- 老後の資産形成をどのように進めれば良いか分からない
- 定年後におすすめの資産運用方法を知りたい
- 老後資産運用で避けるべき失敗について学びたい
定年後の資産運用では、「増やす」だけの運用から「守りながら育てる」アプローチに切り替えることが重要である。
生活資金を安全に確保しながら、老後資金を安定的に成長させるためには、安全性と成長性をバランスさせた資産配分が求められる。
本記事では、インフレや経済変動に備えた資産配分の考え方や、リスクを抑えた商品選びのポイントを詳しく解説する。
老後の資産運用に対する不安を解消し、豊かな生活をサポートする内容となっているので、ぜひ参考にしていただきたい。
定年後でも遅くない!老後に向けた資産運用が必要な理由
資産運用を始めるのに、早すぎることも遅すぎることもない。定年後も、将来に向けた資産形成と資産の保全は必要不可欠だ。
その理由を具体的に見ていこう。
長期的な生活費の確保が必要だから
定年後の生活は、想像以上に長期化している。厚生労働省の統計によれば、65歳時点での平均余命は男性で約19年、女性で約24年であり、定年後も20年以上の生活設計が必要になることが分かる。
年金受給開始年齢が段階的に引き上げられている現状を考えれば、年金収入や退職金だけでは生活費を賄いきれない可能性もある。
資産が長期にわたって減らないように、個々の生活状況に応じた計画的な資産管理が求められるのだ。
物価上昇などに備える必要があるから
老後の生活においても、インフレや円安といった経済環境の変化は避けられない。変化に対応するためには、適切な資産運用による資産価値の維持が必要不可欠だ。
たとえば、物価が年率2%のペースで上昇する場合、1,000万円の預貯金の実質的な価値は、10年後には約820万円相当まで目減りしてしまう。
また、円安が進行すると、輸入品価格の上昇により日常の生活費が増加する可能性もある。
資産を現金や預金だけで保有することは、実質価値の減少リスクと単一資産への依存リスクの両面で懸念がある。
そのため、株式、外貨建て資産、不動産などへの投資により、複数の収益源を確保することは、経済環境の変化に備える有効な手段となるのだ。
生活を豊かにするための資金を確保できるから
資産運用によって得られる追加的な収入は、老後の生活の質を向上させる可能性を秘めている。
老後の生活では、必要最低限の生活費に加えて、趣味や旅行、家族との時間を楽しむための余裕資金も大切だ。
資産を適切に運用し、定期的な収入を確保できれば、より自由度の高い生活設計が可能となる。
たとえば、利子・配当収入などの投資による定期的な収入があれば、年金生活にゆとりが生まれる。また、将来の予期せぬ支出にも余裕を持って対応できるようになる。
定年後におすすめな資産運用方法
定年退職後の資産運用では、それまでの「増やす」ことを目的とした運用から「守りながら増やす」アプローチが求められる。
資産配分についても、単純に割合で決めていくのではなく、個々の状況に合わせて、計画的かつ慎重に決めていくことが重要だ。
ここでは、定年後の運用において重要な要素となる資産配分(アセットアロケーション)について、具体的な方法を解説していく。
まずは、現時点の資産と負債の状況をしっかりと把握し、運用の基盤を明確にしよう。
資産からローンなどの負債を差し引いた「純資産額」が、今後の資産運用の土台となる。
- 保有資産
- 退職金、貯蓄、保険の解約返戻金、投資信託など、現在の資産を確認する
- 負債
- 住宅ローンやその他の借り入れを確認し、必要があれば返済計画も見直す
次に、毎月の収支を正確に把握し、定年後の生活費としてどの程度の額が必要になるかを確認しよう。
- 収入
- 公的年金、個人年金、その他の収入
- 支出
- 食費、光熱費、交通費、保険料などの毎月の支出
- 定期的な支払い
- 年に一度や複数回にわたり発生する保険料や税金など、まとまった支払いも含めて把握しておく
安心して資産運用に取り組むためにも、現時点で予測できる将来の出費を見込んでおこう。
- 教育費や結婚資金
- 子どもの教育費や結婚資金の援助を予定している場合、予想される金額をあらかじめ見積もっておくと安心である
