中小企業からニッポンを元気にプロジェクト

アトツギ経営者がメイドインジャパンの再興に奮起!慣習にとらわれない挑戦と若者と創る新たな文化

2024.05.08

さまざまなブランドの革製品を手がける株式会社丸昭。高品質かつ安心安全の製品を届けたいという想いの裏側に潜む丸昭の歴史や2代目として時代に沿った経営手腕にフォーカスしました。

 

 

株式会社丸昭 代表取締役

丸山 利道 氏

 

−−業界で数社しかない生産ラインを持つメーカーへの一歩

 

高校卒業後、私の父が創業した丸昭に入社しました。

入社前は大阪にいる知り合いの同業者の会社で修行するなんて話もありました。

ただどこに行っても、結局は社長の息子なので、2~3年で丸昭に帰ることになるのではないかという思いもありました。最終的に、他社で中途半端に育つぐらいなら最初から自社で育てることになり、当時の丸昭のNo.2の人に育ててもらうことになりました。

学生時代は会社に人が少なかったので、当時から発注が多い時に友達を連れて家業を手伝うこともありました。

そのため、丸昭に入社することへ抵抗はありませんでしたね。

 

入社当時、丸昭では裁断と検品をするぐらいでした。

実はこの業界のほとんどの会社は分業で、裁断・漉きなどの製造プロセスごとに専業し、それ以外は外注するという形が主流です。そのため丸昭も同様に、裁断と検品以外は外注していました。

この時は自社で生産ラインを持つなんて思ってもいませんでした。

 

当時はサンプル1つ作るのも外注していました。腕の良い職人さんが1人いて、その人に作ってもらったサンプルをもとに営業活動をしていました。

弊社は革製品の小物を主として製作していますが、国内の業界は紳士の高級ライン・普通ライン、婦人の高級ライン・普通ラインなど、メーカーによって得意分野があり、細かく分かれていました。

しかし、生産ラインが国内から安価な中国へと移り変わり、1つの工場で複数の製作を行えるようになった頃から、細分化された業界に変化が起きました。中国の生産ラインの一本化が進んでいったのです。

それに伴い、国内のメーカーや職人は淘汰されていきました。

幸いにして、丸昭はまだ得意分野というくくりがありませんでした。そのため、色々な分野のサンプルを作って、お客様に対して営業活動を行うことができました。

 

私自身も入社3年目くらいから営業活動に行っていました。毎日毎日、用事もないのに「とりあえず顔を出せ」と言われ、通い続けました。

初めは何を話せば良いのかも分からず、辛い毎日でした。お客様には「毎日よく来るね。毎日来ても何もないよ」と言われ、同業者には挨拶しても無視されて「なんで丸昭がここに来るんだ」くらいの顔で見られました。心の中では「いつか見ていろ!」という気持ちでいましたね。

そんな日々を続けていくうちに、お客様と雑談ができるようになって、たまたま顔を出せなかった次の日には「なんで昨日来なかったの?」なんて言われるようになりました。

半年、1年と経つ頃に「こんな仕事はどう?」ってようやく仕事がもらえるようになったんです。

 

やっと仕事がもらえるようになり、外注の職人さんたちが製品を作り、丸昭が検品する。

そのような体制でしばらくは生産をしていました。

ところがある日、お客様からサンプルと量産品の品質が違うというご指摘を受けました。

この出来事がきっかけで、やっぱりメーカーであるからには自分たちで作れないとダメだよね、と思うようになったんです。

 

サンプルは、前の話でも出てきた腕の良い職人さんの1人が作っていましたが、量産品は別の職人さんたちが作ります。革製品はほとんどの工程を手作業で作るため、作る人の技量によって製品の品質が左右されます。

その結果、サンプル職人と量産品職人との技量の違いがあらわれてしまっていたのです。

その時は、手直し出来るものは自分たちで手直しし、出来ないものは職人さんのもとに行って細かく説明して作り直してもらい、何とかことを収めました。

この出来事から職人任せでは弊社が求める「高品質」な製品は作れないと実感しました。自社で品質の向上を図り、丸昭の「高品質」を確立しなければと思ったんです。

 

そうして、自社で生産ラインを持つために動き出しました。

最初は、サンプルを社内で作れるようにするところからでした。

私が技術を学ぶことになり、実際に職人さんに教わりに行ったり、職人さんに会社に来てもらったりして、本格的なサンプル作りが始まりました。

 

そのサンプル作りは営業活動にも活きました。

新たなサンプルを作るときに、他社では中国の工場や職人さんに頼んで作ってもらわなければなりません。

そんな会社が多い中で、私は自分自身でものづくりをしていたので、細かい提案ができ、修正や変更も臨機応変に対応できました。仕事を任せてもらえる理由として、そこは大きかったと思います。

 

その後、現在も生産している主力ブランドの製品を任され、同時期に製造部を発足。

本格的に自社で生産ラインを持ち始めたのは、前社屋へ移転したタイミングです。

今まで外注だった革裁断、革漉き、縫製の工程も社内で行うようになりました。それが今から25年くらい前のことです。

 

このような経緯を経て、高品質なものづくりのできる会社へと変化していきました。

 

−−手に取るお客様を想うからこその「安心安全」

 

弊社は革製品の中でも財布のオーダーを多くいただきます。

財布などの革製品を1から10まで自社で製作している会社は国内でも数社しかありません。

そのうちの1つが丸昭です。

 

