下の3つだ。
まず、法令を遵守した会社設立の手続きが必要である。これには、会社法や税法などの理解が求められる。
手続きを誤れば、設立後に想定外の負担やリスクが発生することもある。
次に、設立の目的(節税、相続対策、事業承継など)を達成するためには、適切に計画を立て着実に実行することが必要だ。そのためには、専門的な知識と経験が不可欠になる。
さらに、法人設立と維持にかかるコストに見合う投資収益を確保する必要がある。これには、的確な運用戦略の策定と実行が欠かせない。
これらすべてを自力で実現しようとすれば、時間的にも労力的にも大きな負担となる。また、知識や経験の不足によって思わぬリスクを抱えることにもなりかねない。
IFAを通じたチーム組成のすすめ
資産運用を行う法人設立を検討しているなら、まずは独立系ファイナンシャルアドバイザー(IFA)への相談をおすすめする。
IFAは投資商品の提案や仲介だけでなく、資産管理会社の設立や運用にも知見があるからだ。
「そもそも、資産運用会社って何?」といった基本的な疑問から、「現在の資産状況で法人設立が適しているか」「どのような人が資産管理会社を設立しているのか」といった具体的な検討事項まで、IFAになら気軽に相談ができる。
プロジェクトが進んできたら、他の専門家との連携も可能だ。税理士、弁護士、会計士などがチームとして、あなたの目標実現をサポートする。
資産管理会社の設立も、IFAと一緒に検討しよう!
資産管理会社の設立は、節税対策や相続対策として有効だ。しかし、設立・維持にはコストがかかり、資産が自由に使えないなどのデメリットもある。
よりよい判断を下すためのおすすめは、IFAへの相談だ。
「資産管理会社ってどうなの?」と迷ったら、ぜひ無料相談を試してみて欲しい。