- 老後の医療・介護費用
- 将来の健康状態の変化に備え、医療費や介護費用が発生した場合に対応できる資金を準備しておく。また、必要に応じて医療保険や介護保険のカバー範囲を確認し、適切な備えをしておくと良い
- 住宅の修繕費
- 長く住み続けるためには、住宅の修繕やメンテナンスが必要となる可能性がある。こうした支出に備えて一定額を見込んでおくと、将来の予期せぬ出費を抑えられる
ステップ1〜3で老後に必要なお金の規模が見えてきたら、これに基づき資産を、以下の3つに分けて配分していくと良い。
- すぐに現金化できる金融商品
- 安全性の高い金融商品
- 収益性重視の投資商品
まずは生活費を確保することを優先しよう。1〜3年分の生活費(最低でも1年分)は、①のすぐに現金化できる金融商品に配分するのが望ましい。
もっとも現金化しやすい「普通預金」などで保有するのが安心だろう。
続いて、「将来の支出額」や「予備費」も確保しておく。これについては、②の安全性の高い金融商品で運用するのが良い。
具体的には債券型投資信託や、変動の少ない定期預金が考えられる。
最後に、残った資金が余裕資金となる。この余裕資金に関しては、資産全体の30〜40%までを上限に、③の収益性重視の商品に投資し、長期的な資産増を目指す。
資産配分が決まったら、次は具体的な投資商品を選ぶ段階である。次のセクションでは、投資期間やリスク許容度に合わせた商品構成について解説していく。
定年後におすすめのポートフォリオ例
それでは、前セクションのステップ4で決めた資産配分をもとに、どのような商品をどのように組み合わせていったら良いかを考えていこう。
定年後の基本ポートフォリオ
前セクションで説明したとおり、定年後の資産運用では、必要なお金を安全資産に振り分けて、残りを投資に回す形で資産配分を決めていくのがおすすめだ。
どの資産にどの割合を振り向けるのが適当かは、個人差は大きくなるが、一般的な目安として以下のような配分が考えられる。
- すぐに現金化できる金融商品
- 20〜30%
- 安全性の高い金融商品
- 40〜50%
- 収益性重視の投資商品
- 20〜40%
それでは、それぞれの区分における具体的な商品選択について見ていこう。
①すぐに現金化できる商品
まず、1年以内に必要となる生活費は、いつでも引き出せる状態にしておくのが基本である。そのため、通常は普通預金での保有がおすすめだ。
リスク許容度が低めの人や、換金性の高い商品を多めに持っておきたい人なら、このカテゴリに生活費の2〜3年分の資産を保有しておくと安心である。
そうした場合は、定期預金やMMF(マネー・マネジメント・ファンド)も活用できる。
MMFは、安全性が高い短期金融商品に分散投資するファンドで、普通預金よりも利率が良いことも多い。流動性と利回りのバランスを取れる選択肢となる。
②安全性の高い商品
将来の支出に備えた資金は、安全性の高い金融資産で運用するのが望ましい。
とくにリスク分散と管理の手軽さから考えておすすめなのが、債券重視型の投資信託やETF(上場投資信託)である。投資信託は、国内外の国債や社債などに分散投資できる商品だ。
専門家が運用を行うため、比較的リスクが低く、安定した利回りが期待できる。
一方、ETFは市場に上場されている投資信託であり、株式市場でリアルタイムに取引が可能な商品だ。
ETFもまた、国債や社債の比重が高い商品を選べば、安全性と流動性を兼ね備えた運用手段となる。
これらの投資信託やETFには利率や分配金の頻度など、ニーズに応じた商品が多くあり、用途に応じて選択できる。
また、資産運用に慣れている方なら、個別に国債・地方債・社債といった直接債券投資も良い選択肢である。
個人向け変動金利型の国債は、金利が上昇した際に利率が変動するため、低リスクで金利変動に対応できる運用先として有効である。
③収益性重視の投資商品
余裕資金部分では、収益性重視の資産に投資し、インフレ対策や長期的な資産成長を図ると良い。
ポートフォリオに収益性を加える商品としておすすめなのは、インデックス型の株式投資信託だ。
インデックス型とは、市場指数(日経平均やTOPIXなど)に連動するタイプの商品で、運用手数料が低く、分散投資効果も高い。