私たちがものづくりを始めるときから思っていることは、せっかくものづくりをするからには、恥ずかしくないものを作りたいということです。

大量生産が可能になり、市場は薄利多売になりつつあります。

そんな中で、私たちは「安心安全かつ高品質な製品を提供し続けること」を大切にしています。

それが今まで弊社が選ばれてきた理由で、丸昭というブランドだと思います。

 

製造する側としては100個200個と作りますが、お客様が買うのはその中の1個。

その1個に問題があれば、私たちの仕事ぶりはそんなものだと思われてしまいます。

そのようなことが起きないように、常々「お客様にとっては特別な1個である」ということを社員に伝え続けています。

 

また、革製品のメーカーとしての弊社の強みは、格別に綺麗なコバの塗り仕上げの技術を提供していることです。

コバとは、革の裁断面のことでヘリとも呼ばれています。

断面であるコバがきれいに処理されていると、製品全体が美しく見えます

。この工程を行わないと、革が毛羽立ってボロボロになりやすく、革同士の接着面が剥がれてしまい、老朽化にもつながります。

より良いものを提供するために独自の調合を行い、私たちにしかできない仕上がりを提供しています。

 

 

 

−−若者が参加できる会社作りへ挑戦

 

こういった価値観を常に思い続けられるように、綺麗な職場で綺麗なものを作るようにしています。

例えば、高級なお寿司屋さんはまな板に頼まれた食材しかないですよね。

それを見てすごい素敵だなって思っています。

同じように、私たちの職場でも作業場には必要なものしか置かないように心がけることで、1製品1製品に真心を込めて作れるような環境にしています。

 

7年半前に今のオフィスを建ててから、綺麗を継続するために、社員全員で毎朝オフィスを隈なく掃除することを習慣化しています。週末には大掃除も行っています。

また、安全衛生委員会を発足し、オフィス内の見回りをしています。

 

今のオフィスの建設に至ったのも若者にもっと参加してもらいたいと思っていたからです。

どうしても工場や生産ラインなどのものづくりの環境は地味で汚い印象があるので、こういった点からも他社と差別化をしてきました。

おかげさまでものづくりを志望する学生を集めたイベントでは、弊社を志望する方が多くいらっしゃいました。

高齢化が進む業界ですが社員の平均年齢は三十数歳で、若者に選ばれ、活躍いただけるようになりました。

 

 

 

また残業の多さも気になっていて、現場に入ると無駄な時間の多さやミスの多さが目立ちました。

社員みんながそれぞれのやり方で作業を進めていたので、1つミスが起こると全部やり直しなんてことがありました。

そうすると作業や時間が何倍も必要になりますよね。それなら多少ゆっくりでもいいから、まずはミスをなくすことを考えて、作業工程や生産ライン、組織体制などを全て見直しました。

外部のコンサルタントも入れて、第三者視点も含めて社内改革を行い、新たな規律を整えました。

 

当時の会社の利益は職人さんと中国の生産で得られたもので、自社での生産は赤字でした。

私は、自分たちの給料は自分たちで稼げる状況にしないといけないし、そうでないと自社職人としてのやりがいやプライドが持てない。丸昭という看板を社員全員が誇れるように、会社を守りたいと思いました。

 

実際に仕組み化、可視化することで、未経験の若者でも挑戦できるようになりました。

入社したばかりでもできる作業がありますし、1年目〜3年目で取り組んでほしいことを決めて技術者として育つための教育体制も整えることができました。

個人の成長に合わせて面談を行い、働き続けられるように人事評価制度を策定し、モチベーションとやりがいに繋げていけるようにもしています。

 

 

−−変革と挑戦で、これからも続く会社創りを

 

財布の産業は今もコロナ禍の影響を受けています。旅行や飲み会が気兼ねなくできるようになったからこそ、そちらが優先で、お財布を買おうって気持ちになりにくいんですよね。

今年は種蒔きをして、また事業を飛躍させていこうと挑戦しています。例えばSNSの運用。

インスタグラムのリール動画で、普段見ることがない革製品の製造動画を上げ始めました。

最近では数万回再生する動画も出始めてきています。

 

私の息子も丸昭に勤めていて、「財布づくりを始めました」みたいなコンセプトで個人のインスタグラムをやっています。

「今日はこんなことに挑戦します!」という内容の動画をアップしていて、こっちは百万回以上も再生されてるんですよ。

あとは「中小企業からニッポンを元気にプロジェクト」もその一環です。

HPもリニューアルし、Web上での施策も注力している中で、公式アンバサダーを起用して、丸昭の注目を集めたいですね。

 

今年の年末か来年の年始に向けて一大プロジェクトも走らせているので、いろんな方に丸昭を知っていただきたいと思っています。

 

 

また自分の目標としては、私が引退しても会社がうまく回るようにしたいです。そしてみんなが楽しく仕事して欲しいと思っています。

そのために生産ラインを1から見直し、仕組み化を進めて、人に依存しない形を作ってきました。

今は組織作りを強化していて、現場の主導権を部長に移管して育てています。小さい会社ほど社長が変わると会社が変わってしまうリスクがあるので、部長たちから技術や想いを伝えられるようにシフトしました。

その他に若い社員たちも会社について理解できるように、会社の歴史や経営方針を学ぶ勉強会を開いて、今行っている仕事の意味を理解してもらう取り組みもしました。

丸昭というブランドは、安心安全かつ高品質なものを提供することだからこそ、これからもその軸がブレない会社にしていきたいですね。

 

 

 

インタビュー協力企業

会社名 :株式会社 丸昭(MARUSHO LTD.)

代表者 :丸山 利道

事業内容:皮革製品の製造

会社HP  :https://www.hikakuseizo-marusho.co.jp/