投資対象を国内に絞りたい場合には、TOPIX連動型や日経平均連動型といった日本市場の指数に連動する商品を選択すると良いだろう。
より高い分散効果を求める場合は、「全世界型」と呼ばれる商品も選択肢に入る。
これは、世界中の株式市場に幅広く投資するもので、世界経済全体の成長を取り込む形で、リスクを抑えながら資産増が狙える。
ポートフォリオのリスクの調整
ポートフォリオのリスクは、金融商品の組み入れ割合や、種類の選択によって調整することができる。
さらに安定性を高めるなら
より安定性の高いポートフォリオを目指す場合、収益性重視の商品に投資する割合を減らし、安全性優先の商品を増やすと良い。
また、成長資産を組み入れる場合でも、安定した債券型の商品を優先して選ぶことでリスクを抑えられる。
たとえば、先進国債券型の投資信託やETFを組み入れるのも良い方法だ。とくに米国や欧州の債券は、信用リスクが低く、インフレや円安などの経済変動に対応しやすい。
国内債券と組み合わせることで分散効果が得られる。
さらに、為替ヘッジありの先進国債券ファンドを利用することで、為替リスクも抑えつつ、海外の利回りにアクセスできるため、ポートフォリオ全体の安定性が高まる。
これにより、長期的に安定したインカム収入を得ながらリスクを管理できるため、資産保全と収益性をバランスさせた運用が可能となる。
より積極的な資産成長を目指すなら
より積極的な資産成長を目指す場合、株式型投資信託の中でも成長市場を狙った商品や、高配当株ファンドを組み入れると良い。
これらは、長期的な価格上昇を狙えると同時に、安定した配当収入を得られる可能性があるため、資産成長とインカム収入の両方が期待できる。
また、ポートフォリオにさらなる多様性を持たせたい場合には、不動産投資信託(REIT)の組み入れも効果的だ。
REITは、不動産市場からの収益を分配金として受け取れる投資手段であり、株式や債券とは異なる値動きをすることが多い。
資産配分にバランスを持たせながら、成長と安定の両立を図ることができるだろう。
やってはいけない!老後のための資産運用における注意点
老後の資産運用で失敗しないために、絶対に避けるべきポイントを解説する。
原則を守らない資産運用
投資の基本原則を守らないことは、老後の資産運用においてもっとも避けるべき過ちである。
長期・分散・積立という投資の基本原則は、定年後も変わらない。むしろ、失敗からの回復が難しい分、より厳密に守る必要がある。
以下の3つの原則は、資産運用を成功させるために欠かせない要素として、常に意識しておきたい。
①長期的な視点を持つ
定年後は運用期間が限られると考えがちだが、平均寿命の伸長を考慮すると、20年以上の長期運用を前提とした計画が求められる。
長期的な視点を保つことで、冷静かつ安定した運用が可能となる。
- 短期的な値動きに一喜一憂せず、長期的な資産成長を意識する
- 株価が下落したときも慌てず、冷静な判断を心がける
- 着実な資産形成を目指し、急激な利益を求めない
②分散投資を徹底する
リスクを分散することは、定年後の資産運用においてとくに重要なポイントだ。
さまざまな資産や市場に分散することで、経済の変動への耐性が高められるため、安定的なリターンを狙いやすくなる。
- 株式、債券、REITなど複数の資産クラスに分散する
- 国内外の市場に分散し、国や地域ごとのリスクを軽減
- 為替リスクも考慮し、円建てと外貨建てを組み合わせて通貨分散を図る
③時間分散(積立)を実践する
定年後に受け取る退職金や貯蓄の一部をまとめて投資する場合、タイミングを分けて投資する「時間分散」を取り入れることで、価格変動リスクを抑えられる。
- まとまった資産を一度に投入せず、段階的に投資する
- 定期的な積立投資により、平均買付単価を抑えてリスクを分散する
- 市場が下落しているときもコツコツと投資を続けることで、長期的なリターンを狙う
税制優遇制度を活用しない資産運用
税制優遇制度を使わないことは、資産運用の効率を著しく下げる原因となる。
新NISAやiDeCoといった制度は、老後の資産運用において非常に有効な手段だ。
定年後の資産運用においても、NISAなどの税制優遇制度を上手に活用することで、運用効率を高められる。
2024年にスタートした新NISAは、非課税投資の有効な選択肢である。
生涯投資枠が1,800万円まで拡大され、非課税期間も無期限となり、老後資産の形成においてさらに使いやすい制度となっている。
しばしば「NISAは危ない」といった誤解を招く情報も見受けられるが、NISA自体はリスクを伴う仕組みではない。
むしろ、投資での収益にかかる税負担を減らすための有効な手段なので、安心して活用していただきたい。
なお、iDeCo(個人型確定拠出年金)は、拠出可能年齢が65歳までとされている。
すでにiDeCoでの投資運用を行っている人なら、65歳以降も「運用指図者」として運用を継続できるが、この場合でも新たな積立はできない。
受給開始時期や受給方法を計画しながら、資産を有効に管理していくことが重要となる。
過度なリスクを取った資産運用
老後の資産運用で避けるべきは、必要以上のリスクを取ることだ。失敗からの回復が難しい老後では、無理な運用は致命的な結果を招く。
以下の3つの観点から、慎重な運用を心がけよう。
- 余裕資金の範囲内でリスクを取り、投機的な取引は行わない
- 運用にかかるコストには注意を払う
- 急な出費や定期的な資金需要に備える
見直しを怠る資産運用
定期的な見直しを行わない運用は、大きなリスクを孕むものだ。変化に対応できず、結果として資産を目減りさせてしまう可能性が高いため、絶対にやってはいけない。
定年後の資産運用では、健康状態や生活環境の変化に応じて、運用方針の見直しが必要となることが多い。
そのため、少なくとも年に1度は、以下の点について確認と見直しを行う必要がある。
- 資産配分は当初の目標から大きく外れていないか
- 運用成果は予定通りか、想定以上の損失は出ていないか
- 生活環境の変化に対応できているか
- 予期せぬ支出は発生していないか
なお、運用方針を大きく変更する際は、資産運用の専門家に相談することをおすすめする。客観的な意見を取り入れることで、より適切な判断が可能となるからだ。
老後の資産運用は誰に相談する?
ここでは、資産運用を「誰に」相談するのが適切か、その選択肢を検討していく。
金融機関の窓口、FP、そしてIFA
資産運用を進めるうえで、もっとも身近な相談先となるのは、銀行や証券会社の窓口だろう。対面で基本的なアドバイスが受けられるため、資産運用に関する不明点を相談しやすい。
しかし、提案される商品が自社の取り扱い商品に限定されるため、他社商品との比較や客観的なアドバイスは受けにくい。
ファイナンシャルプランナー(FP)も、資産運用の相談相手として有力だ。とくに、年金や保険、相続対策など幅広い資金計画を総合的に考えたい人にはFPが適している。
ただし、FPは具体的な金融商品の売買や提案はできないため、実際の運用を始める際には別途必要になる。
より専門的かつ幅広い資産運用をワンストップで行いたい場合には、独立系フィナンシャルアドバイザー(IFA)の活用が有効だ。
IFAは顧客の利益を最優先にする専門家
IFAは、特定の金融機関に属さず中立的な立場で顧客に最適な商品や運用方法を提案できる。
運用提案から手続き、アフターフォローまで一貫して対応するため、安心して長期的な資産運用を任せられる。
IFAの強みは、以下の3つにまとめられる。
- 複数の金融機関の商品から、顧客に最適なものを提案できる
- 商品の購入から運用後のフォローまで、一人が全てをサポートする
- 担当者の異動がないため、長期的な信頼関係を築きやすい
大切な資産を託すうえで、以上は非常に重要なポイントとなる。だからこそIFAは、老後資産の最良のパートナーといえるのだ。
長い老後も怖くない!資産運用は専門家への相談から始めよう
定年後の資産運用には、ライフスタイルや将来の計画に応じた柔軟な対応が不可欠である。
老後には、生活の変化や予期せぬ出費、相続や保険の見直しといった課題が生じる可能性があるためだ。
こうした課題に対応し、資産を守りながら効率的に運用するためには、専門家のサポートが有効である。
専門家なら資産運用だけでなく、総合的な視点からのアドバイスが提供できる。
気軽に相談する中で、自分に合ったサポートや、今後の資産運用の方向性が整理できるはずだ。